宇宙の歩き方

The Astrogators' Guide to the Charted Space.

緊急レビュー:『Cepheus Light』

2018-11-03 | Cepheus Engine
 『Cepheus Light』は、Samardan Pressの『Cepheus Engine』(以下CE)の軽量化版としてStellagama Publishingが公開したものです。CEはMongoose PublishingのTraveller SRDのOpen Game LicenseによるSystem Reference Documentとして制作されたため、その派生ゲームを制作・販売することは契約上全く問題ありません(既にGypsy Knights Gamesから『Clement Sector: The Rules』が出されていますし、Moon Toad PublishingのPrint On Demand版『Cepheus Engine RPG』にもわずかに独自要素が含まれています)。

 では簡単ではありますが、『Cepheus Light』がCEからどう変わったのかまとめてみました(※速報性重視のため、見落とし・誤解の可能性があることをご了承ください)。

キャラクター作成
  • 能力値決定は基本ルールが「2Dを6回振って任意の能力値に割り当て」に、選択ルールが「筋力から順番に2Dを振って決定」か「2Dを7回振って最低値を捨ててから能力値に割り当て」となった。
  • キャラクターの出身世界が「高技術中央世界(High-tech core world)」「辺境入植地(Frontier colony)」「悪環境前哨基地(Inhospitable outpost)」「未発達後進世界(Primitive backwater)」の4つに簡略化。自動取得される技能は出身種別ごとに指定された3種類の1レベル技能の中から1つを選択するようになった。
  • 「知力+教育度」の合計技能レベル上限が復活(後述する「成長ルール」のためか)。
  • キャラクター作成時に生存判定に失敗すると即死(失敗表も負傷表も無し)。選択ルールで負傷退職(恩典なし)に変更可。
  • 「任官」判定が廃止されて「昇進(Advancement)」に一本化された(※部門に入った時点で「第0階級」です)。また、「昇進のない」部門は無くなった(偵察局は階級名が書かれていないだけで昇進は存在する)。
  • 第1期に部門技能(Service Skills)に属する技能6個を0レベルで全て取得するルールは選択ルールになった。
  • 部門退職後に別部門に再就職できるルールが選択ルールで用意された(マングース版にはあったがCEでは一旦廃止された)。
  • 経歴部門は「工作員(Agent)」「陸軍(Army)」「宇宙鉱夫(Belter)」「入植者(Colonist)」「名士(Elite)」「海兵隊(Marine)」「商人(Marchant)」「海軍(Navy)」「海賊(Pirate)」「悪党(Rogue)」「学者(Scholar)」「偵察局(Scout)」の12種類。名士は従来の「貴族」の代替。
  • 徴募(Draft)の対象には海兵隊・商人・海軍・偵察局に加えて「徴募免除(入植者になる)」「徴募忌避(悪党になる)」が設けられた。陸軍が対象ではなくなったことに注意。
  • 一部部門の退職恩典(Mustering Out Benefits)に「知己(Contact)」が追加。商人の7番に自由貿易商船(Free Trader)が復活(※CEでは何故か廃止されていた)。宇宙鉱夫が「採掘船(Prospector)」を得られるようになった。「武器(Weapon)」を取る場合はTL12以下の重火器ではないものから選択するようになった(※CEではTL12以下の武器しかなかったのであえて付けられた措置)。
  • 年齢効果(Aging)の選択ルールで技術レベル[どこの?]によるDM補正が可能になった(一方で借金して抗老化薬を使用するルールは廃止)。
  • 選択ルールで「技能パッケージ」の概念をマングース版から輸入。技能が無くて「詰む」ことを防ぐために、事前に「探査もの(Exploration)」「軍事もの(Military)」「艦艇もの(Naval)」「貿易もの(Trading)」「犯罪もの(Criminal)」と用意された技能集の中から、これから行う内容に合ったものを選んでプレイヤーに分配する。

