宇宙の歩き方

The Astrogators' Guide to the Charted Space.

宙域散歩(22) リム・メイン3 アルバダウィ星域周辺

2013-03-27 | Traveller
 この地域はかつてのヴィラニ帝国の最辺境でした。第八次恒星間戦争後のエンスラル条約によって支配権が地球人の手に移ってからは、多数の地球人入植者が押し寄せ、現在ではこの星域の住民の大部分は混血か純血のソロマニ人となっています。
 暗黒時代のこの地域は、マジャール宙域方面からやって来る「略奪者たち(リーヴァーズ)」に脅かされていましたが、リム宙域の人々は小国家を建設して団結し、略奪者に対抗しました。その略奪者たちの脅威が去った後、ディンジール連盟やOEUの加盟世界がリム・メインを通して商業活動を活性化させて暗黒時代を抜け出し、やがてそれらの小国家は500年代後半には帝国に吸収されました。
 ソロマニ自治区時代においては、この地域のソロマニ主義への支持は強いものがありました。加えてアルバダウィ星域は、ソロマニ・リム戦争の際に資源を供出した上に、戦後は帝国による復興が後手に回ったり、重要星系が長く軍事支配下に留め置かれたために星域経済があまり回復しておらず、住民を今もソロマニ寄りにさせてしまっています。また国境が近いこともあり、海賊行為の多発も問題となっています(※ソロマニ連合領内に根城を置く海賊が帝国領内で無法を働いた後、国境を越えて逃げてしまうために手が出せないのです)。
 現在のアルバダウィ公爵はガイアのアレクサンドラ・ステファノス(Duchess Alexandra Stephanos)が務めています。現宙域公爵兼ディンジール公爵のロバート・オート=ボードゥアンの母親でもある彼女ですが、現在は高齢ゆえに体調を崩していて、退位も近いと思われています。彼女の後継者には、政治思想が近い息子のイワンが予想されていますが、彼は今帝国海軍のコリドー艦隊に勤めています。また公爵府廷臣の間からは、シャルーシッド子会社の有能な経営者である、娘のイレーナを推す声も挙がっています。


イラシュダア Irashdaa 0524 A689869-F S 高技・富裕 G Im 軍政
 イラシュダアは大部分が海で覆われた、過ごしやすい世界です。人々は世界の三大諸島に建設されたアーコロジーに住んでいます。また海中にはドルフィンの小さな集落もあります。
 かつてこの星に住んでいたヴィラニ系住民は、地球人の支配下に置かれて以後も、血が交わることはほとんどありませんでした。しかしヴィラニ文化はほぼ失われてしまい、今では銀河公用語の地元方言に大量のヴィラニ語由来の単語を残すのみとなっています。
 この星はソロマニ主義を熱烈に支持していましたが、警察国家的な地元政府の残虐行為や人種間暴力によって、960年頃から社会混乱は増していきました。帝国の軍事支配も1世紀続きましたが、現在ではだいぶ落ち着きを取り戻しており、10年以内には民政復帰がなされることでしょう。
 現地の人々は非常にのんびりとしています。3~4時間の労働の後に、3時間ほどゆっくりと時間をかけて食事休憩を取ってから、また3~4時間ほど働く、というのはここでは当然のことです。また星系人口の約3割は「有閑階級」で、彼らに対しては星系政府が中流の生活を営むのに十分な最低所得を保証しているので、野心のない人々は働かずに収入を得ています。大抵の世界ではこういった気前の良い福祉制度は失敗しますが、イラシュダアの豊富な資源とハイテク経済は、彼らを支えるのに十分です。しかもこの制度によって、イラシュダア社会はストレス性の病気とは無縁であり、芸術家も多く誕生しています。星系外各地の裕福な人々がイラシュダア美術を鑑賞するなどのためにこの星を訪れることもあって、観光業も急成長しています。
 そしてイラシュダアは、アルバダウィ星域におけるオーセンティック運動の中心地です。ヴィラニ系のオーセンティスト住民は、自分たちの先祖の文化を調査し、古代の習俗を復活させています。

