『トラベラー』で遊ぶとなると、まずは俗にOTU(Official Traveller Universe)と呼ばれる『第三帝国(The Third Imperium)』の宇宙設定が用いられるかと思います。長らく親しまれた膨大な設定は重厚な世界観を産み、それがまた多大な魅力を放っています。
しかし元来『トラベラー』には星域/世界作成ルールが備わっており、自分だけの宇宙を築き上げて遊ぶ、という楽しみ方も珍しくありませんでした(そもそも黎明期のRPGはそういう遊び方が当然でした)。やがてOTUの設定が整備され、『メガトラベラー』以降ではOTUで遊ぶことを前提としたルール整備が進んだこともあり(もちろんやろうと思えばオリジナル設定も可能でしたが)、『トラベラー』と『第三帝国』は不可分のものとなっていきました。
ところが後に登場したマングース版ではルール部分と設定部分が切り離され、『第三帝国』は数ある「トラベラーシステム内の設定の一つ」に過ぎなくなりました。加えて、マングース社の示した新たなライセンスによってサードパーティ企業が『第三帝国』設定を利用した商品を出すことができなくなり、必然的にATU(Alternative Traveller Universe)へ進出する(かFree Sector宣言がなされているForeven宙域設定にする)しかなくなったのです。
ということで、このシリーズではOTUとはまた違った魅力を持つTL11設定の宇宙を徐々に紹介していこうかと思います。不定期かつ誰得なシリーズではありますが、お付き合いくださいませ。
まず、TL11とはどんな社会か。あくまでそれぞれの設定次第ではありますが、コアルールではどう定義されているか簡単にまとめてみます。
このように、抗老化剤やブラック・グローブ発生装置といった超テクノロジーが存在しない分、地味ながらも「地に足の着いた」SF世界を楽しめそうだ、ということが伺えます。言われてみればTL15の産物ってあまりプレイには用いられませんし。
では記念すべき第1回は、マングース版TL11ATUの魅力を最初に知らしめたSpica Publishingの『Outer Veil』です。
時は西暦2159年、辺境は君を求めている!
THE YEAR IS 2159 AND THE FRONTIER NEEDS YOU.
西暦2030年代、核融合技術の実用化とともに太陽系内に乗り出していった人類は、2047年に重力制御技術を、そして2068年には遂にジャンプ技術を手に入れてアルファ・ケンタウリ星系に到達しました。当初から巨大企業主導で進んだ宇宙開発は、やがてアルファ戦争(アルファ・ケンタウリ星系の権益を巡って3つの巨大企業が激突した戦い)という破局につながりましたが、その教訓から仲裁役として全巨大企業が参加する「恒星間通商機構(ISTO)」結成されました。事実上の恒星間政府となったそのISTOが中心となって、2084年以降は一気に宇宙各地への進出が加速していきます。とはいえその実態は、巨大企業の利潤のために地球の貧困国から人々が過酷な惑星に送り込まれる、といった危ういものでしたが。
進出ブームに支えられた人類史上空前の「宇宙景気(Space Rush)」は、2125年にルナ(月)の証券取引所の暴落を引き金とした「宇宙恐慌(Space Crash)」によって終わり、2131年までは人類社会は内戦状態に陥ります。その後、ISTOに取って代わった「人類諸国連盟(Federated Nations of Humanity)」が中心となって復興が進められ、2150年のジャンプ-2ドライブの開発によって人類は再び辺境へ向けて拡張を再開します。そして我らが旅人(トラベラー)たちが活躍する2159年を迎えたのです。
巨大企業のエゴが優先された旧ISTOの反省から、人諸連は「安定」と「発展」を重んじ、停滞と貧困を防ぐために(例え建前上でも)手段を尽くす政体となりました。連盟には地球上の国家(※地球はこの時代でも政治コード7の小国分裂状態であり、少なくとも「イギリス」「北米共和国」「日本」「中華連合共和国」「テキサス自治区」という国家が存続しているようです)や、人口100万人以上の星系も「一国」として連盟議会に代議員を送り込んでいます。その一方で、それ以下の「植民星」扱いの星々は政治的に一段低い地位に置かれています(そもそもの人口が少ないので仕方ないのですが)。
人諸連の建国によって頭を押さえられる格好となった巨大企業たちですが、依然として十大巨大企業の経済規模は全経済の60%を占めています。とはいえ人類社会の拡張に伴い、恒星間通信速度の制約から以前のような中央経営体制から、各支社に自由裁量を与える変革を強いられています。またかつてと異なり十大企業に肩を並べる「国営」企業が設立され、他の巨大企業の暴走に目を光らせています(この1社だけで25%の規模を持ち、残る15%が中小企業や個人経営です)。
西暦2159年現在、人類の進出範囲は首都ラグランジュ市(地球軌道上)を中心として半径15パーセク(つまり1宙域規模)程度に広がっており、地球に近い方から順に「中央区域(Core)」「近隣区域(Near Intermediate)」「遠方区域(Far Intermediate)」「辺境区域(Frontier)」「"幕外"区域(Outer Veil)」「探査区域(Explored)」「非探査区域(Unexplored)」と呼ばれています。当然ながら政治・経済・科学技術・人口の中心は「中央区域」にあり、辺境や"幕外"に向かうほどに開発途上の植民星が増え、技術水準と治安が悪化していきます。逆に一攫千金の機会は……??