技能・判定
  • 技能判定は目標値8+固定ではなく、難易度に応じて目標値が可変するようになり、CEとは真逆に出目2は絶対失敗、出目12は絶対成功のルールが導入された。判定時間の概念は廃止。
  • 難易度の「並(Average)」は従来の「8+」ではなく「6+」に引き下げられ、「難(Difficult)・困難(Very Difficult)・至難(Formidable)」はそれぞれ「8+・10+・12+」となった。(CEの基となった)マングース版以降ではメガトラベラーの時と比べて使えるDMの値が減ったにも関わらず目標値が上昇しており、判定が成功しづらいシステムになっていたのを表記の変更で補正したと思われる。
  • 一部技能が統合された。〈機械技術(Mechanics)〉と〈電子技術(Electronics)〉(とおそらく〈反重力技術(Gravitics)〉)が統合されて〈機器補修(Repair)〉に、〈管理(Admin)〉が〈法律(Advocate)〉を内包、〈社交(Carousing)〉が〈賭博(Gambling)〉を内包、〈コンピュータ(Computer)〉が〈通信機(Comms)〉を内包、〈パイロット(Piloting)〉が〈航法(Navigation)〉を内包、〈無重力環境(Zero-G)〉は〈バトルドレス〉を内包した。〈運動(Athletics)〉が「無技能判定不可」と明言されたのも大きな変更点。
  • 〈虚言(Deception)〉〈重火器(Heavy Weapons)〉〈調査(Investigation)〉〈偵察(Recon)〉〈隠密(Stealth)〉〈生存(Survival)〉が追加(再掲)され、〈言語学(Linguistics)〉が廃止された(言語は母語に加えて教育度DM個ほど習熟しているように変更)。
  • 〈動物(Animals)〉〈射撃戦闘(Gun Combat)〉〈砲術(Gunnery)〉〈白兵戦(Melee Combat)〉〈科学(Science)〉は選択技能ではなくなり、関連する行動全てで利用できるようになった。同時に輸送機器系の技能も〈航空機(Aircraft)〉〈地上車(Driving)〉〈反重力車両(Grav Vehicles)〉〈船舶(Watercraft)〉に集約された。
  • 成長ルールが導入された。1冒険(選択ルールで1セッション)で1~2経験値を得、技能を1レベル上げるのに向上後の技能レベルの10倍を必要とする(※1レベルを2レベルにするのに必要な経験点は20点)。また、10経験値で1つの言語を習得できる。

装備
  • 重量ルールは簡略化され、制限なしに持てる「物品数」は筋力個まで、制限付き(判定時DM-1、戦闘時行動数半減)でも筋力×3個までとなった(小物は無制限)。
  • ルール内で扱われる技術レベル(TL)は16までに拡張された。
  • 社会身分度(SOC)ごとによる生活費が明確化された。規定の生活費を支払わないと社会身分度が低下(※メガトラベラーでもあったルールですが)。
  • 防具のアブラット廃止。低TL帯の防具の防御力が下方修正。バトルドレスの名称が「パワードアーマー(Powered Armor)」に変更。TL5の悪環境防護服(Environmental Protection Suit)、TL13の改良型宇宙服(Vacc Suit, Advanced)、同じくTL13の「Weave(※遺伝子改良クモの糸で織られた軽量防弾服)」が追加された。
  • 身体の機械化(Cybernetics)ルールが復活(※Stellagamaが無料公開していた『Cybernetics for the Cepheus Engine』を全面改稿した模様)。
  • 戦闘薬(Combat Drug)が廃止され、覚醒剤(Stim)と入れ替え。
  • ロボットやドローンのデータ表記法が人体(キャラクター)と同じになった(※戦闘処理が車両戦扱いから対人戦扱いになったためと思われる)。
  • 意外にも通信機やコンピュータ関係のルール・データが丸々削除。代わりにTL9の装備品として三次元拡張現実(holographic augmented reality)機能を備えた進化形スマートフォン「Omnicomm」や携帯コンピュータ「Omnicomp」が用意された。ちなみにTL10では手術で人体内に収められる(※つまり「電脳化」)。
  • 車両のデータはVehicle Design Systemと互換性が無くなったかもしれない(解析中)。
  • 白兵戦武器では、手斧(Axe)や杖(Staff)が追加された一方でフォイルが廃止。高TL帯ではスタンバトン(Stun Prod)や高振動剣(Vibro-Blade)追加。素手のダメージは1Dではなく筋力DM値固定(最低でも1)となった。
  • 銃器ではプラズマライフルがTL16で追加されているのが目を引くが、重火器ではないのでダメージは6Dと控えめ。TL12までしかなかったCEと比べて、高TL帯には他にブラスター(ダメージ4D)やヘビーブラスター(同5D)が、低TL帯では軽機関銃(Light Machinegun)などが追加された。

