goo blog サービス終了のお知らせ 

宇宙の歩き方

The Astrogators' Guide to the Charted Space.

MT日本語版30周年記念企画:『スナップショット ~回廊六景~』

2021-07-03 | MegaTraveller
「戦いは長く厳しいものになるでしょうけど、コリドーが生き残るための鍵は、武力ではなく個人個人の責任感と勇気なのかもしれませんね」
『コリドー・クロニクル』記者 レベカ・テソルジョ
1121年、モーラにて語る

 『メガトラベラー』に宇宙が移行した際に最も象徴的だった出来事は、皇帝暗殺事件を引き金にしてコリドー宙域がヴァルグルの支配下に置かれたことでしょう。これによりスピンワード・マーチ宙域を含むデネブ領域は中央の反乱から隔離された状態となり、幸か不幸かある意味で従来型の旅が保全されたと言えます。
 では、そのコリドー宙域はどうなってしまったのでしょうか。以下のライブラリ・データは、ヴァルグルに蹂躙されたコリドー宙域で重ねた取材内容をモーラまで伝えて来た記者、レベカ・テソルジョ(Rebeka Tesoljo)とサッド・シルミス(Thad Sirmis)の手記を再編集したものです。


帝国暦1120年のコリドー宙域(コアワード側)
(赤で着色されているのが旧帝国領)


【1】主を失った領地
カアス Kaasu 1209 AA7A9CD-F 海洋・工業・高技・高人 R G Vg 元宙域首都
 寒冷惑星のカアスの大気は、主力産業の副産物によって汚染されています。かつてヴィラニ人鉱夫たちは、この星の豊富な鉱物資源を求めてやって来ました。その後、鉱業から製造業・造船業へと主力産業は推移し、今では宙域内で最先端の技術世界となっています。兵站基地に近いカアスは帝国海軍の艦船や補修部品の主要な製造元であり、何社もある広大な軌道上の民間造船所では最新鋭の巡洋艦や駆逐艦から主力艦や弩級戦艦までが建造されています。また、小規模な造船所では対海賊艦(corsair-hunters)やヨット、探査艦や科学観測船などが造られています。カアスの人々は地元の造船業に誇りを持ち、主力艦の進宙式の日は市民の休日になるほどです。
 つい最近までカアスはコリドー宙域の首都でした。しかし、トオラスクーラジンのヴァルグル海賊がクキシュ星域に侵入したことで状況は一変しました。ルカン皇帝の命令で宙域の主力艦隊がコア宙域方面へ撤退させられた後も、宙域公爵クリストン・ランス・レーマン(Sector Duke Criston Lans Rehman)は自らの領地を守るために有象無象の艦艇をかき集めてカアスを進発し、必死に戦いましたが、1119年にアシマ(1515 E543942-8)にて核攻撃を受けて暗殺された、とされています。というのも、クリストン公の生存説は未だに宙域各地で囁かれ続けており、ある意味で人々の希望の(細すぎる)綱となっているのです。
 とはいえ希望的観測だけでは権力の空白は埋められず、海軍力も指導力も失ったコリドーは崩壊するしかありませんでした。宙域のほとんどの星系では新たな支配者にヴァルグルを迎えましたが、カアスでは異なりました。
 ここでは亡き公爵の弟であるヤン侯爵(Marquis Jan Rehman)が跡目を継ぎ、まず最先端の兵器でトオラスクーラジン傘下だった海賊団ヴァインググバイに脅しをかけて交渉に持ち込み、侯爵は惑星カアスとその衛星の支配権を確保しました。一方でカアス星系の残りの部分はヴァインググバイが手に入れましたが、これにより海賊はカアスに出入りする宇宙船の臨検が自由にでき、おまけに外惑星軌道のデライニー社の造船所を手に入れたのです。そこには当時、最新鋭のアルダスリン級惑星防衛艦の半数が係留されていました…。
 現地ではこの取り引きは現状ではやむを得ないとの声の一方で、ヤン侯がヴァルグルと通じて兄を売った見返りに権力を得たとの(根拠のない)見方もあります。
(※ちなみに、ヤンがカアス侯爵となったのはクキシュ公の娘であるエイミーラ・マクニール(Amyla McNeill)との縁談によって、と設定上されていますが、貴族の設定が未整備だった頃のものなので今となっては不自然です。ヤン侯は実はレーマン家の養子なのかもしれませんが…?)
(※ヤン侯爵がヴァインググバイを脅すのに使った兵器は、旧設定ではTL16でしたが、現在の設定では帝国内のTL16世界はTL15に引き下げられたため表現をぼかしました。研究中の新兵器やただの虚仮威しだったなど、レフリーが自由に考えてください)

