伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

透明な螺旋

2023-04-30 00:08:22 | 小説
 背中に射創のある男性の漂流遺体が発見され、遺体の主と同定された上辻亮太については同居している女性島内園香が行方不明者届けを出していたが、その島内園香もそのまま行方をくらましていた。草薙が内海とともに島内園香の行方を追ううちに、島内園香は絵本作家アサヒ・ナナこと松永奈江とともに逃走していることが判明した。松永奈江の担当編集者から松永奈江の書いた絵本を受け取った草薙は、末尾の参考文献に湯川学の名前を発見し…という展開のミステリー小説。
 物理学者湯川:ガリレオシリーズの第10作(最新作)で、湯川の学生時代についての情報が修正され、家庭環境、生い立ちが新たに明らかにされています。それらの点で、湯川ファンには待望の作品と言えるかも知れません。しかし、この作品で湯川は大学の研究室にはおらずシリーズ名物の物理実験がないばかりか、そもそも物理学者としての知識で事件を解明するという役割は持たず、もっぱら事件との偶然的・個人的な関係で登場し関与しています。そういう意味では、物理学者として、あるいは「ガリレオ」と銘打って出てくる必然性もなく、おなじみの人々の話で、湯川の過去がわかり、内海がより成長している感があるという程度で、シリーズの力で既存のファンに読ませる、つなぎ的な位置づけの作品に見えます。展開力と、終盤にさらにどんでん返しというかより踏み込んだ事情を用意しているところなど、ちゃんと読ませる作品に仕上げられていることはさすがと思いますが。


東野圭吾 文藝春秋 2021年9月10日発行
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