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晴れ、ときどき映画三昧

映画「ザ・マスター」(12・米) 75点

・50年代のアメリカの苦悩を、時代考証によってリアルに再現したP・T・アンダーソン。

 「マグノリア」「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」のポール・トーマス・アンダーソンによる5年振りの新作。ベネチア・カンヌ・ベルリンの三大映画祭で監督賞を受賞した話題作。といっても華々しいエンタテインメント作品ではない。新興宗教やカルト集団が勢力を伸ばし始めた50年代アメリカの時代背景を舞台に社会から逸脱した帰還兵と新興宗教・指導者の共感できそうもない二人が主人公の出会いと別れの物語。
どちらかというと地味なテーマを徹底した時代考証の末そのリアルな再現に拘った映像と二人の主人公の強烈な個性が絡み合って、独特の世界を醸し出して行く。
帰還兵フレディを演じたホアキン・フェニックスは監督の期待に応え俳優へ本格復帰したことを本作で証明した。セックスと酒しか頭になく、社会生活に適応できない男を身体全体で表現して偶然出会ったザ・コーズという宗教団体に自分の居場所を見出そうとする。
その宗教団体の指導者ランカスター・ドットに扮したのがフィリップ・シーモア・ホフマン。自称、作家・哲学者で、独自のメソッドによりカウンセリングを行いマスターと呼ばれる。モデルはトム・クルーズやジョン・トラボルタなどが加入している<サイエントロジー>と思われるが新興宗教批判の映画ではない。むしろカリスマ指導者を目指す男の孤独感に同情の眼差しすら感じる。
性格も180度違う2人の男。最初は船に迷い込んだ男フレディに興味を覚え、彼を身近に置くことでファミリーとは違う互いに補完し合う間柄を持つようになり、離れなくなっていく。まるで男と女のような出逢いと別れが...。
2人の関係をイチバン危ぶんだのは年の離れた妻のペギー・ドッド。多分元信者で、何人目かの妻となって全てを仕切っているのだろう。マスター批判者への反論も支援団体資金流用も怪しげな医療行為も総て掌握しながら組織拡大を目論む陰の実力者だ。暴力も振るう危険な男が矛盾を感じ始めたらこの団体はどうなるかを恐れ排除しようとする。エイミー・アダムスが抑えた演技で不思議な存在感を魅せている。

独特の映像は65ミリフィルムを使用して懐かしい色彩を再現し、コッポラ作品で実力を培ったミハイ・マライメア・Jrが撮影担当。音楽はロック・バンド<レオヘッド>のメンバー、ジョニー・グリーンウッドで、この時代を巧みに音で表現している。<オン・ア・スロー・ボート・トゥ・チャイナ>というラブソングがハイライトで使われている。フレディが笑顔とともに流す涙が印象的だ。
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