宇宙の歩き方

The Astrogators' Guide to the Charted Space.

MT日本語版30周年企画:ジュリアン保護領とアンタレス(前編)

2021-05-31 | MegaTraveller
 ヴァルグル諸国(Vargr Extents)と飛び地(Vargr Enclaves)に挟まれるように位置し、帝国の銀河核方向(コアワード)側に隣接する「ジュリアン保護領(Julian Protectorate)」では、ヴィラニの血が濃い人類とそのほぼ同数のヴァルグルが共同社会を建設しています。帝国市民には歴史の授業で学んだジュリアン戦争(175年~191年)の交戦国として知られていますが、その戦争での敗戦の屈辱を和らげるためにか、偉大なる第三帝国の影に隠れた小国の一つという認識が長く続けられてきました。
 しかし1116年からの反乱によって、帝国市民はジュリアンの底力を目の当たりにしています。保護領海軍である「護星軍団(スターレギオン)」の戦力はデュリナー麾下のものと比べても遜色はなく、外交の影響力はウィンドホーン裂溝を越えたヴァルグル諸国にまで及んでいます。加えて保護領は、巨大企業メンデレス社(Menderes Corporation)を擁しているのです。



■歴史
 「ジル・シルカ(第一帝国)」の時代、現在のメンダン、メシャン、アムドゥカン宙域はそのほとんどが三部局の一つであるマキドカルンの管理下にありました。例外はヴランド宙域から続くメンダン・メインと、その先にあった資源星団圏で、それら約100星系が共同管轄されていました。この資源星団圏には恒星間戦争終結前の-2219年頃からソロマニ人商人が集まるようになり、彼らの知識と経験の貴重さは、「人類の支配(第二帝国)」の皇帝ヒロシ2世がその地の責任ある地位に軍人ではなく商人を就けたことからも伺えます。やがて第二帝国の多くの地域が衰退していきましたが、その商人らの一族は中央からの先細る支援の中でも地域を維持していけました。

 一方、ミカシルカ圏(現在のアンタレス星団近辺)に目をつけたソロマニ系企業のスコーピオン社(Scorpion Company)は、シャルーシッド社と協力して毎年何千人もの入植者を募集しました。その多くが衰退する故郷を捨てたヴィラニ人でしたが、新天地での一獲千金を夢見たソロマニ人や、手数料目当ての斡旋業者に連れて来られた人々もいました。彼らは冷凍睡眠でアンタレス周辺の世界に入植していきましたが、そこから更にメンダン・メインを通って核方向の世界に向かった者や、国境を越えてガシカン宙域やトレンチャン宙域の未開拓地へ向かった者もいます。開拓者らによってこれら地域の経済は大いに活気付きましたが、衰退を続ける中央との落差は日増しに大きくなっていきました。歴史学者の多くが第二帝国の終焉と位置付ける-1776年は、財務省アンタレス支局が発行した通貨を首都ハブ/エルシュルの財務省が受け取りを拒否した年です。

 第二帝国の衰退が進むと、核方向からヴァルグルが旧マキドカルン区域に流入してくるようになりました。初めは新たな労働者として歓迎されましたが、必然的に海賊や略奪者が付いてくるようになり、人類とヴァルグルの間にまだ共存の作法が見つけられていなかった時代だったこともあり、暗黒時代を通じて両者には諍いが絶えませんでした。特にガシカン宙域では-1658年にヴァルグル海賊がガシカンに核兵器を投下して略奪を働き、それを切っ掛けとした報復の連鎖は遠くアンタレスにまで種族間の憎しみを煽りました。

 ガシカン第二帝政(Second Empire of Gashikan)は、ヴァルグルの台頭が人類の存在を脅かすという信念のもとに-1646年に建国されました。ガシカン宙域から海賊を駆逐するという帝政の努力は正攻法では実らず、むしろ反撃を受けたことで人類のヴァルグルに対する恐怖と憎悪は狂信的な域にまで高まって社会に深く根を下ろしました。異種族排斥の風潮は周辺宙域にも広まり、ガシカンはそんな星々を「保護」することで勢力を拡大していきました。ただ、ガシカンの風下に立つことを良しとしない星系もあったため、熾烈な統一戦争に至りました。最終的に第二帝政はガシカン宙域のほとんどと、トレンチャン宙域やメンダン宙域の半分を支配して、ヴァルグルの侵入を苛烈に防御し続けました。「ガシカン種族間戦争(Gashikan Race Wars)」とも呼ばれる大規模な交戦が終わった-1000年頃には国境内のヴァルグルは根絶やしにされていましたが、それはヴァルグルへの偏見が徐々に反転していく兆しでもあったのです。

 ヴァルグルへの寛容の芽生えは、メンダン宙域やアムドゥカン宙域のガシカン国境外の星系で起こり始めました。人類はそれが自分たちの脅威とならない限り、悪環境の惑星にヴァルグル移民を受け入れるようになったのです。そしてヴァルグルを単に殺すよりも奴隷化した方が利益になることに気付きました。ヴァルグル奴隷は巨大産業になり、-300年頃には最盛期を迎えます。
 そしてここで、宙域史にあのメンデレス社が登場するのです。

「なぜ奴隷を従業員にしたかって? その方が儲かるからだよ」
――カリク・メンデレス
後世の連続ドラマより

 メンデレス社は元々アシミキギル(アムドゥカン宙域 0223)の最大企業でした。その力の源泉は労働力の大半を占めていた数百万人ものヴァルグル奴隷の存在でしたが、同業他社との違いは、メンデレス社は奴隷たちが「幸福」で「やりがいのある」ように職住環境を整えていたことでした。
 同社はついには-321年に奴隷を「従業員」として解放するにまで至りました。利益追求の一環とはいえこれはアシミキギル社会を大きく動かし、-302年には奴隷制が違法となり、それは周辺星系にすぐに飛び火しました。メンデレス社は周辺星系に差別撤廃を「説得」しようなどとはせず、商取引の一要素に加えるに留めましたが、この方針は地域社会に大きく影響を与え、訪れたヴァルグル移民は人類の憎しみを買うことなく定住と有益な交流の機会を得られたのです。
 -275年、メンデレス社は星間輸送をヴァルグル商人に託すという前例破りに踏み切りました。当時はガシカン企業のクドゥカラ運輸(Kudukara Lines)が国境内外の星間輸送を独占しており、ガシカン以外に造船能力を持つ星系は少なかったのですが、メシャン宙域のヴァルグルはそれを持っていたのです。このことによりヴァルグル商人たちが次々とメンデレス社に接近し、同時に彼らもメンデレスの方針を受け入れていきました。とはいえ地元アシミキギルですらそれには賛否両論が沸き起こり、論争の的となりました。しかし当主トラン・メンデレス(Tran Menderes)はそれにもめげず、-247年にはヴァルグルの技術を導入した造船所で初の宇宙船「ミアンダー(Meander)」を完成させました。トラン本人は処女航海で命を落としたものの、造船所で続々と建造された宇宙船はすぐにクドゥカラ運輸との「戦場」に向かっていきました。両社は6度の貿易戦争を行い、いずれもメンデレス社が勝利しました。メンデレス社はヴァルグル諸国と飛び地を結ぶ商社として急成長し、ヴァルグル交易で莫大な利益を得たのです。

