宇宙の歩き方

The Astrogators' Guide to the Charted Space.

宙域散歩(21) ソル星域

2013-02-25 | Traveller
ソル星域 Sol subsector
 ソル星域の星々はまばらに点在していて、リム・メインからは離れています。このことがかつてのヴィラニ帝国の拡大を、そして前星間文明時代のテラが征服されることを阻みました。
 「地球人」がジャンプドライブを用いて星の世界に足を踏み入れてすぐに起きたヴィラニ人との接触は戦争につながり、宇宙史を大きく動かしました。この恒星間戦争の後、権力の中枢はディンジール(そして宙域の外)へと移ったため、テラは重要性を失いました。
 暗黒時代の間、星域のリムワード方面半分の世界は、OEU(古き良き地球同盟)の影響下にあり、星域が帝国に併合された後は、ここはソロマニ主義運動の基盤となりました。やがてテラはソロマニ自治区、そしてソロマニ連合の首都となり、ソロマニ・リム戦争では帝国軍の最重要目標とされました。歴史的要因や、戦争によって民間にも大きな被害が出たこともあり、現在でも星域内のいくつかの世界は反帝国的です。1050年代まで多発した騒乱こそ沈静化しましたが、ソロマニ党は一定の勢力を保ち、帝国からの分離を絶えず主張しています。
 現在のソル公爵は、マズン・トマス・フォン・リッターブルク(Mazun Tomas von Ritterburg)が務めています。彼は有能な統治者であり、熱烈な愛国者でもありますが、無愛想かつ言いたい事は遠慮なく言う性格のため、結果的に周囲の人々を遠ざけてしまっています。政治的盟友であるはずのアデアー大公との関係すら、ぎくしゃくしたものとなっているのです。
(※余談ですが、「マズン」はヴィラニ人に、「トマス」はソロマニ人によくある名前です)

 ソル星域には18の世界があり、総人口は737億人。最も人口が多いのはラガシュの210億人です。星域艦隊として、帝国海軍第97および第116艦隊が有事に備えて守りを固めています。




ヌスク Nusku 1822 A569943-F 高技・高人 G Im
 惑星ヌスクは、K5V型変光星の61キグニA(別名:ベッセル)から0.29AU離れた軌道を周回しています。ヌスクの空にはまばゆいほどの61キグニB(ヴィラニ名:アンラガル)がオレンジ色に輝いていますが、87AU離れたアンラガルはヌスクをより暖かくするには遠い存在です。また両者とも変光の度合いは大したことはありません。
 ヌスクは第三次恒星間戦争で地球人に征服された世界です。ここの住民は遺伝子的には多様ですが、文化の面では「人類の支配」以降ソロマニ文化に染まりました。暗黒時代のヌスクは独立星系として「人類の支配」時代の技術を多く保持しました。589年に帝国に加盟した後、ソロマニ主義運動がリム宙域まで広まると、ヌスクに設立されたソロマニ党は特に過激な活動を行い、党が政権を握ると厳罰を伴う法律を次々と制定しました。750年以降は「純血の」ソロマニ人だけが完全な市民権を持ち、他の住民は参政権どころか公民権も与えられませんでした。ヌスクの住民はヴィラニ人との混血が恒星間戦争時代から進んでいたため、極一握りの「純血の」ソロマニ人はソロマニ主義に忠実な政治エリートとなりましたが、そんなヌスク政府には腐敗がはびこりました。経済は停滞し、技術発展は途絶え、かつてのような活気のある文化は抑圧されました。しかしサミズデータ(samizdata)と呼ばれた出版物を惑星内情報ネットワークの秘密経路で流すことによって、多くの作家や哲学者が命脈を保ちました。
 リム戦争の後、ヌスクはしばらくの間帝国の軍事支配を受けましたが、1048年には3世紀前に崩壊した共和政府を再興させるための憲章制定会議(constitutional convention)が設立され、その数年後には民政に復帰しました。現在のヌスクは、ソロマニ政権以前の繁栄を取り戻しています。
 地元社会の変わった特徴は、極端な平等主義です。歴史的経緯から、ヌスクの住民はいかなる種類のエリートにも不信感を抱いています。その結果、裕福な人は自らの富を見せびらかすことを避け、政治指導者は謙虚さを有権者に示すことに全力を注ぎます。地元の帝国貴族ですらその振る舞いには気をつけていますが、外世界から来たメガコーポレーションの幹部は派手な生活様式に慣れてしまっているため、結果的にメガコーポレーション自体が地元住民の軽蔑の対象となっています。
 なおヌスクは、自発監視員(Free Monitors)の活動が活発な星でもあります。
(※サミズデータとは、「地下出版」と訳されるsamizdatから造られた単語で、主に検閲を逃れて秘密裏に複製・流通した書物や文書を指します。つまりsamizdatの電子版という意味です)