キダシ Kidashi 0528 A457A69-E N 高技・高人 A G Im 軍政
 キダシは巨大ガス惑星ウムガルシャアムの最も大きな衛星です。キダシはウムガルシャアムの引力によって自転を固定されていますが、ガスジャイアントは赤色矮星の主星の近くを周回しているため、キダシの地表に熱を供給するには十分です。そのためキダシは薄い大気とかなりの海を持っています。しかし、大部分の水は恒久的な積氷となって地表を覆っています。
 -3700年頃にキマシャルグル(反体制派ヴィラニ人)によって入植されたキダシでしたが、寒冷だったためにヴィラニ人口はあまり多くはありませんでした。第八次恒星間戦争後に地球人の入植が始まり、-2200年までにはヴィラニ系住民は完全に吸収されました。それ以来キダシはソロマニ人世界でした。
 暗黒時代になるとキダシはTL7に後退し、星系経済も縮小の一途を辿りました。孤立したこの間に、新しい習俗、政治制度、宗教的な信条が確立されていきました。特に入植者たちの起源であるテラについては史実よりも美化された「神話」が作られたので、OEUの貿易商人が250年頃にやって来た時、住民は宗教的な熱情で歓迎したほどです。このようなキダシがソロマニ主義を熱狂的に支持しないわけがありませんでした。
 キダシ星系はソロマニ政権時代に大きく開発されました。小惑星帯では採掘活動が行われ、先端技術産業が惑星キダシで花開き、人口は急増しました。900年頃のキダシには、星域で最も大きな(連合全体でも指折りの)造船所がありました。さらにソロマニ連合海軍の兵站機能も併せ持っていたため、ソロマニ・リム戦争では帝国軍の攻略目標の一つとなりました。
 1001年後半に行われたキダシ侵攻作戦は大規模なものとなり、両軍で50万人の兵士と800万人の民間人が爆撃と市街戦によって死亡しました。さらに1002年前半に反乱鎮圧のために核兵器が用いられ、加えて200万人が犠牲となりました。帝国軍は目前に迫ったテラ侵攻のための貴重な教訓を学びましたが、その代償として帝国に対する反感は今も強いままです。
 キダシは今も帝国の軍事支配下に置かれています。駐留軍は100万人以上の帝国陸軍兵士に加えて海軍や傭兵などから成り、修復された広大な造船所は宙域最大級の帝国海軍基地の一部となっています。住民からの断続的な抵抗に直面しているため、軍による法執行は特に厳しいものがあります。ソロマニ党は非合法ですが、ソロマニ自由軍や黒不死鳥団(Black Phoenix)が関与するテロ行為は時折発生し、民衆の非暴力的な抵抗(ストライキ、デモ行進、帝国への非協力)はほぼ日常的です。宇宙港周辺や大都市ではテロリストの掃討が進んだために治安は安定してきていますが、首都ニューコバチ市でさえ帝国軍兵士がバトルドレスを装着し、反重力化装甲車両で危険に備えています。
 一方でキダシは、国境を越える通商路上の主要な星系の一つでもあります。軍政下の世界のため海軍が税関や交通管制を取り仕切っていますが、どちらの方に向かう不定期貨物船にも、スパイ、亡命者、武器などが隠されているのが常であり、言うまでもなくこれらはこの星の緊張緩和には何の役にも立っていません。
(※コバチことアールパード・コバチ(Arpad Kovacs)は、第N次恒星間戦争期に地球艦隊を率い、第一帝国の降伏(-2219年)に立ち会った提督です)

ヨーク York 0624 C8A2263-F 高技・低人・非工・非水 G Im イラシュダアが領有
 ここには、偵察局とイラシュダア大学が共同で管理している科学研究拠点が置かれています。

ウェイプー Weipu 0719 X543000-0 貧困・未開 R G Im
 ウェイプーは薄い大気、点在する湖と小さな海、広大な樹林から成る、涼しくて綺麗な惑星です。しかしこの星は植民地化や遠隔操作ロボットによる開発、それどころか惑星探査すらもされていません。ウェイプーは鉱物を多く含んだ温泉で進化した、金属を食べるバクテリアによって支配されているからです。厄介なことに、このバクテリアは生態系の根本を担っているため、これを滅ぼすことは土着の生命を一掃することと等しいのです。
 第二帝国時代、この星の植民地化を考えていたホアツィン(0617)から派遣された探検隊は、探査装置が有機物の影響で腐食しているのを見つけました。植民計画は断念され、世界は危険地帯と宣言されました。しかし暗黒時代の間、警告用の人工衛星は交換されることなく、故障していきました。
 その後、事情を知らない海賊団がここに基地を建設しようとしましたが、持ち込んだ機材が不可解に故障していったことから、慌てて近隣のシュトラールズント(0618)に逃げ込みました。そこで判明したのは、ウェイプーのバクテリアは人類の腸内でも生きることができる、という事実です。「感染者」は鉄、銅、亜鉛の欠乏で次々と死んでいったので、結局、隔離したステーションを真空にして、流行を根絶するしかありませんでした。それ以来ずっとウェイプーは進入禁止星系となっていて、海軍による定期的なパトロールが実施されています。
 かつてソロマニ連合の遺伝子省はバクテリアの兵器利用を検討し、820年に厳重な防護措置を備えた研究所を建設しました。しかしこの研究は後にソルセックによって中断させられ、施設は破壊されました。今もSuSAGとスターンメタル・ホライズンが研究所の「再建」を二代に渡ってアルデラミン公爵に陳情し続けていますが、周辺世界の圧力団体はバクテリアが近隣世界に広まるかもしれないという恐れから、これに反対しています。