 この地域では、シレア連邦(Sylean Federation)が〈帝国〉と国号を改めて台頭してきたことに、ほとんど関心を払っていませんでした。しかしその間にも、メンデレス社の交易圏内にあったアンタレス宙域などの星々が〈帝国〉や帝国企業の手に落ちていきました。〈帝国〉に抗したアンタレスの有力者たちは核方向に逃れ、シレアの新参者への恨みを募らせました。
 当時の〈帝国〉がヴァルグルをほぼ容認していないことは明白でした。ヴァルグル圏にあったコリドー宙域での振る舞いにそれは顕著に表れており、コリドーを通過してより辺境に向かう植民船団を守るために、〈帝国〉は友好的な交渉よりも威嚇や接収を多用したのです(※〈帝国〉はヴァルグル住民を強引に立ち退かせた土地を、由緒の怪しいヴィラニ貴族に「返し」たりしています)。
 そしてメンデレス家は、やがて〈帝国〉が旧領回復を狙って核方向の宙域にも攻め込んでくるだろうと予期していました。それは自社の商売にとっては非常に不都合なことだったので、メンデレス家は両種族に〈帝国〉に対抗する「共通の目的」を与える宣伝戦を仕掛けました。その結果、166年に〈帝国〉は親善大使として偵察局と外交団を派遣して核方向諸国の平和的な再吸収を目論みましたが、メンデレスの影響で冷ややかにあしらわれただけでした。

 この状況に苛立った皇帝マーティン1世は帝国軍をメンダン宙域に送り込み、175年に「ジュリアン戦争(Julian War)」が始まりました。〈帝国〉はこの地を簡単に平定できると見ていましたが、しかし人々は驚くべき抵抗を見せ、予想外の団結力を示しました。戦前、この地域は何十もの独立した小国に分かれていましたが、開戦後にはアシミキギル連合(Asimikigir Confederation)とメンデレス社、そして178年に摂政(regent)位に就いた当主ジュリアン・メンデレス(Julian Menderes)の下に「ジュリアン保護領(Julian Protectorate)」として集結したのです。人類もヴァルグルもジュリアンを威信ある指導者として仰ぎ、狂信的な忠誠心で支えました。ヴァルグルの機知力と人類の決断力が融合した軍隊は「護星軍団(スターレギオン)」と呼ばれ、185年には宙域内の帝国軍を退け、その後もアンタレス宙域の帝国領へ侵攻を続けました。
 191年に〈帝国〉は和平条約の調印に応じ、最終的解決策としてレギオンが占領したアンタレス星団12星系に自治権を与えることで合意しました。レギオンは帝国領内から撤兵し、かつて〈帝国〉に故郷を追われたアンタレスの有力者たちが自治区の領主として舞い戻りました。そしてこの自治区となった12星系は「アンタレス同盟(League of Antares)」を名乗ります。ちなみにアンタレス同盟の設立は、後のソロマニ自治区制定などの手本となっています。
 戦時に急造されながらも「戦勝国」となったジュリアン保護領は解体せずに、同じく191年に恒久組織化されました。〈帝国〉の侵攻を阻止するために結成されたことから保護領は統一された星間国家を目指さず、防衛同盟としての機能を強めました。同時に国防軍としてのスターレギオンも発足しています。



 ジュリアン戦争後、「敵」を失った保護領の結束力は徐々に弱まっていきましたが、過去4度ほどいきおい強まったことがあります。まず1度目が〈帝国〉の第一次大探査(First Grand Survey)の時で、〈帝国〉が収集した情報を再侵攻に利用するのではないかとの疑念が生じたからです。この時は多くの加盟国が帝国偵察局の活動を拒みました。それでも〈帝国〉が秘密裏に探査を続けたため、保護領諸国と〈帝国〉の友好関係は一気に冷え込みました。レギオン海軍が哨戒を続ける中、偵察艦とのいたちごっこは420年に探査結果が公表されるまで続きました。〈帝国〉は数々の妨害に負けずに、かなりの高精度で探査を終えることに成功したのです。
 2度目は486年~499年です。382年に当時の皇帝マーティン3世が開始した「遣星使(Alien Missions)」と呼ばれる一連の計画の一つとして、帝国偵察局はヴァルグルをより深く知ろうと異星生物学者や報道関係者や外交官などをヴァルグル諸国に派遣していました。しかし、保護領内の過激な反帝国派が調査団の先回りをしては地元政府に追い返すよう働きかけていたのです。この企てが失敗すると今度は暴力に訴え、しばしば海賊団を雇っては偵察局の船を襲わせていました。皇帝クレオン4世はそれらに対処するために帝国海軍情報部を派遣し、彼らは反帝国活動を無力化するために「様々な努力」を惜しみませんでした。この「隠密戦争(Hidden War)」は、ジュリアン保護領内の〈帝国〉への感情をより悪化させる結果を招きましたが、妨害を廃された偵察局は計画を当初より縮小しながらも次の段階へと進むことができました。
 3度目は第二次大探査(Second Survey)の時で、前回の大探査の時と同じような事態となりました。しかしこの時は〈帝国〉は秘密裏にではなく外交筋からの正規の申し入れを経て堂々と探査を行っています。とはいえスターレギオンとのいくつかの小競り合いや、偽情報を掴ませようとする妨害など、事件がなかったわけではありません。
 そして4度目が現在(※1120年)です。ヴァルグル諸国で高まった反帝国の「衝動」は保護領内でも全く無関係とは言えず、保護領はそれへの反発に備えて(実戦経験が乏しく「張り子の虎」と揶揄されていた)スターレギオンをジュリアン戦争以来の最大規模の増強を行っています。


■反乱とジュリアン保護領
 〈帝国〉の分裂は、ジュリアン保護領にも大きな変化をもたらしています。ウィンドホーン宙域では、ヴィラニ系巨大企業がメンデレス社の最強の挑戦者として浮上してきました。反乱前はマキドカルン社がヴァルグル諸国内に点在する人類星系を対象に細々と商売をするだけでしたが、今ではヴィラニ系企業はそこを足掛かりにヴァルグル市場に続々と進出してきています。
 何より問題なのが、ヴィラニ人がヴァルグルとの商取引で驚くべき才能を開花させたことです。かつての帝国人はヴァルグル諸国で大規模な交易を行おうとしても不器用に自滅していきましたが、近年のヴィラニ人は素早く学習して適応してきたのです。そしてメンデレス社に数百年の知見があっても、ヴィラニ系4大企業にはそれを補って余りある莫大な資本力があるのです。
 メンデレス社は自社の防衛のために、ヴィラニ企業の進出によって損害を受けた他のヴァルグル系企業と提携して貿易戦争を仕掛けています。メンデレス社は直接行動こそ避けていますが、ヴランド宙域内の競合企業に情報提供を行ったり、時には社内工作員がダグダシャアグ宙域まで出向いてヴランドと近隣勢力の反目を誘発させたりしています。

 そして〈帝国〉のアンタレス領域改め「アンタレス同盟」のブルズク大公も、ジュリアン情勢に大きな影響を与えています。反乱発生までは凡庸な指導者でしたが、政治情勢を巧みに操る外交の天才として瞬く間に頭角を現してきたのです。彼曰く、反乱の混乱で帝国宇宙はヴァルグル指導者が活躍できる環境に変わったとのことです。多くの人類指導者が政治の暴風に振り回される中、自分はその風に乗って飛ぶことを学べたのだ、と。
 ジュリアン系のヴァルグルにも沸き起こった反帝国感情の波は、一般大衆の間でブルズク大公を一躍注目の的としました。そこで彼は、保護領内の人類にも一定の支持が高まるまでそれを利用することを控えてきました。加えて彼は、政治の世界では二面性を持っていました。ジュリアンに対しては自分やアンタレス市民を帝国人としてではなく、キャピタルの支配に憤慨している同胞として見せ、アンタレス市民に対しては〈帝国〉への不忠を否定しつつもルカンの統治は激しく非難してみせました。
 しかし貴族らの支持を得られなかったブルズクは合法的な皇位継承の道を絶たれ、結果的にアンタレスは一時的にでも〈帝国〉から離脱するほかなくなりました。1118年012日、アンタレス同盟は保護領に加盟し、すぐにスターレギオン艦隊がアンタレス艦隊と共にルカン軍との戦いに加わりました。
 時間の経過とともに保護領内で厭戦気分が高まることを承知の上でブルズクは、アンタレスとジュリアンが一体となっている今のうちにルカンを共通の敵、憎しみの対象として描こうとしました。ルカンを生贄とすることで、ルカンを排除した後に保護領が新帝国に加わることを期待したのです。仮にブルズク本人がイリジウム玉座の主になれなくとも、建国以来の悲願を成し遂げたその功績からすれば、新帝国での地位と権力は莫大なものとなるはずなのです。