アジッダ Agidda 1824 A972979-C 工業・高技・高人 G Im
 アジッダは、地球人との戦いでヴィラニ人が失った最初の「領土」です(※バーナード星系に対しては第一帝国は領有権を主張していただけでした)。ヴィラニ人は-3400年頃に入植を始め、第二次恒星間戦争で地球連合領となるまでの数百年間は第一帝国の最辺境世界でした。
 惑星アジッダ自体は居住にはあまり向いていません。主星ロス154の引力によって惑星の向きは固定され、主星が時折光度を増して地表を焼くため、生命はほとんどありません。最も進化したものでも、海洋の浅瀬に漂うバクテリアの固まり程度です。そして空中の酸素比率は、機器の助けなしに人類が呼吸するにはあまりに少ないのです。
 しかし交通の要衝であるこのアジッダをめぐって、恒星間戦争でもソロマニ・リム戦争でも戦いが繰り広げられました。平和になった今では、歴史あるクリムゾン宇宙港にたくさんの商船が忙しく出入りしています。

テラ Terra 1827 A867A69-F NW 高技・高人・肥沃 G Im 軍政
 詳しくは前回を参照してください。

フェンリス Fenris 1830 AA98969-E N 工業・高技・高人・肥沃 A Im 軍政
 「プロキオン星系」の最初の役割は、第一次恒星間戦争直前に建設された地球人の海軍(※地球連合の結成は第一次恒星間戦争の後です)のための燃料補給基地としてでした。それから何十年もの間、プロキオンは地球連合の最前線(と同時に最終防衛線)の砦であり続けました。「人類の支配」期にはここは軍需産業の星となり、住民は軍関係者や退役軍人で占められました。
 暗黒時代の「平和な」時代にはその軍事的性格は一旦薄まりましたが、OEUに参加してからのフェンリスは軍の兵士や士官の供給元となりました。
 暗黒時代の末期には、フェンリス社会は様々な「ロッジ」によって統治されるようになっていました。ロッジとは同好会と互助会と秘密結社と政党と民兵の要素を全て併せ持ったような組織で、そのロッジが地元警察や星系軍を形作ったため、社会の軍事的色彩は濃いものとなっています。建前上は市民主権の議会制民主主義も、実際にはロッジの指導者的地位を手に入れた退役軍人によって操られています。
 恒星間戦争の記憶から、フェンリス市民と政府はソロマニ主義の熱烈な支持者となり、ソロマニ政権時代のフェンリス防衛軍は異常に巨大で、よく訓練されて、十分な装備を持っていました。リム戦争の最終盤での帝国軍への抵抗は特に激しいものでした。
 ロッジは依然として帝国への抵抗運動の核となっています。帝国当局はロッジの力を削ぎたいのですが、ロッジの存在がフェンリス社会にとって必要不可欠であるのも事実です。帝国は1096年から(※1105年まで)親帝国派ロッジの後援を試みましたが、残念なことに多くの民衆の怒りを買い、結果として内戦に等しい暴力の応酬が始まってしまいました。
 この星系ではソロマニ党は非合法のままですが、いくつかの秘密組織としては存在しています。
 フェンリスは反帝国暴動がいつ発生してもおかしくない世界です。旅行者は、ここがアンバーゾーンに指定されていることを常に念頭に置いて行動すべきでしょう。