戦闘
  • 不意討ち判定に〈偵察〉を用いるようになった。不意討ちに気づくのも〈偵察〉。攻撃側成功・防御側失敗の場合のみ不意討ちが成立。
  • 行動は2D+〈戦術〉の値の高い順に行う。味方に〈リーダー〉持ちがいるなら判定の効果値(成功時に8を上回った数)をDMに。
  • 自分の順番が回ってきたら「攻撃(Attack)」「突撃(Charge)」「鼓舞(Inspire)」「移動(Move)」「警戒(Overwatch)」の中から2つ(重複可)を選んで行動する。「攻撃」はその場で攻撃、「突撃」は20m(13マス)先から〈白兵戦〉攻撃を仕掛ける、「鼓舞」は〈リーダー〉で6+を出すと対象の次の判定にDM+2、「移動」は9m(6マス)移動するか伏せ(prone)るか伏せ状態から起き上がる、「警戒」は相手の動きに反応して割り込み行動するよう待機する(盾を構えるのも「警戒」)。
  • 攻撃判定に用いるものが〈白兵戦〉〈射撃戦闘〉〈重火器〉技能レベルのみとなり、能力値DMを参照しなくなった(※これに限らず、『Cepheus Light』では原則的に技能レベルと能力値DMを組み合わせて判定することが無いようだ)。
  • 距離による命中修正は「有効射程(Effective)/最大射程(Maximum)」の2段階(白兵戦距離を含めると3段階)に簡略化。全般的に当てやすくなった一方で「隠蔽や姿勢などによるDM合計が-4に達した対象には絶対当たらない(手榴弾を除く)」というルールも。
  • 「オート」属性を持つ銃器は「単射(Single)」「点射(Burst)」「自動(Auto)」の中から選択して攻撃できる。「点射」は1戦闘でオート値回だけダメージにオート値を追加。「自動」は目標から6m以内にいるオート値と同じ数の対象にも追加攻撃できるが弾薬を3倍消費。
  • 投擲攻撃には〈運動〉は使わず、敏捷力(短剣)や筋力(手榴弾)の判定で解決する。
  • 回避(Dodge)や受け(Parry)は選択ルール扱いになった。
  • 制圧射撃(Suppressive Fire)がルール化された。射撃者が指定した3m×3mの範囲内に存在(もしくは宣言後に通過)する者は全て即座に命中判定の対象となる。ただし判定に〈射撃戦闘〉は使えず、さらにDM-2を受ける。弾薬は1ラウンドにつき銃器のオート値の3倍を消費するが、弾薬が尽きるまで制圧射撃を続けられる。
  • ダメージ処理は「戦闘時の第一撃は必ず耐久力を削る。それ以降は筋力・敏捷力・耐久力のどれかを負傷者が選んで削る(溢れた分は別の能力値に割り当てる)」に変更された。また、1ラウンドに敏捷力以上のダメージ(装甲による補正前)を受けると転倒(Knockdown)が発生して伏せ状態になる(パワードアーマー装着者は敏捷力2倍扱い)。
  • ダメージ処理変更に伴い、負傷段階も調整された。1つの能力値が0になると1Dラウンド気絶(起きた際に半分回復)(※気絶せずに治療までDM-1を課す選択ルールもあり)。2つが0になると目標値8+で判定を行って失敗すれば即座に1D時間意識不明になり、成功しても1D分後に気絶する(起きた後の回復量は1のみ)。3つとも0になると死亡(…なのだが、Stellagama発行の『From the Ashes』で機械化やバイオテクノロジーによる「復活」ルールが用意されている)。
  • 耐久力回以上に同一ラウンドで2度「移動」を行ったり、2日以上絶食するなどの理由で「疲労(Fatigue)」状態になったキャラクターは全ての判定にDM-2を受ける。疲労を回復するには8-耐久力DM時間がかかる(つまり耐久力DMが負のキャラクターは余計に時間を要する)。なお「疲労」状態は累積し、レフリーの裁量で気絶させられる場合がある。
  • 弾薬の再装填のルールが見当たらないため、おそらく行動を消費せず装填できるのだと思われる。よって銃器データの装填数の項目は「弾薬1セットあたりの数」程度の意味しかなくなってしまった。
  • 散弾銃の射程「20/20」はおそらく「20/50」ぐらいの誤植と思われる(そうしないと「散弾(Scattergun)」属性のルールが機能しない)。(※Revision 1で「20/40」に修正済み)

  • 車両戦闘はダメージ処理が簡略化された。攻撃が命中した場合武器のAV(対車両)値個サイコロを振り(つまりAV値を持たない拳銃では車両を傷つけることはできない)、車両の装甲値以上なら通常損傷表を、装甲値の2倍以上なら致命的損傷表を参照する(…とルールには書いてあるが、おそらく輸送機器の「Light Damage」「Critical Damage」値との比較ではないか?)。
  • 項目の表題はあくまで「Vehicles in Personal Combat」であり、車両同士の戦闘は追跡戦(Chase)のみを扱っている。

