現職の霞ヶ関省庁勤務の官僚による福島原発事故後自民党政権復帰による原発再稼働をテーマにした小説。
電事連(小説では「日本電力連盟」)と東京電力(小説では「関東電力」)の総括原価方式(事業にかかった経費に比例して利益を得られるしくみ)の下での関連会社への割高発注とキックバックによる裏金作り、その裏金を利用した政治家、官僚への環流・利益誘導、野党国会議員やマスコミの取り込み工作、そのシステムを維持する目的の政治家による電力会社の意向に沿った政策の推進と反対者への圧力、原子力規制委員会/原子力規制庁の翼賛ぶりと電力自由化・発送電分離の骨抜きといったあたりは、ノンフィクションかと思える迫力があります(この作品、お決まりの「この作品はフィクションであり…」の記載もありません)。福島原発事故を起こし、多額の賠償責任を負いながら、ふんだんな電気料金と税金を受け取って黒字経営で裏金も作り、反省もなく政治家と官僚を支配し続ける東京電力の悪辣さ加減は、本当に腹が立ちます。最近も、海外子会社に利益を蓄えていることが報道されたところですし。
ただ、この作者、刑事手続には詳しくないようです。逮捕後起訴前に「保釈の請求をしていた」(235ページ)、「できるだけ早く保釈決定を受ける」(282ページ)、「保釈は一切認められずに、そのまま起訴され」(283ページ)と書かれていますが、日本の刑事司法では、アメリカなどと違って起訴前に保釈の制度はありません。他方、原子力規制庁の審議官が事業者から天下り(贈賄)を示されて報告書を事前に見せたということが、保護に値する秘密といえるかは疑問があり、これを暴露することが国家公務員法(守秘義務)違反で起訴された場合、争う余地は十分にあると思います。「正直に罪を認めて叙情酌量の余地を増やすこと、逃亡や証拠隠滅の怖れがないことなどを示して、できるだけ早く保釈決定を受けることくらいしか、アドバイスする余地がなかった。」(282ページ)という事案ではないと思います。少なくとも我らが「海土」弁護士がそういう姿勢を取って諦めるということは考えがたいところですが。
ラスト前の小ネタでも、硝煙反応はどうごまかすんだろうという疑問が残ります。作者は仕事で忙しくミステリーもあまり読んでないのかも。

若杉冽 講談社 2013年9月11日発行
電事連(小説では「日本電力連盟」)と東京電力(小説では「関東電力」)の総括原価方式(事業にかかった経費に比例して利益を得られるしくみ)の下での関連会社への割高発注とキックバックによる裏金作り、その裏金を利用した政治家、官僚への環流・利益誘導、野党国会議員やマスコミの取り込み工作、そのシステムを維持する目的の政治家による電力会社の意向に沿った政策の推進と反対者への圧力、原子力規制委員会/原子力規制庁の翼賛ぶりと電力自由化・発送電分離の骨抜きといったあたりは、ノンフィクションかと思える迫力があります(この作品、お決まりの「この作品はフィクションであり…」の記載もありません)。福島原発事故を起こし、多額の賠償責任を負いながら、ふんだんな電気料金と税金を受け取って黒字経営で裏金も作り、反省もなく政治家と官僚を支配し続ける東京電力の悪辣さ加減は、本当に腹が立ちます。最近も、海外子会社に利益を蓄えていることが報道されたところですし。
ただ、この作者、刑事手続には詳しくないようです。逮捕後起訴前に「保釈の請求をしていた」(235ページ)、「できるだけ早く保釈決定を受ける」(282ページ)、「保釈は一切認められずに、そのまま起訴され」(283ページ)と書かれていますが、日本の刑事司法では、アメリカなどと違って起訴前に保釈の制度はありません。他方、原子力規制庁の審議官が事業者から天下り(贈賄)を示されて報告書を事前に見せたということが、保護に値する秘密といえるかは疑問があり、これを暴露することが国家公務員法(守秘義務)違反で起訴された場合、争う余地は十分にあると思います。「正直に罪を認めて叙情酌量の余地を増やすこと、逃亡や証拠隠滅の怖れがないことなどを示して、できるだけ早く保釈決定を受けることくらいしか、アドバイスする余地がなかった。」(282ページ)という事案ではないと思います。少なくとも我らが「海土」弁護士がそういう姿勢を取って諦めるということは考えがたいところですが。
ラスト前の小ネタでも、硝煙反応はどうごまかすんだろうという疑問が残ります。作者は仕事で忙しくミステリーもあまり読んでないのかも。

若杉冽 講談社 2013年9月11日発行