ガイア Gaea 0722 A986986-E 高技・高人・肥沃 G Im 星域首都
 かつてアピシャルンと呼ばれていたこの世界は、独特な生態系を持っています。それは個々の種ではなく、生物圏全てがです。
 -3700年頃に入植したキマシャルグル派のヴィラニ人は、この新世界が異常に「友好的」であることに気づきました。土着の動物は容易に飼い慣らすことができ、植物は早く育つ上にどれも食用に適していました。外世界から持ち込まれた動植物は簡単に生き残り、この星の生態系に問題なく溶け込みました。さらには、鉱業や工業による汚染や生息地破壊に対してすら適応したのです。生物学が発達していなかったヴィラニ人には、アピシャルンのこの現象を説明するのは困難でした。
 地球人による征服の後、現地の生態系が他の地球型惑星よりも複雑であることを科学者は発見しました。ある意味この星は一つの巨大な生物とも言える存在であり、初期の地球人入植者は「大地の心」の存在を認めて、この星にガイアと名づけました。数千年に渡る人類の居住にもかかわらず、今も生態系は多彩で活発なままです。
 アピシャルンは第一帝国辺境で非常に人口密度の高い世界でした。やがて地球人移民がやって来ましたが、周辺星系とは異なり、ガイアではソロマニ人が多数派とはなりませんでした。その結果、銀河公用語の現地方言は古代ヴィラニ語に強く影響されており、多くの地元習俗は起源を第一帝国時代までさかのぼることができます。また地元のヴィラニ文化はガイアの生態系に対する宗教めいた敬意を含んでいます。
 ソロマニ自治区成立後には「急進的な」非人種差別政策を掲げる穏健派ソロマニ党政府が設立されましたが、913年にソルセックが支援するクーデターによって純血主義派政府に入れ替えられました。新政府によってソロマニ主義が押し付けられ、ヴィラニ文化の抑圧や、混血人種の選挙権剥奪などに無駄な労力が割かれました。
 ガイアには連合遺伝子省の研究所も建設され、主にガイアの生態系の研究をしていました。950年頃、カーラ・ボクスマン博士(Doctor Karla Vauxman)は研究所内でガイアの高等動物の遺伝子を抽出して遺伝子組み換え人間を作る研究を行っていましたが、実は創り出した混合種を政治犯のヴィラニ人女性に出産させていたのです。博士の行為はソロマニ主義の基準でも非倫理的であり、結局ソルセックによって中止させられ、研究データと混合種そのものは全て破棄されました…が、何体かは生き残ったと噂されています。
 リム戦争末期、星域に侵攻してきた帝国軍に呼応して、ステファノス率いる人民戦線が(帝国軍の支援を受けて)純血主義派ソロマニ党政府を打倒しました。1001年に星域が「解放」されると、ガイアはその忠義に報いて星域首都に指定され、その後速やかに民政に移行しました。
 ガイアはおそらく、星域内の経済問題に関係なく、アルバダウィ星域で最も親帝国的な世界でしょう。小規模のソロマニ主義運動はあることはありますが、ほとんどの住民の支持を得ていません。しかしキダシ(0528)のソロマニ過激派は、ガイアの「利敵政権」に抗議するために時折この地でテロ攻撃を仕掛けています。

トノパー Tonopah 0723 A866ADB-D 高技・高人・肥沃 G Im
 ヴィラニ帝国時代にはシカシュという名の重要世界だったこの星には、第八次恒星間戦争の後にテラの北アメリカ地方から様々な集団が入植しました。その中には、世俗化が進んだテラに見切りをつけてやって来たモルモンという大きな宗教集団がありました。
 暗黒時代になるとトノパーは恒星間交易を失い、略奪者たち(リーヴァーズ)の襲撃を受けるようになり、文明は衰退しました。しかし、モルモンの教えは勤勉と連帯と「賢明な生活」を力説していたので、トノパーは周辺の他星系よりも早く再建していきました。
 -1100年頃にトノパーがディンジール連盟に加盟した際、教会組織はそのまま星系政府になりました。多くの住民は無宗教もしくは無神論者でしたが、誰も社会を導く存在にはなれませんでした。
 その頃、トノパーにはアスランのイハテイが入植しました。発展途上の教会政府は荒野地域の開拓と惑星防衛のために人的資源を欲していて、アスランは土地と引き換えにそれらの仕事に従事することで「良き隣人」となったのです。
 やがてトノパーはディンジール連盟と共に帝国に加盟しました。星域にソロマニ主義運動が広まった際には、教会はあらゆる知的種族の入信を認めていたこと、そしてアスランとの長年の共存関係から、ソロマニ主義には否定的でした。一方でソロマニ主義はトノパーの無宗派層に浸透し、トノパー社会は分断されるかに見えました。しかし780年に起きたソロマニ過激派による一連のテロ事件によって、ソロマニ主義の評判は地に落ちました。教会政府はソロマニ自治区に対し、ソロマニ主義への「支持」と引き換えにこの星の全ての住民の権利を保証することを認めさせ、その結果ソロマニ主義者はトノパーで居場所を失いました。それ以来トノパーはソロマニ連合の静かだが忠実な構成員となりました。
 現在のトノパーは帝国傘下に戻り、占領軍は撤収し、教会政府が再び自治をしています。ソロマニ主義運動は平和的に行われており、穏健派ソロマニ党は議会や教会指導部の中で少数派を形成しています。
 しかし現在では人類とアスランの間に摩擦が生じています。アスランはソロマニ政権時代に小さいながらも抑圧を受け、その経験が彼らに惑星統治へのより大きな発言権を求めさせています。一方教会は下層階級のアスランたちの改宗を試み始めていて、これらのことがアスランの誇りを傷つけ、異種族間の諍いの増加に繋がっています。
(※なおトノパーはアカミン(0721 B662765-D)を領有しています)