恒星間航行
  • 〈航法〉の統合に伴い、宇宙船の運用に必須の技能は〈パイロット〉と〈エンジニアリング〉の2つに(※0レベルでも問題ないが就職はできない)。船の規模や用途によっては、〈リーダー〉〈コンピュータ〉〈医学〉〈管理〉〈砲術〉〈射撃戦闘〉〈スチュワード〉も求められるのは従来と同じ。
  • ミスジャンプした場合は、まず宇宙戦闘の致命的損傷表を振ってからそれでも船が破壊されていなかったら距離1D×1Dパーセクのランダムジャンプとなる(※ただし必ず星系のあるヘクスに補正される)。
  • 旅客運賃は「ジャンプ1回につき」ではなく「1パーセクにつき」に変更された。退職恩典のチケットが「(2パーセク以上の)ジャンプ1回分」と明言されているので誤植の可能性は少ないし、その価値は上がっている(※売却額については不明。売却不可?)。
  • CEで物議を醸した2人部屋ルールについては一等と二等の間に「相部屋船客(Steerage Passage)」が設けられる形で解決された(1人頭5000Cr.)(※ただしSteerageは一般的には「三等」と訳されがちな用語なので、今後定訳の見直しが必要かもしれない)。一方で「船荷・船客募集表」は従来のままなので、特等船客が一等船客を全て追い出してもまだ溢れるような状況で押し込むか(船側には何の得もないが)、NPCとして家族連れやカップルを登場させるフレーバーとしてしか使えないかと。
  • 二等船客の蘇生判定は担当医師が〈医学〉で目標値5+の判定を行い、失敗したら即死するようになったためCEよりも危険性が上がっている(絶対失敗のルールもあるので〈医学-3〉の医師が居ても安心できない)。また、医師不在でも低温寝台自体が〈医学-0〉を持ち、乗客の耐久力をDMとして用いるとされている(※おそらく寝台が救命ポッドとして使用されるような場合を想定していると思われるが、本人の耐久力DMは医師がいる際にも適用して良いのではないか)。

宇宙戦闘
  • 1ラウンドは1000秒から6分に変更された。また距離の概念が廃され、車両戦闘と同様に追跡戦のみを扱うようになった。

世界の作成
  • 「人口」を決めるDM表で「水界0かつ大気3-」の項目が-2から-1に変更されたが、誤植の可能性も否定できない。
  • 約40年間に渡って様々な議論を呼んだ「政治形態」の5番「封建的技官政(Feudal Technocracy)」は、単なる「技官政(Technocracy)」となった。
  • 「宇宙港」を決める順番は「人口」の後ではなく「治安」の後となった(※大して影響はないとは思われるが、処理の途中で表記上の先頭に戻るよりも一通り終えてから先頭に戻る方が間違えにくいのかもしれない)。なお、A・B・Cクラスの宇宙港には軌道港が付随することが明言された。
  • 貿易分類「荒涼(Ba)」は「人口・政治・治安が0」から「人口0」に変更された(※政治と治安を参照するのがこの荒涼だけなので、表を省略したかっただけなのかもしれない。説明文も「未入植の星系」となっているし)。
  • 通信航路(Communication Lines)や貿易航路(Trade Routes)に関する記述がより明確化された(※正直CEではあやふや過ぎた)。

その他
  • 異星種族(Aliens)や超能力に関するルールは補遺(APPENDIX)扱いになり簡略化。
  • 遭遇関係のルール(異星生物や宇宙船など)は全て省略された。

 2D6 Sci-Fi(Traveller SRD)システムは元々そんなに「重い」ゲームではないので、軽量化といってもそこまで「軽く」なった印象はないのですが、それでもルールの必要不必要を見極めて164ページにうまくまとめ上げているように思います。それでいて解説が必要な部分には懇切丁寧に例示を入れ(個人戦闘の例に8ページ、宇宙戦闘には7ページを割き、キャラクター作成に関しては何と6パターンも用意)、サンプル宇宙船にはそれぞれカラー挿絵を入れるなど、単体ルールとしての視認性や理解度も向上させています。
 個人戦闘のバランスは、ダメージ処理の変更や転倒ルール、制圧射撃の導入によって先手必勝感が強まっています。従来のルールではどうしても「待ち」の姿勢で相手の動きを見極める必要がありましたが、『Cepheus Light』では積極的に相手の数を減らしに行った方が良さそうです。「現実再現よりも活劇志向」であることを『Cepheus Light』は前文で訴えていますが、「活劇」らしさはこういうところでも出されているようです。

 世界設定は用意されていませんが、元祖トラベラー譲りの制作ルールは残されていますし、『These Stars are Ours!』『Hostile』といった2D6 Sci-Fi系の宇宙設定も多く発売されています。それこそ第三帝国(Third Imperium)を持ってきてもいいのです。
 総合的に見て、トラベラー系2D6 Sci-Fiシステムの入門編としてだけでなく、さらなる派生システムの核にも使えそうな可能性を秘めた良作だと思います。実際のところ「文書(Document)」だったCEから「ルールブック」として大きく進化していますし、何と言っても(その気になれば)無料で入手できるのがいいところです(笑)。
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