宇宙の歩き方

The Astrogators' Guide to the Charted Space.

宙域散歩 バックナンバー目次

5622-12-31 | Traveller

 ロールプレイングゲーム『トラベラー』の、《第三帝国》の膨大な世界設定を紹介していくシリーズです。特段の断りがない限りは、これらの設定は全て帝国暦1105年時点のものとして記述しております。
 なお、文章には私の意訳・誤訳・誤解・曲解が過分に含まれ、推測による記述や、非公式設定をあえて取り込んだ部分もありますので、その点をあらかじめご理解いただいた上でご利用ください。
 Bon voyage!

第1回 268地域星域 概要編詳細編(スピンワード・マーチ宙域)
第2回 トリンズ・ヴェール星域(スピンワード・マーチ宙域)
第3回 モーラ~ルーニオン間(スピンワード・マーチ宙域)
第4回 グリッスン星域(スピンワード・マーチ宙域)
第5回 『Pirates of Drinax』特集1 ドリナックス王国(トロージャン・リーチ宙域)
第6回 『Pirates of Drinax』特集2 アウトリム・ヴォイド(トロージャン・リーチ宙域)
第7回 トビア星域(トロージャン・リーチ宙域)
第8回 ヴィラニ・メイン1 ヴォーダン星域(ヴランド宙域)
第9回 ヴィラニ・メイン2 アナルシ星域(ヴランド宙域)
第10回 ヴィラニ・メイン3 ヴランド(ヴランド宙域)
第11回 ヴィラニ・メイン4 シイグス・プリデン星域付近(ヴランド・リシュン宙域境界)
第12回 ヴィラニ・メイン5 グシェメグ宙域
第13回 パクト星域(ダグダシャアグ宙域)
第14回 シュドゥシャム(コア宙域)
第15回 キャピタル(コア宙域)
第16回 カムシイとレファレンス(コア宙域)
第17回 ソロマニ・リム宙域・概要編
第18回 リム・メイン1 ハーレクイン星域(ソロマニ・リム宙域)
第19回 リム・メイン2 ヴェガ自治区(ソロマニ・リム宙域)
第20回 テラ(ソロマニ・リム宙域)
第21回 ソル星域(ソロマニ・リム宙域)
第22回 リム・メイン3 アルバダウィ星域周辺(ソロマニ・リム宙域)
第23回 リーヴァーズ・ディープ宙域 前編後編ライブラリ
第24回 カレドン星域(リーヴァーズ・ディープ宙域)

番外編1 SuSAG(メガコーポレーション解説)
番外編2 フローリア人とフローリア連盟(群小種族解説)
番外編3 ソロマニ・リム戦争概史
番外編4 仮死技術と二等寝台
番外編5 「人類」総まとめ

(※記載した情報は予告なく修正される場合があります)
Comments (2)

宙域散歩(番外編6) トラベラー協会

2018-06-04 | Traveller
「観光客(ツーリスト)と旅人(トラベラー)の違いは、観光客は災難に遭うと為す術がないが、旅人は災難の中でもどうにかして己を助けられる点だ」

 トラベラー協会。会員権は退職恩典の目玉の一つであり、我々の快適な旅路を陰日向に支えてくれるありがたい存在……の割には、その設定はこれまで全くと言っていいほど明らかになっていません。そこで今回は公式非公式を問わず資料の中から断片的な設定を可能な限り掘り起こし、各設定間の矛盾をできるだけ解消し、考察と推測を含めてその全体像を明らかにしていきたいと思います。
 よって、あくまで以下の文章は非公式の独自設定と考えてください(とはいえ公式資料か公式資料を作った人による設定から引用しているので、準公式程度の精度はあると思いますが……)。


 民間組織である「トラベラー協会(Travellers' Aid Society)」はよく帝国の官庁の一つだと誤解されていますが、それだけ協会が帝国各地で基準となるような高品質で効率的なサービスを提供していることの証です。
 宇宙港内での一流ホテルの運営が最も有名な事業ですが、トラベラー協会は宇宙各地の旅行安全情報の提供や最新事情の報道から船舶検査認証制度や乗組員資格検定まで、会員非会員を問わずあらゆる人々の快適な旅を支えるために日夜活動しています。


■トラベラー協会の歴史
 人類が宇宙にその勢力圏を拡大した時から、宇宙を旅する者(主に自由貿易商人)たちへの保護・互助組織への模索は続けられてきました。一度は暗黒時代(Long Night)の到来で頓挫しますが、第三帝国建国直前の-70年には、現在のトラベラー協会の前身の一つである「コスモス・クラブ(Cosmos Club)」がシレア人のヴェ・ヌー・ラン(Ve Nu Lant)によって結成されています。このコスモス・クラブはヴェ・ヌー・ラン自身の経験を活かし、シレア海軍や海兵隊を退役した経験豊富な軍人たちが自らの冒険心を発揮する場として作られました。
 やがてそれはシレア連邦偵察局にも門戸を開き、高額な入会金と引き換えに経済・政治・科学に通じた民間の優秀な人々も会に招かれるようになりました。-16年に「シレア宇宙協会(Sylean Space Society)」と改称した頃には、各地の宇宙港に直営の宿泊施設をいくつも抱え、その部屋や食事の質は民間のホテルに勝るとも劣らないとの評判を得るほどになっていました。そしてシレア連邦の、後の第三帝国の拡大とともに協会組織も領内各地に広がっていきます。

「シレアの拡大期には多くの人々が宇宙に向かっていった。私はそんな旅人たちに、行くべき・避けるべき場所、食べられる物・食べられない物をまとめてネットワークに情報を流していたが、彼らにはもっと実践的な助けが必要だと感じた。そこで私は友人たちと共にコスモス・クラブを設立し、情報交換の場や寝床を提供するようになった。あとは歴史に記された通りだ」
(協会初代最高経営責任者ヴェ・ヌー・ラン)

 一方、距離などの事情で帝国への編入が遅れたソロマニ・リム宙域では、早くから帝国への友好姿勢を貫いていた小国、イースター協定(Easter Concord)内で「トラベラー連盟(Traveller's League)」という財団が結成されました。財団の目的は帝国本土とイースター間の未編入宙域を安全に航行することで、彼らは助成金で得た軽巡洋艦で宇宙船を護衛し、難破船の救助に向かいました。426年にイースター協定が帝国に編入された後、その任務の多くは帝国海軍に引き継がれましたが、代わりに帝国領内各地の経済・文化・政治情報を集めた旅行情報誌『トラベラーズ・エイド』の発行で、その組織はむしろ拡大に向かいました。
 結成以来トラベラー連盟とシレア宇宙協会は友好関係にありました。ソロマニ・リム方面への安全な旅行には連盟の存在が不可欠でしたし、『トラベラーズ・エイド』の情報の多くは協会会員から得られた上に、協会内で情報を共有するのにも有効でした。かくして両者は488年に合併し、「トラベラー協会」が誕生しました。旧協会の理念に連盟の信念が融合し、トラベラー協会は新たな使命をこう表しました。

「銀河を往く勇敢な魂のために、トラベラー協会は嵐の中の港となり、灼熱の恒星からの日除けとなり、決意と活力を取り戻す場となる。知恵・友情・情報を共有し、協会は英雄たちに奉仕する」

 しかしそんなトラベラー協会も、内戦(604年~622年)の時代は苦難を味わいます。その時代に乱立した軍人皇帝の中には、協会を支配への脅威とみなした者もいたのです。特に傘下組織の「トラベラー・ニュースサービス(TNS)」が頑なに中立を守り、新皇帝の宣伝機関となることを拒んだことで危機を迎えたこともありました。
 内戦後のトラベラー協会は教訓を得て、自らの役割と透明性をより明確にし、帝国海軍を後ろ盾にして政府機関との協調関係を強化しました。
 スピンワード・マーチ宙域を含む、辺境のデネブ領域までトラベラー協会が進出したのは意外と遅く、720年までかかります。それまでマーチ宙域では「八角教団(Octagon Society)」のような旅行者互助組織が作られては潰れてきていましたが、これでようやく帝国全土を旅行者が安全に快適に渡り歩くことができるようになったのです。


■トラベラー協会の組織構成
 協会は宙域単位で運営され、その最高の栄誉ある地位が「宙域統括管理者(Sector Aid Administrator)」です。彼は要人との会見や、式典の議事進行、記者会見など様々な公式の場に姿を表します。
 トラベラー協会の驚くほどに均一的なサービス品質の裏には、TASPoC(Travellers' Aid Society Policy Computer)による組織管理があります。部門担当主任(senior administrator)は監査会(Board of Ombudsmen)の管理の下、TASPoCの支援を受けながら財務、人事、会員管理、広報、トラベルゾーン分類といった各部門の運営を担います。TASPoCは運営の立案と調整をし、主任がそれを実行し、監査会が結果をまとめてTASPoCに入力する、というのが一連の流れです。星域・星系の単位でも同様の更に細かい下部組織が築かれています。
 組織全体から独立した機構として、業務改善委員会(Policy Oversight and Review Committee)が挙げられます。委員会はTASPoCの調整をするために10年に1回招集され、宙域ごとの代表者が会議の14週間前から会員の満足度調査や部門ごとの報告書などに基づいて、改善項目の提案を練ります。実際の会議では改善案の討議と承認が行われ、各宙域のTASPoCにその内容が反映されます。


■トラベラー協会正会員
 主に海軍士官や海兵隊員の英雄的な行いや、司法官や外交官の長年の功績に報いるためにトラベラー協会の会員権が与えられることがありますが、他にも一山当てた宇宙鉱夫や引退した貴族・財界人など、余生を旅と冒険に捧げるために100万クレジットの入会金を支払って(かつ入会審査を通過して)会員となる者もいます。
 一度会員になると生涯有効ですが、その権利を他者に譲ることはできません。

 あまり知られていませんが、会員には3段階の位があります。「アルファ」は一般正会員を指し、1宙域で200名程度しかいない「ベータ」は社会に対して著しい貢献をした者に贈られ、著名な旅人兼広報である「ガンマ」には、協会がスポンサーとなってあらゆる旅費を(常識の範囲で)無料としています。そしてガンマ会員に対して他の会員は礼儀を払い、できる限りの手助けをするのが慣例となっています。

 トラベラー協会の会員になると、以下の特典があります。

・TAS IDの発行
全ての会員には会員証と電子財布が一体化した「TAS ID」が発行されます。会員証には所有者の遺伝子など個人識別情報が組み込まれ、協会施設での本人認証に利用されます。また会員証自体が口座機能を持つため、旅先で電子決済による買い物もできます。

・8週間ごとに特等チケット1枚の配当
このチケットはすぐに使用することも、後々のために溜めておくことも自由です。譲渡はできませんが、省令により額面の9割(つまり9000クレジット)で現金化して受け取ることはできます。
ちなみにベータ会員の配当は4週間ごとに1枚となります。

・トラベラー協会系列施設の利用
会員とその同伴者は、ほとんどのAないしBクラス宇宙港内にあるトラベラー協会直営の高級宿泊施設を優待料金(相場の2~3割引程度)で利用できます(※一般的に高級と呼ばれるホテルの宿泊料の相場は1泊250クレジット以上です)。そこでは一流の食事とサービスを受けられます。なお、Cクラス宇宙港外の提携宿泊施設も(あれば)同様に優待料金で利用できます(宿としての質は千差万別ですが)。
各宿泊施設内にトラベラー協会は窓口を構えており、そこで各種手続きや問い合わせ相談が行えます。また、協会の窓口職員はコンシェルジュとしても訓練されていて、会員の細々とした要望(道案内や希少なコンサートチケットの入手等々)にも喜んで応えます。
なお、協会施設に劇場、映画館、ラウンジ、カジノといった娯楽施設が併設されている場合は、そこも優待料金(もしくは無料)で利用できます。