【2】破壊された世界
レミシュ Lemish 1808 D79568C-A N 農業・非工 A G Va 元星域首都
 温暖で過ごしやすいこの星は星域首都であり、農業や工業の主要な生産地でした。
 しかし1118年に状況は一気に悪化しました。侵略軍トオラスクーラジンは安全保障税、つまりみかじめ料を要求してきたのです。星系政府がこれを拒否したため、彼らは見せしめの攻撃を行いました。宇宙港や工業地帯が集中して略奪に遭い、先端技術は失われ、一夜にして100万人以上が死亡したとされています(※宇宙港AがDになったため、軌道宇宙港は破壊されたかもしれません。また、TLは12から10に低下しました)。
 襲撃から2年が経過した現在でも復興は途上です。建物の修復すら半分程度で、再建は全くと言っていいほどにされていません。ヴァルグルが制宙権を握っているため定期的な貿易は途絶え、工場が稼働していても材料が届かないのです。現地の交通網は寸断されたままで、インフラが破壊されているので食料も水も不足しています。
 そして一番の影響は、家屋や産業が破壊されたことよりも、住民たちの精神と希望が破壊されたことです。再建も逃亡もできず、生活様式も全く変わってしまったレミシュの人々には心の拠り所がなくなってしまいました。
 そこに入り込むように、「服従新教(New Church of Submission)」なる何の役にも立たない疑似宗教が地方からじわじわと伸長し始めています。教会は「安全はつかの間のもの、人類の労働は無益」という諦観の教義を説き、運命に流されることで一片の平穏を得られるとしています。当然ながら大多数の人々の支持は得られていませんが、強引な改宗も辞さない積極的な布教活動も相まって、むしろヴァルグルよりも危険な存在になりつつあります。いつの日かこの教会が多数派になった時、それはレミシュの死を意味するでしょう。

【3】商人たちの天国
ギニング Ginning 2108 A6315AF-B K 非工・貧困 R G Ca
 薄い大気から差し込む恒星光で暑く乾燥したギニングは今、死んだはずのクリストン公が密かにここを拠点にしているという噂で注目の的となっています。
 それを抜きにしても、ギニングは政治的に興味深い場所です。遠くの星の知識人たちはここを「海賊同盟(Corsair Alliance)」の中心星系であると見做していますが、この「海賊同盟」は実際には「反海賊同盟」と言うべき存在です。そしてギニングは少ない人口に亡命者や反逆者たちが加わり、コリドー最後の自由な交流の場となっています。
 この同盟は散開していた海軍予備艦隊が7つの星系を守るために再集結して結成されたもので、トオラスクーラジンやイッロクといったヴァルグル、そして再興ヴィラニ帝国の3勢力に囲まれた不安定な地理上に存在します。しかし海軍戦力が海賊を食い止めたことで、再び安全な航行を可能とする空間が誕生したのです。
 やがて同盟は近隣勢力から注目を浴びることになります。同盟はヴィラニ人にとっては取るに足らない存在でしたが、ヴァルグルには格好の襲撃目標でした。そこで同盟の指導者たちは新戦略として、海賊には海賊で対抗することにしたのです。こんな世の中でも海賊が生き抜くのは容易ではなく、中には追撃されて困窮する海賊もいました。そんな海賊を同盟は迎え入れ、海賊はその恩義に報いました。
 同盟傘下の星系では英雄的な防衛戦を繰り広げる海賊は珍しくなく、軍艦と海賊船が肩を並べる光景も普通です。そう、部外者が「海賊同盟」と呼んだのは、この見た目だけを指したものなのです。
(※表題の「商人たちの天国」とは、おそらく領内で航路の安全が確保されているという意味でしょう。もしくは通商の規制や関税が緩いのかもしれません。なお、同盟の首都は現在の設定ではアルファイブ(2209 B578872-A)に置かれているため、記述を修正しました(ギニングは経済の首都、という解釈もあるでしょうが))
(※この設定ができた当時は知る由もないのですが、後に『GURPS Traveller: Planetary Survey 6』で、同盟傘下のダークムーン(2111 D78A66B-7)にSuSAG社運営の海中監獄があったことになりました)