アルサティア Alsatia 0924 E53216D-F 高技・低人・非工・貧困 Im セバスタが領有
 アルサティアの前哨基地はセバスタ政府によって維持されています。この前哨基地は、セバスタの独裁者の面子を立てること以外には特に役立っていませんでした。現在、セバスタの贖罪省(Ministry of Penance)は、流刑植民地として前哨基地を拡張することを検討しています。

フォーマルハウト Fomalhaut 1024 B8C8469-F 高技・非工・非水 A G Im 軍政
 フォーマルハウトはテラから見える明るい星です。まだ惑星系は若く、形成期にあるので、主要惑星フォーマルハウト・プライムはかなり危険です。窒素と窒素化合物の混合大気は呼吸不可で、海は弱硝酸溶液から成ります。そして地表は常に流星の爆撃を受けています。
 ソロマニ政権時代のフォーマルハウト・プライムは、刑務所惑星でした。ここに流された囚人の大部分は、ソロマニ主義に反対意見を述べたか、ソルセックに歯向かったソロマニ人の政治犯でした。彼らは最低限の装備での自活を強いられましたが、何とか機能する社会を建設し、自給自足経済すら発達させていました。
 リム戦争の後、帝国軍はフォーマルハウト・プライムを占拠し、囚人を開放しました。元囚人はソロマニ主義を拒絶していましたが、かといって帝国に対する愛着もありませんでした。加えて残念なことに、当時の帝国駐留軍の指揮官は鈍感で独裁的な男でした。住民との間には溝が深まり、帝国支配に対する数十年間に及ぶ抵抗が始まりました。
 現在もフォーマルハウト・プライムは帝国の軍事支配下にありますが、帝国の使節団は住民の敵対心を和らげる事業に取り組んでいます。TL15産業の確立と宇宙港の拡張によって地元経済は好景気となり、事業への追い風が吹いています。とはいえ住民の反帝国感情と惑星の危険な環境を考慮して、フォーマルハウト・プライムにはアンバー・トラベルゾーン指定がなされています。
(※1109年にこの星系でとある発見がなされるのですが、その顛末については『Rim of Fire』を参照してください)

スイシュレシュ Hsuishlesh 1120 A644986-F N 工業・高技・高人・肥沃 G Ve
 この星への本格的な入植は比較的遅く、第九次恒星間戦争の後からでした。-2275年に結ばれた地球人とヴェガンの同盟条約により、スイシュレシュはヴェガン領に属することになり、この合意は「人類の支配」と暗黒時代を通して守られました。ヴェガンの入植は-2270年から集中的に行われた一方で、人類の入植はソロマニ政権時代までありませんでした。
 スイシュレシュは特に居住に適した惑星ではありません。原生の光合成植物は乏しく、大気は薄いだけでなく、酸素もほとんどありません。惑星を訪れる人は、常にフィルタ付きの酸素吸入器を着用しなくてはなりません。ヴェガンにとっては快適な寒冷気候のこの星の大部分の水分は凍結していて、一年中液体の水が得られるのは赤道周辺だけです。住民はその赤道地帯に集まる傾向があり、ドーム都市か地下都市に居住しています。スイシュレシュは特に重要な天然資源を持っていませんが、小惑星採掘などで地場産業に供給する程度には十分な量があります。
 スイシュレシュの重要性は、その場所です。リム・メイン上にあるこの星系は、リム方面とヴェガ自治区方面を低ジャンプで行き来する宇宙船にとって、主な中継点です。スイシュレシュの宇宙港は宙域で最も忙しいほどではありませんが、様々な種類の商船や貨物船を常に見ることができます。
 他のヴェガン世界と同様に、スイシュレシュもソロマニ政権下で抑圧を受けました。しかし世界そのものが人類にはそれほど魅力的ではなかったため、多くのソロマニ人入植者はリム戦争の後この星を去りました。現在の人類人口は約5%ほどで、親帝国的です。ソロマニ党はここに小組織を置いてはいますが、ほぼ無力な存在です。
 スイシュレシュは新たな哲学の故郷でもあります。1080年頃にシャナ・ハイリャン(Shana Hailiang)という名の人類女性が提唱した「タオ=グウィ(Tao-Gwi)」は、ヴェガン社会の徳義を元としています。彼女が唱えた教義は、ヴェガンのトゥフールと同様に、人類も自らの「道(タオ)」を放浪の旅で見つけることを訴えています。ハイリャンの支持者はヴェガンの言語を学び、人類の言語では表現しきれないヴェガン哲学を会得しています。
 ハイリャンは70歳を越えていますが、精力的にリム宙域の帝国領内を旅して、教えを広めて回っています。タオ=グウィは今はスイシュレシュの中に限られていますが、ヴェガ自治区やその周辺の人類の興味を惹き始めています。