 1118年から1119年にかけて、ジュリアンとアンタレスは戦友の関係にありました。しかし1120年になると、保護領市民は自分たちを無意味な戦争に巻き込んだアンタレスに憤りを感じ始めました。ブルズクはその空気を感じとるや、保護領が旧ガシカン第二帝政に属していた、そしてヴァルグルへの偏見を未だ隠そうともしない2国を新加盟国として迎えようとしたことを口実に、あっさりと保護領から離脱してみせました。
 その頃にはスターレギオンの援護なしでもアンタレスが自立できるほどに、ルカン軍は弱体化していました。そして距離は離れていても、アンタレスとジュリアンには悠久の強固な絆が残されています。現在でも保護領の辺境方向(リムワード)側の加盟国はアンタレスと密接な関係を保っています。

(※やがてアンタレス同盟は、1123年に〈帝国〉からの完全なる独立を宣言しますが、領内の帝国残留派との溝を深めたブルズク大公は求心力を失い、その勢力は衰退する一方となりました。ついには1129年271日、政府中枢の置かれていた軌道上宮殿セリーズ(Cerise)の核融合炉が爆発し、大公一家やほとんどの政府高官が死亡したため、同盟は混乱と暴動の中で瓦解していきました…。なお、爆発原因についてはルカンの工作員もしくは人類至上主義過激派「スペリオリティ」の犯行と見られていますが、真相は不明です)


■保護領の知的種族
人類(ソロマニ系・ヴィラニ系) Humaniti
 現在の保護領近辺は第一帝国のヴィラニ人が入植した後に、ソロマニ人が進出してきた宙域です。第二帝国のヴィラニ系市民はソロマニ文化を受け入れたり、ソロマニ人との混血を進めたため、今では両者を区別することは極めて難しくなっています。ただし、文化面ではヴィラニの影響がまだ残っています。
 言語はアングリック(ギャラングリック)のトランスフォーム方言が主に話されています。これは元々アンタレス方言で、第二帝国時代のスコーピオン社による入植事業によって銀河核方向の宙域に広まったと言われています。また、ヴァルグルとの長い付き合いから、いくつかの言語変化を起こしています。

ケデプ人 Kedepu
母星:ケデパー(スターズ・エンド宙域 1005)
 ケデプ人はやや背が低めなこと以外は、平均的な人類と外見面であまり差はありません。しかし、彼らの歴史や文化には豊かな精神性を育むような文学や宗教といったものは全く無く、精神疾患も犯罪もほぼありません。その代わり、人類の中でも比類のない学習欲を持っています(※他の人類より特段知能が優れているわけではありません)。
 彼らにとっては知識と知識の交換こそが最も好まれる娯楽で、社会全体がそのように構築されています。ケデプ人は新しい技能や知識を得るために全く異なる業種に転職を繰り返したり、他者にそれを伝授したりします。ケデプ人はロレアン支配圏の高技術製品に興味を持ちましたが、彼らが熱心に欲しがったのは製品そのものではなく製造工程の方でした。
 そしてケデプ人は、ロレアンから知識や新技術を手に入れては研究を行い、研究成果をロレアンに納めるようになりました。ただしケデプ文化を守るために、現在のケデプ人の技術基盤では維持できないような技術は持ち込まず、導入される際にも事前に十分な教育が施されています。また、ケデパーに住む非ケデプ人口は総人口の35%以下に制限されていますが、これはケデプ人に異民族恐怖症の気があるからです(ケデプ人は認めませんが)。ケデパーに技術支援などで移住する者についても、人種差別的思想がないかどうかまず心理学検査を受けることが義務付けられています。

ヴァルグル Vargr
 宇宙各地に拡散したヴァルグルには様々な民族文化が存在しますが、保護領内のヴァルグルは基本的にイリリトキ文化圏に属しています。他には少ないながらもウルジン族やオヴォホァン族が、保護領の外にはシューズキ族がいます。
 俗に言う「ジュリアン圏」での人口比はヴァルグルと人類がほぼ半々ですが、その分布は均一ではありません。やはり、ガシカン宙域に近くなるほどヴァルグルは少なくなる傾向があります。

イリリトキ Irilitok
 -1000年頃からメンダン宙域周辺で奴隷化され始めたヴァルグルは、外見が人類の好みに合うように「品種改良」が施されました。結果生まれたのが、大きくて愛嬌のある目を持ち、鼻が低く、背筋の伸びた「人間らしい」ヴァルグルでした。
 メンデレス社の功績もあって、彼らは人類に最も好意的な民族集団として知られています。

ウルジン Urzaeng
 その身体的優位性から唯一社会的差別を受けなかった同名のヴァルグル亜種が中心の文化圏です。彼らは太古種族によって肉体を強化された反面、精神性は抑えられたため、粗暴なヴァルグルとなりました。文化圏としての特徴は、縄張り意識が強くて他のヴァルグルよりも「個人的空間」を広く取る傾向があります。例え仲間であっても、船室を共にすることはまずありません。また、弱さを嫌うために障害者や老人や重病者は離れの居住区に集められますし、軽い病気に罹っても人目につかないよう心掛けます。

オヴォホァン Ovaghoun
 端的に言えば「ヴィラニ文化と融合したヴァルグル」で、主にヴランド宙域やアンタレス宙域方面の〈帝国〉領内やその国境近辺に居住しています。彼らの先祖は第一帝国崩壊後にヴィラニ人の星を奪いに来たのですが、取り残されたヴィラニ人の方が人口が多かった星では共存が進み、ヴァルグルの方がヴィラニ文化を一部受け入れて新たな民族集団となったのです。

シューズキ Suedzuk
 主に「ヴァルグルの飛び地」に居住している民族集団ですが、恒星間政府を築くどころか無政府状態が常で、小さな集落に分かれて住んでいます。ここは追放されたヴァルグル亜種や、メンダンやガシカンからのヴァルグル難民の子孫が中心となっています。多くの集落は孤立を好み、他者と関わりたがりません。排他的で閉鎖的な分だけ、内部では生涯に渡る強い絆で結ばれています。
 ここのヴァルグルは人類から「赤いヴァルグル」と呼ばれていますが、これは毛並みが赤がかっていることだけでなく、ガシカン略奪で引き起こされた流血の意味も重なっています(ガシカン略奪を起こした海賊も後にシューズキとなったと言われています)。野蛮で乱暴という印象が強いため、人類やブワップだけでなく、一部のヴァルグルからすらも嫌われています(※赤毛のせいで亜種扱いされているのもあるようです)。

