宇宙の歩き方

The Astrogators' Guide to the Charted Space.

レビュー:『ドラコニム星域(The Draconem Sub-Sector)』

2017-06-06 | Alternative Universe
 『ドラコニム星域(The Draconem Sub-Sector)』は、著者Andrew J. Luther氏が最近流行りの「プロトトラベラー(Proto-Traveller)」という概念に共感してわずか1月ほどで作り上げた星域設定集です。

 まず「プロトトラベラー」とは何ぞや、ということなのですが、簡単に言うと「重く複雑になりすぎた『第三帝国(The Third Imperium)』設定を脱ぎ捨てて原点回帰する」といったところでしょうか。人によって「プロト」の部分が指す対象が曖昧ではあるのですが、一般的には「基本ルールとしてクラシック・トラベラーのBook 1~3に加えて『Supplement 3: The Spinward Marches』から得られる情報のみを使用する」とされています。そのため、あえて帝国設定を利用した際の雰囲気として「その力は徐々に弱体化しつつあります」というライブラリ・データの『Supplement 3』のみにある記述が重視されることが多いです。

 今回の『ドラコニム星域』は、「1977年版ルールで」1星域分40星系のUWP(77年ルールなのでUPPか)を作り、それぞれ設定(Planet Description)とシナリオフック(Adventure Seeds)を起こし、なかなか美麗なCGイラストとともに1冊にまとめたものです。余談ですが、作成に使ったルールこそトラベラーなものの、トラベラー固有用語の例えばUWP表記などは避けて記述されているので、「汎用SF-RPG向け設定集」です(熟練のトラベラーファンなら一目でUWP変換が可能にはなっていますが)。配布元のDrivethruRPGでもジャンル分けはトラベラーかつ「Old School Revival(OSR)」となっています(※このOSRも今や一大ジャンルなのですが、話が長くなるので割愛します)。

 『トラベラー』の1977年版ルールと日本語訳もされた1981年版以降のルールの最大の違いは、「星間航路(Space-Lane)」の有無です。『第三帝国』設定の整備が始まった81年版以降では「Xボート網」に取って代わられたこの「星間航路」は、航路策定の準備なしにジャンプできる「安定した航路」を表し、同時に通商路も表現しています。二星間の宇宙港規模の大小で航路が存在するかどうかの確率が上下し、航路があれば星域図に書き込まれます。航路がない星々をジャンプするには事前のプログラム準備が必要となり、必然的に自前の宇宙船持ちしかそういう芸当は不可能となります。
 この「星間航路」ルールは興味深くはあるのですが、今回のように1星域に40星系も詰め込まれると星域図の見た目がゴチャゴチャしますし、仮にジャンプ-3旅客船に乗っても各駅停車ならぬ「各星停船」を強いられがちなので、旅行価格が1ジャンプでいくらのトラベラー宇宙では高くつきます。逆に言えば自分の宇宙船が欲しくなる気分を高めてくれるわけですが…。

 この『ドラコニム星域』では、冒頭1ページに宇宙全体の設定が簡単にまとめてあります。いつしか宇宙に進出した人類は幾つもの異星人と共同で「諸世界連盟(Federation of Worlds)」という恒星間国家を築き上げ、中央では開拓も終わって社会は安定しましたが、逆に言えばプレイヤー・キャラクター(PC)のような「流れ者」にとっては沈滞した息苦しい社会に映るわけです。そこでPCは「何か」を求めて連盟非加盟の辺境であるこの『ドラコニム星域』にやって来た…という感じです。
 ドラコニム星域ではステラ・システムズ社(Stellar Systems Corp.)という社有星系すら持つ大企業が重要な存在となっており、海軍や偵察局ですらこのステラ・システムズ社傘下の「民営海軍・偵察局」なのです(イメージとしてはアニメ『マクロス』シリーズのS.M.Sやケイオス社のようなものでしょう)。海軍は宇宙海賊の脅威からの重要な防衛力なので色々な星系政府が契約していますが、悲しいかな会社の利益に反する作戦行動は取らないようです(苦笑)。
 また、各星系が独立星系であるがゆえに複雑な政治的利害関係が構築され、「神知教団(Found People of God)」なる宗教団体も星域内に信徒と勢力を拡大しています。加えて星域内には様々な知的種族も存在し、冒険とトラブルの種には事欠きません。
 各星系の技術水準は辺境なのでTL10~11ぐらい…と思いきや、突然15とか17(!)の星があったりと油断なりません(笑)。まあ小惑星星系のTLはルールに従うなら高くなりがちなので、上限を定めていないとこうなりますよね…。特に高TL星系が設定の根幹に関わってくる様子はないので、気に入らなければ12ぐらいに削ってしまうのも手でしょう。

 ざっと見た感じでも1か月で作られたのが信じられない力作で、これを作者サイトで無料配布してしまう太っ腹ぶり。投げ銭したい方にはDrivethruRPGで対応しています。これまで築き上げられた第三帝国設定を普段から「重く」感じている方には必携、覚えるべき設定が少ないのでカジュアルプレイや初心者向けセッションのお供に、そうでなくても設定作りの参考やシナリオのネタ探しに使える逸品です。

Comment    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 40周年記念企画:『通信機』... | TOP | トラベラー40年史(1) 黄... »

post a comment