【4】泥棒市
プランジ Plunge 2505 B5409CC-C CK 工業・高技・高人・砂漠・貧困 R G Vh
 砂漠世界であるプランジの地表には森も農場もありません。しかしここには80億もの人々が「砂岩の下」に住んでいて、曲がりくねったトンネルの先にある広大な水耕栽培の庭や湧き出る泉の恩恵を受けています。
 プランジの地下都市建設は、約500年前に莫大な富をかけた計画でした。なぜこの「岩の塊」にこれほどの資金が投じられたのでしょうか。それはこの星系がウシャムラ・メイン(Ushamla Main)の入り口という戦略的重要な立地にあったからです。最盛期にはこの星を幾多の船が通過し、帝国中央の星々と「鉤爪の向こう」との貿易路を担っていました。やがて主要航路はウシャムラ・メインからリムワード側に移りましたが、それでも貿易はこの星の富の源泉であり続けました。
 強権的な企業家が支配するプランジは、一見海賊とは無縁に見えます。しかし今では宇宙港にはヴァルグルの海賊船が平然と出入りし、造船所で整備を受け、乗組員が歩き回っているのです。
 実はイッロク宣言書国がこの星系を制圧した際に、貿易に経済を依存していたプランジの統治者は彼らに譲歩し、宇宙港を海賊に開放したのです。それは、どんな形でも安定した資金の流入がなければ民衆を養うこともできず、ましてや自分たちの豪奢な生活を維持することもできないからです。
 こうしてこの星系はコリドー宙域最大級の交易拠点から、最大級の盗品市場へと変貌しました。各地から略奪した戦利品を携えて、数パーセク離れた星から海賊がプランジに集まってきます。そしてここでは合法非合法問わず、ほとんど何でも手に入ります。
 プランジはある意味で開放的な港であり、強大なイッロクに守られてもいるため、もう一つの大切な商品である「情報」の取り引きも盛んです。商人や海賊が持ち込んだ、宙域各地の時に真実の、時に荒唐無稽な噂はヴァルグルや人類の耳に伝わり、必然的に金銭や商品が動かされます。
(※この内容で治安Cは流石に変ですが、宇宙港周辺だけ治安レベルが物凄く低いのでしょう)

【5】要塞星系
クキシュ Khukish 1606 A77A989-F 海洋・工業・高技・高人 G Na 元星域首都
 ここは最初期に入植された星系で、この海洋世界には第三帝国よりも遥か昔のヴィラニ人による遺構が存在します。彼らに限らずクキシュの人々は、海洋生物が持つ豊富なミネラルを利用して繁栄してきました。例えば、シュシムルという水陸両生の大型甲殻類は、クキシュの豊富な金属成分を殻に取り込んでいます。この生き物は定期的に古く窮屈になった殻を浜辺に脱ぎ捨てていくため、これを適切に処理すれば重金属の貴重な供給源となるのです。
 現在のクキシュ、そして隣接する農業世界シシュカラ(1607 B686654-C)はヴァルグルの支配を逃れた星系です。それは、別の意味で大きな犠牲を払ってでのことでした。ヴァルグルの侵攻を受けて、クキシュ政府は星系内の海軍戦力を前線に送らず、星域首都であったこの星の防衛に専念させたのです。つまりは他星系の帝国市民を見捨てる格好になったわけですが、ともあれ自前の防衛戦力に他星系からの合流もあって、クキシュの防衛網は鉄壁なものとなりました。ヴァルグル海賊の星系内への侵入は時々ありますが、ヴィラニ流の冷徹な戦術指揮と、何よりもヴァルグルの団結力の無さに助けられてクキシュは守られ続けています。
 クキシュ市民は、刻々と報道で伝えられる星系海軍の活躍によって得られた安全を享受していますが、戦いの推移をどこか他人事のようにも感じています。心配しているのは、軍艦に友人や恋人が乗っている人ぐらいです。いずれにせよ、シシュカラから先の様々な悲惨な出来事にはまるで無関心です。
(※シュシムルは900年代半ばに半知性があることが判明しています。その研究に生物学者に加えて古生物学者が加わったことから、太古種族による関与が疑われているのかもしれません)