明確な「敵」はいなくなりましたが、海賊や反連盟組織といった不安定要素に対処するために連盟海軍や連盟海兵隊、そして各星系の地上軍が組織されています。海軍や海兵隊は政府予算によるTL11の最新鋭装備で武装しているのに対し、地上軍は各星系政府の自前で賄われるために装備水準はその星のTL程度であるのが普通です。また、ISTO時代の「企業軍」こそ解散させられましたが、特に辺境では「民間警備会社」という名の傭兵部隊に根強い需要があるのも事実です。(OTUと異なり)企業同士の私戦は違法ですが、中央の目が行き届かない"幕外"から遠くでは紛争が起こることもあります。
これまで人類は他の「生きた」知的種族とは接触していません。しかし、現在のところ2種類の異星文明の遺跡が発見されています。片方は数万年前に滅んだと推定されていますが、もう片方は人類以上のTL13の文明を築き、しかも最初に発見されたその遺跡は火星に存在したのです! そしてその文明技術から「科学的な超能力」が解明され、その一部が市井に漏れ出し始めています……。近いうちに人諸連は超能力の法整備を迫られることでしょう(とはいえ現時点では軍の特殊機関や怪しげな宗教団体といった秘められた組織に接触することなしに超能力は得られません)。
このように、独特ながらも非常に「トラベラー的な」設定となっており、すんなりと溶け込めるかと思います。『第三帝国』設定よりは未探査星系が多いので、探査型シナリオを組むにはこちらの方がいいかもしれません。もちろん従来通りの自由貿易商人シナリオや、巨大企業や政府からの依頼を受けるミッション、遺跡探検も可能です(逆に「この宇宙ならでは」の要素に乏しいのは否めませんが)。
また、恒星間交易のコストがOTUよりも高い設定となっているこの宇宙では主な交易産品は贅沢品であり、食料や資源は各星系で自給するのが当然となっています。しかし開発途上の辺境では必需品を自給できる段階には至っておらず、そこに企業や貿易商人が付け込む余地があるわけです。そもそも辺境はあらゆる人材が不足していますから、ヒーローでもないプレイヤーがまさに救世主となれる…かもしれないのです。
この『Outer Veil』設定で遊ぶには、もちろん『Outer Veil』の購入が必須です。これには1宙域分のUWPや一部星系の詳細設定、OV宇宙に生きる人々の新たな経歴部門(コアルールから差し替え)、変更宇宙船ルールとサンプル(とデッキプラン)、パトロンや入門シナリオが盛り込まれています。
また、全10話のキャンペーンシナリオ『Through the Veil』が無料で公開されているので手に入れておくべきです。キャンペーンで遊ばずとも、シナリオの舞台となった星系の設定が収録されていますし、OV宇宙でのシナリオ作りの参考になる…かもしれません。
他、宙域図の『Sector Starmap』や大型客船デッキプラン『The Astral Splendour』、単発シナリオ『The Wreck of the Tereshkova』はお好みで。ただ『The Astral Splendour』には旅客運輸に関する差し替えルール(特に一等船客の下に「相部屋」が追加されたのは重要)が掲載されているので、OV宇宙で貿易ゲームを楽しむには必須となるかもしれません。
難点を挙げるとすると、日本語で遊ぶと萎えてしまいかねない要素があるということでしょうか。何しろ、日系巨大企業の名前が「ネマワシ」でして…(苦笑)。『シャドウラン』(FASA)の「シアワセ社」も相当なインパクトでしたが、これは名前由来の設定も相まって「不気味な巨大企業」の演出に成功していたのですが、さすがに「ネマワシ」は会社の名前としてはどうかと…(汗)。さらに、地球近傍のロス154(OTUではアジッダ星系)に「スバラシイ」と名づけちゃったりと(グリーゼ674の「スリバチ」は許容範囲内か)、仕方ないとはいえ残念な点が見受けられます。まあ辺境で冒険する方がシナリオは作りやすいので、中央のソル星域とネマワシ社に触れないようにして組めばいいでしょう(笑)。