フーカル Hhkar
母星:不明(アムドゥカン宙域内と思われる)
 放浪種族だったフーカルは、少なくともヴィラニ人よりも先に亜光速船で宇宙に進出していたことがわかっています。現在のヒカル星域には最も新しいもので1万年以上前のフーカルの遺跡が点在しており、その中で最も大規模なものが第一帝国時代にスキールク(アムドゥカン宙域 2213)で発見されたものです。彼らが移住と放浪を繰り返している理由は未だに謎で、彼ら自身も全く語ろうとしません。
 現在の研究では、彼らは約5万年前に居住に適さなくなった母星を離れて放浪を始め、現在のスキールクなどに入植を行い、何らかの理由で1万年前にはそこを離れ、そして-222年に帰還したと考えられています。その当時、ウリニルと呼ばれていたスキールクには約1000万人のヴァルグルが居住しており、フーカルはそれらの殲滅を図りました。3年間の戦いの末にヴァルグルに全面降伏の申し出が許されましたが、その条件は、生産性のない者(高齢者・障害者など)の抹殺と出産の完全禁止でした。現在、この星にはフーカル以外に極少数のヴァルグルが地下洞窟で生活していますが、彼らは降伏を拒否して潜伏した入植者の子孫です。フーカルは特に彼らを追い詰めるようなことはしていませんが、発見し次第殺しています。
 この帰還でジャンプドライブを入手したフーカルは、徐々に入植地を拡大していきました。377年、スターレギオンのデイビッド・リンドクィスト提督(Commodore David Lindquist)がカルガル(同 1812)で敗れこそしたものの粘り強く戦術を駆使してフーカルに大損害を与えたことで、それに感服したフーカルは捕虜となった提督に名誉ある処刑を施し、勝利したにもかかわらず撤退を行い、フーカルの入植はそれ以降なぜか停止しました。その後、スターレギオンとの小競り合いこそ何度かありましたが、フーカルは少しずつ保護領やメンデレス社と協調していくようになりました。現在、メンデレス社はフーカル圏内に大規模な工業団地を持っており、全てフーカルによって運営されています。
 フーカルは爬虫類型の肉食獣が進化したもので、身長は2メートル以上、体重は約250キログラムで、二足歩行をしますが重い尾で体を支えています。また、他の爬虫類種と同様に鱗を持ちます。彼らは人類には「汚染」に分類される大気(特に硫黄化合物)を好みます。
 フーカルは肉食ですが、実は肉だけでは栄養が足りません。かつては母星の大気に含まれていた成分を呼吸することで補っていたらしいのですが、今ではとある植物を燃やして「喫煙」しています(当然ながら他種族には有害物質です)。
 彼らは卵から「男性」として生まれ、200年近い生涯の間に最大6回ほど性別を変えます。その際に脱皮が行われるため、他の知的種族のような老化現象とは無縁です。また、彼らの肉体は精神状態と強く結びついており、労働や学習や瞑想や仮死といった様々な精神状態に合わせて肉体を制御することができます。そのため、薬物は精神を乱し、超能力も「倒錯的」だとして嫌悪する傾向があります。

ブワップ Bwaps
母星:マーハバン(エンプティ・クォーター宙域 0426)
 テラのトカゲに似た知的種族であるブワップは、第一帝国時代から優秀な官僚として重用されていて、現在のジュリアン保護領内に彼らが居住しているのもその時代からです。
 平均的なブワップは身長約1.4メートル、体重40キログラム程で、湿度が非常に高い環境を好みます。極端な乾燥地域では密閉型の環境スーツを着用しますが、一般的には保湿機能を持つ特殊な衣服で体を守っています。体色は黄緑・緑・青・茶と様々で、独特の模様があります。
 ブワップは秩序と礼儀を何よりも尊び、急かされたり妥協を勧められることを拒むどころか、そのことに対する説教で余計に時間を浪費することすらあります。この生真面目な性格ゆえにブワップは、優秀な官僚としてだけでなく、会計士、歴史学者、科学者としての適性が高いのです。

ドロイン Droyne
 フーカル圏内のアーブラヅ(アムドゥカン宙域 2217)にはドロインが居住していますが、フーカル以外がドロインに接近することは固く禁じられています。フーカルとドロインの関係も含めて、その理由は不明です。

(※以下の知的種族はT5SSによって存在が記載されましたが、現在のところ非人類であること以外に設定は存在しません)

カアネン Kaanen
母星:マムシュリ(アムドゥカン宙域 0137)

クェルフ Qelf
母星:ヴァルダク(アムドゥカン宙域 1805)


■ジュリアン保護領
 保護領は国家同士の連合体です。個々の国の規模は様々で、その多くは星系内の1小国に過ぎません。全ての国が独自の外交を行い、独自の軍隊を保持しており、アシミキギルの中央当局にはほとんど実権を与えていません。
 しかし保護領は加盟国間の紛争を仲裁し、星間法規を定め、対話と協力を促進しています。また、国境警備や危機的状況に対処するための常設武装組織「スターレギオン」も持っています。
 ジュリアン保護領の境界線は、保護領への加盟状況によって変動します。〈帝国〉の星図業者は保護領をメンダン、アムドゥカン、エンプティ・クォーター、アンタレスの4宙域にまたがる国家として記載しがちですが(※マーク・ミラーが最初期に描いた「既知宇宙図」のことです)、これはあくまで「ジュリアンの中核」に過ぎず、実際には遠くはウィンドホーン宙域にまで飛び地状に「準加盟」星系が存在しています。
 経済面では、保護領の回転方向(スピンワード)側半分が圧倒的に活発です。ここには数千年前からヴィラニ商人が利用してきたメンダン・メインがあり、〈帝国〉と保護領の接点、そして遥かヴァルグルの母星レアまで続く交易路になっているからです。
 保護領の回転尾方向(トレイリング)側は、「ヴァルグルの飛び地」と呼ばれる停滞した地域と重なっています。この周辺はジュリアン保護領に直接加盟している星を除き、恒星間社会からも距離を置く傾向があります。そしてその先には、ジュリアンに冷たい視線を注ぐククリーの領域があります。


■保護領加盟国
アシミキギル連合 Asimikigir Confederation
TD等級:ほぼ9(完全な融和)
 ジュリアン保護領近辺の宙域において、人類とヴァルグルの関係には極端から極端までが存在します。負の極みがガシカン帝政なら、正の極みがこのアシミキギル連合です。ここでは人類とヴァルグルが快く協力しあい、親密な関係を築き、全てが統合された理想的な協同社会が実現しています。生物学・社会学的な違いは完全に受け入れられています。
 同時にアシミキギルはメンデレス社の本拠地です。同社は保護区領最大にして唯一無比の巨大企業で、多様性に富み、進歩的で知られています。あくまで利潤を求める延長線上ではありますが、模範となりうる影響力を持っています。メンデレス社の姿勢は、連合内や保護領内の他国でも人類とヴァルグルが良好な相互関係を築いている最たる要因として挙げられています。

ヴグロラ統治国  Vugurar Dominion
TD等級:8(公的に融和)
 統治国はヴァルグルが多数派の国家で、保護領立法議会(Protectorate legislature)での代議員はあらゆる問題に対して率直に意見を述べる傾向があります。多くのヴグロラ市民は種族平等を声高に主張し、差別問題に対しては強い関心が寄せられます。
 統治国の人権意識は、非常に強力な差別防止法に繋がっています。アシミキギルを手本とした種族融和への躊躇いを克服していくことが現在の統治国政府の主な目標となっており、政府提供の娯楽物語はアシミキギル(や連合星系)を舞台としたものや、統治国を旅するアシミキギル市民が主役のものばかりです。いずれにしても物語の中でパネット関係が主題となるのは必然です。

ルコダコジ共和国 Rukadukaz Republic
TD等級:8(公的に融和)
 共和国はアシミキギル連合やメンダン共同体に次いで、保護領内で影響力のある国です。帝国領アンタレスとの貿易の大部分はこの共和国を経由していて、メンデレス社の帝国事業部はここに拠点を置いています。
 ここは〈帝国〉との戦争が起きた際に「最前線」となるため、最強のスターレギオン戦力が配備されており、共和国の造船業に活力を与えています。一般的に高技術で高級な宇宙船はヴァルグル企業やアシミキギルの造船所で造られていますが、共和国の造船所は頑丈で絶対の信頼性がある船を造ることで知られています。ただし、建造から整備点検までのあらゆる面でレギオンからの発注が優先されるのは否めません。
 ルコダコジ共和国は、ヴァルグルがイリリトキ族ではなくオヴォホァン族がほぼ全てを占める珍しい国です。ただし共和国の回転方向(スピンワード)側国境付近には他文化圏の集落がいくつか存在します。
 共和国での人類とヴァルグルの融和具合は、アシミキギル連合とほぼ同等にまでなっています。種族問題に関しての態度はアシミキギルと共同歩調を採り、一方が積極策を講じるなら他方がそれを支えることで強固な関係を築いています。

