警視庁捜査1課の女性警部補姫川玲子シリーズの番外編。
姫川は脇役で、姫川の天敵ともいうべき勝俣健作、姫川の元部下の葉山則之、姫川が最初に登場した短編と思われる「過ぎた正義」(「週刊宝石」2004年10月号。「シンメトリー」所収)に登場する元捜査1課9係主任の倉田修二の3人の物語というところです。
「感染遊戯」「連鎖誘導」「沈黙怨嗟」「推定有罪」の4つの短編連作という形ですが、いずれも厚労省、外務省、農水省、郵政省の元次官などの官僚が殺害されたり襲われる事件で、4作目の「推定有罪」で全体を束ねて前3作で謎として残った犯人がどうやって元次官らの自宅を知ったか、4作で交錯する人間関係などが描かれて、長編作品として読めないこともない程度にはまとめられています。ただ、やはり元は短編で書かれているので、ぶつ切り感があり、語りの視点が変わるので、読み通してのまとまりが十分とはいえず、少し中途半端な印象が残ります。
高級官僚の悪辣さへの怨嗟を盛り上げておきながら、高級官僚の情報を提供するサイトを運営する人物に対しては、自分はネットの陰に隠れて姿を見せず直接怨みを抱く者に情報だけを巧みに提供し実行させる、そいつらは逮捕されてもあんたは逮捕されない、あんたが憎む官僚の手口とそっくり同じだなという評価はどうかなと思います。このサイト運営者についての落ちの付け方も最終的な評価を逃げた感じで、ぶち上げてみたものの最後まで扱いかねて投げたような印象です。そこへの絡ませ方も、倉田はどうせ警察を辞めて今は捨て駒、勝俣は例によってやり過ぎだけどそういうキャラ、葉山は今後有望株なのでディープなところへは絡ませず、姫川は完全に温存と使い分けられています。触りにくい分野にアタックしたということではありましょうけど、腰が引けてるということでしょうか。
この作品、「推定有罪」が「インビジブルレイン」での姫川班の解体から2年半後の話とされています(187ページ)。「インビジブルレイン」の時点で「葉山が姫川班に配属されてきたのはもう3年も前」(「インビジブルレイン」19ページ)だった葉山は、「沈黙怨嗟」では3年弱捜査1課にいた後所轄に出て北沢署強行犯捜査係にいた(95~96ページ)とされていますので、「インビジブルレイン」の終わりに姫川班が解体されたときに所轄に出たということになります。それが「推定有罪」の時点で北沢署におり、「つい去年まで」捜査1課にいた(180ページ)って…

誉田哲也 光文社 2011年3月25日発行
姫川は脇役で、姫川の天敵ともいうべき勝俣健作、姫川の元部下の葉山則之、姫川が最初に登場した短編と思われる「過ぎた正義」(「週刊宝石」2004年10月号。「シンメトリー」所収)に登場する元捜査1課9係主任の倉田修二の3人の物語というところです。
「感染遊戯」「連鎖誘導」「沈黙怨嗟」「推定有罪」の4つの短編連作という形ですが、いずれも厚労省、外務省、農水省、郵政省の元次官などの官僚が殺害されたり襲われる事件で、4作目の「推定有罪」で全体を束ねて前3作で謎として残った犯人がどうやって元次官らの自宅を知ったか、4作で交錯する人間関係などが描かれて、長編作品として読めないこともない程度にはまとめられています。ただ、やはり元は短編で書かれているので、ぶつ切り感があり、語りの視点が変わるので、読み通してのまとまりが十分とはいえず、少し中途半端な印象が残ります。
高級官僚の悪辣さへの怨嗟を盛り上げておきながら、高級官僚の情報を提供するサイトを運営する人物に対しては、自分はネットの陰に隠れて姿を見せず直接怨みを抱く者に情報だけを巧みに提供し実行させる、そいつらは逮捕されてもあんたは逮捕されない、あんたが憎む官僚の手口とそっくり同じだなという評価はどうかなと思います。このサイト運営者についての落ちの付け方も最終的な評価を逃げた感じで、ぶち上げてみたものの最後まで扱いかねて投げたような印象です。そこへの絡ませ方も、倉田はどうせ警察を辞めて今は捨て駒、勝俣は例によってやり過ぎだけどそういうキャラ、葉山は今後有望株なのでディープなところへは絡ませず、姫川は完全に温存と使い分けられています。触りにくい分野にアタックしたということではありましょうけど、腰が引けてるということでしょうか。
この作品、「推定有罪」が「インビジブルレイン」での姫川班の解体から2年半後の話とされています(187ページ)。「インビジブルレイン」の時点で「葉山が姫川班に配属されてきたのはもう3年も前」(「インビジブルレイン」19ページ)だった葉山は、「沈黙怨嗟」では3年弱捜査1課にいた後所轄に出て北沢署強行犯捜査係にいた(95~96ページ)とされていますので、「インビジブルレイン」の終わりに姫川班が解体されたときに所轄に出たということになります。それが「推定有罪」の時点で北沢署におり、「つい去年まで」捜査1課にいた(180ページ)って…

誉田哲也 光文社 2011年3月25日発行