そしてもう一つは、Spica Publishing社自体の今後が不透明であるということです。販売こそ継続されているものの今年に入って公式サイトが一度削除されるなど、心配な要素は多々あります。9月になって再起動を伺わせる発表はありましたが、これ以上の「公式設定」は手に入らないことを前提にした方がいいかもしれません。
逆に言えば、レフリーの自由裁量次第でOV宇宙を好きなように設定できるということでもあります。スピンワード・マーチ宙域はある意味設定し尽くされてしまいましたが、こちらはまさに開拓途上にあります。熱意と想像力次第でより魅力ある宇宙を創り上げることも十分可能でしょう。未開拓の宇宙設定に開拓心を持って挑めるレフリー向き、と言えます。
しかし元来『トラベラー』には星域/世界作成ルールが備わっており、自分だけの宇宙を築き上げて遊ぶ、という楽しみ方も珍しくありませんでした(そもそも黎明期のRPGはそういう遊び方が当然でした)。やがてOTUの設定が整備され、『メガトラベラー』以降ではOTUで遊ぶことを前提としたルール整備が進んだこともあり(もちろんやろうと思えばオリジナル設定も可能でしたが)、『トラベラー』と『第三帝国』は不可分のものとなっていきました。
ところが後に登場したマングース版ではルール部分と設定部分が切り離され、『第三帝国』は数ある「トラベラーシステム内の設定の一つ」に過ぎなくなりました。加えて、マングース社の示した新たなライセンスによってサードパーティ企業が『第三帝国』設定を利用した商品を出すことができなくなり、必然的にATU(Alternative Traveller Universe)へ進出する(かFree Sector宣言がなされているForeven宙域設定にする)しかなくなったのです。
ということで、このシリーズではOTUとはまた違った魅力を持つTL11設定の宇宙を徐々に紹介していこうかと思います。不定期かつ誰得なシリーズではありますが、お付き合いくださいませ。
まず、TL11とはどんな社会か。あくまでそれぞれの設定次第ではありますが、コアルールではどう定義されているか簡単にまとめてみます。
- 発電は核融合炉で行われる。また炉の小型化も進みつつある。
- ジャンプは最大2。スラスター技術の完成もこの頃。
- 戦場の兵士が持つのはレーザー火器や戦闘ライフル。まだ磁気ライフルは存在しない。
- 戦闘アーマーの登場(でも高価なので戦場ではあまり見ない)。
- プラズマ兵器は砲門として用いられ、個人携行プラズマガンは実用化前。
- 反重力ベルトは存在しないが、反重力パラシュートによる降下作戦は可能。
- ホロ技術はTL10で実用化されたが、携帯3Dカメラやホロクリスタルは存在しない。よって「フルCG制作のホロ映画」ならあるかもしれない。
- 海中都市、軌道エレベータ、宇宙ステーション、重力支持の高層建築物は建造可能。
- 人工眼球の実用化。機械の義手や義足は普通にあると思われる。
- 車両の反重力化に伴い、従来の「航空機」「船舶」が廃れる。
- 初歩的なシナプス回路の完成。ただしまだ大型で信頼性も低く、人工知能としてロボットに搭載するのは先となる。まだロボットが普及しているのは産業界のみ。
このように、抗老化剤やブラック・グローブ発生装置といった超テクノロジーが存在しない分、地味ながらも「地に足の着いた」SF世界を楽しめそうだ、ということが伺えます。言われてみればTL15の産物ってあまりプレイには用いられませんし。
では記念すべき第1回は、マングース版TL11ATUの魅力を最初に知らしめたSpica Publishingの『Outer Veil』です。
THE YEAR IS 2159 AND THE FRONTIER NEEDS YOU.