ウホンジ平等国 Ukhanzi Coordinate
TD等級:7V(法的には平等)
 ウホンジは歴史的に帝国領アンタレスと密接な関係にありましたが、今となっては〈帝国〉とは明らかに冷え切っています。というのも多数派のヴァルグルの多くが、差別や虐待から逃れてきた帝国系ヴァルグルの子孫だからです。同じヴァルグルである歴代アンタレス大公に対しても、同胞である前に帝国人であり、所詮〈帝国〉の権力者であると見ています。
 ウホンジの多くのヴァルグルは(※ジュリアン市民の)人類との融和に慎重でしたが、ここ数十年でそれは著しく改善されており、遠くない未来にも理想的な関係が築ける可能性は十分にあります。

クーホン星宿国 Constellation of Koekhon
TD等級:7(法的には平等)
 この国ではヴァルグルが行政を担い、人類が司法を担当しています。ここの人類はほとんどがソロマニ系で、ヴァルグルはイリリトキ族が主ですが極少数のウルジン族やオヴォホァン族も居ます。
 クーホン社会はいくつかの点で矛盾を含んでいます。人類とヴァルグルの協力が非常に進められている割に、一方が他方に強い偏見を抱いているのです。共存はできていても、社会的な場面で両種族が共にいることは珍しく、アシミキギルでは一般的な連愛関係も、ここでは倒錯的なものものと見られています。また、ジェッサ・ハウス(アムドゥカン宙域 1432)の人類社会は、人類のみが神によって創られたものであり、他の知的種族は存在自体が神の御業を愚弄していると捉え、真なる知的種族である人類と付き合うには値しないと信じている宗教団体なのです。
 クーホンは保護領の中央部に位置するため、保護領外の国家や文化との接触から比較的切り離されており、保護領内でもルコダコジ共和国とのみ国交があります。保護領立法議会でもクーホンの代議員は孤立主義的主張をしています。

ピルバリシュ星連 Pirbarish Starlane
TD等級:7H(法的には平等)
 その国号は、「人類の支配」が崩壊する前にメンダン・メインを守っていたヴィラニ人権力者に由来します。首都ラスラ(メンダン宙域 1634)はジュリアン戦争以前はこの地域で2番目に重要な星系であり、〈帝国〉占領下では抵抗活動の主な拠点となっていました。現在ではアシミキギル連合に主導権こそ譲ってはいますが、依然としてこの地域での影響力を保っています。
 ピルバリシュでは種族間の法的な差別は禁止されていますが、慣習的に社会的分離を行っている星系は未だ多いです。

ルムダ寡婦産国 Lumda Dower
TD等級:7H(法的には平等)
 ルムダに属する3星系は、人類とヴァルグルの双方が重要な役割を果たす立憲君主制によって統治されています。行政の長であるルムダ領主(Lord of Lumda)は常に人類の男性ですが(ただし後継者は妻の家族から選ばれます)、司法はヴァルグルに委ねられ、立法は人類院とヴァルグル院の二院制です。
 ここでは種族間に強制的な隔離はありませんが、全体的な傾向として他種族との間に居心地の悪さを感じています。これは保護領であっても特に珍しいことではありませんが、他国よりも大きな割合で見られます。
(※Dowerとは夫の死後に未亡人が分与される財産を意味します。おそらく領主の地位の継承の仕方を表しているものと思われます)

ロレアン支配圏 Lorean Hegemony
TD等級:7(法的には平等)
 942年に保護領に加盟したロレアン支配圏は、保護領加盟国の中でも星系数では最大でないにしろ最大級の国家です。しかし保護領の端に位置していること、自国優先の政策を採っていることから、保護領内での影響力は限定的です。とはいえメンデレス社の資源開発事業部を最も積極的に支援しているのが、実はこの国です。
 ロレアンは保護領の中で唯一、ククリーとの関係拡大を模索しています。その努力は保護領とククリーの双方から無視されていますが、将来的にククリー交易は保護領内でのロレアンの影響力を高める可能性があるため、水面下で調整が続けられています。
 ロレアンでは種族間の社会的分離は、差別政策ではなく心理的・文化的な差異を配慮した結果として行われています。両種族の関係は良好であり、市民は何事もなく共働することができます。

メンダン共同体 Commonwealth of Mendan
TD等級:6H(弱い差別政策)
 共同体は元々ガシカン第二帝政に属していたのですが、今ではアシミキギル連合に次ぐ影響力と政治力を持っています。共同体は保護領立法議会では保守派に属し、対外外交を控えるよう訴え、保護領への新規加盟に対しても消極的です。
 共同体は種族平等の原則を受け入れてはいますが、まだ種族間の憎しみは残っており、両種族が一緒に居たり、協力関係にあることは保護領の他国と比べても少ないです。共同体内で少数派であるヴァルグルに未だに参政権を与えていない星系はありませんが、制度化された差別はまだ残っています。とはいえそれは少しずつではあるものの変化してきており、ヴァルグルに強い反感を持つガシカン第三帝政に馳せ参じるのではなく保護領残留を選んだことにも、その変化があると言えます。

オズヴォン連盟 Alliance of Ozuvon
TD等級:5V(強い差別政策)
 ヴァルグルが多数派であるこの国は、元々はガシカン第二帝政(しかも現在のメンダン共同体に属する星々)から逃れてきたヴァルグルによって建国されたものです。ヴァルグルの民族構成はイリリトキ、ウルジン、オヴォホァンですが、イリリトキの比率は他所よりも少な目です。
 ここでは人類、特にメンダン共同体の人類への恨みや敵意が蔓延しており、連盟の多くの星で人類はせいぜい参政権のない二級市民や不可触賤民、少数の星では奴隷とは名ばかりの存在として扱われています。他国や保護領はこの措置を公式に非難していますが、まだほどんど改善されていません。

「群狼の巣(ローラ・エロル)」 Rar Errall
TD等級:2V(消極的な排斥)
 「群狼の巣」は保護領では珍しいヴァルグル単一の国家で、その多くをガシカンやトレンチャンからの難民やその子孫となるウルジン族が占めています。この国がガシカン第三帝政への海賊行為の拠点となっているという疑惑がありますが、証明はされていません。
 長い間、ここに入国した人類の保護領市民は冷たいとはいえ許容範囲内の扱いを受ける一方、保護領外の人類は即時退去させられていましたが、近年では暴力こそ無いものの保護領市民すら退去させられることがあり、正式な抗議が度々行われてきました。保護領立法議会では一部から加盟国資格の剥奪を求める動きもあります。

フーカル圏 Hhkar Sphere
TD等級:0(接触なし)
 フーカル圏はジュリアン保護領内で唯一、人類もヴァルグルも多数派ではありません。その代わりにこの国を治めているのは恐竜人のフーカルです。フーカルとの最初の接触は戦争に至り、やがて保護領に併合されましたが、彼らに対しては未だに警戒感があるため、カルガル(アムドゥカン宙域 1812)には十分すぎる人員と装備を整えたスターレギオン基地があって睨みを利かせています。
 基本的にフーカルは交易以外で他種族と交流することがないため、厳密にはテツス=デネ等級は0となりますが、過去の実績から実質2~3はあると考えられます。

単独加盟星系 Unincorporated
 多くの星系は加盟国の下に入ることなく、または加盟国を形成することなく保護領に加わっています。これらの星系はスターレギオンの保護を受けつつ独立を謳歌し、自国の利益を追求していますが、その分議決権は弱められています。