ジャンクション Junction 1929 B975869-F 高技・肥沃 A G Im 軍政
 ジャンクションで注意すべきなのは大気です。窒素と酸素の混合大気は、気圧もテラとさほど変わりませんが、氷河期の只中にあるジャンクションには二酸化炭素が欠けています。そのため、目眩や呼吸困難、睡眠障害を引き起こすことがあります。住民はなるべく理想的な大気組成が保たれている居住区で生活し、その外に出る場合は十分な二酸化炭素を維持できるマスクを着用します。
 なおジャンクションは赤色矮星の主星に常に同じ側を向けているため、入植地は中間の薄暮帯に多く作られています。惑星の「熱帯側」や「寒帯側」に出向く際には、入念な準備が必要です。

イシムシュルギ Ishimshulgi 2021 E200478-7 真空・非工 G Im
 この惑星はかつては薄い大気といくつかの小さな海を持っていました。地球系企業のジェナシスト社(GenAssist)は、生態系を活性化させて農業に役立てようと窒素を土中に入れましたが、あまり効果は上がりませんでした。そこでジェナシスト社はバクテリアの遺伝子操作を試みましたが、そのバクテリアの異常増殖によってわずか数年で土中の窒素濃度は危険な水準にまで高まってしまいました。
 ジェナシスト社は必死に「解毒剤」となる生命体を創り上げましたが、今度はそれが酸素を土中に取り込むよう突然変異してしまったのです。そしてイシムシュルギの全ての大気は地殻に閉じ込められました。イシムシュルギの住民は密閉空間での生活を余儀なくされ、多くの人々はこの地を去りました。
(※他の設定との整合性から、この話は恒星間戦争末期~人類の支配期のものと思われますが、『Interstellar Wars』では西暦2170年(第四次恒星間戦争直前)の時点で既に真空世界となっているので、この設定の取扱いには注意が必要です。個人的には『Interstellar Wars』の設定の方をこちらに合わせた方がいいように思います)

プロメテウス Prometheus 2027 A785969-F S 高技・高人・肥沃 G Im 軍政
 恒星アルファ・ケンタウリを周回する、地球人初の星系外植民地となったこの惑星は、彼らにとって火の発見と同じくらい重大な意味を持ったことからプロメテウスと名付けられました。プロメテウスは、テラよりも濃い(そして呼吸可能な)大気と、より暖かな気候、大小様々な海を持っています。高緯度帯まで熱帯雨林はあり、赤道周辺の大部分は砂漠となっています。
 この星への最初の入植者は、-2468年に世代宇宙船(generation ship)で地球を旅立った欧州連合の人々でした(※到着したのは-2424年です)。その後、様々な国家や集団がジャンプドライブの開発とともにこの星に移住してきたことにより、プロメテウスは幾多ものテラ文化の第二の故郷となりました。テラ自身が「人類の支配」の間に恒星間文化に吸収され均一化されていっても、この星の住民は自らの民族文化の独自性を頑なに守り続けました。結果、アーミッシュ、マサイ、パールシー(※インドのゾロアスター教信者)、ロマたちは現在でもプロメテウスに存在します。
 同時に、プロメテウスは革新的な科学技術の中心地でもありました。事実、-2302年にプロメテウス大学のジェネヴァ・マッツィ(Geneva Mazzi)教授によって物理学は大きく進歩し、これは-2285年の中間子砲の開発に結びつきました。
 初期のプロメテウス社会は極端な自由意志論(libertarianism)に基づき、文化的寛容と個人の独立独歩を重んじていました。「人類の支配」が始まるとプロメテウスは一時的にソル星域における政治的中心の地位をテラから受け継ぎ、暗黒時代のテラ商業共同体やOEUの台頭まで守りました。暗黒時代を経ても、プロメテウスの気風は受け継がれました。
 しかしソロマニ主義運動によって長年の調和は崩れました。プロメテウス社会は画一的で抑圧的なソロマニ政権に苛立ち、いくつかの集団は地下に潜んだり、リム方面の新たな世界に移民していきました。またソロマニ党内の派閥争いで民族対立が煽られるなどして、世界は緊迫の度を増しました。
 戦後、プロメテウスは再び帝国の統治に戻りましたが、帝国情報部と陸軍は反帝国運動に目を向けさせないように地域や民族間の反目を利用したので、組織化された反乱よりもかえって民族同士の衝突が起こるようになってしまいました。帝国が今軍政を終えた場合に残るのはおそらく小国分裂状態の惑星であり、それを内戦にまで発展させないためにも帝国軍による統治がまだ必要とされて(しまって)います。
 希望の光はいくつかあります。(情報部や陸軍のやり方を批判していた)帝国偵察局はプロメテウスの旧連合海軍基地を接収し(元々この基地は帝国偵察局と同じような任務のために建設されたものなので好都合でした)、そこを拠点にして民族紛争を減らすべく、社会学の専門家などを派遣して活動を行っています。またオーセンティック運動も広まりつつあり、プロメテウスの人々がかつてのような政府を再建する可能性も芽生えてきています。名門のマッツィ物理学研究所からは政治的な教授陣が一掃され、ソロマニ政権時代には決して入ることのできなかった非ソロマニ人学生を惹きつけています。