【6】抵抗の灯火
コーラグフォーサ Koergfoes 0205 B54359A-B CK 非工・貧困 G Vf ヴァルグル世界 研究基地ε
 この星は農作物と帝国研究基地イプシロンで知られる、のどかな世界でした。ヴァルグルが多数派の40万人に満たない人口は、1119年にゾッロク連邦の標的になるには十分でした。星系政府は襲撃を回避するために早々と宇宙港を明け渡し、ゾッロクは「外部勢力からこの星を守る」ために進駐しました。
 しかしその保身は別の作用を生みました。星系政府が傀儡に成り下がったことで、これまで住民をまとめていた「威信」も失われました。ヴァルグルは威信ある者には従いますが、そうでなくなれば己に従います。かくしてコーラグフォーサは犯罪や暴力、テロ行為が横行する無法地帯となったのです。政権派の自警団も作られましたが、傀儡となった政権が威信を取り戻すには力不足でした。
 そんな中で、民衆の中で抵抗運動が盛り上がりを見せてきました。自警団とは逆に、海賊の傀儡となった官僚機構と戦い、海賊の企てを阻止することで、抵抗組織の闘士たちは人々の英雄となっていきました。
 法的根拠も資金源も、そして圧倒的武力もないコーラグフォーサの抵抗組織は、着実に人気と威信を高めました。最も有名な指導者は「オゾゾク(苦しめる者)」という偽名しか知られていませんが、外部勢力による支配という共通の脅威に対してヴァルグルと人類の団結を促す役割を果たしていました。
 でも、人気と正義だけでは戦いには勝てませんでした。1121年に入り、オゾゾクはついに政権に捕らわれてしまいました。彼は連行され、その裁判の様子は見せしめに星系内全体で生中継されました。
 しかし、オゾゾクの人気は高まる一方です。彼の逮捕と起訴が知れ渡っても、海賊を宙域外に追い返そうとする人々の気持ちは強まるばかりでした。彼が投獄された後も抵抗組織は政権打倒の新たな計画を練り続け、そして実行に移しているのです。
(※現在の設定ではここは「ヴァルグル世界」になっていますが、人類人口が5%未満とすればそこまで矛盾はしないでしょう)


【コリドー宙域の現状】
 1119年半ば現在、海軍による抑止力を失ったコリドーはヴァルグルによって分断されています。宙域では一般的な星間流通が途絶えており、商業宇宙船は自由に往来することはできません。
 今のところ、ゾッロク、トオラスクーラジン、イッロクといったヴァルグル勢力によって星々は制圧され、そうでない星系も襲撃を受けています。しかしそれらの上に立つのが、ディーポ(コリドー宙域 1515)の制圧と人員の強制徴用で最高の地位に上り詰めた海賊団ヴァインググバイです。兵站基地の司令官アンドレアス・シャビエル提督(Depot's commander, Admiral Andreas Xavier)を従えたこの海賊団は、他の海賊や侵略勢力をも支配し、新たな「ウィンドホーン同盟(Windhorn Alliance)」の旗の下に全てを強引に結合しました。
 現在、ここの宇宙空間を支配しているのは、数では劣っているもののヴァルグル海賊です。帝国最強と謳われたコリドー艦隊が対デュリナー戦線へと引き抜かれた後、ヴァルグル海賊に対抗できるのは点在する予備艦隊のみです。
 この特異な状況により、侵略者は限られた人的資源を割いて占領政府を立てることなく宙域を支配することが可能となっています。「ヴァルグルに従えば略奪を免れられる」という甘言は、貿易や通信の途絶への恐怖感も相まって、今の各星系政府には独立の精神よりも魅力的に聞こえるのです。コリドー宙域の人類は恭順派と抵抗派に分裂し、両者の溝は深まる一方です。
 残念ながら、コリドーの安定はすぐには望めそうにはありません。デネブ領域は侵入してくるアスランやヴァルグルへの対処で手一杯で、ヴィラニ人は何の助力もしてくれず、そもそも通信が宙域外に出られないために援軍は期待できません。コリドー艦隊の帰還は近いだの、(壊滅したはずの)レーマン艦隊が研究基地で新開発された超兵器でヴァルグルを蹴散らしているだの、様々な噂は飛び交っていますが、いずれも根拠はありません。
 皮肉なことに、今のコリドーを唯一まとめられそうなのはヴァインググバイなのかもしれません。実はヴァインググバイは内部抗争を抑止したり、星間交易や通信の再建も始めています。あくまでヴァルグルの支配下で、宙域が落ち着きつつあるのは否めません。しかし本当に、抵抗ではなく服従こそが平和な生活を取り戻す近道なのでしょうか…?
(※シャビエル提督が降伏の条件として兵站の人員ごと海賊に従ったのか、海軍を裏切ったのかは不明です)


