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伊東良徳の超乱読読書日記

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原発賠償を問う

2013-04-29 19:44:53 | ノンフィクション
 福島原発事故による被害者への賠償について、責任を曖昧にした賠償枠組みの問題点を指摘し、特に避難民への賠償が進まない現状について問題提起する本。
 福島原発事故の賠償は、東京電力が主体という形を取っていながらその支払原資は「原子力損害賠償支援機構」を通じて国が実質は無制限に資金援助をし、最終的に東京電力はそれを電気料金から返済するしくみで、結局は税金か電気料金として国民負担となる、それにも関わらず東京電力は潤沢な財産を奪われず東京電力の債権者(銀行)も株主も破綻処理による負担はなく守られる、東京電力は加害者でありながらその自覚がなく、政府は延命している東京電力の陰に隠れて金を出すだけで責任を正面から果たそうとしない、そういった責任を曖昧にした枠組みが被害者への賠償を進ませない元凶になっているというのが、著者の立場です。原子力損害賠償紛争審査会が作成した「中間指針」とその追補は、裁判をしなくても補償されるべきことが明らかないわば最低限の補償範囲のめやすであるはずなのに、東京電力はこれを補償の天井のように扱い東京電力が指針に基づいた補償基準を作成した上、東京電力が被害者に対して煩雑な請求書類への記載・裏付け書類の提出を課して、東京電力が査定している、つまり加害者である東京電力が第三者機関が作成した指針を勝手に制限し被害者に過大な手続・立証責任を課し、好きなように査定して賠償額を制限している(「それがいやなら裁判をしろ、徹底的に争ってやるから」ということですね)ことが指摘されています。
 そして、特に避難民に対する賠償では、自主避難者が当初は補償対象者から外され、指針の追補で対象者とされても金額が低く抑えられていることや、実態に反した事故収束宣言や避難指示の段階的解除によって避難民への補償を打ち切ろうとする政府の姿勢にも疑問が呈されています。避難指示の解除に伴う補償打ち切りは、指針を作成した原子力損害賠償紛争審査会を開かずに経産省が「考え方」を示し、東京電力がそれを受けて具体的基準を作成するというやり方をしたという手続の問題もあるとされます。
 原発事故を起こして十数万人の避難者を出し住処と郷土、コミュニティを根こそぎ奪った東京電力が、送電システムの分離さえ受けずにのうのうと生き残り、被害者への賠償を制約していることについては憤りを禁じ得ません。JCOもそうでしたが、原子力事業者という連中は、事故直後のマスコミが注目している間だけは土下座していますが、マスコミの関心がなくなれば被害者に対しても、今どきはビデオ撮影して公開されかねないことからか言葉遣いだけは丁寧でも、実質的には横柄で傲慢な態度を平気で取ります。彼らはどんな事故を起こしても、現実には反省など全くしていないのだと思うことがしばしばです。
 原発推進政権に変わり、政府の政策がより悪辣になることはもちろん、それを受けて東京電力の横柄さ・傲慢さも酷くなっていくことが予想されます。そういう状況の中で本当はこうなんだけど部分の思考枠組を確認させてくれる本だと思います。
 「美しい国」を標榜し、尖閣諸島や竹島問題には先鋭な対応をする人は、福島原発事故では尖閣諸島や竹島とは比べものにならない規模の郷土が汚され奪われたことについてどう考えているのでしょう。


除本理史 岩波ブックレット 2013年3月6日発行
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