ペラスペラ Peraspera 2028 B7A2536-D 高技・非工・非水 Im
 ペラスペラは10億年以上前のテラに似た環境です。平均気温50度の地表では生物は進化しておらず、大気は窒素、酸化窒素、二酸化炭素、様々な硫黄ガスの混合体で、呼吸には適していません。
レフリー情報:ここの奥地にはソロマニ連合軍の中間子研究基地が誰にも知られずにひっそりと佇んでいます。この研究基地が今現在稼働しているかどうかはレフリーが決定しますが、1114年の時点では密かに使用されていたようです。

ハデス Hades 2030 B432366-E 高技・低人・非工・貧困 G Im (フェンリスが領有)
 ハデス星系は長らくフェンリス政府に領有されていましたが、フェンリスが民政に復帰するまでは帝国海軍がこの地を管理することになっています。

ラガシュ Lagash 2121 A667A8B-F N 高技・高人・肥沃 G Im 星域首都
 そのヴィラニ語源の名にも関わらず、ラガシュは第一帝国によってほとんど入植されなかった世界です。拡張を続ける地球人を囲い込む前哨基地網を築くためにヴィラニ人入植地が造られこそしましたが、ヌスク陥落後はこの方面における第一帝国の影響力は弱まり、入植地は放棄されました。地球人の入植は第八次恒星間戦争の後に本格的に始まり、それ以来ラガシュはソロマニ世界となりました。
 ソロマニ系人口の多さがありながら、ラガシュは常にソロマニ主義に対して否定的でした。ラガシュはOEUの拡大期にはテラとしばしば衝突し、暗黒時代が終わるとすぐに、銀河核方向のヴェガンやヴィラニ世界と交易関係を築きました。ソロマニ政権時代にはソロマニ党ヴェガ派を支持したことからラガシュの地位は低く置かれ、さらに交易が絶たれたために、ラガシュ経済は長期に渡って低迷しました。
 その結果、ラガシュは帝国の統治を歓迎し、喜んで忠誠を誓いました。軍政からは速やかに解き放たれ、1032年には星域首都に指定されました。これにより帝国政府やメガコーポレーションによる開発が進み、住民は発展の受益者となれました。ソロマニ主義者による扇動はなくもないですが、地元のソロマニ党は穏健派であり、とても小規模です。
 今日のラガシュは繁盛しており、ヴェガ自治区方面との交易の重要な拠点ではありますが、一方でここからテラに向かうXボートが一旦ディンジール星域を迂回している事も含め、ソル星域で孤立したような位置にあるため星域首都としては機能的とは言えません。しかし帝国への忠誠心を考慮に入れると他に選択肢がないのも事実です。ラガシュ市民は星域首都であることに誇りを持っていますが、一方でソル公爵は実務を優先してしばしばテラに出向いて星域統治を行い、公爵不在の間のラガシュはヌスク伯に委任する手法を採っています。「問題地域」に目を行き届かせるためにはソル公はこれが最善だと冷静に判断した結果ですが、ラガシュ市民は不満に思っています。そのため、テラの民政移管後に星域首都を移すのではないか、という噂は根強いのですが、公爵はこれまで公式のコメントを拒否しています。
(※実際のところ移転の噂は杞憂に過ぎないのですが、自ら誤解を解こうとはしない公爵の性格が事態をややこしくしているようです)