【ライブラリ・データ】
コリドー宙域 Corridor Sector
 大裂溝によって大きく分断された267星系から成る宙域で、69星系がリムワード側、149星系がコアワード側にあります。コリドー宙域は、ヴランド宙域と辺境のデネブ宙域やスピンワード・マーチ宙域を結ぶ「回廊」であることから、140年にそう名付けられました(それ以前は古ヴィラニ語で「アムシャギ」と呼ばれていました)。
 第一帝国時代はヴィラニ人の関心が他所に向けられていたため、鉱物資源が豊富だったミケシュ(0206)や、貴重な生物の居たクキシュ(1606)などごく限られた入植地しか建設されませんでした。その後、-2400年から-1700年にかけてのヴァルグルの拡大によって大量のヴァルグルがこの宙域に流入し、ここが以前から思われていたよりも遥かに戦略的に重要であることが示されました。
 第三帝国が建国されてスピンワード方面への拡大が始まると、帝国はヴァルグル戦役(220~348年)を起こして暗黒時代から定住していたヴァルグルたちを追い払い、この宙域に確固たる帝国領を確立させました。それ以降コリドー宙域は、中央から辺境方面への交通の要衝としてあり続けてきました。
(※旧設定でのコリドー宙域の古名は「エネリ」でしたが、そのエネリ自体がヴィラニ人の最も典型的な名前(アングリックなら「ジョン」と同等)と被ることもあってか、後に修正されました)

コリドー艦隊 Corridor Fleet
 帝国海軍がコリドー宙域に配備している艦隊の総称です。大裂溝の存在によって平均星系密度が他所より低いにも関わらず、その地理的重要性ゆえに、コリドーには他の宙域と遜色ない戦力が配置されています。基本的に番号艦隊は1星域に1つですが、コリドーのコアワード側では1星域に2個艦隊が配置されているのです。
 コリドー艦隊の主な任務は、商業交通と情報の流れを維持し、海賊や敵国から領土を守ることです。コリドー艦隊はデネブ領域の艦隊の援軍の役割もあり、その地域の安全保障も担っています。そして国境付近に配属された艦隊は常に海賊の襲撃を受けるため、帝国の中でも最も戦闘経験が豊富となっています。

コリドー・クロニクル The Corridor Chronicles
 『コリドー・クロニクル』は、コリドー宙域の歴史・地理・文化・経済・人物・大衆思想等々についての総合百科誌です。183年にカアス(コリドー宙域 1209)にて創刊されたこのクロニクルは、ヴランド(ヴランド宙域 1717)の『AAB百科全書』とトラベラー・ニュースサービス(TNS)の中間的存在です。クロニクル本誌は4年毎に全面改訂されますが、頻繁に情報更新がされています。
 コリドー宙域で最も有名な民間情報企業であるクロニクルは、反乱による混乱にも関わらず、その社是である「真実に忠実であれ」を守るために日々努力しています。偏りのない報道を行うために、2名以上の記者が別々の視点から一つの記事を担当することもよくあります。

ウシャムラ・メイン Ushamla Main
 コリドー宙域のコアワード側に位置する、34星系が連なる星団のことです。古くは重要な貿易航路として多くの船が行き来していましたが、ジャンプ技術の発達によってその流れはリムワード寄りになりました。それでもヴァルグル交易の玄関口としての役割は健在です。
(※この「ウシャムラ」が何を指す言葉なのかは不明です)