ガシッダ Gashidda 1126 A36A969-E N 海洋・高技・高人 A G Im 軍政
 ガシッダは小型の割に濃い大気を持つ世界です。寒冷気候により海洋の多くは凍っていますが、赤道地方にのみ年中凍らない海が存在します。そしてガシッダには、人類の食用に適した多くの海洋生物(特に大ウナギに似たギキの卵は星域各地で珍重されています)を含む、豊かな生態系があります。ガシッダの都市は点在する島々の上と海中に、赤道で輪になるようにたくさん建設されています。ガシッダの大きな宇宙港は島嶼部の首都ニュー・モンドゥルキリ市にあり、星域最大の帝国海軍基地とLSP社の造船所が併設されています。
 -3500年頃にキマシャルグルによって最初に植民されたガシッダは、第一帝国がディンジールを手に入れた後に帝国統治の中心地となり、-3300年頃から星域首都となりました。第八次恒星間戦争の後、地球連合に割譲されたガシッダには大量の地球人移民が押し寄せました。様々な民族から構成された移民団の多くは、インドや東南アジア系の人々でした。やがて星域内の他星系と同様に、ヴィラニ文化は徐々に失われてソロマニ化が進んでいきました。
 ガシッダは地球人による征服の後、以前のような重要性を失いました。ガシッダの衛星に古くからあるヴィラニ海軍基地ですら、「人類の支配」の間に放棄されました。暗黒時代の間は自給自足で耐え抜き、ディンジール連盟には準加盟星系として参加しましたが、停滞したガシッダ社会は恒星間社会にあまり関わりませんでした。
 この状況は、ソロマニ主義の出現によって一変しました。一般大衆に人気の出たソロマニ主義は、急増する愛郷心と結びつきました。やがて伝統的な支配階級を選挙によってソロマニ党が追い落とし、新政府は多くの社会改革と工業化を実施して、低迷した星系経済を活性化させました。新しい造船所が建設され、ガシッダは軍民両方の艦船の一流の製造元となりました。ソロマニ連合が結成された頃にはガシッダは活力にあふれた世界となり、有力な指導者を何人も輩出して、新国家を導く星系の一つとなりました。ガシッダはソロマニ・リム戦争の間も愛国心で連合を支え、降伏を拒否して長期の爆撃と包囲戦の末に帝国に占領されました。
 現在、戦争の傷跡は癒えたかに見えますが、帝国統治への敵対心は強いままで、暴力事件は日常のものです。1030年までに帝国陸軍はゲリラの掃討を終えましたが、今も16万人の帝国陸軍所属の水軍部隊が撤退期限を設けずに駐留しています。ソロマニ党は非合法ですが、住民の多くは党への支持を続けています。それに取って代わる親帝国の政治団体を創る試みは、失敗に終わりました。
 さらに、多くの住民が信仰するいくつかの(似非も含む)宗教団体は、テラに対する神秘的な畏敬とソロマニ人の優越性を結びつけ、狂信的な集団暴行と組織化されたテロリズムに走っています。帝国による鎮圧の試みは、殉教者を増やしただけでした。
 近年、ガシッダ社会は「ソーマ」という強力な麻薬によって蝕まれています。ソーマの使用者は主に宗教的な恍惚感を激しく体験しますが、大量に使用すると、肉体は短時間狂ったように筋力を得、痛みを感じなくなり、やがて死に至ります。帝国当局はこの麻薬の製造元を追い、流通網を破壊することに苦戦しています。その間にも中毒問題の広がりと、突発的な暴力事件が引き起こされています。(自決を前提とした)暗殺者の血液中にソーマの痕跡があることから、反帝国宗教団体が儀式で薬物を用いている疑惑も持たれています。
 ガシッダの宙港街と主な海中都市における組織犯罪は、明らかにソルセックの旧諜報網と結び付いているソロマニ主義集団の影響下にあります。彼らは違法薬物をばら撒き、貨物潜水艇を乗っ取り、総会屋となって「金融抵抗活動」という名の企業恐喝を行い、資金洗浄もしばしば行っています。
 帝国軍は定期的に主要都市に巣食うテロ集団や犯罪組織を急襲していますが、数々の社会不安とテロ攻撃の危険性から、ガシッダはアンバーゾーンに指定されています。