・情報の入手
協会発行の「ジャーナル」誌(JTAS)の割引購読に加え、トラベラー・ニュースサービス(TNS)や膨大なライブラリ・データや最新の星図・航路情報への無料接続権もあるので、端末一つであらゆる情報を簡単に得ることができます。
(※ジャーナル誌には印刷版も存在し、協会窓口で購入することができます)

・法律相談
旅先で何か災難に巻き込まれた際には、協会窓口に常駐している(または協会と提携した)弁護士が無料で相談に乗り、場合によっては比較的低額で弁護を買って出てくれます。

・翻訳機の貸与
トラベラー協会には高性能の翻訳機(もしくはソフトウェア)があるので、難解な方言や他種族との会話も問題ありません。そしてその翻訳性能は、使用者の反応を基にして日々強化され続けています。

・会員限定ツアーへの参加
旅の素晴らしい思い出となるような星系内の有名観光地を巡るツアーに、会員とその同伴者は優待価格で参加できます。

・旅行保険への加入
医療保険と携行品損害保険が一体となった旅行保険に格安で加入できます。

・協会総会への出席権
(※詳細は不明ですが、おそらく株主総会のようなものでしょう)

 会員となる利点は、パンフレットにありがちなこういったものだけではありません。社会的信用が増すことで周囲から好感をもって見られたり、雇用者(やパトロン)との接触が容易になるのが一番わかり易い利点でしょう。

(※協会の理念を考えると、おそらく非会員でも「優待」や「格安」でない価格で旅の手助けをしてくれると思われますが、判断はレフリーに任されます)


■協会による資格認定制度
 トラベラー協会は安全で快適な旅の確保のため、宇宙船や宇宙港職員の技能訓練や資格認定制度の事業も担っています。世間から信頼されている機関が発行する資格なので、帝国内での就職に有利に働くことが期待されます。
 協会が発行している各種資格は以下の通りで、試験や訓練受講の手続きも各宇宙港の協会窓口で行えます。

航宙士免状 Operator's Cretificates
 宇宙船の乗組員となるのにまず必要な資格です。通信手や探知手といった分野ごとに応じて、〈コンピュータ〉〈エレクトロニクス〉〈メカニクス〉〈パイロット(小艇)〉〈運転〉〈砲術〉〈探知機〉〈通信機〉〈スチュワード〉などの技能がそれぞれ求められます。

宙技士資格 Mate's Licence
 航宙士免状の次の段階の資格です。1000トン未満の船を扱える二級(Limited)と、それ以上の一級(Unlimited)があります。航宙士に加えて〈航法〉〈パイロット(宇宙船)〉が求められます。

航宙長資格 Master's Licence
 宙技士資格を経て、宇宙船の船長となるのに必要な資格です。宙技士と同様に二級と一級があり、1000トン以上の宇宙船の船長になるには一級資格が必要です。宙技士に加えて〈管理〉〈法律〉〈リーダー〉〈戦術(艦艇)〉といった技能が求められます。

機関士資格 Engineer's License
 補助機関士(Assistant Engineer)と主任機関士(Chief Engineer)の2種類があり、機関長として勤めるには後者が必要です。補助機関士は〈エンジニアリング〉のうち(ジャンプドライブ)(通常ドライブ)(パワープラント)(生命維持装置)の中から2分野が、主任機関士は4分野全てが求められます。

医療技師免状 Certified Medical Technician
 応急手当てなど基礎的な医療技術を習得し、〈医学-0〉に相当する技量を持つことを示す資格です。
(※原文では他に「医師免許(Medical Doctor)」「外科医資格(Surgeon's License)」がありますが、本来は大学医学部卒業が必須である(原文にもそうある)医師免許を民間資格で取り直す必然性が感じられなかったので削除しました)

貨物取扱免状 Cargomaster's Certificate
 宇宙船と宇宙港の間で貨物を運搬する仕事に就く際に必要な資格です。貨物に関する知識と〈運転〉が求められます。

危険物取扱者免状 Hazardous Material Handler's Certificate
 貨物取扱免状に加えて危険物を扱う際に必要な資格です。乙種(Basic)と甲種(Advanced)があり、扱える危険物の範囲が乙種では限定されています。
(※本当はBasicの方はCertificateではなくEndorsementなのですが、意図的に揃えました)

仲買人資格 Broker's License
 宇宙港の仲買人(ブローカー)となるための資格です。〈ブローカー〉〈法律〉が求められます。

(※これらの技能はマングース初版に合わせて調整しましたが、基本的に雰囲気を出すための設定なので、厳密に当てはめるようなことはしないでください)


■プレイへの導入
 トラベラー協会をキャンペーンで扱う際、プレイヤー・キャラクター(PC)が作成時に会員である必要はありません。むしろキャンペーンの目標として残しておいた方が良いかもしれません。その場合レフリーは、プレイヤーが会員権を欲しくなるように促すべきです。
 例えば、印象深いノンプレイヤー・キャラクター(NPC)をトラベラー協会員にします。決して悪人ではなく、PCが親しみやすくて友情を築きたいような好人物です。そしてそのNPCの同伴者として一度、会員の世界を体験させるのです。ホテルでの豪華な夕食、会員専用のラウンジ、数々の優待特典…。そして将来トラベラー協会員になるには、協会員に信頼されるような(反対投票をされないような)人物であり続けることを心に刻ませるのです。
 宇宙は危険に満ちています。PCを危機に追い込むNPCでいっぱいです。雇い主の貴族が突然手のひらを返すかもしれませんし、可哀想な女性が実は狡猾な詐欺師なのかもしれません。しかしトラベラー協会員だけは、御都合主義的であってもその例外とすべきです。協会に対して悪印象を持たせないことが、会員権の報酬としての価値を高めるのです。プレイヤーには協会員が友好的で信頼できる相手だと、経験を通して学ばせるべきです。
(※ルール上「悪党」でも会員になれますが、悪党を「退職」しているわけですから「足を洗った」ものと考えた方が良いでしょう)

 トラベラー協会が雇用主となる展開もありえます。報道や調査に通じた経歴の持ち主に、例えばとある世界をアンバーゾーンに指定すべきかどうか、もしくはアンバー指定を解除すべきかどうかの情報を現地で収集するよう依頼することが考えられます。または調査に向かう協会職員の護衛を引き受ける、というのもありえるでしょう。
 他には、PCが協会のコンシェルジュ・サービスの「下請け」を行う展開もあります。とある会員が求めた、限定品のレーザー・シガレットライターを探して東奔西走するなど……?

 協会員は8週に1枚貰える特等チケットで旅を続けられますが、当然最低7週間分の滞在費が必要となります。貯蓄を崩すのが主でしょうが、中には「滞在中に何らかの依頼を受けて旅費を稼ぐ」旅人もいるようです。もしかしたら協会が窓口となって、そういった「冒険」の斡旋をやっているのかもしれません(もしくは大抵どこの宙港街にも「冒険者」の集まる酒場がある……とか)。
 また、あの莫大な入会金が無料となる「抜け道」の存在が示唆されています。おそらく、キャンペーンなどで多大な功績を挙げたことへの恩賞として用意されているのだと思われます。

 このようにトラベラー協会は旅の支援だけでなく、文字通り冒険の人生を豊かにしてくれる存在です。うまく活用することで、キャンペーン・シナリオにより厚みと深みをつけることができるでしょう。


【ライブラリ・データ】
八角教団 Octagon Society
 342年にリジャイナ(スピンワード・マーチ宙域 1910)で設立された八角教団は、この宙域初の大規模な旅行者援助団体でした。教団の施設は基本的に八角形に造られ、主要世界には大型施設を、辺境や未開拓の世界には避難所となるように小さな施設を建てています。
 教団の起源は326年まで遡ります。測量の仕事で各地を巡っていたフォーレン・カリフレン・ドゥーン(Foren Caliphren Doon)は、宇宙船の機関故障によりフリジニ星系(現ベックス・ワールド(スピンワード・マーチ宙域 2204))で遭難し、約10年間の「島流し」に遭いました。やがて救助された後のドゥーンはまるで宗教めいた熱情で、あらゆる世界に宇宙旅行者のための避難所の設置を目指し、そのための資金調達と組織作りを始めました。こうして誕生したのが八角教団です。
 最盛期の教団は活動範囲をリジャイナ、ランス、ライラナー、アラミスの各星域だけでなく、デネブ宙域やグヴァードン宙域の一部にまで広げていましたが、400年代末に施設の施工不良や補助金横領といった不祥事が次々に明らかとなり、499年に教団は解散しました。教団施設は全て売却か放棄されましたが、リジャイナの現在のトラベラー協会施設には増改築が繰り返されたもののかつての名残りが見えます。


【参考文献】
Book 1: Characters and Combat (Game Designers' Workshop)
Adventure 3: Twilight's Peak (Game Designers' Workshop)
MegaTraveller: Players' Manual (Game Designers' Workshop)
MegaTraveller Journal #1, #3 (Digest Group Publications)
GURPS Traveller (Steve Jackson Games)
GURPS Traveller: Far Trader (Steve Jackson Games)
GURPS Traveller: Starports (Steve Jackson Games)
Starports (Mongoose Publishing)
The Travellers' Aid Society (Greg Videll, Mike Mikesh, 1990)
Traveller Wiki
Comment

星の隣人たち(7) グヴァードン宙域の(帝国に関係する)諸勢力

2018-05-12 | Traveller
「王子の新しい船は、新しい国を築く鍵となりました。船の名を冠した彼の国はこの宙域で最も大きくなり、今も宙域の名に残っています。王子は、船を授けてくれた恩人の名を船に付けていました。放浪者グヴァードン、と――」
――童話『グヴァードンの物語』より


 グヴァードン宙域は様々なヴァルグル政府によって統治され、帝国とゾダーンの双方国境に隣接し、多様な文化、政治的不安定、先の読めない貿易、頻繁な紛争地帯となっています。このような状況は帝国やゾダーン市民には混沌としているように見えますが、ヴァルグルにとっては日常の生活様式です。
 ヴァルグルを知る者ならわかることですが、ここでは過去2000年以上に渡って数え切れないほどの国家が生まれてはすぐに消えていきました。そのほとんどは記録にも残らず、名高い(もしくは悪名高い)大国だけが歴史書の中に記されています。


■国家
第40戦隊(エッヘー・クォフィ) Ekhlle Ksafi
 第40戦隊は元々、第一次辺境戦争のジヴァイジェの戦い(Battle of Zivije)で壊滅したヴァルグル艦隊の生き残りです。コウドヴォン准将(Commodore Koudvan)に率られたこの敗残兵たちは、内輪揉めばかりの星々を制圧して封建的な軍事政権を打ち立て、以後500年に渡って権力を維持し続けています。今ではゾダーンの支援を受けている戦隊海軍は、グヴァードン宙域の中でも最精鋭と言われています。
 国家は将校たちによって統治されており、第一次辺境戦争時に確立された階級構造と軍事規律が保たれています。ヴァルグルらしからぬことに、各艦の乗組員は生涯の大半を同じ艦で過ごすうちに相互に深い友情を芽生えさせ、それぞれ独特の閉鎖的な文化を生み出しています。
 首都をユシス(グヴァードン宙域 1738)に置いている第40戦隊は、ユシェ星域の6星系を支配下に収めています。各星系では自治がなされていますが、実際には守備艦隊司令部と星系政府の合議政です(※というのも建前で、軍部の意向が優先されるため住民には不満が溜まっているようです)。現在、政情はやや不安定化していると伝えられていますが、それでも海軍艦隊の名声はこの国の統一を保つ接着剤として機能しています。
(※ゲーム『第五次辺境戦争(Fifth Frontier War)』に登場するユシス艦隊(Uthith Fleet)とギリール艦隊(Gireel Fleet)はこの第40戦隊の所属とされていますが、後の設定変更に伴いギリール星系は無かったことになり、ユシス星系の座標も変わりました)