ディーポ Depot 1511 A686354-E D 高技・低人・緑地 A G Im 軍政
 帝国暦1世紀に、破天荒な星間探検家H・A・エンダースによってこの星系の探査が行われました(主星エンダースの由来は彼女の名からです)。結局限られた資源しか見つからなかったため、主要航路に近くより豊かな星系への入植が優先され、この星は放置されました。そのため、第一次大探査の時点では686-901と星図に記載されています(ちなみにその後、「カムー・ラーン」と改称されました)。
 帝国はスピンワード方面への探査と入植を切っ掛けにして、この星系に海軍基地を建設して、増加する商船の往来を保護することにしました。数百年間この基地は使命のために拡張を繰り返し、やがて海軍最高司令部はここをコリドー宙域の兵站基地としました。対ヴァルグル戦の補給確保が主任務ではありますが、艦隊の集結拠点としてゾダーン国境の維持にも戦略的役割を果たしています。
 この惑星は海軍施設周辺を除き、ほとんどが未開発です。比較的穏やかな気候で、地軸傾斜が少ないため季節による気温変化があまりないのが特徴です。そのため自動化された農場や牧場が広がり、基地や艦隊に食料を供給しています。
追記:1118年以降、ディーポはヴァルグルに占領されています。
(※帝国暦0年当時の星図には「第二帝国時代の放棄されたルウグ兵站基地」の存在が記されているそうですが、時代背景を考慮すると実在は疑わしいです。また、T5設定ではここは設定不詳の群小種族ミイミンリ(Miiminri)の母星とされました。しかしながら星系総人口9000名の数%と、保護しなくて大丈夫なのか心配な数です)

ウルサ Ursa
 地球連合の企業ジェナシスト社が、ドルフィンなどと同様にテラ原産の動物に遺伝子操作を施して生み出した知性化種族です。
 (彼らの伝承では)第二帝国時代の同社はクマに知性を与えて高重力の植民地開発の手助けをさせる計画を進めていましたが、それは中途で破棄されることとなり、「駆除」を恐れたウルサは脱走しました。そしてヒグマ型のウルサはレイ宙域に、ツキノワグマ型はコリドー宙域のシシュカラ(1607)とタミラア(2006)まで逃げ延びて今の帝国市民としてのウルサの祖先となり、結果的に研究が成功していたことを証明しました。
 ウルサは仲間意識が強く、仲間の命のために自分の命を投げ出すことも厭いません。ただ、他種族との行動は好まず、心を開くまでは話しかけられても最低限の返答しかしない傾向があります。彼らは四つん這いで歩くことが多いですが、二足歩行も可能です。また、普段はズボンや靴の類は着用しません。
 故郷の星を出たウルサのほとんどは、その体格を生かして傭兵や護衛になります。

栄えあるトオラスクーラジン Glory of Taarskoerzn
 869年に結成された「栄えあるトオラスクーラジン」は、元々ウィンドホーン裂溝の端に位置する7つの星系から成る緩やかな集団でした。しかし900年代後半の路線対立の結果、非常に過激な派閥が権力を握りました。それは「選民教会(Church of the Chosen Ones)」の影響を強く受けていて、教義でもある銀河征服に傾倒していました。ただ、当時のトオラスクーラジン軍は比較的小規模だったため、現実味がないことも理解はしていました。
 同時にトオラスクーラジンの歴代指導者たちは、隣接する強国のイッロクの下に甘んじていることを苦々しく思っており、時が来ればイッロクに一泡吹かせようと秘密裏に計画が練られていました。
 ストレフォンの暗殺とそれに続く帝国の分裂により、「その時」は不意にやって来ました。トオラスクーラジン政府は今こそ銀河征服の好機到来と見て、傭兵海賊によって増強された軍隊はイッロクの領土を突っ切ってコリドー宙域に強引になだれ込みました。
 トオラスクーラジンの奇襲は当初はうまくいっていました。略奪は帝国領とイッロク領の双方に対して行われ、機先を制されたイッロクはコリドーの侵略に出遅れて状況はますますトオラスクーラジンに有利に働きました。
 ところが順風満帆に見えたトオラスクーラジンの思惑は大いに狂います。海軍の助勢として加えていた海賊団ヴァインググバイが、帝国海軍の兵站基地(ディーポ)を陥落させるという、誰もなし得なかった偉業を達成したのです。兵站の莫大な軍事資源を手に入れたヴァインググバイは、瞬く間に威信を高めて他の海賊を平らげ、今や海賊の方がかつての主人らに政策の指図をするほどです。

