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宇宙の歩き方

The Astrogators' Guide to the Charted Space.

レビュー:『異星人の街カストロバンクラ(Castrobancla, The City of Aliens)』

2016-09-26 | Traveller
 『異星人の街カストロバンクラ(Castrobancla, The City of Aliens)』は、2016年9月にAlex Greene氏がTASライセンス下で公開した作品です。TASではあるのですが、「第三帝国(The Third Imperium)」とは関係のないオリジナル設定であり(もちろん組み込むことは十分可)、TASの利点を活かさないどころか儲ける気すら感じさせないあたりが清々しいです(笑)。ルールは当然マングース版トラベラーが前提となっていますが、トラベラー系システムに限らずスペースオペラSF-RPGであれば転用は問題ないでしょう。
 ちなみにAlex Greene氏は『Book 10: Cosmopolite』の著者でもあるので、Mongoose Publishing社に義理を立てたという可能性も考えられなくもないのですがそれはさておき。


 このPDFにぎっしりと収められた66ページに及ぶ文書は、宇宙のどこかにあるというカストロバンクラという成人人口25万人の街(とその周辺)の解説です。表題のカストロバンクラは惑星アマルジャ(D866684-8)の砂漠地帯の盆地にある街なのですが、実はアマルジャ自体が星間流通網からは外れていて、恒星間商船は主にBクラス宇宙港のある衛星カンドラ(B200333-C)に出入りしているのです。
(※一方でアマルジャにはAクラス宇宙港がある、という矛盾した記述もあるのですが誤植なんだろうか…?)

 そしてカストロバンクラに関する設定は詳細です。宇宙港手続きの通過方法に始まり(〈外交〉で面倒な検査をパスできるって…(汗))、宇宙港から街へのアクセス方法(マグレヴ(磁気浮上式鉄道)に乗ればすぐですが、あらゆる不法侵入手段も網羅)、各街区(Wards)ごとの商店の並びや治安状況、遭遇表(治安の良い地域と悪い地域では出てくる内容が異なるこだわりぶり)、パトロンになってくれそうな市民表(当然結末は6通り)、主な施設(真っ当な商店から奴隷市まで、闘技場にホストクラブも何でもあり!)、そして表題通りに、カストロバンクラに居住する様々な(癖のありまくる)異星人たち、と怪しげなごった煮と化している街が存分に表現されています。

 この星の治安レベルは4、つまり拳銃や散弾銃の携帯は合法、治安の悪い所ならもっと凶悪な武器に出くわすことも想定される水準ですが、ですから常に油断はできません。街に入れば早速ギャングが出迎えて偽造品を売りつけようとし(本物の商店を見分ける判定すら用意されています)、街を歩けば狙撃されそうになったり、火事に交通事故に暴動に出くわしたり、挙げ句の果てには向精神作用のある粉を振りかけられたりと、ハプニングには事欠きません。
 じゃあ警察や軍隊は何をしているのかというと、これでもちゃんと仕事をしていて専用の遭遇表が用意されているので、悪いことをするのも大変です。TL8世界なのにTL10で武装しているので、敵に回すとなかなかの脅威となります(でも所詮治安4なので、〈交渉〉や〈贈賄〉が結構物を言うのも否めません(汗))。
 ごみごみとしたスラムがあるかと思えば上流階層の住む「別世界」もあり、場合によっては近隣の大砂漠や山岳地帯に出向くこともあるでしょう。工業地域も農業地域もちゃんと設定されています。つまり、世界設定自体が生き生きとしているのです。

 タイトルの通り、この街には多くの異星種族が住んでいます(遭遇表の確率から想像するに、人類の方がやや少数派と思われます)。これがまた個性の強い面々揃いで、生まれながらの悪党バンダルク(Bandaluk)、暇があれば悪戯に走るドヴォーザ(Dvora)、街の調停者を自認する戦士種族クボタウラー(Kubotaur)、その「魅力」に人類は決して抗えないペラクー(Pelacur)、対砂漠防護服を決して脱がない謎の原住種族「開拓者(Settlers)」、寄生知的生命体に乗っ取られた「宿主(The Host)」(別名「ウマ(Chevals)」)、のそれぞれに簡単な解説とキャラクター作成ルールが用意されています(まあ演じるのは大変でしょうけど…)。

 あと足りない要素は、キャラクターがこの街に至る動機です。これはレフリーやプレイヤー本人が考えなくてはならないのですが、本文で例示はされています。実はここは意外と観光施設が充実していますし、企業人なら仕事で訪れることもあるでしょう。自然環境の研究に来る学者もいます。一番わかりやすいのは、何かをしくじって一時的な「隠れ家」を求めている人でしょう。金、権力、そして愛…、何でもありのこの街は、あらゆる人々を受け入れてくれます。


 これだけのものがPay What You Want(俗に言う「投げ銭」)制で手に入ってしまうんですから、いい時代になったものです(笑)。ただ惜しむらくは、地図が全く載っていないということです。せっかく詳細に街区の設定が起こされているのに、簡単でもいいから地図がないと逆に使い辛さを感じてしまいます。惑星図もあまり多用しないとはいえイメージを喚起するには十分必要なので、これは欲しかった。コストや手間の面でやれなかったのはわかってはいるんですが…。
 とはいえ、ここを舞台にキャンペーンを組むも良し(TL8世界なのでSF感は薄いですが、逆に外部から持ち込まれた高TLの産品が輝くともいえます)、パトロンとの遭遇や目的地にしても良し、とレフリーにとっては使い勝手は非常に良さそうです。ネタ帳代わりに手元に置いておくには非常におすすめの一冊です。


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