エンバー Ember 2227 A412969-D N 工業・高技・高人・非農・氷結 G Im 軍政
 エンバーは連星の主星から23AU離れた軌道を回っているため、地表は完全に凍りついています。しかし主星の小さな方は閃光星で、時々通常の5倍の明るさで急激に輝くことがあります。それでも地表は凍ったままではありますが、その際にエタンとアセチレンが発生します。
 化学製品に欠かせないこれらの成分を採取するのは容易ですが、恒星がいつ輝きを増すかは予測できず、タイミングを間違えると炭化水素の沼にはまった上でそのまま凍らされてしまう危険もあります。

ディスマル Dismal 2330 C421542-E 高技・非工・貧困 G Im
 この乾燥した惑星の大部分は砂漠で覆われ、両極点付近にシダ植物の生えた小さな温帯が存在します。その狭間には熱帯のサバンナが連なっています。住民は原油採掘企業の労働者やエンジニア、地質調査員から成っています。生活や経済の基盤は脆弱で、原油の埋蔵量が多いことは判っていますが企業に十分な利益をもたらしていません。
 ソロマニ・リム戦争において、ガスジャイアントで燃料補給しようとした帝国海軍の巡洋艦1隻とソロマニ系海賊と思われる小船団による交戦を除いては、両軍からも全く無視されたほど、この星は重要性というものを欠いています。
(※ただしソロマニ連合はディスマル星系における戦時中のあらゆる艦船の活動を公式に否定しており、帝国側の報告書の存在は認めつつも、それはプロパガンダだと主張しています。ちなみに、問題の巡洋艦の航行記録はライブラリで公開されています)


【ライブラリ・データ】
イイリク Iilike 1429 A455969-F N 高技・高人 G Im 軍政
 -3800年頃にヴィラニ人によって入植されたイイリクは、第六次恒星間戦争の後からは地球人の入植が進みました。大部分の地球人入植者は、中東やアフリカ出身のイスラム教徒でした。そして「人類の支配」が始まる頃には、この星の文化はヴィラニとアラビアが入り混じったようになっていました。イイリクは暗黒時代の間は比較的繁栄した独立星系となり、OEUとディンジール連盟の間の緩衝国の役割を果たしていました。
 596年に帝国に加盟したイイリクは、やや変化したとはいえイスラムの伝統を継承しています。例えば、祈りはイイリクの空に輝く恒星ソルの方角に向けて行われ、住民はテラにある古い聖地への巡礼を一生に一度はしたいと考えています。古代からのイスラム暦は廃れてしまいましたが、休日や儀礼の日は主星タウ・セチや衛星群の周期に合わせて設定されました。女性には完全な公民権がありますが、地元社会には男性優先な側面が残っています。
 この星の大衆文化は堅苦しい傾向がありますが、近頃の富裕層の間には芸術分野の大きな発展が見られます。幾何学的な絵画や建築、散文小説、叙事詩、形而上的な哲学、といったこれらの開花は、前星間文明時代の上流アラビア文化に似ていますが、ヴィラニや他のテラ文化から流入した要素も持ち合わせています。
 ヴィラニの影響にも関わらず、イイリクはソロマニ主義を初期から支持していた世界の一つです。地元の親ソロマニ政権は穏健派であり、イイリクが帝国に征圧されてからもほとんど組織的抵抗を示しませんでしたが、反帝国感情は今も残っており、時折起きるテロ事件やソロマニ支持のデモ行進でそれを伺うことができます。それでも最近は民衆の意見は帝国に優しくなっていて、急進的なソロマニ主義の劇的な復活がなければ、近い将来自治を取り戻すことでしょう。

