蛇口が取れた

4年半の杭州生活を終え、ついに帰国。現在、中国人化後遺症に悩まされ、好評リハビリ中。

空気のような存在

2010-07-05 18:34:21 | リハビリ
引っ込み思案で余計なお節介なんてやけない性格で、
大人として節度のある距離感をもって人と接することができる。
自分ではいたって普通のどこにでもいるティピカルジャパニーズだと思っている。

ちょいと前のお話。
こんなことがあった。
場所はコーヒーショップ「タリーズ」。

そのタリーズは街中にあるのではなく、
病院内というやや特殊な立地条件であるため、
色々な客が訪れる場所だった。

車いすの客、
赤ちゃんを抱っこした客、
点滴をしたままの客などなど。
当然、年齢性別も様々。

その日、私はコーヒーを飲もうと並んでいた。
前には明らかにこういった場所になれていない高齢の女性がいた。
しばらくして、女性の番が来た。

すると、女性はコーヒーを注文しようとしないで、何か言っている。
しかし、女性の声が小さいのと、
女性が何を言わんとしているのかはっきりしないため、
店員も何度か聞き返して一向に埒があかない。

しばらくして、
どうやらこの女性は外にあるタンブラーが欲しいらしいぞ、
ということが、私にはわかってきた。
しかし、店員はその意をなかなか汲んでくれない。
相変わらずのすれ違う二人。

後ろに並び、
女性の目的を察知した私は、
その女性に向かい、
かつ店員に聞こえるような声で、
「あそこのタンブラーが欲しいんですよね」
と、すばやく助け船を出した。

ああ、なんて親切な私。
ああ、なんてフレンドリーな私。
ああ、なんて機転の利いた私。

「ああ、そうなんですか」
「ありがとうございます」
「いえいえ、そんな」
「今時珍しい方ですねえ」
「いえいえ、当然です」
「こんな素敵な人がまだ日本にもいるのね」
「まだまだ日本も棄てた物ではありませんね」

そんな会話が繰り広げられ、
照れ屋の私は、ややいたたまれなくなり、
注文したコーヒーを受け取って、
すぐに店をあとにした。
店内ではスタンディングオベーションがいつまでも鳴りやまなかった。


そうなるはずだった。

しかし、そんな私の妄想を打ち破ったのは、
他でもない、女性の沈黙だった。
簡単に言うと、無視。

絶対に私の声は届いているはずなのに、
その女性はあたかもなにもなかったかのようにしている。
当然、こちらを見ることもない。
いや、あえて見ようともしていないようだった。
絶対聞こえているからこその、その態度。

え、なんで?
そこで気づいた。
これが日本なのだ。
これが東京なのだ、と。

中国ではあり得ない。
全然知らない人が、
ガンガン話しかけてくる。
当たり前のように話しかけてくる。

なんか、ちょっと悲しくなった。

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