ディンジール Dingir 1222 AA89A98-F NW 高技・高人 G Im 星域首都
 ディンジールは宙域史で最も重要な世界です。ここはキマシャルグル派ヴィラニ人によって-3500年頃に入植されて彼らの都となり、第一帝国に吸収された後の-2382年、地球人の挑戦に即応するためにクシュッギ属州の州都が遷されました。第八次恒星間戦争の後には地球連合の艦隊総司令部が置かれ、「人類の支配」建国直後の極短い間は首都でした。暗黒時代にはディンジール連盟の中核を担い、その後帝国とソロマニ連合が星域首都とし、ソロマニ・リム戦争を経て宙域首都となりました。
 ディンジールの特徴の一つは、その圧倒的な大きさです。直径16000kmを越える大きさゆえに、海洋比率は高くても総陸地面積はテラと同等なのです。さらにそれぞれの大陸は小さく分散しているので暖流が極地まで到達し、氷冠がありません。ディンジールの小さな大陸と広範囲に広がる諸島群はほぼ全て温暖湿潤気候で、農業や居住に適しています。ただし持ち込まれたテラ原産の動植物によって、土着の生物は取って代わられました。
 ヴィラニ帝国領としての長い歴史がディンジールにはありますが、現在の住民はほぼ全てが混血、もしくは純血のソロマニ人です。まだ親ソロマニ感情は存在しますが、ここ数十年の間に帝国情報部はソロマニ党の支持基盤を根こそぎ破壊しました。生き残ったソロマニ党組織は穏健的で、政府の非効率性や腐敗を糾弾する程度なので、帝国は黙認しています。また、この星には地球連合海軍総司令部があったことから、長きに渡る軍事的な伝統文化があり、(特に海軍の)軍人は住民から非常に尊敬されています。
 ディンジール政府は公式には様々な「国家」から成る連邦制で、多くの国は暗黒時代初期の民族分布図を引き継いでいます。これらの国家(という名の地方行政区)は地方自治権を保持していますが、星系統治は-1200年頃に設立された超国家的理事会である「人民連盟(League of Peoples)」が担っています。古代テラの国際連合のように国家間の軍事衝突を避けるために創られた人民連盟は、網の目のような条約を駆使して徐々に各国家の政治機能を掌握していきました。現在では地方ごとに文化や法律の多様性はありますが、人権問題、通商、防衛、外交は人民連盟の管轄です。
 ディンジールはXボートや主要通商路の結節点にあたり、偵察局基地(※惑星ディンジールの衛星サルムウにあり、帝国情報部の宙域本部も併設されています)や海軍基地もあるため、かなりの経済収益を得ています。繁栄は、過激なソロマニ主義運動を弱体化させることに大いに役立ちました。忙しく稼働している3基の巨大な軌道宇宙港は、元々の軌道宇宙港がソロマニ・リム戦争で全て破壊されたため(※犠牲者も多数出ました)、全て前世紀に再建設されたものです。
 ディンジールは高重力世界なので、1G加速程度の宇宙船の離着陸に支障が出ることがありますし、地元住民以外には住み心地が良くないため、メガコーポレーションの事業所の多くは軌道宇宙港に置かれています。高重力は観光客への訴求力の面でもマイナスに働きがちですが、多くの都市で4000年以上前の古代ヴィラニ建築様式や古いソロマニ建築様式の記念碑的な建造物を見ることができ、宙域内で最も素晴らしい博物館や美術館の数々があります。中でも「恒星間戦争記念館」は、第二帝国時代の戦艦の外殻の上半分を広大なドームとして地面に埋め込んだ作りになっています。他にも空を覆うようなブリカの空中都市(grav-city of Blyka)など、環境順応の手間も苦にならないほど魅力的な観光地の数々は、特にオーセンティストの観光客を惹きつけています。


【ライブラリ・データ】
ホアツィン Hoatzin 0617 A967986-E 高技・高人・肥沃 G Im
 不思議なことに、ホアツィン星系には金属成分が欠けています。鉄すら不足しており、ここでは貴金属とみなされます。現地通貨は金属硬貨を用いず、ステンレス鋼やチタン合金の「宝石」は、現地の富裕層の間ではおしゃれと考えられています。金属を星系外から大量に輸入できるようになった今では、ホアツィンの関税法は完全に時代遅れとなっているのですが、住民は伝統を守り続けています。
 低い金属含有量によって惑星学的にホアツィンは変わった挙動を引き起こすのですが、居住自体にはあまり問題がありません。惑星の一部地域は地質学的に不安定で、頻繁な地震と火山噴火に苦しめられます。しかし多くの土地があるこの星では、危険地域を避けて都市を建設することができました。
 ホアツィンには-4000年頃からヴィラニ人の入植が始まりましたが、惑星の極端な金属不足は大規模入植を阻みました。地球人の入植が始まったのは第九次恒星間戦争の後で、その多くは南アメリカ系の人々でした。
 入植地は暗黒時代に工業用重金属の輸入が止まり、大きな打撃を受けましたが、ホアツィンの人々は、石、堅木、陶器などの代用物でどうにか間に合わせました。
 300年頃、イースター協定の探査船がホアツィンと再接触しました。そこで彼らは、民主的かつ開放的で、重工業に頼らず、素晴らしい手仕事をする、繁栄したTL7社会を目撃しました。それから数世紀の間、ホアツィンは贅沢品(動物の毛皮、珍しい木材、小美術品など)を輸出していました。発展は遅いものでしたが、社会は安定していました。
 ソロマニ政権時代のホアツィンにはソロマニ主義が押し付けられた一方で、近隣星系のアルクル(0518)とフリオーソ(0717)を取得し、ホアツィンで新たな産業を開発するために鉱山植民地を建設しました。さらにシュトラールズント(0618)と緊密な関係を結び、産業用素材を手に入れました。ホアツィンの人々はソロマニの支配者に苛立っていましたが、この間に高度経済成長を成し遂げました。ソロマニ・リム戦争後は帝国に忠実な世界となり、工業化路線を継続しました。
 現在のホアツィンは非常に対照的です。「旧市街」に属する大部分の都市や街は暗黒時代の古い生活様式を守っています。建物は低く造られ、都市は田園地方の広範囲に無計画に広がっています。ビジネスや政治、社会生活の全てはゆっくりとした速度で行われます。建築物や車両などあらゆる物は実用性と美術性の両方を重視して設計され、代わりの利かない所のみで金属が用いられます。
 一方、「新市街」は工業化されていて、発展こそしていますがごみごみとした場所です。利益を重んじ、「貴金属」は使い捨てにされています。多くのホアツィンの人々は新市街には住みたくないと思っていて、新市街で働く場合でも長距離通勤を選びます。産業の中心地である新市街には移民が多く、旧市街の住民が嫌うソロマニ主義の温床ともなっていて、両者間の緊張はリム戦争後からずっと問題になっていました。また多くのソロマニ人実業家はリム戦争の後もここに残留し、何割かは帝国に馴染もうとはしませんでした。過激な抵抗活動の支援こそしていませんが、より巧妙に反帝国活動に関与している疑いがあります。