準加盟:サルカン星宿国 Sarkan Constellation
TD等級:5H(強い差別政策)
 サルカンは、メンダン宙域に存在したものの種族間対立から崩壊したホルミン同盟(Hormine League)の残滓です。住民の大半はヴァルグルですが、ヴァルグルは公職に就いたり企業を所有することができず、ヴァルグル向けの公共施設の質はほとんどが水準以下です。
 人類のみによるサルカン政府はほぼ、傘下星系を抑えることができていません。ジュリアン保護領との関係すら名ばかりで、ここを拠点とする海賊団がジュリアンの船を襲うことも珍しくありません。

準加盟:ズウガビシュ三国同盟 Zuugabish Tripartite
TD等級:5H(強い差別政策)
 ズウガビシュがジュリアン保護国への正式加盟を実現できなかったのは、主にアシミキギルとルコダコジの反対によるものでした。両国は三国同盟内でのヴァルグルの扱いに異議を唱えたのです。この国では少数派の人類が三国同盟を統治する一方で、多数派のヴァルグルは蜂起と(暴力的な)鎮圧が繰り返されてきています。
 そして国内外のヴァルグル海賊団の存在が、更に状況を不安定化させています。弱小の星系政府は自領内に海賊基地が建設されるのを止めることができていません。有力な3つの星系政府に至っては、海賊団を自分たちの非合法な利益のために利用しているとすら疑われています。
 しかし、正式加盟への道は海賊対策にこそあるのです。より強力な中央政府さえできれば、種族間問題も大きく進展することが期待できます。同盟政府は目標達成のための支援を求めて、メンダン共同体との緊密な関係を築こうとしています。

準加盟:バンメシュカ連合 Confederation of Bammesuka
TD等級:4H(隔離政策)
 バンメシュカ連合は、ガシカン第二帝政崩壊後に残された弱小星系の集まりで、分権型の星間国家です。多くの点でこの国の文化はメンダン共同体に似ています。しかし連合政府は国内をまとめられるだけの余力がなく、国内だけでなくサルカンやズウガビシュやメンダン宙域に拠点を置く海賊団に常に襲われています。
 人類のヴァルグルに対する態度も、ガシカン統治時代からさほど変わっていません。しかし弱いながらも連合政府は、そんな状況を変えようと努力はしています。

非加盟:保護領属領 Client States
 ククリー国家「二千世界」との間には、いくつかの保護領属領があります。これらの星系は天政学的(astrographical)利点を保護領に提供することで、スターレギオンによる最低限の庇護を受けています。中には、本格的に保護領加盟を目指している星もあります。

(後編に続く)
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MT日本語版30周年企画:ジュリアン保護領とアンタレス(後編)

2021-05-31 | MegaTraveller
■護星軍団(スターレギオン)
 スターレギオンはジュリアン保護領の軍事機関です。その任務は、第三帝国を始めとする外部の脅威や、内部の好戦主義国から保護領を守ることです。
 団員は当然保護領内から採用されます。スターレギオンは建前上中立のため、団員は入団の際に出身国の市民権を放棄することが求められます。これは祖国の敵として任務を遂行しなければならない際に、団員の立場を守るためでもあります。
 最初のスターレギオンはメンデレス社によって結成されたため、当初は伝統的な軍隊のような指揮系統や階級制度はありませんでした。代わりにあったのは、様々な傭兵部隊や星系海軍や海賊団を継ぎ接ぎしたような奇妙なものでした。最終的にメンデレスの軍事顧問が整理をして、今のような既存の軍隊とは全く違う階級制度が完成しました。
 スターレギオンはその下に「海軍(Navy)」「海兵隊(Marine)」「遠護局(Far Guard)」の3軍を置いています。

●レギオン海軍
 軍団の予算の大部分は、恒星間国家の軍隊として恥ずかしくないように海軍に回されています。海軍は、戦艦から護衛艦までジャンプ可能艦による「主力艦隊」、戦闘機や小艇による「飛行隊」、バトルライダーやテンダーによる「地方隊」から成っています。
 主力艦隊や飛行隊はスターレギオンの打撃力を担い、通商破壊任務にも就きます。
 地方隊はしばしば比較対象となる帝国海軍と最も異なる部分で、保護領の加盟国はレギオン海軍に一定数のバトルライダーを供出する義務があります。ライダー艦は平時は自国を守るために配備されますが、有事の際には海軍所属のテンダー艦によって保護領全体で戦略的再配置を行えるよう規定されています。このことからライダー艦には海軍の艦艇で唯一、保護領と加盟国の両方を合わせた紋章が描かれています。
 レギオン海軍では、配属された艦船の規模によって「狼群(Wolfpack)」「艦隊(Fleet)」「艦隊群(Horde)」と呼び分けています。

●レギオン海兵隊
 海兵隊は海兵科、支援車両科、重砲科の3科から成りますが、レギオン海兵隊には特筆すべき2つの精鋭部隊があります。バトルドレスで装備した「重装突襲撃展開分隊(HARDS)」と、水中作戦や隠密行動や爆破解体に長けた「地下専科孔入爆破分隊(SQuIDS)」です。双方とも、海兵科部隊では危険過ぎると判断されるような作戦を得意とします。例えば、HARDSは海軍艦艇が敵地でも給油や修復を行えるよう事前に軌道宇宙港を占拠しますし、SQuIDSは防衛用の海中中間子砲を無力化して軌道上の味方艦の脅威を取り除きます。

●レギオン遠護局
 遠護局は〈帝国〉の偵察局や情報部に該当する部隊で、その下には斥候部、情報部、監査部の3部門があります。斥候部は国境哨戒や兵力調査を担当し、早期警戒の役割を担っています。情報部は諜報、防諜、テロ対策を保護領全体規模で行い、時には加盟国の同様組織ともやり合います。監査部はレギオン全体の法務や人事経理を担当し、加えて独立監査官として加盟国の軍事力の透明化を担保しています。


■ジュリアンの紋章
 メンデレス社は「円の中にトロイの兜」を社章として採用しています。これは「メンデレス」の語源が、古代都市イリオス(トロイ)近辺を流れる「マイアンドロス(Maiandros)川」であることが由来です(※余談として、同社初の宇宙船「ミアンダー(曲流)」の語源も同じです)。
 ジュリアン保護領成立後、スターレギオンは「三角形の中にトロイの兜」を団章としていましたが、1118年にアンタレスが加盟したことを記念して「3つの逆三角形に囲まれたトロイの兜」に変更されました。
 なお、加盟国所属のテンダー艦には3つの逆三角形の中にそれぞれの国の象徴が描かれています(アシミキギル所属の艦はトロイの兜です)。そのためアンタレス海軍の艦艇には、(住民の強い要望により)帝国の日輪(Imperial sunburst)が描かれていました。
 ちなみにアンタレス離脱後は、アンタレス海軍は元々の領域章である「並列する3つの三角形」に戻しましたが、ジュリアン側の紋章に変化はありませんでした。
(※結局、ジュリアン保護領の国章が何なのかは不明確です。歴史的経緯からトロイの兜ではありそうなのですが…?)