ケズジ共同体 Kedzudh Aeng
 この緩やかな連合はフィルグル星域における海賊行為の抑止を目的として、1044年に結成されました。現在では海賊団クフォルゼンの脅威に晒されている9星系が加盟しています。共同体の各星系政府は自治権を保持しながら、警察力と小艦隊の維持のために少額の加盟税を支払っています。なお連合体の法執行権限は、奴隷売買や密輸などの犯罪防止に限定されています。
 共同体海軍は首都アックズ(3034)にある唯一の基地に駐留し、そこから国境内の通商路を哨戒しています。海軍は領内にいる宇宙船への臨検の権限を持ち、不法行為があれば容疑者の逮捕・起訴を行います。そして発見された違法物品や盗難品は押収され、艦隊の維持費として役立てられます(窃盗の被害者は押収から1週間以内の提訴が認められています)。海軍の運営費の約3分の1はこうして賄われていますが、多くの市民は中には冤罪もあるのではないかと疑っています。

スーングリング帝国 Thoengling Raghz
 スーングリング帝国はグヴァードンとトゥグリッキの両宙域にまたがる中央集権的な大国です。この国は792年以来現在の形で存在しており、ヴァルグル全体でも最も大きく、安定した国として知られています。終身制の皇帝は議会の投票によって選出されますが、皇帝の子息がその跡を継ぐことは法律で禁止されています。またこの国には皇室に忠義を誓う貴族階級が存在します。
 国家は領内全ての警察力と軍事力を統御し、犯罪者に対する刑罰は迅速かつ厳しいものがあります。外世界(および国境間)取引には貿易許可証が必要とされますが、これは滅多に拒否されず、加盟世界はスーングリング帝国内外の諸企業との健全な取引関係を結んでいます。第三帝国もこの国の安定性と強大さを見込んで主要な貿易相手としており、ヴァルグル諸国における第三帝国の権益を強力に支えています。

第三帝国 Third Imperium
 グヴァードン宙域の世界を帝国が支配するのは困難を極め、結局、トライアド(2436)とギューツォン(3233)に属領を確保して海軍・偵察局基地を設置するのが精一杯でした。
 帝国が基地を置く目的は2つあります。帝国はヴァルグルを潜在的な脅威とみなしており、ヴァルグル領内に観測拠点を必要としていました。一方で帝国はヴァルグルとの良好な貿易関係を築くことで、帝国領への襲撃を減らそうともしています。両基地の存在は効果的に機能しており、国境付近での海賊攻撃を低減させています。


■企業
グヴァイノックス Gvaeknoks
本社:クフォリール(1421 B86AAA6-B)
商圏:グヴァードン宙域
 グヴァイノックスはグヴァードン宙域最大級の運輸会社です。同社には各星系を定期航路で回るジャンプ-2船団と、主要世界間を素早く運ぶジャンプ-3船団があり、宙域内のあらゆる世界で輸送業を展開しています。

オベルリンズ運輸 Oberlindes Lines
本社:リジャイナ(スピンワード・マーチ宙域 1910)
商圏:リジャイナ星域、アラミス星域、ユシェ星域、フィルグル星域
 グヴァードン宙域内ではグヴァイノックス社に次ぐサービスの良さで知られる帝国系の運輸会社です。帝国とヴァルグル諸国の国境越え貿易の多くをこのオベルリンズ運輸が取り扱っています。
 同社のヴァルグル諸国における象徴が巡洋艦エミッサリーで、その存在は海賊への抑止力として十分なほどに機能しています。
(※リジャイナ~ケズジ共同体~スーングリング帝国間の交易路は確保していますが、そこから先についてはさすがにグヴァイノックスの牙城は崩せていないようです。ちなみに、ラウグジルゾーラ(2040)の宇宙港をAクラスに改修したのもオベルリンズ運輸だそうです)

ラッハソール造船 Rrakhthall Shipyards
本社:アックズ(3034 A424551-E)
商圏:フィルグル星域
 ラッハソール造船は、897年に当時無人だったアックズ星系に家族経営企業として創業されました。創業者こそラッハソール家の家長でしたが、造船会社として必要とされる技術・専門知識・取引先を持っていたのは3人の息子たちでした。
 同社は最初は主に軍事用小艇の建造を担い、近隣星系に納入していきました。社の繁盛とともにアックズへの入植は進み、一族は得られた富をより大きな艦艇を建造できる造船所や、労働者の教育に投資していきました。やがて造船所は海軍基地としても機能するように拡張され、ケズジ共同体が結成される際には海賊と戦うための艦船の多くを供給しました。同社のこれらの多大な貢献により、共同体の首都としてアックズが選ばれたのは必然でした。

ウォーカー・ロボティクス Walker Robotics
本社:パンドリン(2240 B560675-A)
商圏:ユシェ星域
 スピンワード・マーチ宙域の帝国国境すぐ外にあるこの会社は、ヴァルグル市場向けのロボット設計・製造を行っている人類系企業です。ここの大規模な工場で造られた製品は、ヴァルグルの商人や代理店に出荷されていきます。
 ヴァルグル諸国ではロボットの需要はそこまでありませんが、ウォーカー・ロボティクス製品はヴァルグル系企業のものよりも優れており、非常に高い売り上げを誇っています。
 同社の主な競争相手は、帝国製のロボットを盗んでヴァルグル諸国で売りさばく海賊団です。
(※マングース版ルールから利用可能となった二足歩行兵器「ウォーカー」を製造している…ことはないと思います)

ローイギール・オッハ Rraegnaell Oukh
本社:ジエンギ(1539 B9789AA-A)
商圏:本文参照
 ゾダーンと帝国の双方の国境に近いという立地を活かし、ローイギール・オッハはヴァルグル・ゾダーン・帝国の「三角貿易」を営んでいます。そして時には直接の輸出入が許可されないような品物を第三国経由で流したりもしています。

エンクソー・オロズ Enksoe Aloz
母港:ケズジ(2833 B000525-D)
商圏:ケズジ共同体、および周囲6パーセク以内の世界
 経営者エンクソーは個人商船で旗揚げし、幸運にも今やジャンプ-2商船7隻の船団を持つほどにまで会社を成長させました。彼の船はケズジ共同体領内だけでなく、時には国境を越えて他のヴァルグル世界や帝国領内にまで旅をしています。


■海賊団
カイルーゴ Kaerrgga
 カイルーゴはグヴァードン宙域のコアワード(銀河核方向)端にある星を根城にしていますが、彼らは弱い目標をあえて狙わず、国家を相手取って襲撃することを好みます。時には、遙かスーングリング帝国や第40戦隊といったリムワード(銀河辺境方向)側の国家まで遠征を行うことすらあります。

クフォルゼン Kforuzeng
 帝国国境近辺での海賊の代名詞でもあるクフォルゼンは、ウーラツォス(3238)を根拠地にして帝国領内への襲撃をほぼ独占しており、国境付近の海軍関係者や商人たちにはその冷酷さと残虐さは広く知れ渡っています。
 1041年の結成以来クフォルゼンは様々な勢力や船舶を襲撃し、他の海賊団を吸収しては勢力を拡大し続けてきました。最近では地上戦を得意とする海賊団(事実上の傭兵部隊)イグジング(Aegzaeng)をも配下に加えて、更に戦力を増しています。
 一方で彼らは、帝国とスーングリング帝国を行き来するテュケラ運輸貨物船の「用心棒」役を(もちろん幾度となく襲ってから)買って出るなど、したたかな一面もあります。
 現在、クフォルゼンはオベルリンズ運輸の巡洋艦エミッサリーに対抗するため、多額の資金と威信をかけて大戦艦の建造に着手しています。しかし艦の規模に見合う武装の調達先は不明であり、完成が疑問視されています。
(※GDW時代のクフォルゼンは中小規模の新興海賊とされていましたが、その後HIWGで設定が盛られて、今では宙域最大級の海賊団ということになっています)

ローングゾーカーズ Llangzoekirs
 女海賊オンギグズーロ(Ongaegzlla)が率いるこの海賊団は、威信ある彼女の旗下に集った数々の小海賊団から成っています。ローングゾーカーズはスーングリング帝国の国境付近に現在4つの基地を構えており、近隣星域に進出するのも時間の問題と噂されています。


【ライブラリ・データ】
ジヴァイジェの戦い Battle of Zivije
 604年に繰り広げられた、第一次辺境戦争の最後を飾る有名な会戦です。この戦いでゾダーン・ヴァルグル連合軍に対し、帝国海軍のオラヴ・オート=プランクウェル大提督(Grand Admiral Olav hault-Plankwell)が多くの犠牲を払いながらも勝利を収めて停戦に持ち込みました。

エミッサリー(巡洋艦) Emissary
 ライトニング級巡洋艦エミッサリー(排水素量6万トン)は、現在オベルリンズ運輸がヴァルグル諸国内で運行させています。元々帝国海軍の「スパークリング・ディストレス(Sparkling Distress)」として運用された後に民間に払い下げられたのですが、その際に粒子加速砲など武装は撤去されるはずだったのを、巧妙な書類操作と官僚の対立を利用してそのままの形で1049年にオベルリンズ運輸が入手したのです(※これを画策したのは当時22歳のマルク・オベルリンズ青年であり、彼はその後エミッサリー初代艦長として16年間を過ごします)。
 もちろんこれは違法なのですが、オベルリンズ運輸は艦を帝国領外に出して戻さないことで追及をかわしました。それ以後は現在の船名に改称してパンドリン(2240)を母港にし、同社貨物船の護衛艦としても、ヴァルグル諸国におけるオベルリンズの「旗艦」としても(近年危うくヴァルグル海賊に乗っ取られかけましたが)活躍しています。

パンドリン Pandrin 2240 B560675-A C 砂漠・非工・富裕 G Va
 この砂漠の星へは第一次辺境戦争中に人類の難民が入植を始め、第二次辺境戦争でヴァルグルに占拠されるまでの20年間でその規模は随分と拡大されていました。
 人類とヴァルグルの関係は徐々に改善されてきてはいますが、両種族は宇宙港から等距離に位置する別々のドーム都市にそれぞれ分かれて住んでいます(人口比は8対2です)。とはいえ人類街に住んで働くヴァルグルも少数いますし、その逆もあります。種族間には若干の緊張があり、いざこざは珍しくありませんが、それは主に酒場や市場で発生します。
 所得面では全体的に人類の方が貧困層に甘んじていますが、唯一の例外がウォーカー・ロボティクス社で、同社従業員の賃金水準はヴァルグルのそれを上回っています。

トライアド Triad 2436 B587777-9 N 農業・肥沃・富裕 Cs
 トライアド星系は第二次辺境戦争直後(620年代)に帝国人によって入植され、広大な海で隔てられた3つの大陸からこの名が取られました。帝国はここを属領として小さな植民地を建設し、ヴァルグルの攻撃を事前に察知する観測拠点としています。
 肥沃な大地や豊富な野生生物を利用して、トライアドは繁栄した農業世界となりました。ヴァルグルと帝国との緊張が緩和されると、近隣世界は家畜や農作物の取引をトライアドと行うようになりました。食糧生産物はこの星の主要輸出品であり、それによって非常に裕福な世界となっています。
 トライアドには人口の3割を占めるヴァルグルの居留地がいくつかありますが、人類の指導者に威信を感じられない彼らの間で不満が高まっています。ヴァルグル住民の間では自分たちの中から指導者を出そうと2つの派閥が争っていますが、人類の指導者層がこの事態にどう対処するかは定まっていません。
(※オベルリンズ運輸はこの星に営業所を構えているようです)