シュトラールズント Stralsund 0618 B0007BE-E 高技・小惑・非農 Im
 シュトラールズントは明るく輝くA型準巨星アルデラミン(ケフェウス座α星)の軌道上にある小惑星帯です。巨星星系によくあるように、アルデラミンは惑星を持っていませんが、小惑星帯は商業的価値の高い鉱物資源を豊かに含んでいます。
 独裁者トルーマン・チャン(Truman Chang)による厳格な支配体制は、ソルセック由来の「技術」を持つ治安部隊や傭兵によって支えられています。またLSP社との間に採掘と鉱石精製に関する独占契約を結んでいるため、外世界の宇宙鉱夫は受け入れられておらず、星系政府所有の惑星防衛艦がLSPの管理下にない探査船を追い払っています。

フリオーソ Furioso 0717 A9C5761-D 高技・非水 G Im ホアツィンが領有
 フリオーソは工業で用いられる重金属が豊かな、極寒の世界です。ここは近隣のホアツィン星系(0617)の一地方として統治されていて、住民はホアツィン共和政府の正式な市民として認められています。産業は鉱業と製造業に特化して営まれています。
 水素とメタン、アンモニアから成る大気と、硫酸で出来た海を持つこの星には、変わった生命が存在します。アイス・クロウラー(Ice Crawler)は、テラの芋虫のような体型をした全長3メートル、5対の脚を持つ生命体です。そして11本目の「脚」は体の後方に伸びています。多数の指は、氷の表面で滑らないためのものです。そして前方の4本の脚で岩を砕き、胴体の先端部にある口(頭にあたる部分はありません)に放り込みます。アイス・クロウラーは水素やメタンを呼吸し、炭素や珪素を食べる生き物ですが、体内で岩から珪素を取り出す際に「有毒な」酸素が発生します。彼らは酸素を特別な器官に溜め込み、大気中の水素と化合して、身の危険を感じた時に前脚の開口部から噴射します。この可燃性ジェットは防護服に損傷を与えるほどの威力です。
 この武器は、天敵のアイス・スパイダー(Ice Spider)から身を守るために進化したものと考えられています。アイス・スパイダーは全長1メートルほどの捕食性の肉食動物です。彼らは群れで狩りを行い、その知性はイルカやチンパンジーと同等の、知的生命手前の段階と異星生物学者は考えています。
 なおこれらの生物は人間(や彼らの行先を邪魔するもの)も捕食するため、非常に危険です。その攻撃性とフリオーソの猛毒大気によって長期間の調査活動が難しいため、まだ彼らの生態はよくわかっていません。

マヌエル・アルバダウィ Manuel Albadawi
 -2339年生、-2267年没。出身はテラ(ソロマニ・リム宙域 1827)。
 第八次~第九次恒星間戦争で地球連合軍を率いて大勝利を収めたアルバダウィ提督は、ソロマニ連合の「アルバダウィ海軍兵学校(Albadawi Naval Academy)」や帝国領のアルバダウィ星域にその名を遺しているように、ソロマニ主義者だけでなく一般的なソロマニ人の間でも英雄として語り継がれています。中でも彼が青年期と晩年を過ごしたイイリク(ソロマニ・リム宙域 1429)ではより熱烈的です。多くの歴史家(特にソロマニ連合の)は、アルバダウィ提督を恒星間戦争時代で最も偉大な指揮官と考えています。

オート=ボードゥアン家 haut-Beaudoin family
 帝国貴族としてのオート=ボードゥアン家は、582年にディンジール連盟が帝国に加盟した際にセバスタ(ソロマニ・リム宙域 0923)の伯爵として登用されたのが起源です。同家はソロマニ政権下でも帝国への忠誠を保ち続け、ソロマニ・リム戦争では危険を冒して帝国海軍に馳せ参じました。当のセバスタ伯(現当主ロバート公の祖父)は戦死してしまいましたが、これまでの忠義への恩賞として相続人にディンジール公爵の地位が与えられました。
 現在のオート=ボードゥアン家は、ソロマニ・リム宙域公爵家でもあります。オート=ボードゥアン公爵家の継承者は代々帝国海軍での軍歴を積んでおり、現公爵の後継者であるエリカ(Erika haut-Beaudoin, Erika Chandos Beaudoin)も現在ディアスポラ宙域海軍に勤めています。彼女は(帝国貴族には珍しく)海軍情報部でソロマニ情勢研究員の経歴を持ち、ソル大公府と海軍の橋渡し役にもなっています。

キマシャルグル Kimashargur
 第一帝国は領土の拡張や科学技術の発展を抑制することで、国家の安定を図りました。しかしその方針に不満を募らせていた一部のヴィラニ人は、辺境に自分たちの理想を求めました。このキマシャルグル(ヴィラニ語で「第一の徳(Virtue of the Foremost)」)運動は-3700年頃に興り、-3500年頃にはディンジール(ソロマニ・リム宙域 1222)を中心として現在のアルバダウィ星域からソル星域にかけて「小帝国」を築いています。100年後にはそれは第一帝国に併合されましたが、開明的なキマシャルグル派ヴィラニ人の存在は、後の地球人との戦いに少なからず影響を与えました。