■アシミキギルでの生活
 帝国人は「2種族の共同社会」と聞いても、何かしらの障壁があるものと考えがちですが、少なくともアシミキギルにはそういったものは全くありません。人類とヴァルグルは相互に同じ文化を共有し、その周辺星系でも親密な共有文化が形成されています。端的に言えば、この地域では人類とヴァルグルはお互いを「好き合っている」のです。
 この両種族は本来同じ星に起源を持つため、親近感を持つのは不思議ではないかもしれません。実際、人類は他の異星人ほどにはヴァルグルを異質には思わない傾向があり、理解や付き合いが容易になっています。489年に帝国政府が行ったテラへの遣星使では、どの知的種族よりもヴァルグルがテラ市民に熱烈に歓迎されたという一例もあります。
 アシミキギル社会では、人類もヴァルグルも、男性も女性も全て平等でですが、社会はそれぞれの違いにも十分対応できています。そして同種族間の伴侶の絆、家族の絆、友情の絆といったものに加えて、〈帝国〉にはない異種族同士の絆が存在します。
 ジュリアン市民はどちらの種族でも、別種族との特別な絆を「連愛(つれあい/パネット)」と表現します。これは「連れ(comPANion)」と「愛玩(pET)」を合わせた造語で、帝国人に説明する際には「ペットへの情愛」によく例えられます。ただし両者の間には一定の敬意があり、どちらが「主人」かどうかという見方はしません。言い換えれば、お互いがお互いを家族や恋人に等しいペットと見ているとも言えます。
 パネット関係にある二人は当然親密になることが多く、ジュリアン市民以外には受け入れがたい光景が公共の場であっても普通に見られます。例えば、人類が飼い犬に対して行うようにパネットとじゃれあったり、頬を舐め回しあったりするのです。また、社交行事で〈帝国〉社会で友人や配偶者の同伴を求めるように、アシミキギルではパネットの同伴を求められることもあります。そしてパネットは個人間に限らず、長年の家族ぐるみのパネットが形成されることもあります。


■メンデレス社
 第N次恒星間戦争(-2235年~-2219年)の頃、ソロマニ人商人のメンデレス家はメンダン・メインに沿って成功した交易路を確立しました。その後皇帝ヒロシ2世が権力を握ると、他のソロマニ企業家と同じようにメンデレス家はアシミキギルの総督に任命されました。
 その後、メンデレス家はアシミキギル全体を覆う「企業王朝」を築き、暗黒時代での経済・技術の衰退を巧みに乗り切りました。メンデレス家は決して独占を追い求めたわけではないのですが、他者では対処できないような様々な危機に対して一番貢献できたのが結果的にメンデレスだったのです。これは-247年に宇宙に進出した際にも見られ、メンデレスはクドゥカラ運輸の独占を崩すために手段を尽くしましたが、優勢が得られたと見るやクドゥカラへの追撃を止めました。
 シレアとヴィラニ企業の連携は、メンデレス経済圏への最も好ましくない敵手となりました。平定作戦(76年~120年)の際には貿易戦争が繰り広げられ、最終的にメンデレス社はリシュン、アンタレス、エンプティ・クォーターの各宙域の市場を手放さざるを得ませんでした。それ以来、メンデレス社はヴァルグル諸国に残された市場と交易路を大切に守ってきました。
 メンデレス社が成功したのは、帝国企業と違ってヴァルグルの経済を熟知していたからです。メンデレス社は可能な限りヴァルグル企業に投資を行います。なぜならヴァルグル諸国の人類企業は帝国企業の進出口となり得る上に、安定しすぎていて周辺のヴァルグル企業を駆逐しかねず、それは結果的にメンデレス社の利益にはならないのです。

 メンデレス社は常に営利を求めており、社会的な施作もあくまでより有利な商環境を整えるために行っています。それでもメンデレス社がジュリアン社会に与えた影響は多大で、ほとんどのジュリアン市民は同社を人類とヴァルグルの友好関係を促進する先駆者と見ています。
 例えば、同社は何世紀にも渡って様々な運動競技を後援し、公共放送で広めていますが、これらは全て人類とヴァルグルの混成チームで行われ、両種族の長所短所を補完できるように意図的に規則が設計されているのです。
 同様に、社内組織も両種族の長所を活かせるように調整がされています。
 メンデレス社には以下の事業部が存在します。

輸送通信事業部
社の恒星間貨物船団を運営し、営業圏内での星間通信サービスを提供しています。
宇宙機器事業部
軍艦から宇宙服まで、宇宙に関わるあらゆる製品を製造しています。ヴァルグル諸国では宇宙船丸々一隻ではなく搭載機関や交換部品を主に販売しています。
情報事業部
ヴァルグル諸国で偶然に頼らず活動するためには、優れた情報収集活動が必須です。加えてこの事業部は〈帝国〉の競合企業を監視し、必要に応じて秘密工作や産業スパイ活動を行います。
兵器事業部
拳銃から惑星防衛システムまで、あらゆる兵器を製造しています。これらの製品はヴァルグル市場で高い競争力を持っており、特に磁気銃器や質量投射砲(mass drivers)が優れています。
重機械事業部
フュージョン削岩機、大型発電所、都市交通システムなどを製造しています。
電子機器事業部
電子製品やコンピュータに関連するあらゆるものを製造しています。ヴァルグルの技術革新をどこよりも丁寧に研究し、優れたものを取り入れています。
資源開発事業部
メンデレス社のほとんどの子会社がこの事業部に属しています。ここは何世紀にも渡って農地や鉱山、加工工場に投資してきました。現在はアーズル宙域に注力しています。
帝国事業部
1085年に設立された最も新しい事業部で、〈帝国〉領内の事業を管轄しています。


■〈帝国〉との関係
 帝国内戦(604年~622年)以降、ジュリアン市民が第三帝国からの侵略を恐れる理由はほとんどありません。しかし保護領では未だに、〈帝国〉が自分たちの理想にとって常に脅威であると考えられています。これは、ジュリアン市民が保守的なヴィラニ哲学の影響を色濃く受けているからです。このゆっくりとした変化を好む傾向はヴァルグル諸国との交流でも大きな強みになっていますし、保護領内のヴァルグル市民の気まぐれな性格を相殺し、補完する役割も果たしています。また、メンデレス社が市民に〈帝国〉への疑念を抱かせるような世論誘導を行っているのも事実です。〈帝国〉をヴァルグル市場から締め出すことは長い間メンデレス社の利益になっており、反帝国感情が高まれば同社にとって有利に働くのです。
 〈帝国〉からヴァルグル諸国を守るために、メンデレス社はヴァルグル市場で帝国クレジットを切り下げ、ジュリアン通貨のスターを普及させることに努めています(※1保護領スター≒1帝国クレジット)。また顧客に対しても、〈帝国〉の規格ではなくジュリアンの規格を採用することを勧めています。保護領では暦や単位系からコンピュータの仕様に至るまで、古のヴィラニ帝国のものを意図的に採用していますが、そうすることで〈帝国〉の商品とは互換性がなくなり、それが貿易障壁として機能するのです。
 しかし〈帝国〉とはそうであっても、ジュリアン市民は昔からアンタレスには「同じ起源」ゆえに親近感を抱いていました。内戦前のアンタレス大公位はジュリアン市民にとって宿敵とも言えるディアディン家が務めていましたが、内戦後にグラズドン・ディアディン(Glazdon Deirdin)大公が、アルベラトラの意を受けたヴァルグルの腹心ソウグズ提督に粛清され、大公位を取って代わられてからは良好な関係が築けています。残念なことに第四次辺境戦争(1082年~1084年)まで歴代のヴァルグル大公には両者の関係を積極的に改善する権限がありませんでしたが、戦後、ストレフォン皇帝が領域大公の権限を拡大する勅令を出すと、早速メンデレス社にアンタレス領域内での営業認可を与えるなどしています。


■保護領での冒険について
 ここは多くの点で〈帝国〉に似ており「異質」と考える必要はありませんが、最も重要な特徴はヴァルグルの存在です。2つの種族が混じり合うことで生じる複雑な問題がありますが、人類とヴァルグルの距離感は星系ごとに異なります。

種族問題:
 冒険に役立つ主題として、種族間の憎悪と調和の対立があります。この地域では人類とヴァルグルの関係は改善されつつありますが、その歩みは遅いです。ガシカンの略奪に始まる一連の悲劇の恨みは完全には消えていません。ヴァルグル社会の多くは依然として人類を憎んでおり、一部の人類は未だに種族間の争いを助長する古い思想を掲げています。バンメシュカやズウガビシュの資本家はヴァルグルから収奪して人類を富ませており、ガシカンが仕掛ける策謀は最も陰湿で冒険の悪役として最適です。