西暦2030年代、核融合技術の実用化とともに太陽系内に乗り出していった人類は、2047年に重力制御技術を、そして2068年には遂にジャンプ技術を手に入れてアルファ・ケンタウリ星系に到達しました。当初から巨大企業主導で進んだ宇宙開発は、やがてアルファ戦争(アルファ・ケンタウリ星系の権益を巡って3つの巨大企業が激突した戦い)という破局につながりましたが、その教訓から仲裁役として全巨大企業が参加する「恒星間通商機構(ISTO)」結成されました。事実上の恒星間政府となったそのISTOが中心となって、2084年以降は一気に宇宙各地への進出が加速していきます。とはいえその実態は、巨大企業の利潤のために地球の貧困国から人々が過酷な惑星に送り込まれる、といった危ういものでしたが。
進出ブームに支えられた人類史上空前の「宇宙景気(Space Rush)」は、2125年にルナ(月)の証券取引所の暴落を引き金とした「宇宙恐慌(Space Crash)」によって終わり、2131年までは人類社会は内戦状態に陥ります。その後、ISTOに取って代わった「人類諸国連盟(Federated Nations of Humanity)」が中心となって復興が進められ、2150年のジャンプ-2ドライブの開発によって人類は再び辺境へ向けて拡張を再開します。そして我らが旅人(トラベラー)たちが活躍する2159年を迎えたのです。
巨大企業のエゴが優先された旧ISTOの反省から、人諸連は「安定」と「発展」を重んじ、停滞と貧困を防ぐために(例え建前上でも)手段を尽くす政体となりました。連盟には地球上の国家(※地球はこの時代でも政治コード7の小国分裂状態であり、少なくとも「イギリス」「北米共和国」「日本」「中華連合共和国」「テキサス自治区」という国家が存続しているようです)や、人口100万人以上の星系も「一国」として連盟議会に代議員を送り込んでいます。その一方で、それ以下の「植民星」扱いの星々は政治的に一段低い地位に置かれています(そもそもの人口が少ないので仕方ないのですが)。
人諸連の建国によって頭を押さえられる格好となった巨大企業たちですが、依然として十大巨大企業の経済規模は全経済の60%を占めています。とはいえ人類社会の拡張に伴い、恒星間通信速度の制約から以前のような中央経営体制から、各支社に自由裁量を与える変革を強いられています。またかつてと異なり十大企業に肩を並べる「国営」企業が設立され、他の巨大企業の暴走に目を光らせています(この1社だけで25%の規模を持ち、残る15%が中小企業や個人経営です)。
西暦2159年現在、人類の進出範囲は首都ラグランジュ市(地球軌道上)を中心として半径15パーセク(つまり1宙域規模)程度に広がっており、地球に近い方から順に「中央区域(Core)」「近隣区域(Near Intermediate)」「遠方区域(Far Intermediate)」「辺境区域(Frontier)」「"幕外"区域(Outer Veil)」「探査区域(Explored)」「非探査区域(Unexplored)」と呼ばれています。当然ながら政治・経済・科学技術・人口の中心は「中央区域」にあり、辺境や"幕外"に向かうほどに開発途上の植民星が増え、技術水準と治安が悪化していきます。逆に一攫千金の機会は……??