シリウス Sirius 1629 A000769-E 高技・小惑・非農 A Im 軍政
 シリウスはテラの空で最も明るく輝く星です。星系はA型恒星と約20AU離れた楕円軌道を周回する白色矮星から成っていますが、どちらも惑星や小惑星の類を持っていません。宇宙船が燃料補給できないため、恒星間戦争時代のシリウス星系はソル星域とディンジール星域間の交通の要所であり難所でした。
 現在のシリウス「ベルト」は、近隣星系から牽引されてきた氷を含む小惑星や、何十もの人工建造物から作られています。これらの居住複合施設や燃料補給ステーションは、ソロマニ政権時代に連合海軍と繋がりのあった企業が建設管理していたものです。
 シリウスの産業は宇宙船関連に特化しています。燃料補給や補修施設に加えて造船所もありますが、最近のシリウスの関心は造船ではなく「廃船」にあります。ソロマニ・リム戦争で酷く損傷したり、時代遅れとなった艦船がここに集められ、部品を取るために分解されています。船殻の金属は宇宙入植地の建設のために転用されたり、スクラップとして転売されました。また、いくつかの船は再生した上で売っています。シリウスは宙域の中で、(特に軍用や偵察局用の)古い部品や中古宇宙船の販売業者を見つけるのに最適の場所です。
 帝国はシリウスの戦略的重要性ゆえに、陸軍ではなく海軍と海兵隊による軍政を布いています。また、主な燃料補給ステーションの管理と船舶解体業務をLSP社に委託しました。しかし地元住民の多くはソロマニ寄りで、特に港湾労働者や船舶解体業者の間には顕著です。
 1100年に軍政は、ソロマニ党の扇動者に操られているとして地元労働組合の活動を妨害しましたが、これは反帝国感情を増大させ、様々な「事故」が起きたり、LSP社や軍の関係者が襲撃されたりするようになりました。この星を訪れる帝国市民には、宇宙港から遠く離れた入植地では行動に注意するよう、アンバー・トラベルゾーン指定による勧告が出ています。

カグカサッガンの戦い Battle of Kagukhasaggan
 ソロマニ・リム戦争の末期、カグカ(ヴィラニ名:カグカサッガン)星系(ソロマニ・リム宙域 2325)に進出した帝国の機動艦隊は、ガスジャイアントでの燃料補給中にソロマニ艦隊の待ち伏せ攻撃を受けました。燃料補給がまだなされておらずジャンプ不可能だったライトニング級巡洋艦バード・エンデバー(Bard Endeavour)は、味方の撤退の時間を稼ぐために単艦で盾となり、その英雄的行動により帝国艦隊の大部分は脱出に成功しました。しかしバード・エンデバーは激戦の末に、艦に残った乗員43名と共に惑星カグカサッガン2の大気圏に墜落して破壊されました。

自発監視員 Free Monitors
 ソロマニ連合の監視員(Monitors)は、ソルセックの秘密の情報屋です。ソロマニ・リム宙域の多くの占領世界で、監視員のネットワークは戦争と占領統治を生き残りましたが、今では全く異なる形に変化しました。
 それは緩やかな繋がりの反帝国ハッカーたちとなり、帝国貴族や軍部やメガコーポレーションの機密を、ジャーナリストや匿名ネットワークに流して、白日の下に暴露しています。基本的に自発監視員は情報の公開のみを目的としていますが、少数ですが旧来通りソルセック工作員と繋がりのある者もいます。
 プロメテウス星系が起源と言われている自発監視員は、ソル星域とハーレクイン星域で活発に活動しています。

ジェナシスト社 GenAssist
 地球人の拡大初期(※おそらくジャンプドライブ開発~第一次恒星間戦争の間)に設立されたジェナシスト社は、遺伝子工学の力で植民地化を推進しようとしました。
 まず植民地の食料供給に問題が出ないよう、地球や異星の植物の遺伝子操作を行いました。続いて、入植者の出生率と人口増加率を増やすべく、環境の厳しい不人気な植民地に毎年何千人もの幼児を「生産」する施設を建設し、そこで数人の人間と看護ロボットたちが新たな「試験管入植者」を手厚く育成しました(※人工受精とクローニングの両方を行っていたようです)。これにより、快適には住めないが資源が豊富な世界での労働力を確保することができ、地球連合全体の国力を引き上げることができたのです。
 また同社は、ウルサやエイプといった知性化動物の誕生計画にも大きく関わっています。
(※ちなみにジェナシスト社の手法は、「純血の」ソロマニ人による勢力拡大のためにソロマニ連合でも用いられています。ただしこのジェナシスト社の情報はソロマニ連合側の資料によるもののため、実績が誇張されている可能性もあります)

ヴィードバック Veedback
 ラガシュ出身のアンプ・ロックグループ「ヴィードバック」は、1104年にマキドカルン・レーベルから発売されたデビュー曲が大ヒットを飛ばし、一躍スターとなりました。
 今では何億人ものファンが、彼らの宙域規模ツアーを待ち望んでいます。
(※ヴィードバックの詳細については、JTAS23号のアンバーゾーン『ROADSHOW』を参照してください)

