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伊東良徳の超乱読読書日記

はてなブログに引っ越しました→https://shomin-law.hatenablog.com/

性風俗サバイバル 夜の世界の緊急事態

2021-09-19 00:01:54 | ノンフィクション
 コロナ禍で収入を失い生活できなくなった性風俗の世界で働く女性たちが、著者が運営する無料生活・法律相談窓口「風テラス」に相談を寄せ、それに対して相談担当者がどう対応したか、相談活動を維持するための支援者募集やクラウドファンディングなどの経験を綴った本。
 タイトルからは風俗店側の生き残り戦術とかをレポートした本かと見えましたが、相談を受ける側、支援者側の実情が中心です。
 「相談者の中には、相談員が自分の欲しい答えを言ってくれないことが分かると手のひらを返したように攻撃的な態度をとったり、一方的に通話を切ってしまう人もいた」「苦しい中で心の支えになったのは、時折LINEやツィッターで届く、以前対応した相談者からの報告や感謝の言葉だった」(72~73ページ)…相談という仕事をしていると、何処も同じ、ですねぇ。
 風俗事業者が持続化給付金の対象外とされたことについて集団訴訟が企画され、応募してくる事業者はいたものの、「しかし正直なところ、費用を出せる事業者、出したいという事業者が誰もおらず、クラウドファンディングで資金調達をしなければいけない時点で『負け』なのでは、と感じた」「性風俗産業は、決してお金のない人たちの集まっている世界ではない。市場規模は少なく見積もっても数兆円を超える。他の業界と同様に、高級車を毎年のように買い替えている経営者、愛人を多数抱えている経営者、キャバクラで毎晩豪遊している経営者もたくさんいる。仮に訴訟費用でトータル500万円かかるとしても、その程度の金額は、1人の経営者が数カ月キャバクラ通いを我慢するだけで、あるいは車の買い替えや愛人への投資を控えたりするだけで、簡単に捻出できるはずだ」(136~137ページ)…弁護士をやっているとしょっちゅう実感することです。私の場合、お金持ちの経営者の依頼は受けませんが、庶民というかふつうの人の場合も、車や子どもの教育費には躊躇なく払う金額でも、弁護士費用になると高いと感じるんですね。人生がかかっている大事な訴訟だというのに、そこでケチるんですかと思いますが、着手金50万円+消費税(私の場合着手金はこれ以上は取らないことにしています。もちろん、結果が出たときの報酬金は別途いただきますが、それは得られた利益の範囲内でいただくものですので)で高いと言われると、本人にとってのこの訴訟の重要性はその程度なんだなという判断になります。


坂爪真吾 ちくま新書 2021年4月10日発行
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気候崩壊 次世代とともに考える

2021-09-18 00:57:30 | 人文・社会科学系
 法哲学、政治哲学を専門とする学者である著者が、渋谷教育学園渋谷中学高等学校で行った、「気候崩壊」と「気候正義論」の授業とフィードバックミーティングを出版したブックレット。
 「気候崩壊」に関する1回目の授業で、著者は、現在の気候変動(温暖化)が人為的原因によることについて世界中の気候学者の見解が一致していることを強調しています。著者は、気温上昇によって、プラスの影響を大きく上回るマイナスの影響が生じると繰り返していますが、具体的なプラスマイナスの検討は見られません。著者には自明のことなのかも知れませんが、根拠や理論で説得するのが学者の仕事なんじゃないでしょうか。そこを漠とした世界中の気候学者が言っているというある意味で権威主義的な説得(偉い人が言っているから真実だ)で中高生くらい抑え込めると考えているのなら、学者としての姿勢を問われると思うのですが。
 世界30か国の調査で「気候学者の言うことを信じますか」という質問に肯定的な回答者が日本では25%でロシアに次いで下から2番目というのを著者は、「気候変動をふくめて科学的知識がインターネットで簡単に手に入るこの時代に、日本では、4人に1人しか、科学を信じていないわけです。」(25ページ)と評しています。著者にとっては気候科学者の意見=科学なんですね。
 その著者が、「保守派シンクタンクと結びついて否定論を主張している自称『専門家』の多くは、そもそも気候科学の博士号をもっていないのだそうです。皆さんも、日本の自称『専門家』による否定論を見かけたら、ぜひその人の学位を確認してみてください。」(30ページ)と述べています。法学博士の学位を持っておられる著者にこう言われて、聞いている中高生は著者の気候崩壊をめぐる見解を素直に信じるのでしょうか。
 さらに疑問に思えるのは、2回目の、著者の専門の気候正義論の授業です。著者は将来世代の権利も、排出者の責任も、現在(これまで)の排出がなければ(産業政策が変われば/違っていれば)将来世代は生まれてこないとか現在の我々は生まれていない、生まれないよりは環境が悪くても生まれた方がましだなどという「非同一性問題」という屁理屈(典型的な学者さんの自己満足ですね)をこねくり回して否定し(45~50ページ。聞いていた中高生からも屁理屈だと指摘されています:67~68ページ)、先進的な企業の取り組みを賛美しています(52~54ページ)。気候崩壊は深刻な問題で、日本人の認識は甘すぎると叱咤する著者は、結局はその問題を権利や責任の問題ではなく企業のビジネスチャンスくらいにしか考えていないのでしょうか。
 最終的に、結論を明示するのではなく、考えて行動するというようなところに置いていることは、授業としてはよかったのだと思いますが、より適切な授業を出版した方がいいと思いました。