〈帝国〉への偏見:
 プレイヤー・キャラクターが〈帝国〉出身であれば、保護領では有形無形の困難に遭遇することでしょう。多くのジュリアン市民は帝国人には冷たく接し、しばしば非協力的です。ただでさえ困難な状況をより悪化させるようなこともしかねません。
 もちろん、アンタレス市民は例外です。アンタレス発行の旅券や登録証を持つ旅行者は、単に近隣の国から来たというだけの扱いを受けます。ジュリアン市民が皆ブルズク大公に好意的ということもなく、むしろ反発してる人も少なくありません。しかしブルズクやアンタレスを〈帝国〉とも考えておらず、少なくともアンタレス出身者は〈帝国〉に向けられる偏見を受けることはありません。
 ただしブルズクをめぐる保護領内の論争は、それ自体が冒険の種となる可能性があります。旅人はアンタレス市民だというだけで強制的に政治に巻き込まれるかもしれませんし、アンタレス同盟の諜報組織トラシロン(Trasilon)の工作員に「なる/雇われる」キャンペーンもありえます。この場合の保護領内での活動目的は、保護領とアンタレスの距離を縮め、大公の影響力を高めることになります。

保護領内での貿易と企業:
 (反乱前の)〈帝国〉の貿易商人は、統一された恒星間政府と複数の巨大企業という環境で商売をしていました。しかし保護領は、多数の恒星間政府と一社独占の巨大企業という全く逆の環境となります。保護領内には星域規模企業すらほとんどないですし、それ以前に統治領自体がメンデレス社と言っても過言ではありません。一方で、加盟国はそれぞれ自前の宇宙港を(保護領の指導を受けながら)管理していますし、法律どころか社会の仕組みすらまちまちです。
 したがって星間企業が雇い主となることは〈帝国〉よりは珍しいでしょうが、代わりに星間政治が冒険の基盤となります。現代地球の国家と同じように加盟国はそれぞれ貿易を行い、資源を奪い合い、事件を口実に戦争を警告し、自国の威信を高めます。旅人はそんな政治状況に翻弄されることになるでしょう。


【ライブラリ・データ】
アンタレス家 House Antares
 622年にアンタレス大公に就任したソウグズから続くヴァルグルの一族のことです。ヴァルグルは基本「姓」を持たないため、便宜上こう呼ばれます。現在の大公は、1100年に就任した10代目となるブルズクです。ちなみに意外に思われるかもしれませんが、帝国の今の大公家の中では2番目に古くから続いている家系です。
 アンタレス家の特徴として、長子継承ではなく、ヴァルグルらしく子の中から最も優秀な者が指名されて後継者となることが挙げられます。また、一夫一婦制を採用はしていますが、生涯仲睦まじく添い遂げることまでは流石に期待されていません。
(※1番古いのはヴランド大公のタウリビ家で76年から、他はアルカリコイ家のシレア大公兼務が629年、ソル大公のアデアー家が1003年から、ゲイトウェイ大公のミノモル家が1076年から、イレリシュ大公のイレシアン家が1104年からです。そして御存知の通り、デネブ大公は589年の設置当初から空位が続いています)

遣星使 Alien Missions
 382年から行われた、帝国と周辺国の間の外交的・文化的交流を深めるために派遣された使節団、及び様々な関連事業のことです。ユージン・スウカル大使(Ambassador Eugene Suukar)の助言の下、皇帝マーティン3世は偵察局にアスランを学ぶための使節団を送るよう命じました。ヤク・バーロダ卿(Sir Yaku Barroda)の指揮の下、使節団はクーシュー(ダーク・ネビュラ宙域 1919)に382年に到着しました。
 颯爽とした性格のバーロダ卿は現地でどこに行ってもアスランから尊敬を集めました。その後彼はゾディア氏族のイェレァ(Yelea)という人類の妻を娶り、ウイクトオコー氏族に与えられた土地に定住することを決めました。バーロダ卿は429年に「戦士として」死を迎えましたが、現在でもバーロダ卿夫妻の功績はアスランと帝国人の間で語り継がれています。
(※この設定は本来は「アスラン使節団(Aslan Mission)」だったはずなのですが、見間違えたのか拡大解釈されたのかヴァルグルにも適用されたようです。確かにありえなくもないため、独自に表現を擦り合わせています)
(※Zodiaというのはアスランの発音にはないため、人類の氏族の可能性が高いです)

摂政 Regent
 ジュリアン保護領内で頻繁に使われる政治の最高指導者の称号のことです。アシミキギルでは、第二帝国首都ハブ/エルシュルからの新総督任命書を待つ間の政治指導者を指す言葉でしたが、第二帝国崩壊後、「摂政」は政界の頂点にいる者として扱われるようになりました。諸説ありますが、偉大なるヒロシ1世が生涯あくまで摂政であることを貫いた故事に由来したとも、もはや新総督はやってこないからとも言われています。
 現在のジュリアン保護領の摂政は、1112年に選出されたガーリン・デイドライエ・カアリシュウ(Garin Deidrie Kaarishuu)です。カアリシュウ家はアンタレス平定作戦の際に〈帝国〉から逃れてきた一族であり、その後メンデレス家と婚姻関係を結んでいます。彼女は政治指導者としては(良くも悪くも)自己主張を控え、配下の意見に耳を傾けています。

ディアディン大公家 Archduke Deirdin Family
 ディアディン家は、帝国暦97年にアンタレス平定作戦の開始で設置された「アンタレス領域」の大公として採り立てられました(※領域の正式設置は110年という設定もあります)。その任務は大公領である自領、つまりアンタレス宙域とリシュン宙域を第三帝国領として編入することで、ディアディン大公はそれを114年までに完了させました。
 それに続いたジュリアン戦争でも、ディアディン大公家はアンタレス領域の残された部分であるメシャン宙域とメンダン宙域、つまり旧第二帝国領を回復させるべく先頭に立ちましたが、これは現地の激しい抵抗に遭って頓挫しました。そしてディアディン家は代々、622年に反逆罪で大公位を失うまでアンタレス領域を統治していました。

テツス=デネ(TD)等級 Tetusu-Dene Scale
 ヴァルグルが人類社会にどう溶け込んでいるかを解りやすく数値化したもので、スピンワード・マーチ宙域で開発されました。数値は1(積極的な排斥)から9(完全な融和)に0(接触なし)を加えた10段階で、更にジュリアン保護領では末尾にどちらの種族が主流派かを意味するHもしくはVを付加するよう改良されました。

ミカシルカ圏 Mikashirka sphere
 現在のアンタレス近郊に位置するこれらの星系は、第一帝国時代の-8150年頃からナアシルカ局が探査・採掘を始めていて、このことからミカシルカ圏は第一帝国時代を通じてナアシルカの「飛び地」のままでした。
 しかし本格的にこの地が発展するのは、第二帝国時代にソロマニ系企業スコーピオン社と旧三部局のシャルーシッドが共同で行った大規模入植事業以降です。

メンダン・メイン Mendan main
 リシュン、アンタレス、メンダン、アムドゥカン、トレンチャン、ガシカンの各宙域をジャンプ-1で行き来可能な、総計1037星系にも及ぶ巨大星団のことです。古くは第一帝国首都ヴランドと最辺境の資源星団圏を結ぶ重要な輸送路「ヌダシイル・ラガニ」として機能し、現在でも主要交易路として数多くの宇宙船が往来しています。「リシュン~ガシカン・メイン」とも呼ばれます。



【参考文献】
・Challenge #49 (Game Designers' Workshop)
・Rebellion Sourcebook (Game Designers' Workshop)
・Hard Times (Game Designers' Workshop)
・Vilani & Vargr (Digest Group Publications)
・Solomani & Aslan (Digest Group Publications)
・Travellers' Digest #18 (Digest Group Publications)
・GURPS Traveller: Alien Races 4 (Steve Jackson Games)
・GURPS Traveller: Humaniti (Steve Jackson Games)
・GURPS Traveller: Nobles (Steve Jackson Games)
・Julian Protectorate (Angus McDonald)
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