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伊東良徳の超乱読読書日記

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アメリカ黒人の歴史 奴隷貿易からオバマ大統領まで

2013-04-28 19:38:57 | 人文・社会科学系
 イギリス植民地時代のアメリカに砂糖プランテーションでの労働者として黒人奴隷が導入されて以来のアメリカでの黒人の歴史を解説した本。
 南北戦争時の奴隷解放、1960年代の公民権運動で、奴隷制や黒人差別問題は法的には解決していたはずですが、現実にはその後も問題は解決していないというあたりに焦点が当てられています。でもそれ以前の昔話にしても知らなかったことが多く、アメリカ史としても勉強になりました。また、知っていることでも、黒人側からの視点で書かれているので、これまでの理解と少し違って見えるところが少なからずありました。リンカーンやキング牧師のような黒人解放の英雄の活動についても、黒人側から見れば妥協を繰り返していたと評価されているところもあり、新鮮に思えました。
 黒人の歴史以外の部分でも、勉強になる部分が多々ありました。ワシントンD.C.(アメリカの首都)が「南部」ということも南北で区切られた地図を示されて初めて気づきました。そして、現在黒人票の多くが民主党の母体となっていることやジェシー・ジャクソン、オバマら歴史的に著名な黒人政治家が民主党ということから錯覚していましたが、かつては共和党が奴隷制廃止を主張し、リンカーンは共和党で、民主党は奴隷制廃止に反対し抵抗し南部の白人が民主党の母体だったのですね。近年の「麻薬との戦争」での厳罰主義で、黒人の特に若者の収監が激増し(20代黒人男性で見ると10人に1人が収監されているという)、それが家庭崩壊を多発させるとともに収監された人々の多くがレイプその他の暴行被害や麻薬の洗礼を受け、HIV感染者となりギャング組織に組み込まれて収監前より暴力的になって一般社会に戻りさらなる暴力犯罪を引き起こすが、収監者は選挙権を奪われるので貧しい人々の政治的発言権が奪われ、他方刑務所が誘致される地域は収監者を含めた人口で議席が配分されて一票の価値が増して刑務所利権のある人々が厳罰主義者に投票して議会で厳罰主義者が増殖するということが指摘されています(199~208ページ)。日本でも厳罰主義者が増えていますのでアメリカの轍を踏んでいくのでしょうけれども、その先行きは厳罰主義者の期待するところともずれているように思えます。


上杉忍 中公新書 2013年3月25日発行
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