イッロク宣言書国 Irrgh Manifest
 プロヴァンス宙域にある恒星間国家です。400年代初頭に星々を束ねる宣言書が調印されて以後、首都イガンフォクソ(プロヴァンス宙域 1731)を中心にして数星域を支配してきました。
 イッロクはトオラスクーラジンの仇敵で、両国は頻繁に小競り合いを続けてきました。帝国の反乱以前のトオラスクーラジンは小国に過ぎませんでしたが、1117年にトオラスクーラジンは海賊を雇い、イッロク領内を抜けて帝国へと向かう進軍路を切り開きました。これによりイッロクは事実上分断され、スピンワード側とトレイリング側が別々にコリドー宙域に乗り込む羽目になりました。
 結局トオラスクーラジンとの侵略競争では遅れを取った上に、ついにはトレイリング側が他の海賊と同様に、兵站基地を得たヴァインググバイの支配下に置かれてしまいました。ヴァインググバイは元はと言えばトオラスクーラジンの配下でしたから、この下剋上はイッロクの指導層には二重に屈辱的でした。ヴァインググバイが許せばイッロクはトオラスクーラジンの星系に報復したでしょうが、そんな訳にもいかず、現状ではコリドーの人類世界で八つ当たりするほかないのです。
(※現在のT5SSによる「1105年設定の」プロヴァンス宙域図では、「1120年設定の」国境線が反映されてしまったために、早くもイッロク領は分断されてしまっています)
(※本来のManifestには名簿や目録、伝票程度の意味しかないはずです。それでは国家名として威厳がなさすぎるので、Manifestoの方の意味である宣言書を採用しました。ただし本当に「加盟星系の名簿」程度の意味しかないのかもしれません、ヴァルグルなので)

ゾッロク連邦 Dzarrgh Federate
 ゾッロヴァイラ(プロヴァンス宙域 0224)で1090年に結成されたゾッロク連邦は、その後6年間、プロヴァンスとトゥグリッキの両宙域にまたがるように拡大を続けました。この近辺で恒星間組織が誕生するのは実に-2530年以来で、長年独立していた各星系は当初抵抗はしましたが、最終的に連邦の理念と軍事力、そして下に入れば得られる利権の方が勝りました。
 実質名ばかり、と言うにふさわしいほどの非常に緩やかな連邦政府の下で、各加盟星系は極めて高度な自治権を持ち、統一された司法制度や通貨もなく、課税すらあまり行われていません。個人の自由は制限されず、海賊行為すら公認で(国軍が行う場合すらあります)、加盟前からの文化風習もそのまま残されています。これらを指して、国家ではなく単なる地域に過ぎない、とまで言う政治学者もいます。
 反乱前の連邦は帝国の主要貿易国であり、友好関係を築いていました。しかし帝国の崩壊とコリドー艦隊の撤退は、彼らには貿易以上の利益を得る好機に映ったのです。加えて帝国領を略奪することで、反帝国の機運が高まっていた加盟星系の不満を宥めることもできます。かくして通商と外交が突然停止され、連邦軍と傘下海賊はデネブとコリドーに押し寄せました。コリドーの物流が寸断されてデネブ領域は孤立し、デネブ領域海軍や国境警備隊も少なからぬ損害を受けました。
 隣国のイッロクとの領土問題で何度か小競り合いが生じた後、1119年初頭にヴァインググバイの仲介でキラグ(同 0731)にて両政府の代表者が会談を持ちました。わずか3時間の協議の末、両国の不可侵と対帝国軍への連携が合意されました。ただ、この会談に人類が立ち会っていたことから、ヴァインググバイの背後にはデネブ関係者がいるのではないかとの疑念も生じています。

ヴァインググバイ Vaenggvae
 元々はトオラスクーラジン配下の海賊に過ぎませんでしたが、コリドー宙域の帝国兵站基地を占拠して威信を極端に高めてからは、コリドーでのあらゆる物事が頭目のラウグズーロの指先一つで動かされています。


【参考文献】
・Short Adventure 8: Memory Alpha (Game Designers' Workshop)
・Vilani & Vargr (Digest Group Publications)
・Travellers' Digest #18,#19 (Digest Group Publications)
・MegaTraveller Digest #1,#2,#3 (Digest Group Publications)
・Traveller20: The Traveller's Handbook (QuickLink Interactive)
・Planetary Survey 5: Tobibak (Steve Jackson Games)
・Planetary Survey 6: Darkmoon (Steve Jackson Games)
・Alien Module 2: Vargr (Mongoose Publishing)
・Great Rift: Book 1 (Mongoose Publishing)

post a comment

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。