フォン・リッターブルク家 von Ritterburg family
 ラガシュのフォン・リッターブルク家は第二帝国時代から続く貴族の家系で、742年に皇帝パウロ1世によって爵位を剥奪されても、その後のソロマニ政権下にあっても帝国への忠誠を保ち続けた一族です。ソロマニ・リム戦争の後に一族の名誉は回復され、戦後初代のソル公爵が後継者を遺さずに1033年に亡くなったため、フォン・リッターブルク家が公爵の地位に就きました。
(※爵位を剥奪された理由は不明ですが、何らかの疑獄に巻き込まれたか、ソロマニ自治区成立で中央と音信不通になったからだと思われます)


【参考文献】
・Game 3: Azanti High Lightning (Game Designers' Workshop)
・Supplement 10: The Solomani Rim (Game Designers' Workshop)
・Rebellion Sourcebook (Game Designers' Workshop)
・GURPS Traveller: Rim of Fire (Steve Jackson Games)
・GURPS Traveller: Interstellar Wars (Steve Jackson Games)
・The Third Imperium: The Solomani Rim (Mongoose Publishing)
・Aliens Vol.2: Solomani & Aslan (Digest Group Publications)
・Travellers' Digest #13 (Digest Group Publications)
・Dismal Luck (Peter Arundel/Freelance Traveller #18)
・Wikipedia: はくちょう座61番星


4 Comments

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Unknown (舞方雅人)
2013-02-26 10:32:54
いつも宙域散歩を楽しく拝見しております。
ソル星系は「インペリウム」で見かける星系名が多く、何か懐かしさを感じさせますよね。
お疲れ様でした。
(*´ω`)
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いつもどうもです (町田真琴)
2013-02-26 22:00:24
ソル星域は言うまでもなく古戦場の多い星域なのですが、設定の整備が行われたのはここ10年で一気に、ですね。おかげで随分と濃い情報を提供できたかと思います。
次回はソロマニ・リム宙域編のとりあえず最終回の予定です。お待ちください。
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地球連合だ (突撃工兵)
2013-03-17 01:05:20
アジッタ星系とか聞くと懐かしさがあふれます。地球よりさらにリム側の世界はどうなっているのでしょうかね
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いらっしゃいませ (町田真琴)
2013-03-17 11:50:39
懐かしの古戦場ですので、ちょっと気合を入れて書きました。楽しんでいただけたら幸いです。

>地球よりさらにリム側の世界はどうなっているのでしょうかね
 基本的に、テラからリム方面の(現在はソロマニ領となっている)世界の開発が始まったのは700年代以降と、歴史は結構浅いです(ハミルカー星系を中心とする牛飼座星団は第二帝国の頃から)。ですから、雰囲気的にはスピンワード・マーチ宙域のような発展途上感があるように思います。
 ちなみに「インペリウム」で出てきた懐かしの星々は、ざっとまとめるとこんな感じです。

ヘファイストス
 恒星間戦争時代から中断と再開を繰り返しつつ続けられたテラフォーミング計画が完了した星。ただし現在も陸地造成は続行中。835年から入植開始。

フォーローン
 ヘファイストスの開発をしている会社が、自社のテラフォーム技術の研究のための社有地として保有。

インフェルノ
 温室効果によって平均気温70度の灼熱のジャングル星系。金属成分を含む樹木を伐採して金属を輸出している。住民の多くは恒星間戦争時代からの純血のソロマニ人の家系ため、混血人に対する偏見あり。1020年代までソロマニ系ゲリラが惑星の地理を利用した抵抗活動を行っていたが、現在は鎮圧(軍政も1065年に解除)。その経験から、帝国陸軍の訓練キャンプが置かれている。

スメード・プラネット(インペリウム初版に登場)
 ソロマニ・リム戦争の休戦条約が調印されたのがここ。第八次恒星間戦争以後に植民が始まり、孤立星系ながら暗黒時代を生き延びた。リム戦争時にソロマニ軍の生物兵器工場があったため、帝国軍の核爆撃および中間子砲撃を受けて、住民は難民化。現在は中立星系であることを活用した自由港的な立場を模索中。星系名の由来はSF小説『復讐の序章』に出てくる「スメード亭」から、地球連合の探査艇の艦長が命名。
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