明確な「敵」はいなくなりましたが、海賊や反連盟組織といった不安定要素に対処するために連盟海軍や連盟海兵隊、そして各星系の地上軍が組織されています。海軍や海兵隊は政府予算によるTL11の最新鋭装備で武装しているのに対し、地上軍は各星系政府の自前で賄われるために装備水準はその星のTL程度であるのが普通です。また、ISTO時代の「企業軍」こそ解散させられましたが、特に辺境では「民間警備会社」という名の傭兵部隊に根強い需要があるのも事実です。(OTUと異なり)企業同士の私戦は違法ですが、中央の目が行き届かない"幕外"から遠くでは紛争が起こることもあります。
これまで人類は他の「生きた」知的種族とは接触していません。しかし、現在のところ2種類の異星文明の遺跡が発見されています。片方は数万年前に滅んだと推定されていますが、もう片方は人類以上のTL13の文明を築き、しかも最初に発見されたその遺跡は火星に存在したのです! そしてその文明技術から「科学的な超能力」が解明され、その一部が市井に漏れ出し始めています……。近いうちに人諸連は超能力の法整備を迫られることでしょう(とはいえ現時点では軍の特殊機関や怪しげな宗教団体といった秘められた組織に接触することなしに超能力は得られません)。
このように、独特ながらも非常に「トラベラー的な」設定となっており、すんなりと溶け込めるかと思います。『第三帝国』設定よりは未探査星系が多いので、探査型シナリオを組むにはこちらの方がいいかもしれません。もちろん従来通りの自由貿易商人シナリオや、巨大企業や政府からの依頼を受けるミッション、遺跡探検も可能です(逆に「この宇宙ならでは」の要素に乏しいのは否めませんが)。
また、恒星間交易のコストがOTUよりも高い設定となっているこの宇宙では主な交易産品は贅沢品であり、食料や資源は各星系で自給するのが当然となっています。しかし開発途上の辺境では必需品を自給できる段階には至っておらず、そこに企業や貿易商人が付け込む余地があるわけです。そもそも辺境はあらゆる人材が不足していますから、ヒーローでもないプレイヤーがまさに救世主となれる…かもしれないのです。
この『Outer Veil』設定で遊ぶには、もちろん『Outer Veil』の購入が必須です。これには1宙域分のUWPや一部星系の詳細設定、OV宇宙に生きる人々の新たな経歴部門(コアルールから差し替え)、変更宇宙船ルールとサンプル(とデッキプラン)、パトロンや入門シナリオが盛り込まれています。
また、全10話のキャンペーンシナリオ『Through the Veil』が無料で公開されているので手に入れておくべきです。キャンペーンで遊ばずとも、シナリオの舞台となった星系の設定が収録されていますし、OV宇宙でのシナリオ作りの参考になる…かもしれません。
他、宙域図の『Sector Starmap』や大型客船デッキプラン『The Astral Splendour』、単発シナリオ『The Wreck of the Tereshkova』はお好みで。ただ『The Astral Splendour』には旅客運輸に関する差し替えルール(特に一等船客の下に「相部屋」が追加されたのは重要)が掲載されているので、OV宇宙で貿易ゲームを楽しむには必須となるかもしれません。
難点を挙げるとすると、日本語で遊ぶと萎えてしまいかねない要素があるということでしょうか。何しろ、日系巨大企業の名前が「ネマワシ」でして…(苦笑)。『シャドウラン』(FASA)の「シアワセ社」も相当なインパクトでしたが、これは名前由来の設定も相まって「不気味な巨大企業」の演出に成功していたのですが、さすがに「ネマワシ」は会社の名前としてはどうかと…(汗)。さらに、地球近傍のロス154(OTUではアジッダ星系)に「スバラシイ」と名づけちゃったりと(グリーゼ674の「スリバチ」は許容範囲内か)、仕方ないとはいえ残念な点が見受けられます。まあ辺境で冒険する方がシナリオは作りやすいので、中央のソル星域とネマワシ社に触れないようにして組めばいいでしょう(笑)。
そしてもう一つは、Spica Publishing社自体の今後が不透明であるということです。販売こそ継続されているものの今年に入って公式サイトが一度削除されるなど、心配な要素は多々あります。9月になって再起動を伺わせる発表はありましたが、これ以上の「公式設定」は手に入らないことを前提にした方がいいかもしれません。
逆に言えば、レフリーの自由裁量次第でOV宇宙を好きなように設定できるということでもあります。スピンワード・マーチ宙域はある意味設定し尽くされてしまいましたが、こちらはまさに開拓途上にあります。熱意と想像力次第でより魅力ある宇宙を創り上げることも十分可能でしょう。未開拓の宇宙設定に開拓心を持って挑めるレフリー向き、と言えます。