ギューツォン Gvutson 3233 A85A7CE-9 S 海洋 Cs A
 ギューツォンはグヴァードン宙域に2つある帝国属領の1つで、ここに建設された偵察局基地を支えるために入植されました。3000万人の人口は全て、この海洋惑星唯一の大陸にある一つの都市に住んでいます。
 政府は等しい権力と権限を持つ5名からなる統治評議会によって治められています。660年に入植されて以降、人口比半々の人類とヴァルグルの社会はうまく統合されており、これまで通りに有能で威信ある指導者が選出され続ければ両者間の摩擦は起こりそうにありません。
(※アンバー・トラベルゾーン指定がされていますが、おそらく治安レベルEによるものだと思われます)


【参考文献】
Journal of the Travellers' Aid Society #21 (Game Designers' Workshop)
Traveller Adventure (Game Designers' Workshop)
Book 7: Merchant Prince (Game Designers' Workshop)
Alien Module 3: Vargr (Game Designers' Workshop)
AAB Proceedings #14 (History of the Imperium Working Group)
GURPS Traveller: Alien Races 4 (Steve Jackson Games)
GURPS Traveller: Nobles (Steve Jackson Games)
Gvurrdon Sector Campaign Book (Roger Malmstein)
Alien Module 2: Vargr (Mongoose Publishing)

(※古いグヴァードン宙域のUWPはいくつか問題があるため、今回はTraveller5 Second Surveyのものを採用しています)
Comments (2)

星の隣人たち(6) 接触!ヴァルグル

2018-04-30 | Traveller
「奪え、ただ心の赴くままに略奪するのだ――」
――オウクソス

 ヴァルグル(古ノルド語で「狼」「悪人」「破壊者」の意味)は、主要種族(Major Race)に分類される知的種族です。彼らの存在は長年に渡って異星生物学者を悩ませていました。彼らの生化学基盤や遺伝子構成は、故郷であるはずのレア星系の動植物とは根本的に異なっていたのです。この謎は、第三帝国初期の科学者が彼らを「テラ星系の動物が遺伝子改良されてレア星系に移植されたもの」と位置付け、後にそれが裏付けられたことでようやく解けました。ヴァルグルは主要種族の中でも唯一、自然進化の産物ではなく未知の目的の「実験」の成果だったのです。


■ヴァルグルの身体的特徴
 ヴァルグルは、太古種族(Ancients)がテラ(ソロマニ・リム宙域 1827)のイヌ科イヌ属の肉食動物を遺伝子操作し、約30万年前にレア(プロヴァンス宙域 2402)に持ち込んだ存在です。太古種族は彼らに知性以外に、爪先立ちとはいえ二足歩行を可能とする骨格と物を操れる指を与えたと考えられています。これら以外に改良の証拠は見つかっておらず、レアの環境に適応する過程で太古種族が予期していなかった(か計算通りの)「進化」が成された可能性が指摘されています。
 現在のヴァルグルは身長約1.6メートル、体重約60キログラム(女性は更に1割ほど小柄です)と、あまり目立つ存在ではありません。先祖であるイヌ科動物と比較すると、直立二足歩行をするために後肢は桁違いに伸び、内部構造に違いこそ見られますが、いまだ外見的には先祖に似ています。ヴァルグルの手は骨格は違えど人類と大きさや外観が似通っているので(ヴァルグルの方が細い傾向はありますが個体差の方が大きいです)、改良を必要とせずにお互いの機器を利用することができます。ヴァルグルの出し入れ不可の爪は鋭く尖っていて、格闘の際には武器として使うことができます(ただし彼らの身体構造上、格闘が得意というわけではありません)。
 霊長類から進化した人類と比べて、ヴァルグルは先祖の特徴を遥かに多く残しています。短い毛皮は灰色・茶褐色・黒色・錆びた赤色のどれか1色、もしくは他の色との組み合わせで覆われています。箒状の尾はかなり長く、鼻口部はイヌよりは短くはなっていますが今でも特徴的です。一般的にヴァルグルの反射神経は人類よりは優れていますが、個体差は大きいです。視力は人類にやや劣り、色覚の範囲も異なります。聴覚は人類より優れていますが、やはり識別範囲は異なります(人類より高音を聞くことができる代わりに低音部は聞こえないことがあります)。ヴァルグルはまた先祖同様に鋭敏な鼻を持ち、視覚聴覚を封じられても嗅覚だけで互いを認識できるほどです。
 ヴァルグルはレアの約26時間の自転周期に適応していますが、長時間の睡眠をまとめて取らずに短時間睡眠を小まめに分けて取ることを好みます。主に食後の昼寝ですが、環境によっては猛暑や厳寒の時間帯を避けるために睡眠を取る場合もあります。


■ヴァルグルの心理
 彼らが外見面で先祖の特徴を残しているのと同じように、心理面でもテラの肉食動物の本能的行動を色濃く残しています。それは他種族からは奇妙で矛盾しているかのように見え、しばしばからかいの種、悪くすれば種族的偏見にも繋がっています。
 ヴァルグルは本能に従って集団に、つまり「群れ」に属して他者との安心や快適さを求める種族です。しかし同時に、集団内での権力を求めて相争うことを厭わない種族でもあります。
 なぜなら、ヴァルグル社会では個人が持つ「威信(カリスマ性)」というものが最も重視され、現状維持に満足できないからです。彼らは集団の中で己の威信を高めることに日頃から努め、自分よりも高い威信を持つ者に付き従おうとします。仕事や任務の成功は威信を高めて自然と周囲を惹き付けますし、失敗すればその逆です。そして集団の頂点に立つ者の行いは、法律的道徳的に正しいも悪いも関係なく認めてしまいます。
 ヴァルグルは肩書も身分も意に介しません。自分と比べて威信があるかないかが全てです。よって無能であっても威信さえあれば集団の頂点に立てますが、それが集団の崩壊や更なる権力簒奪の引き金となりえます。
 また、遠方の権力には従いませんし、他者の威を借ることもできません。必然的に威信の及ぶ範囲は通信速度の影響を受け、配下を通して遠隔統治をすることもできず、集団規模を拡大すればするほど遠方から綻んでいくのです。
 このためヴァルグル社会は大きくまとまることができず、小規模集団が拡大しては分裂を繰り返すことになります。集団内でも権力争いが絶えず、安定とは無縁です。個人は集団に対して最善を尽くしますが、その集団にいつまでも残ろうとは思いませんし、集団の方もそんなことは期待していません。よって他種族からヴァルグルは、今いる集団から別の集団へと簡単に鞍替えし、忠誠心というものが無いかのように見えます。


■種族の誇り
 ヴァルグルは太古種族によって創造された知的種族、という特殊な生い立ちを持ちます。この事実は色々な意味で「ヴァルグルは特別な存在である」という種族意識を醸成しました。しかし科学者、政治家、宗教家に限らず様々な集団でそれぞれ見解は異なり、今も議論が交わされています。
 一般に広く浸透している種族的優越(kaenguerradz)を説く思想は、大きく分けて2つあります。「高優越」学派は、太古種族がヴァルグルを「完璧な」種族として設計したので、他種族よりも優れていると説きます。「低優越」学派は、イヌこそがテラで最も優秀な動物だったので遺伝子改良の対象となり、無価値ゆえにテラに放置されたサルが人類になったのだとしています。更に過激なものでは、元々ヴァルグルがテラの支配種族であり、人類の方が知性化改良を受けたのだとも主張しています。
 また極少数のヴァルグルにとって、自分たちが実験の産物だという事実は劣等感となって伸し掛かりました。彼らはこの苦しみから逃れるために極端な行動を取りがちです。
 しかし大多数のヴァルグルは、銀河征服の使命からも劣等感からも自由です。ただ単に、太古種族の意図が何であれ自分たちを星の世界に連れて行ってくれた、という特別感に浸っているだけです。


■ヴァルグルの生涯
 一般的なヴァルグルは65~75年ほど生きます。工業化以前の技術や医学、貧困や環境条件などの影響があると更に短くなりますし、最先端技術文明の下では抗老化薬(anagathics)や先端医術の恩恵を得られて寿命が延びます。ただし人類の薬品はヴァルグルには効かないため、帝国のSuSAG社などはヴァルグル向け製品を製造・輸出しています。

 誕生した彼らはまず、家庭で社会構造について学びます。家庭も集団と同じように機能していて、子供は威信を意識しながら自己を育みます。家庭内の若者は家庭の長に適切な敬意を示しつつ、自分の威信を高めて集団内の立場を確立せねばなりません。これは社会に巣立つための重要な訓練です。ヴァルグルは11~12歳で思春期に達し、17歳前後で肉体的な成長を終えます。その後の老化速度は人類と変わりません。
 先祖と異なり、ヴァルグルは年中交配可能です。妊娠期間は30週弱で、双子出産が一般的です。単子出産は三つ子と同じような確率で起こり、ヴァルグルのある集団では単独で生まれてきた子供に特別な意味を持たせます。
 農業世界や低技術世界では、家庭は大型化する傾向があります。家族が多いほど、生存に必要な狩猟役が多いことを意味するからです。技術の進歩につれて少子化が進みましたが、逆に労働力が自動化された高度技術社会では子育てに割ける時間が増えたので、かつての大家族に回帰しています。

 ヴァルグルは年齢に応じて名前が変わります。子供時代は母親の名に性別や生まれた順を意味する接尾語を付けただけですが、成人すると自身の特徴や挙げた成果を名前に選んだり、他者からの通り名を採用したり、尊敬する英雄の名を頂いたり、特に意味もなく聞こえのいい音節の並びを名乗ったりと様々です。


■ヴァルグルの食事
 肉食動物である彼らの食事の多くは、新鮮な生肉です。生の果物やワイン等の果実飲料も好みますが、それだけでは栄養が不足しがちです。ヴァルグルの消化器官は人類よりも代謝が効率的なため、彼らは頻繁に食事をしますが、その気になれば飢餓に備えて「食い溜め」をすることも可能です。
 ヴァルグルはレアの原生生物の捕食に適応はしましたが、テラのものほどには食欲をそそらなかったようです。そのため彼らは新たな調味料・香辛料の発見と研究開発に多くの時間を捧げ、日頃の食事をより魅力的にしてきました。また食糧事情を改善し、より食欲を増すように家畜の品種改良も行われました。これらの研究は現在でもヴァルグル世界で続いており、星間交易の多くは食品取引で占められています。


■ヴァルグルの統治機構
 よく誤解されていることですが「ヴァルグル連合」などという恒星間統一政府はなく、「典型的な」政府機構もありません。ヴァルグル諸国(Vargr Extents)にはありとあらゆる種類の政府組織があり、星系内に複数政府が併存したりもしています。彼らの唯一の結束力は「種族の誇り」への熱情ですが、えてしてこれで短期的に協力できても長期的には組織間の主導権争いで崩壊していきます。
 ヴァルグルの特性により、国家規模が大きくなるほど不安定になっていきます。そもそも彼らにとって政府とは統治機構ではなく、自分が忠誠を誓う指導者から福祉と保護を引き出す機関に過ぎません。法律で個人の自由を過度に縛るような指導者では、住民から支持と協力は得られないのです。そしてそんな指導者は、すぐに他の威信ある者に権力の座から追い落とされます。

