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伊東良徳の超乱読読書日記

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無戸籍の日本人

2016-02-13 22:54:32 | ノンフィクション
 離婚後300日経過前の出産のために前夫の子とされることがいやで出生届を出さず無戸籍となっている子を現在の夫との間の認知請求訴訟を経て戸籍登録させた経験からNPO法人「親子法改正研究会」、「民法772条による無戸籍児家族の会」を立ち上げて支援活動を続けてきた元衆議院議員の著者が、これまでの支援活動を通じて知った成人無戸籍者たちの境遇と生活、住民票取得、戸籍登録の試みなどを描いたノンフィクション。
 離婚ができなかったり遅れたりで実の父でない者が法律上の父とされる民法の規定のためであったり、DV夫に所在を知られることを避けるためであったり、あるいは病院に医療費を払えない(そのために出産証明書をもらえない)ためであったり、様々な事情で出生届が出されずに無戸籍となる子が相当数いるのに、戸籍・住民票がない故に行政サービスを受けられず、また身分証明がないためにまともな働き口を得られずあるいは悪辣な雇い主に弱みを握られて低劣な労働環境に身を沈める者が存在することに胸を痛め、そういう者たちの存在を知りつつ住民票や戸籍登録を拒否して追い返し行政として救済の手をさしのべようとしない役人の姿に怒りを覚えます。そういった親たちに対して、自業自得だという人々の存在にも、人間として悲しく思います。親たちの生活に問題があったとしても、少なくとも子に罪はないはずなのに。
 私自身は、仕事がら、無戸籍者たちの境遇自体よりも、「24時間無料」とホームページに記載して電話相談などを続ける(電話は深夜や明け方に多いという)著者の支援活動に、ただただ感服してしまいます。私は、プライベートの時間帯を奪われることがいやでいやで仕方なく、著者のように午前5時に電話なんかかけられたらそれだけでいやになりますし、弁護士は正義の味方なんだから自分のような被害を受けている者(まぁそう言ってくる人ほどただわがままなだけということがありがちですし)の事件は当然受けるべきだ(それもただで)とか言われると、それだけで絶対受けるものかと思いますし。運動家だからなのか、政治家だからなのか、その意欲とエネルギーは大変なものだと思いました。
 無戸籍問題自体の解決や民法改正について、著者も衆議院議員だった民主党政権時代になぜできなかったかの部分が、あまり書きたくないのかサラッと流されているところには不満を持ちますが、問題提起の本としてはよい本だと思います。


井戸まさえ 集英社 2016年1月10日発行
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