宇佐美誠 岩波ブックレット 2021年6月4日発行
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世界の凋落を見つめて クロニクル2011-2020

2021-09-16 21:46:27 | エッセイ
 著者が、パリ、ニューヨーク、ワガドゥグー(ブルキナファソ)、リオデジャネイロ、リバプール、ハバナ、台北、北京、香港等を巡り歩きながら、映画や文化、政治を含むできごとについて、2011年5月から2020年までに「週刊金曜日」等に書いたエッセイに一部書き下ろしを加えたエッセイ集。
 昭和天皇の死について、「週刊金曜日」2013年5月10日号掲載のエッセイでは「天皇裕仁が死んだとき」(60ページ)なのに、この本用に書き下ろしたところでは、「天皇が崩御し」(13ページ)、「昭和天皇が崩御したとき」(45ページ)と書かれているのは、著者のスタンスの時代的な変化なのか、媒体・読者層による書き分けなのか。
 福島原発事故の頃に日本にいなかったことを理由に原発事故については語らないとしている(60~62ページ)のも、歴史的な事件のことは、当然自分自身で経験していなくても語っているわけですし、ちょっとねと思います。大勢に巻かれずに少数派的な視点でのコメントを続ける著者の考えを聞いてみたいと思うのですが。


四方田犬彦 集英社新書 2021年5月22日発行
「週刊金曜日」連載等
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源氏物語を読む

2021-09-14 20:34:03 | 人文・社会科学系
 源氏物語の解説書。
 源氏物語全54帖の主なできごととハイライトシーン、ポイントになる贈答歌を挙げながら、物語の背景、意識しているというか踏まえている故事・古典・漢詩などを紹介し、読み方が分かれるところの通説と作者の味方も紹介しています。原文・現代語訳をハイライト部分だけに限っているからではありますが、新書でこんなに書けるんだと感心しました。
 私は、自分のサイトに掲載している小説「その解雇、無効です!ラノベでわかる解雇事件」で、あからさまに(第13章2)も、ひそかに(興味を持たれましたら探してみてください)も、源氏物語を引用していますので、私の読み方間違ってなかったかという興味でも読みましたが、関連する古典の解説と、登場人物の歌のやりとり、その裏にある心情の説明がうれしく思いました。


高木和子 岩波新書 2021年6月18日発行
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妖の掟

2021-09-13 20:55:28 | 小説
 400年前に血分を受けて吸血鬼となり、200年前に自らが血分をした欣治とともに、身分証や住民票なしで住めるところを移りさすらいながら、客の血を吸う機会を確保するために風俗嬢をしている紅鈴が、ひょんなことから暴力団組長に使われる便利屋の圭一を助けて圭一のアパートに2人して転がり込んで…という小説。
 人がたくさん死ぬという点でも、流血と吸血で血なまぐさい点でも、作者の好みを示しているのでしょうけれども、むき出しの残虐シーンには嫌悪感を持ちます。
 連載の予定なり長さとの関係なんでしょうけれども、当初想定されていた山場を超えたところでさらに別の展開があり、それはそれでいいんですけど、読んでいて冗長感がありながら、その(2度目というべき)クライマックスはむしろあっさりして物足りないように思えました。私の好むリズムとずれているというだけなんでしょうけれども。


誉田哲也 文藝春秋 2020年5月15日発行
「オール讀物」連載
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