 ヴァルグル国家にも当然法律はありますが、政府の執行能力の範囲内でしか遵守されていません。人類にとっては犯罪に見えるようなことでも、彼らは何とも思わない場合もあります。例えば、残虐な快楽殺人はヴァルグルにとっても重罪ですが、権力奪取のための殺人や貧しさゆえの強盗といった「訳あり」の場合は、全く違う刑罰の基準が課せられます。
 建前でも政府は市民を守らなくてはならないので、犯罪は権力への挑戦と受け止めますが、市民の側は意外と犯罪者に同情的です。なぜなら「明日は我が身」なのですから。

 独立政府の多さは外交関係を非常に複雑にしています。紛争は様々な問題で発生し、すぐに実力行使に至るのがしばしばでした。そこで紛争当事者の間を取り持つ「仲介人(Emissaries)」と呼ばれる存在が重要視されるようになっていきました。
 仲介人は熟練した外交交渉の専門家で、周囲から非常に尊敬される存在です。彼らは平和の創造と、少なくとも更なる敵対を回避することを目指しています。また、企業間の折衝にも仲介人は関わっています。


■ヴァルグルの信仰
 或るヴァルグルの宗教家曰く、「書に威信なし」。この言葉が示す通り、ヴァルグルは何百年も前の雄弁な死者の言葉よりも、目の前で語られる説法の方を重んじます。そして自身の体験を基準に考えるため、宗教は次第に数々の宗派に分裂するか、様々な解釈を受け入れて柔軟化するかのどちらかです。
 多くの宗教はヴァルグルの起源への誇りから成立し、えてして太古種族は「神」として崇められていますが、他にも祖霊崇拝、多神教、一神教と様々な形態を採ります。その教義は穏健なものから、殺人をも肯定する狂信的なものまで様々です。信仰に目覚めるヴァルグルは社会のあらゆる層に存在し、多くは信仰と仕事を両立させますが、中には信仰のために職を捨てる者もいます。
 宗教指導者の多くは仲介人としても活動しています。


■ヴァルグルの美術
 色覚が敏感ではないので、ヴァルグルの服装はしばしば明るい色で構成されて、人類には華やかに見えます。同様に絵画も、様々な技法を駆使して明るい色を優先させる傾向があります。
 絵画や彫刻は、威信ある指導者や有名な集団を題材にすることが多いです。海賊団も絵画・物語・詩の分野でよく採り上げられます。
 建築様式は文化圏の間だけでなく、同じ都市内でも大きく異なります。建物は一般的に非対称で、装飾が過剰です。建物の華やかな色彩は隣の建物と頻繁に衝突し、ヴァルグルの都市は混沌としているように見えます。
 彼らの群居性の本能は建築物にも影響を与えていて、公共空間や仕事場は広く作られることが一般的です。そして最大の特徴は、建物自体が特定の用途を念頭に置いて設計されることがめったにないことです。ヴァルグル社会の変化の多さは建物の所有者と機能も絶えず変化させるため、今の居住者のあらゆる需要に応えることこそが大事なのです。ある建物が突然官公庁になったとしても、その数週間後には怪しげな商売人が入居しているかもしれませんし、食堂になっているのかもしれないのです。


■ヴァルグルの時制・暦
 多様性の高いヴァルグル社会において、統一された計時法というものは存在しません。暦や時制はそれぞれの政府・世界どころか集団ごとですらまちまちです。ほとんどの世界では現地の公転・自転周期に基づいた暦や時刻の仕組みが利用されています。暦の紀元はたいてい、その政府の発足や入植の初日が基準となります(もちろん例外もあります)。
 それで支障が出るようなら、代わりに帝国歴と帝国標準時が用いられる場合もあります。


■ヴァルグルと人類との関係
 ヴァルグルが様々であるように、人類との関係も様々です。現在のヴァルグル諸国には人類居住星系があり、その多くは帝国国境付近に存在します。こういった世界はたいてい、旧第一帝国領が進出してきたヴァルグルに取り込まれたものです。そんな人類への態度は様々で、多くは共同体を分けたり混在したりして平和共存していますが、中には文化摩擦から敵意を持ち合っている世界もありますし、ヴァルグルが人類を奴隷化している世界もあります。
 国境沿いのヴァルグル国家や星系は、帝国の自由貿易商人や企業、政府機関との交易協定を結んでいます。帝国市民はまた、観光、使節、探検、雇用、研究、更には傭兵活動など様々な目的でヴァルグル宇宙を旅します。その際には現地の文化・政治事情に精通した仲介人(もしくは護衛)を雇うことがよくあります。
 乱暴で流動的な政治事情のため、トラベラー協会(Traveller's Aid Society)はヴァルグル諸国全域をアンバー・トラベルゾーンに指定し、危険とわかっている星系には通常通りレッド・トラベルゾーン指定を行っています。しかしヴァルグル世界の情勢は常に変化するので、帝国内での分類は必ずしも正確とは限りません。

 帝国領内にヴァルグルのみが居住する星系は数少ないですが、帝国各地にヴァルグルは拡散し、集団で居住しています。大都市にはよくヴァルグル街があり、他種族の住民と交流しています。そういった地域は本国同様に、騒がしく色彩豊かな傾向があります。
 ヴァルグルは基本的に権力に対する敬意が欠けていますが、人類の指導者をヴァルグルと同じように威信ある者と見なして従っていますし、権力奪取は人類社会では無益とも学んでいます。
 一方でヴァルグルは帝国の法律が厳しすぎると感じています。法律を尊重はしますが、帝国領内を旅するヴァルグル旅行者の多くは最低1回は軽犯罪で起訴されるのが常です。ヴァルグルの帝国への入国目的は、主に観光と傭兵活動と商売、そして犯罪です。

 帝国領外のアムドゥカン宙域を中心に広がるジュリアン保護国(Julian Protectorate)では、ヴァルグルと人類は密接な関係を築いています。この宙域ではかつて、ソロマニ系巨大企業のメンデレス社(Menderes Corporation)がヴァルグル移民を安い労働力(悪く言えば奴隷)として扱っていましたが、やがてヴァルグルが働き手としてだけではく、交易の相手としても、宙域経済を浮揚させる存在としても優秀なことに気付きました。そこで同社は方針を改め、ヴァルグルと人類の融和を目指す施策を次々と打ち出しました。
 それが結実したのは、第三帝国が旧領回復を目指して宙域に侵攻してきた時でした。人類とヴァルグルは共に武器を取って立ち上がり、双方は当時のメンデレス家当主であるジュリアンを「威信ある指導者」と認めて結集しました。やがてジュリアンを国父として建国された保護国は、最終的に帝国の進出を退けたのです。

 その一方で、ガシカン宙域近辺のヴァルグルは今でも良くて奴隷扱い、悪ければ即座に殺害の対象となっています。前述のアムドゥカン宙域と同様に、ここでもかつてヴァルグルは人類よりも低く貧しい地位に置かれていました。そんな中、待遇改善を求めて立ち上がったヴァルグルの民衆は用心棒としてヴァルグル海賊団を雇い入れたのですが、民衆の指導者はすぐに「より威信ある」海賊の頭目に取って代わられてしまったのです。海賊は宙域各地の人類星系を襲撃しては略奪を繰り返し、報復の連鎖は各地に飛び火しました。そして最終的に(群小人類イレアン人(Yileans)の母星でもある)首都ガシカンを海賊が核攻撃し、約40億人が死亡するという大惨事を招きます。これら一連の「ガシカン略奪(Sack of Gashikan)」と呼ばれる悲劇の記憶とヴァルグルへの憎悪が、現在この宙域を統治するガシカン第三帝政(Third Empire of Gashikan)にも受け継がれているのです。

 もう一つ国境を接するゾダーン人とは、最初の接触以降ずっと友好関係を築いています(もちろん海賊には関係のないことですが)。特に、ゾダーン国境に接するヴァルグル国家はゾダーン文化の影響を強く受けて安定と平和を求めるようになり、いざこざを繰り返す中央の同胞を冷ややかに見ています。また、国境沿いには超能力研究所がいくつも建設されていて、訓練された超能力者を数多く輩出しています。
(※ヴァルグルの超能力の素質は人類と同等です。しかしヴァルグル諸国では超能力の研究は進んでおらず、才能はあっても超能力を発現させることは難しいです。超能力に対する態度も奨励から排斥まで様々ですが、一般的には無関心です)

 ちなみに、ヴァルグルが金銭や目的のために(そして可能なら威信の高い)人類に雇われるのは十分ありえますが、ヴァルグルが人類を雇うことには種族の誇りが邪魔をして抵抗があるようです。少なくとも、自分ができる行為や技能に関しては異種族に任せたがらない傾向があります。一方で彼らは人類の「忠誠心」は高く評価していて、特に「正直な」ゾダーン人は信用できると考えています。


■ヴァルグルの言語
 ヴァルグル社会の多様性は言語にも及んでいて、数百もの異なる言語や方言が存在します。政府は特定の言語を採用する傾向がありますが、一部地域では交易や交渉事のためだけの共通言語が用いられることもあります。グェク=イッフ混在文化圏(Gvegh-Aekhu Cultural Region)に属するスピンワード・マーチ宙域やグヴァードン宙域では主にグェク語(Gvegh)が用いられ、全体の6割が母語としています。
 彼らの言語は己の威信によっても異なります。立場の低い者はより文語的に堅苦しく、立場が高くなるとより口語的に砕けた喋り方をします。そして聞き手にどう伝わるか細心の注意を払い、上位者には敬意を表します。ヴァルグル言語は単なる対話手段だけではなく、自身の威信を相手にどう伝えるかが重要な観念となっているのです。これを誤ると逆に威信を失うことに注意が必要です。
 身体言語(body language)もヴァルグルの会話には欠かせません。彼らは顔の構造上限られた表情しか作れないため、会話の意味を補強するために姿勢、立ち振舞い、耳や尾の動きを活用します。また、無意識に出た身体言語で相手に感情を悟られてしまうのを防ぐために、相手の気を逸らすような仕草を見せることもあります。


■ヴァルグルと〈近接戦闘〉
 〈近接戦闘〉はヴァルグル特有の技能で、単なる戦闘技能以上のものです。それは彼らの集団の中で力と威信を見せつけるためだからです。これは争い事や侮辱を解決するためだけでなく、指導者の実力や威信に疑念を抱いた際に権力を奪取するためにも用いられます。決闘は低い威信の者が最も手っ取り早く威信を得るための手段で、自分より高い威信を持つ者に勝利した場合は両者の威信が入れ替わります(※ルール上では威信の上昇は一度に4点が限界なので、集団の最下層からいきなり頂点に立つことはありません。一方で下降は無制限です)。ただし、やたらと仲間に決闘を申し込む者は一般的に威信を失い、最悪の場合は集団から追放されます。


■ヴァルグルの経済
 他種族における巨大企業のような会社機構は、ヴァルグルには存在しえません。運営に必須である階層構造と遠隔権限がヴァルグルの考え方と相容れないからです。成功している大企業は組織を小規模の子会社に分割することで遠隔権限を削減し、子会社の意欲を維持しています。このため、ヴァルグル企業は星域規模が最も良く機能します。
 企業は常に用心深く、革新的でなくてはなりません。効率性を高める企業改革は、企業が競争力を維持するための基本中の基本です。仕事に満足できない、自分が過小評価されていると考えた労働者は、さっさと転職する傾向があります。また、従業員も株式を持ち合う慣習があるため、失敗した経営者の交代は簡単に行われます(「一時的な降格」を受け入れやすい風土があるとも言えます)。

 ヴァルグル経済は国家規模止まりで、国家間経済というものは存在しません。物価は地域によって最大3割も異なります。同様に賃金も異なりますが、これには威信の方が大きく影響し、威信の高い者にはより多くの賃金と権限が与えられます。
 ヴァルグルは購入する商品価格から自分の給料まで、より良い条件を引き出すためにまず交渉を試みます。よって宇宙港や市場のような場所では、激しい交渉の不協和音で非常に騒がしくなります。
 経済学の分野は発展していないのでオプション取引は事実上存在せず、投資も珍しいです。企業は非常に不安定なので、貸し手や投資家に対しては配当を納得させるだけでなく、投資者を保護するための何かしらの担保が要求されることでしょう。


■ヴァルグルの軍事
 ほとんどの星系は何らかの形で軍事力を保持していますが、技術水準や練度はまちまちです。恒星間国家は加盟星系全ての軍隊を統制したり、逆に星系軍に権限を移譲していたりします。多くの世界では軍隊は陸軍と海軍で構成されています(海兵隊は有っても小規模です)。軍隊内の階級は気まぐれに独自のものが発行されていたり、厳格に定義されていたりします。帝国で見られる連隊・大隊・小隊といった区分けもあまり利用されていません。
 軍隊内の上下関係は威信によって定まるので、民衆を動かす力に長けた政治家が最高指揮官になりがちなのですが、軍隊指揮や戦術に関する技量を持たないことが常です。とはいえ指揮官は、地位に見合った期待に応えなくてはなりません。失敗した指揮官はすぐに他の威信ある者に取って代わられますが、その者が軍事面で有能かどうかは別の話です。
 彼らの精神面での影響は、軍隊組織だけでなく士気面にも強く出ています。威信の高い指揮官に率いられた部隊は士気も高いのですが、その指揮官に何かあった場合は一気に潰走する恐れがあります。また、ヴァルグルの兵士はしばしば任務放棄(ストライキ)や抗議集会を起こしがちです(上官への反抗も周囲から威信を得る一つの手段だからです)。そして戦闘中であっても、敵に寝返った方が得だと思えば脱走も躊躇しません(とはいえ失敗すれば重罪で裁かれますが)。


■ヴァルグルと海賊団
 ほとんどの人々がヴァルグルを想像する際に、まず思い浮かべるのは国境近辺に展開する海賊団です。しかしヴァルグル全体から見れば海賊に属する者は1割に過ぎません。真っ当な生き方を選んだヴァルグルにとっては迷惑な話なのです。
 海賊団は法律を守らず、国境を無視します。統一政府のないヴァルグルには統一された法執行機関がなく、それが海賊団をのさばらせる原因となっています。そして国境を越えさえすれば、たいていの法律問題を避けることができるのです。しかしヴァルグル領外では、海賊行為の抑止のために国家の法執行機関が目を光らせ、軍隊が哨戒を続けているので、襲撃は難しくなっています。
 大規模な海賊団は正規軍に匹敵する規模に組織され、独自に基地を構え、国家に傭兵として雇われるのは珍しくありません。大海賊団の豊富で多彩な装備はあらゆる仮想敵に対応し、紛争の抑止力として機能しています。そしてひとたび戦争になれば報酬として略奪品の一定量を受け取る契約になっています。
 大海賊団は軍隊も同然ですが、重要な利点が一つあります。軍隊の指揮官は威信はあっても能力不足の場合が多いのに対し、一般的に海賊の指揮官は威信と能力を兼ね備えているのです。これにより軍隊よりも部隊を安定させ、しっかりとした指揮系統を確保することができるのです。


■ヴァルグルの支族
 外部の者にはあまり知られていない事実として、ヴァルグル諸国にはいくつかのヴァルグル支族(subspecies)が存在します。これら少数支族は、太古種族によって開発された「完璧な」ヴァルグルから逸脱した欠陥品として見られ、偏見と差別の対象となっています。多くの支族はレアを離れ、辺境星系を隠れ里として定住しました。
 ヴァルグル支族の多くは帝国では未知であり、ヴァルグル自身でさえ社会から遠ざけているので限定的な知識しか持ち合わせていません。中には特殊な超能力を駆使する支族もいると言われています。
 帝国で知られている数少ない支族の一つがウルジン(Urzaeng)で、屈強な肉体を持つ(身長1.8メートル、体重70キログラム)ことからヴァルグル社会から追放されていない唯一の支族でもあります。ウルジンは元々重労働と戦闘のために太古種族によって設計されたと考えられており、知的・精神的能力が反対に犠牲となっています。そのため彼らは必然的に粗暴な性格となりました。


■ヴァルグルと辺境戦争
 帝国歴589年、帝国とゾダーンの間の国境問題が第一次辺境戦争(First Frontier War)に発展すると、ゾダーンはグヴァードン宙域のヴァルグル国家に同盟を持ちかけます。元々ゾダーンとは友好関係にあり、帝国とは以前直接戦火を交えた(220年~348年のヴァルグル戦役)という背景もあって、ゾダーン中心の「外世界同盟(Outworld Coalition)」に参加するヴァルグル国家が相次ぎました。
 15年間に及ぶ戦争の間、ヴァルグル軍は彼らが得意とする戦法でスピンワード・マーチ宙域の奥深くまで侵攻しましたが、最終的に両軍は膠着状態で停戦に漕ぎ着けました。新たな国境線が帝国とゾダーンの間には引かれましたが、ヴァルグルとは何の変化もありませんでした。
 615年からの第二次辺境戦争(Second Frontier War)以降、改組された外世界同盟で多くのヴァルグル国家はゾダーンと共に帝国を弱体化させるために戦いましたが、興味深いことにここでもヴァルグルの「多様性」は影響しています。いくつかの小国は帝国側につきましたし、海賊団すら両陣営に分かれて戦いあったのです。


【ライブラリ・データ】
レア(プロヴァンス宙域) Lair 2402 A8859B9-F G 高技・高人・肥沃 G Vl 首都
 ヴァルグルの母星であるレアは、実は彼らの間では様々に呼ばれており、レアというのは便宜上帝国人が付けた星系名に過ぎません。多くのヴァルグルは「野獣の巣」という意味を持つその単語で呼ばれることを侮辱と捉えますが、その割に彼らは母なる星に対して特別な感情は抱いていません(ましてや遺伝子上の故郷に過ぎないテラは尚更です)。過去800年間にこの星を治めた12国のうち、7国が星系外から統治していたという事実がそれを裏付けています。
 温暖な惑星であるレアには、現在約23億のヴァルグルが居住していますが、人類や他種族も一部住んでいます。かつての自然の多くは都市や工業地帯に取って代わられましたが、農産物や家畜のための農業地域が広く取られています。
 レアはつい最近まで星系内の一部が独立を謳歌していたという意味で、主要種族の母星では珍しい存在です。威信ある指導者によって大国の首都として統一こそされたものの、今の後継者には威信が欠けており、それを埋め合わせるべく強権に転じた政府の崩壊は時間の問題と思われています。
 なお、惑星レアの赤道傾斜角はテラとほぼ同一で、その傾きが約30万年前に引き起こされたという地質学的証拠が存在します。
(※GURPS版設定でのみ、レアには軌道エレベータ(Beanstalk)があることになっています)

選民教会 Church of the Chosen Ones
 帝国歴895年に設立された選民教会は、短期間でヴァルグル全体に広まりました。今でこそ活動は下火になっていますが、選民教会の名を知らないヴァルグルはまずいません。
 選民教会の教義は、太古種族によって「完璧な」優越種として創造されたヴァルグルこそが宇宙を支配すべきだ、というものです。これには他種族に限らずヴァルグルの間からも反論が呈されていますが、信者は聞く耳を持ちません。
 教会では集団生活が営まれ、各集団には独自の伝統や服装規則(白い服のみを着る、特定の入墨を彫るなど)があります。現在の教会には約20ほどの宗派が存在し、それぞれ複数の集団から構成されています。

グェク文化圏 Gvegh Cultural Region
 ヴァルグル諸国のスピンワード方面で広まっている文化です。グェク文化圏はヴァルグル諸国でも政治的に最も不安定な地域です。政府は大型化する傾向がありますが、それだけ内紛や国境問題や戦争が多発しています。個人もその影響を受け、他のヴァルグルよりも衝動的で、環境が自分の意に沿わなければすぐに不満を持ちます。

イッフ文化圏 Aekhu Cultural Region
 デネブ領域の帝国国境沿いに広まっている小さな文化圏です。グェク文化がゾダーンに惹かれたように、イッフ文化は帝国に関心を持っています。この文化は小さいながらも影響力は強く、隣接するグェクやロゴクス(Logaksu)との間に混在文化を形成するほどです。この混在文化圏はイッフ本体よりも広いです。
 この文化圏のヴァルグルは、特に宗教・倫理・愛郷心の面で非常に多彩です。他者と意見が合わないことは普通であり、この地域における変化は他の文化よりも頻繁かつ極端です。その分、意見の一致しやすい家族を非常に重んじます。イッフのヴァルグルは家族と定期的に接触していることが多く、特に同居している場合は一緒に働くことは珍しくありません。


【参考文献】
Alien Module 3: Vargr (Game Designers' Workshop)
Referee's Companion (Game Designers' Workshop)
Rebellion Sourcebook (Game Designers' Workshop)
Alien Vol.1: Vilani & Vargr (Digest Group Publications)
GURPS Traveller: Alien Races 1 (Steve Jackson Games)
Alien Module 2: Vargr (Mongoose Publishing)
Comment

トラベラー40年史(6) 三者並立の時代(2016年~)

2018-02-26 | Traveller
【2016年】
 前年末に17年に及ぶ歴史に幕を閉じた『GURPS Traveller』が、FFEへの版権移譲により早くも1月から電子版の販売をSJGのWarehouse23で再開しています。またFFEでは総集編CD-ROMも制作しています。CD-ROMでは他に『Traveller Hero』『Traveller Apocrypha-3』(Cargonaut製品、Marischal製品、Traveller Chronicle誌を収録)も出ています。
 他には新作小説『Fate of the Kinunir』、マーク・ミラー書き下ろし小説『Agent of the Imperium』、および『トラベラー』に影響を与えたSF小説や『トラベラー』小説そのものをまとめた『The Science Fiction in Traveller』もFFEから刊行されました。小物としては『4518th Personal Identifier』も出されました。

 Mongoose版『トラベラー』がついに第2版に移行しました(第1版製品群は電子版のみ継続販売されています)。ゲームシステムの改修整頓に加えて、全ページをフルカラー化するなど新『Traveller: Core Rulebook』は見事に「近代化」がされましたが、その分価格が上昇した上に、コアルール自体がこの他に『High Guard』『Central Supply Catalogue』、翌年発売の『Vehicle Handbook』に分散されたことで総費用が大きく増えてしまったことは少なからぬ批判に晒されました(『Core Rulebook』単体では遊べない、ということはありませんが)。

 レフリーが持っていると便利な小ネタを集めた「Referee's Briefing」シリーズが新たに始まり、『Companies & Corporations』『Anomalies and Wonders』『Going Portside』『Mercenary Forces』がこの年に、『Incidents and Encounters』『Garden Worlds』が翌年に発売されました。今後は『Garden Worlds』のように貿易分類ごとに星系の特徴を解説していく計画もあったようですが、現時点では制作が中断されているようです。
 冒険シナリオの「Adventure」シリーズは、舞台となる宙域ごとに「Reach Adventure」と「Marches Adventure」に分割されました。「Reach」シリーズでは『Marooned on Marduk』『Theories of Everything』『The Calixcuel Incident』、「March」シリーズは『High and Dry』(※過去作品『Type S』のリメイク)が発売されました。
 また、『Pirates of Drinax』の(そしてトロージャン・リーチ宙域の)追加設定集として『Theev』『Torpol Cluster』が、『High Guard』の追加データ集として『Deployment Shuttle』『High Guard: Aslan』が、スピンワードマーチ宙域の設定を解説する「Spinward Marches」シリーズからは『The Bowman Arm』(Avengerの同名製品の復刻再編集版)が発売されました。

 しかし、Mongooseが第2版に移行した影響は単にルールが変わるだけではありませんでした。第2版はOpen Game Licenseを不採用とし、Traveller Logo Licenseも廃止されました。代わって導入されたのが、DrivethruRPGのOneBookShelf社と共同で展開された「Community Content Programs」に基づく「Travellers' Aid Society」ライセンスです。これは〈第三帝国〉設定も含めてMongoose版『トラベラー』第2版互換製品を誰もが自由に出せるものとする画期的契約に見えましたが、版権をMongooseとOneBookShelfに移譲し、販路がDrivethruRPGに限られ、売り上げの半分が版権料となるこの新約款は、これまで〈第三帝国〉関連製品を出せなかったサードパーティ各社には何一つ利点のないものでした。
 以前から試作版ルールを受け取って移行準備を着々と進めていた各社にとってこれは寝耳に水であり(Mongooseは途中から方針転換をした節があります)、かなり激しいやり取りも行われたようですが、最終的には決裂に終わりました。新約款を受け入れた既存企業は結局Jon Brazer Enterprisesだけでした(※フォーイーヴン宙域に関する規約もTASライセンスに統合されたためです)。

 Open Game Licenseを採用していた旧Mongoose版『トラベラー』は、当然System Reference Document(Traveller SRD)を公開していました。とはいえさほど需要もなく、ロゴライセンス自体も開放的だったために注目を浴びることはありませんでした……この時までは。
 しかしMongooseが閉鎖的となった以上、このSRDを利用した「OGL版トラベラー」がサードパーティには必要になったのです。対応が最も早かったのはGypsy Knights Gamesで、当初後方互換性を残すために第2版と第1版ことOGL版『トラベラー』の両対応で自社の「2nd Edition」製品群を出す予定だったのを、苦渋の決断でOGL版のみで展開することにしたのです。これは元々、OGL版『トラベラー』に不足していたキャラクター作成システム(※偵察局員しか作れませんでした)を『Clement Sector Core Setting Book』で補えていたからこそできた芸当でした。

 そんな中、7月にSamardan Pressのジェイソン・ケンプ(Jason Kemp)が公開したのが『Cepheus Engine System Reference Document』でした。これはOGL版『トラベラー』を基にして、装備など不足部分を同じくOpen Game Licenseを採用した『Traveller20』から持ってくるなどして再構成した「Classic Era Science Fiction 2D6-Based Open Gaming System」だったのです。
 実用的なルールがPay What You Want(※無料も含めて価格を自由に決定できる)で手に入り、ルール本体が初めからSRDなので自由に改造ができ(そのためPDFどころかMicrosoft Word形式も公開されました)、なおかつ版権料も要らないとあって、これをきっかけにサードパーティ各社が一挙に『Cepheus Engine』になだれ込みます。Zozer Games、DSL Ironworks、Moon Toad Publishingや、個人出版のFelbrigg Herriot、Michael Brownも自社製品を『Cepheus Engine』対応に切り替えました(このため、Zozer GamesやDSL Ironworksの一部製品は絶版となりました)。また、2010年から汎用デッキプラン集を出していたBlue Max Studiosも『Cepheus Engine』対応を標榜します。

 かくしてMongoose第2版+CCP陣営と『Cepheus Engine』の「2D6 OGL Sci-Fi」陣営、そして『Traveller5』の3つに参入社が分断されることになりました。しかし幸運なことに、『トラベラー』ファンは人気や好みの大小はあれどどれも同じ『トラベラー』として扱い、コミュニティが分断されることはありませんでした。CotIは『Cepheus Engine』を『トラベラー』の1ルールとして認めて独自フォーラムを設置し、DrivethruRPGも『トラベラー』の子カテゴリとして『Cepheus Engine』を用意しています。マーク・ミラーもOGL版『トラベラー』の存在を「恩送りの表れ(pay it forward)」と肯定的に捉えているようです。

 Gypsy Knights Gamesは前述の通り、既存製品を全て「2nd Edition」として増補改訂を行いつつ、Traveller Logo Licenseを外してOGL対応の製品に切り替えていきました。『Clement Sector 2nd Edition』を皮切りに、『Anderson & Felix Guide to Naval Architecture』、「Subsector Sourcebook」シリーズ、「Ships of Clement Sector」シリーズ、「21」シリーズが次々と「2nd Edition」化されています。また10月には『Cepheus Engine』を「クレメント宙域」設定に合わせて改良を施した『Clement Sector: The Rules』を刊行しています。
 新規作品では海賊設定集『Skull and Crossbones』、艦船設定集「Wendy's Guide」シリーズなどが出されました。

 Zozer Gamesは『Cepheus Engine』対応製品として、前年発売の『World Creator's Handbook』を改訂した『The Universal World Profile』、『Orbital』の改訂版となる『Orbital 2100』に加えて、恐竜時代への時間旅行をする子供向け設定集『Camp Cretaceous』を発行しました。

 『Outer Veil』のオメル・ジョエル(Omer G. Joel)らが独立起業した新興のStellagama Publishingは、新規参入社としては初のCCPへの参加を表明してシナリオ『The Bronze Case』を投入しますが、『Cepheus Engine』の登場を受けてすぐさま離脱します。以後は『Cepheus Engine』向けに肉体蘇生ルール集『From the Ashes』、いままで有りそうで無かった汎用「宇宙警察」設定集『Space Patrol』、星域設定集『Near Space』を出しました。特に『Near Space』は『Outer Veil』でも採用した太陽系近傍4星域分の星域図とUWPデータを収めているのですが、座標・規模・大気・水界・ガスジャイアントの有無以外の全ての情報を顧客に委ね、なおかつOpen Game Licenseによって自由に改造ができ、営利非営利を問わずに「自分の設定」として公開を可能としました。これは『トラベラー』系に限らず、EN PublishingのRPG『N.E.W.』でも採用されるなど広がりを見せています。

 Moon Toad Publishingは『Ship Book: Type S Scout/Courier』を出した後に『Cepheus Engine』に移行し、「Ship Files」シリーズに改題したオリジナルデッキプラン集を出していっています。この年は『RAX Type Protected Merchant』『Polixenes Class Courier』が発売されました。

 一方のCCP陣営ですが、Mongooseが多数の書式テンプレートや挿絵素材を公開したものの出足は伸び悩みます。Jon Brazer Enterprisesが『D66 Compendium 2』、「Foreven Worlds」シリーズの星域設定集改訂版や、連作シナリオ「Prelude to War」の『The Rose of Death』『State of Chaos』と出し、他には『Book 10: Cosmopolite』の著者が星系設定集『Castrobancla, The City of Aliens』を公開し、オリジナルのデッキプランや小物を出す者もいましたが、他のCCP採用システム(当時は『D&D』『Cortex Plus』『Cypher System』)と比べると、この時点では盛り上がりに欠けていたのは否めませんでした。

 Ad Astra Gamesは自社作品『Squadron Strike』の『トラベラー』版、『Squadron Strike: Traveller』の開発を公表し、翌年には資金調達を開始します。最終的に290人から23339ドルを集めて成功しました。これは『トラベラー』系ゲームでは初の「三次元ベクトル移動」を扱う宇宙戦闘ゲームで、小型艦を扱わずに1000トン以上の艦船同士の戦いを再現します。
 製品の発送開始は2016年7月となる計画でしたが、現時点で完成はしていないようです。


【2017年】
 2月14日、ローレン・ワイズマンが心臓発作で死去しました。享年65歳でした。GDW創設時の4人組で最初に天寿を全うした彼を悼んで、多くの人々が彼の偉大な功績を称えています。ちなみにSJGは訃報の中で、カードゲーム『Illuminati: New World Order』(1994年)の「Evil Geniuses for a Better Tomorrow」のカードに描かれた人物がワイズマン(と『GURPS Traveller: Starports』のジョン・フォード(John M. Ford))であることを明かしています。
 マーク・ミラーはこれを受けて回想録『GROGNARD: Ruminations on 40 Years in Gaming』の発売を決め、8月から資金募集を始めました。最終的に633人から30300ドルを集めたものの、ミラーが予防的に心臓バイパス手術を受けたために10月末予定だった発送は遅れて、結局2017年内には間に合いませんでした。
 またこの年、FFEはGen Conでのイベント用特典として制作した『GenCant 2017 Traveller Muster Out Cards』をDrivethruRPGで公開しています。『154th Battle Riders』腕章の発売も開始しました。

 Mongooseの「Reach Adventure」シリーズの第4作目として『Last Flight of the Amuar』が発売されました。これは往年の人気シナリオ『Leviathan(リヴァイアサン)』をリメイクしたようなシナリオで、消息不明となったリヴァイアサン級アムアール号の謎を追います。また「Spinward Marches」シリーズの第2作として帝国国境付近の星系を紹介する『Lunion Shield Worlds』が出されています。
 そして(発売が1年遅れましたが)入門者向けに『Traveller Starter Set』が満を持して発売されました。『Core Rulebook』を分割編集し、マーク・ミラー公認の新星域・異星人設定を盛り込んだシナリオ『The Fall of Tinath』を加えた3分冊構成となっていますが、既に『Core Rulebook』を持っている人には改めて購入する利点が少なかったため、要望を受けてすぐさま『The Fall of Tinath』を電子版のみ緊急で単独販売しています。
 一大キャンペーンシナリオ『Pirates of Drinax』も、無料版の内容に加筆修正・フルカラー化を加えた280頁のシナリオ部に、『Alien Module 1: Aslan』の第2版相当となる200頁強の解説本『The Trojan Reach』、100頁の宇宙船設定集『Ships of the Reach』の2冊を加えた豪華装丁でついに発売されました。さらに追加設定集(DLC)シリーズも『Gods of Marduk』『Ship Encounters』『Harrier class Commerce Raider』『Revolution on Acrid』『Friends in Dry Places』『The Cordan Conflict』『Liberty Port』『Lions of Thebus』が次々と発売されました(が、最終巻となる『Shadows of Sindal』のみ編集の都合で翌年に積み残しとなりました)。

 Mindjammer PressからはトランスヒューマンSF設定本『Mindjammer: Traveller Edition』が出されました。〈第三帝国〉の技術水準を遥かに越える技術レベル19~21の超未来設定を扱うこれは、2015年11月から資金募集が始まったFate Coreシステム版『Mindjammer: The Roleplaying Game』の追加特典として元々企画され、Mongoose第2版ルールへの対応(と版権取得)を済ませた上での発売となりました。無料体験シナリオである『Dominion』も公開されています。

 前年末に開始されたHorizon Gamesによる『Traveller Customizable Card Game』への資金募集は、775人から56676ドルを集めて終了しました。文字通り『トラベラー』を題材としたデッキ編成型カードゲームであるこの作品は、運送業者や印刷業者との数々のトラブルに悩まされながらも、順次出資者への製品出荷が行われているようです。

 これまで幻となっていた『Signal-GK』第6号が、そしてそれを含めて全号が4月にTraveller Wiki内で公開され、ついにダグダシャアグ宙域の資料が出揃います。さらにその後、ライブラリ・データ部分を全て集めて原著作者ジェイ・キャンベル(Jae Campbell)らDagudashaag Development Team自らが編集を行った、総計380頁強にも及ぶ『Encyclopaedia Dagudashaag』『For your eyes only』が無料公開されています(ただし星系データに関してはT5仕様に改定されています)。

 Samardan Pressからは『Cepheus Engine』に欠けていた輸送機器設計ルールである『Cepheus Engine Vehicle Design System』が公開されました。旧来の設計ルールと異なり、宇宙船設計ルールと同じ形式を採用して簡単に車両を制作することができます。

 Gypsy Knights Gamesは新刊投入をほぼ月刊化して「Clement Sector」の拡張を進めます。『Hub Federation Navy』『Hub Federation Ground Forces』『The Cascadia Adventures』『21 Starport Places』を「2nd Edition」化し、追加経歴部門集『Diverse Roles』、追加設定集『Wondrous Menagerie』『Tree of Life』、シナリオ『The Slide』、「Wendy's Guide」シリーズ第2~4巻、『21 Pirate Groups』を出しています。

 DSL Ironworksが新展開として『Cepheus Engine』向けATU設定「Enigmatic」シリーズを開始し、第1弾として『Quick Setting 1: Event and History Generator』を発売しました。「Enigmatic」はStellargamaの『Near Space』を利用して、近未来の太陽系近傍を舞台に『2300AD』型のハードSF宇宙を構築する計画でした。しかし4月に主筆が急死したため、全ては幻のまま終わりました。

 Zozer Gamesは『Orbital 2100』設定の新シナリオ『Far Horizon』と、絶版にした『Star Trader』に全面増補改訂を行って貿易商人としてだけでなく、一旅行者として、海軍士官として、偵察局の探査者として「1人のプレイヤーで」楽しめるようルール構築をした『Solo』を発売しています。また、次回作『Hostile』で採用する(※としていましたが、実際には2018年2月発売の『Zaibatsu』でした)「『Cepheus Engine』をさらにクラシック化する」ための『1970s 2D6 Retro Rules』も無償公開しました。
 そしてその『Hostile』は年末に発売されました。楽天的な未来を描いた〈第三帝国〉とは正反対に、快適な惑星は地球以外にはなく(その地球すら環境汚染で荒廃しています)、太陽系外に居るのは過酷な環境と冷酷な企業の下で資源採掘や輸送に従事する労働者ばかりという悲観的(かつ現実的)な「80年代SFの」未来像を提示します。

 Stellagama Publishingは、長年構想を温め続けていた新設定集『These Stars Are Ours!』、その追加資料『50 Wonders of the Reticulan Empire』、シナリオ『Borderlands Adventure 1: Wreck in the Ring』を発売しました。人類は一度は異星人に征服されたものの異星技術を吸収して反乱を起こし、太陽系周辺星域に星間国家を打ち立てたところから始まるATU設定で、星系の配置は同社の『Near Space』を使用しています。また、TSAO設定を前提としつつも汎用の超能力ルール集『Variant Psionics for the Cepheus Engine』も年末に出されました。

 おそらくSpica Publishingから衣替えしたと思われるUniversal Machine Publicationsが、この年4月から表立って活動を開始しました(実際はSpicaが変調をきたした2014年から活動していたようですが)。「2d6 SF SRD(ことTraveller SRD)」のキャラクター作成ルールを補間する『Basic Character Generation』『Physical Appearance』『Family Background』『Graduate School』『University』を出していたこの会社は、3月以降『Advantage and Disadvantage (2e)』『Skills List (2e)(1e)(2d6)』と、名前こそ伏せてはいるものの『トラベラー』系ルールの「まとめ」を次々と公開し、さらに『Scouts』という偵察局関連ルール集も出しています。
 彼らはこれを皮切りに経歴別の本を出し続け、最終的に「The Universal Machine Science Fiction Role-playing Game System」にまとめ上げる構想を持っていたようですが、8月以降活動は途絶えています。

 2013年から『2300AD』の無料誌『Colonial Times』(最新号は2017年発行の第7号)を出していたStygian Fox Publishingは、シナリオ『A Life Worth Living』で『Cepheus Engine』に参入しました。このシナリオは独自の近未来地球近傍設定「The Near Heavens」が使用されています。

 その他、Moon Toad Publishingは「Ship Files」シリーズの『Atticus Class Freelancer』『DeVass Class Private Starship』を出し、Michael Brownは週刊よりも早い間隔(早ければ日刊)で多くのショートシナリオを(中には西部劇設定の異色作も)、Pyromancer Publishingは数々のデッキプランを、Surreal Estate Gamesはスチームパンク風星系設定『World Guide: Zaonia』を、Thunderegg Productionsは『Easy Settlements』を出しています。長らく『トラベラー』での活動を休止していた13Mann Verlagも10月1日付で担当者の交代と、ドイツ語版Traveller SRDを基調としての再始動を予告しました(同時に今後英訳展開を行わないことも明言されています)(※しかし翌年初頭に新担当者の辞任が発表されたようです)。また、FSpace Publicationsも再び参入しています。

 CCP陣営の方もようやく目玉である〈第三帝国〉設定の製品が揃い始めます。特に精力的なのがMarch Harrier Publishingで、シナリオ『Two Days on Carsten』『See How They Run』『Eve of Rebellion』を出しています。中でも『Eve of Rebellion』は、反乱前夜の帝国首都を舞台にストレフォン皇帝、デュリナー大公、ヴァリアン皇子、ルカン皇子、イフェジニア皇女をそれぞれ演じるプレイヤー同士で権力闘争を繰り広げるという、他に類を見ない構成となっています。
 他には新規参入のEl Cheapo Productsが「Traveller Paper Miniatures」シリーズを開始し、『Humaniti Security』『Imperial Marines(全3作)』『Adventurers(全3作)』『Vargr Pirates』『Belters(全2作)』と立て続けにペーパーフィギュアを出し、その他Jon Brazer Enterprisesの「Foreven Worlds」シリーズも続刊され、いくつかの個人出版社がデッキプラン集を展開しています。

 そしてこの40周年の年を締めくくるように、BITSから『The Traveller Bibliography』が発売されました。これは著者ティモシー・コリンソン(Timothy Collinson)の所有する約二千点に及ぶ『トラベラー』関連書籍を全てまとめたもので、1999年発売の初版、2010年にUK TravConで配布された第2版に続く、最新の第3版となっています。


【2018年~】
 前述の通り、現時点で制作されている『トラベラー』は3つに分かれています。

 まず、マーク・ミラー率いるFFEの『Traveller5』ですが、新作情報はおろかサードパーティの参入情報もありません。唯一参加していたグレゴリー・リーも2017年に未完成の原稿(「Cirque: The Usual Suspects」)を遺したまま死去してしまい、T5路線が今後発展する望みはかなり薄くなったと思われます。
 マーク・ミラー本人は「T6」の開発を否定していますが、『Traveller8』が製作中であることは認めています(随分前から商標も押さえていました)。この「8」とは「8歳児向け」を意味し、子供でも楽しめる入門者向けのシステムとなるようです。また『T5 Players Manual』を出してルール面のサポート(簡略化?)を行う計画もあるようです。
 まだ公式には発表されていませんが、T5は将来的には「Galaxiad」という超未来文明設定に進むと思われています。これは帝国暦1900年代を舞台にした「リジャイナのホロテレビ局制作の連続ドラマ」というメタ構造になっている新設定で、ジャンプ機関に代わるゲート技術によって旅の範囲は銀河系全体に広がっています。『Traveller5』で既にルールや伏線は用意されており、いつ実現するのかは全くの未定ですが、徐々に設定構築が進んでいる気配はあります。
(※ちなみに平行世界の関係にある『GURPS Traveller』の「Lorenverse」にも既知宙域文明を崩壊させる要素がそのまま存在するため、結局帝国暦1400年頃には双方の時間軸は収束して「Galaxiad」に向かうとされています)

 Mongooseの『トラベラー』第2版は、「The Great Rift」シリーズで大裂溝付近の設定やシナリオを展開し、これと『Pirates of Drinax』に加えて『Behind the Claw』を投入してデネブ領域全体の設定を再度固めてから、いよいよ「第五次辺境戦争」が開幕となります。今後3年をかけて新シナリオや改訂版エイリアン・モジュールなど、様々な製品が展開される計画となっています。その他新ボックスセットなど、次の10年を見据えた新展開が数々予告されています。
 また第2版ルールに対応した『2300AD』も発売こそ遅れていますが、再起動に向けて開発が続いています。

 そして『Cepheus Engine』。こちらは様々なサードパーティが様々な宇宙設定を展開しており、一風変わったSF宇宙を楽しむことができます。『Clement Sector』『These Stars are Ours!』『Hostile』も新作投入が続けられる見込みですし、噂段階ですが『Twilight Sector』『Outer Veil』の復活や、新規参入社の話も聞こえており、〈第三帝国〉に飽き足らない旅人の拠り所として一大勢力であり続けるのは間違いなさそうです。

 ちなみにウォーゲーム関連では、Steve Jackson Gamesが28年越しの念願叶ってようやく『Triplanetary』の復刻に着手し、日本のBonsai Gamesからは『インペリウム セカンドエディション日本語版』の再販がなされるようです。


 形を、出版社を、そして名前すら変えてもその精神は引き継がれてきた『トラベラー』。RPG界を席巻することはもはやないにしても、来たる50周年、そしてその先も古き良き名作として愛され、受け継がれていくことでしょう。

「古い版の『トラベラー』は、それらを遊び、それらの資料の思い出を持つ人々のためにあり続ける。一方、新しい人にとっては『Traveller5』かMongoose版がある。私はいずれかのプレイヤーがもう片方も遊び、最終的には双方が彼らの楽しみに加わるだろうと思う」
(マーク・ミラー)

 そして、旅人はゆく――


【参考文献】
The Future of Traveller (Gary L. Thomas, Travellers' Digest #7, 1986)
A Decade of Traveller (Challenge #29, 1987)
Keith Brothers Interview (Rob Caswell, MegaTraveller Journal #3, 1993)
Whither (NOT to be confused with "Wither") Traveller? (David Nilsen, Challenge #77, 1995)
The Big List of Classic Traveller Products (Joe Walsh, 1999)
Traveller 4: What Might Have Been... (Stuart L. Dollar, 1999)
A Backdrop of Stars (Craig Lytton, 2000)
Questions for Dave (David Nilsen, CotI, 2004)
Players' Guide to MegaTraveller (Far Future Enterprises, 2005)
The Road Not Travell(er)ed (Hunter Gordon, CotI, 2008)
Interview with Marc Miller (Theodore Beale, Black Gate, 2010)
Guide to Classic Traveller (Far Future Enterprises, 2010)
A Perpetual Traveller - Marc Miller (Allen Varney, the Escapist, 2010)
A Look at the Notaries of 2300AD & GDW (Charles E. Gannon, Colonial Times #1, 2013)
Designers & Dragons (Shannon Appelcline, Evil Hat Productions, 2013)
Hi everyone. I'm Charles E. Gannon, (r/books, 2016)
Mr.Miller's Remarks (E.T. Smith, Trollbones, 2017)
Interview with Marc Miller (Michael Wolf, Stargazer's World, 2017)
13Mann Verlag
BITS UK Limited
BoardGameGeek
Club TUBG
CollectingCitadelMiniatures Wiki
Internet Archives
Kickstarter
Lost Minis Wiki
Mongoose Publishing
RPGnet
Traveller Wiki
Wayne's Books
Wikipedia
Comments (2)