エンスラル条約 Treaty of Ensulur
 第八次恒星間戦争の休戦条約を、締結された星の名前を取ってエンスラル条約と呼びます(ただし現在ではその星はオウデュ(ソロマニ・リム宙域 0921)と改称されています)。この条約によってディンジール星域を含む第一帝国の辺境領を得た地球連合は、帝国中央への足掛かりを得たのです。
(※「エンスラル」の綴りは、『Imperium』では「Ensular」、『Supplement 10』では「Enulsur」、GURPS版では「Ensulur」と変遷しています。今回は綴りはGURPS版を採用し、読みをインペリウム版に近づけました)

ヴァンサラの真理 Vanthara Truth
 ソロマニ政権以前のガシッダ(ソロマニ・リム宙域 1126)で、救世主のごとくソロマニ主義を説いた哲学者ヴァンサラ・ノイ(Vanthara Noy)の名を冠した「ヴァンサラの真理」は、ソロマニ主義の精神的会得と人類の故郷であるテラ(同 1827)の崇拝を教義としている、ガシッダの反帝国宗教団体です。
 1090年に、帝国はテンジン導師(Master Tenzin)の逮捕に踏み切りましたが、マカラ海中アーコロジーで暴動が発生し、ソロマニ闘士が大学、核融合炉、潜水艇ドックを占拠する事態になりました。帝国陸軍による「シードラゴン作戦」は市民の犠牲を最小限にして都市を奪回し、海中特殊作戦の模範的好例となりましたが、テンジンの死によって更に流血の暴動が発生しました。


【ボードゥアン家とステファノス家の関係をめぐる私的考察】
 冒頭で記した通り、宙域公爵のロバート公は両親が共に星域公爵という珍しい(かどうかは不明ですが)血縁関係にある…と断定しました。根拠をまとめると、

  • 1120年当時のアルバダウィ星域公爵はイレーナ・ステファノスという女性。彼女はガイアの反ソロマニ活動の指導者であったステファノス家の血筋と、ソロマニ政権以前のアルバダウィ公爵家(※735年に唯一の後継者がソロマニ運動に身を投じたために貴族としては断絶)の血筋を両方共受け継いでいる。(『Rim of Fire』)
  • ロバート・ステファノス・ボードゥアンは、ディンジール公爵ウィリアム・ボードゥアンとレディ・アレクサンドラ・ステファノスの長子として1057年150日に誕生。(『Nobles』)
  • 1105年当時のアルバダウィ星域公爵はアレクサンドラ・ステファノスという女性。彼女にはイワンとイレーナという子供がいる。(マングース版『The Solomani Rim』)

 レディは爵位を持たない貴族女性への敬称ですから、「アレクサンドラ・ステファノス」が同一人物であるのはほぼ間違いないでしょう(近い場所に同姓同名さんがいるのはフィクションとしてはややこしすぎますし(笑))。逆に、爵位を持っていないということは、アレクサンドラは本来はステファノス家を継ぐ存在でなかったからこそボードゥアン家に嫁いだのではないか、という推測が成り立ちます(※余談ですが、ステファノス家の女性がライラナー公爵のキルガシイ家に嫁いでいる設定もありますが、距離が遠すぎるため「たまたま同姓」説もあります)。
 ところがロバートを出産後にステファノス家の方で後継者問題が発生して、色々支障が出るので泣く泣く離婚して公爵位を継承したか、単に夫婦関係のもつれで離婚した後にたまたま公爵位を継承したかはわかりませんが、とにかくアレクサンドラは後に「旧アルバダウィ公爵家の子孫」の男性と再婚して二子をもうけた、と読み取れます。
 なおイレーナがアルバダウィ公爵家を継いでいるということは、コリドー艦隊にいるイワンは第五次辺境戦争で戦死してしまったのかもしれません。
(※マングース版『The Solomani Rim』には、ロバート公は「66歳」という記述があります。『Nobles』によれば父ウィリアム公は1097年没で、ソロマニ人の寿命が大体100年程度ということを考えると、ウィリアム公は980年代~1002年生まれと仮定できます。さらに、祖父セバスタ伯がソロマニ・リム戦争開戦後に悠長に子作りをしていたとも考えにくいので、980年代末~990年代前半の可能性が一番高そうです。となると、1057年というのは貴族の家が長子を持つにはちょっと遅すぎで、むしろ「ロバート公は1039年生まれ」の方が理に適っているように見えます)


【参考文献】
・Imperium (Game Designers' Workshop)
・Supplement 10: The Solomani Rim (Game Designers' Workshop)
・Journal of the Travellers' Aid Society #17 (Game Designers' Workshop)
・GURPS Traveller: Rim of Fire (Steve Jackson Games)
・GURPS Traveller: Nobles (Steve Jackson Games)
・GURPS Traveller: Interstellar Wars (Steve Jackson Games)
・Third Imperium: The Solomani Rim (Mongoose Publishing)
・Solomani & Aslan (Digest Group Publications)
・Travellers' Digest #13 (Digest Group Publications)
Comments (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする