宇宙の歩き方

The Astrogators' Guide to the Charted Space.

宙域散歩(1.5) 268地域星域(詳細編1)

2012-05-09 | Traveller

 268地域星域は、帝国の268番目の星域として帝国暦610年に星図に書き加えられました(ちなみに同時に制定されたのが、隣接する267地域こと後のファイブ・シスターズ星域です)。「268地域」というのはあくまで(XXX-XXXの番号が付けられている星系のように)仮の名前で、この地域の多くの星系が帝国に加盟した頃には新たな星域名が付けられることでしょう。
 この地域は辺境探査の初期から、スピンワード・メインを通じたグリッスン星域方面の帝国領とのジャンプ-1宇宙船による貿易のための唯一のルートでした。やがてそのルートに沿うように、いくつかの重要な世界が発展していきました。そして941年には、皇帝マーガレット二世によってこの地域への植民・開発が許可され、今では様々な人々や資本が帝国から流れ込んできています。
 この星域のほとんどの世界は帝国に加盟していませんが、その中のいくつかの星系は属領として帝国の影響下にあります。名目上の星域首都はマータクターに置かれ、この地域に進出した企業などの拠点となっていますが、810年から帝国領となった2星系の統治自体はグリッスン(スピンワード・マーチ宙域 2036)から行われています。
 星域への将来的な帝国領の拡大と、その新秩序の中で星域首都の地位を占めたいと願うコレースに対し、トレサロンは帝国の拡大を阻止したいと考え、両者の敵意は「冷戦」の域に突入しています。自己の影響力を増して相手の影響力を削ぐべく、通常は宣伝工作や経済活動や法廷闘争で戦われていますが、時には政治的陰謀や工作員による暗闘も繰り広げられています。強大な帝国の後ろ盾があるコレースは反面、採る戦術に公正さが求められますし、トレサロンも帝国の介入を招くような暴挙は避けねばなりません。いずれにせよ直接の軍事行動は無意味であり、論外なのです。
 帝国企業は268地域で活発に活動しています。中でもこの星域を商圏に持つマクレラン・ファクターズ社(McClellan Factors)は、地元の非帝国企業との提携や法的にきわどい営業戦略で、積極的にバラッカイ・テクナム社(Baraccai Technum)との競争(という名の戦い)に没頭しています。両社は星域内での「冷戦」の間隙を縫うように、様々な戦術を駆使して通商戦争を戦っています。
 帝国属領星系の警備のため、隣接するグリッスン星域やファイブ・シスターズ星域から分艦隊が派遣されています(正式にはこれらはグリッスン艦隊所属ですが、独立して運用されています)。帝国第214艦隊(グリッスン艦隊)が星域のトレイリング方面を、第208艦隊(ファイブ・シスターズ艦隊)はスピンワード方面を担当し、これらの艦隊は古い巡視艇や護衛艦を旧式の駆逐艦がサポートする形で編成されています。
 星域の主な星々はスピンワード・メインに属し、ジャンプ-2の宇宙船で全ての星系に行くことができます。なお、高人口星系コレースを含む繋がりをコレース・アーム(Collace Arm)(※ドーンワールドからモトモスやインチンまでと、それに接続しているグリッスン星域やファイブ・シスターズ星域の数星系を含みます)、ボウマン星系を含む星団をボウマン・アーム(Bowman Arm)(※ソード・ワールズ星域のエノスは含まれますが、帝国領のフラマリオンやカラドボルグ伯領3星系は含まれません)と呼ばれることもあります(残るマータクター、ミル・ファルクス、パガトン、ビンジスの4星系はグリッスン・アーム(Glisten Arm)に属します)。また星域内の星のない空間を大コレース裂溝、小コレース裂溝と呼び表す人もいますが、あくまで俗称です。

 286地域星域には32の星系があり、総人口は106億人です。最も人口が多いのはフォリンの59億人で、最もテクノロジーレベルが高いのはコレースの13です。


アステルティン Asteltine 0931 B7A7402-A 非工・非水 Na
 非常に暑い気候と濃厚な異種大気を持つ惑星アステルティンや小惑星群は、鉱物を豊富に含んでいます。住民は全て、最高品質の鉱石を継続的に供給する宇宙鉱夫か地上の鉱夫です。好ましい住環境よりもとにかく(一時的な)職を求めてこの星にやってきた大部分の住民は帝国出身ですが、少数のダリアン人やソード・ワールズ人やアスランもいるため、種族間の軋轢は若干ながら存在します。
 この星系内で宇宙港に近付く船は、宇宙港管理局(port authority)に依頼料を支払った上で、傭兵である2隻の護衛艦のうちの1隻で護送される決まりとなっています。また、長らくアステルティンの鉱業や加工業は個人経営や小規模企業が無秩序に乱立して営まれていましたが、スピンワード・メインを行く物流が増えてきた今、より大きな企業やメガコーポレーションが進出してくるのではないかと噂されています。 
(※良質な宇宙港がありながら星系政府のないアステルティンは、「海賊天国」となる素地が十分にあります)

インチン Inchin 0938 D12035C-A 砂漠・低人・非工・貧困 G Na
 268地域星域には入植に不向きな星系も多いのですが、その多くは価値ある資源が豊富か、偶然に入植されたかです。しかしインチンは、天然資源が欠けているのに意図的に入植された悪環境星系です。
 インチンは低重力で水界がなく、極薄で汚れた大気の灼熱惑星です。平野は硫黄分を含む黄色の砂や岩に覆われ、砂漠惑星特有の自然美もありません。そんなインチンへの入植を試みたのは、イアール・ロウリ(Iarl Rowri)というコレース(1237)の大富豪の御曹司でした。
 ロウリはAPI社(※アヴァスタンを参照)がアヴァスタン(1037)に宇宙港を建設して利益を得た実話に触発され、自身の莫大な資産でAクラス宇宙港を建設しようと決めました。コレース・アームで唯一となるAクラス宇宙港が完成すれば、すぐに星域内の宇宙船修理ビジネスを支配できると考えたのです。その事業構想自体は良かったのですが、実際の内容はひどいものでした。
 ロウリの最初の過ちは、このインチンを建設場所に選んだことでした。彼は酸素や窒素の混合大気を濾過し、水の欠如を2本の小惑星帯から氷塊を運んで補うつもりでしたが、これらが想定よりも遥かに高く付いたのです。
 しかし最大の過ちは、ロウリ自身でした。彼は最初からこの計画をビジネスの視点で行っていなかったのです。彼は自分が「インチン男爵」であると宣言し、「封土」の中心地に豪華な宮殿や都市を建設させたのです。無人星系を開拓することで爵位を宣言する、というのは古い慣例にはありますが、普通は「インチン男爵」の称号が恒星間国家で認められることはありません。しかし帝国とコレース政府は戦略上の理由から「インチン政府」と男爵位を公認しています。
 1086年に着工された時から、ロウリの気まぐれで資金投下の優先順位が絶えず変えられたため、都市や宇宙港の建設は開始と中断を繰り返し、首尾一貫した開発は不可能となりました。3年計画の予定が11年にも長引き、結局資金不足により建設が一旦中断されました。
 精神的に不安定となったロウリ「男爵」は、その頃からインチン星系内に資金問題を一挙に解決するような豊かな鉱脈を見つければいいのではないか、という考えに取り憑かれました。1098年には星系内全域の探査を始め、惑星や衛星で試掘が繰り返されましたが、現在まで大発見はなされていません。また真実かどうかは不明ですが、API社が競争相手である自分を排除しようと、インチンの労働者の不安を煽るべく工作員を送り込んでいるとも訴えています。
 約8000人の労働者は自分たちの雇用者を内心で馬鹿にしながら、作りかけの都市や宇宙港が荒廃するのを防ぐためだけの作業に従事しています。労働環境が良くないため、骨組みの宮殿の主は労働者に高い賃金を提示しつつも、3年間はインチンから離れないという契約書へのサインを強要しています。また、小規模ながら重装備の「男爵警護隊(Baronial Guard)」は労働者の不満が反乱に広がらないように兆候の段階から抑え込み、「API工作員」とされる容疑者を厳しく摘発しています。あらゆる武器類の所持は禁止されましたが、労働者たちは即興でナイフや剣や槍を作ることができます。
 ちなみに最近、インチンは隣接するミューエイ帝国(Mewey Empire)に対して技術提供の引き換えに食料供給を受ける貿易協定を締結しました。
 ミューエイ帝国はミューエイ(スピンワード・マーチ宙域 0838)を本星、オキケイト(同 0837)を植民地としている、群小種族ミューエイの支配する小国家です。雑食動物から進化した彼らは短く綺麗な毛皮に覆われた二足歩行種族で、平和と商取引を好みます。しかし帝国への同化は拒んでおり、むしろ(ジャンプドライブの提供を受けた)アスランとの結び付きを強めています(※ただし宇宙港建設は帝国系企業が受注したので、別に反帝国・反人類というわけでもないようです)。

シンガー Singer 0940 D553774-6 貧困 G Na
 シンガーは0.6Gの低重力とわずかな水界と薄い大気からなる貧しい世界です。水の不足により自生の植物相は発育を阻害されて草や低木ぐらいしかなく、生物も最大で30キログラム程度しかありません。
 つまりシンガーは植民には適していないのですが、562年に植民船がミスジャンプしてきたことからこの星の開拓がやむなく始まりました。入植者たちは、北から南まで惑星の3分の2の距離に達する最大の淡水湖である「鎌状海(Sickle Sea)」の沿岸に、散らばるようにして住み着きました。湖の西岸では農業や水産業が栄え、500年に渡ってシンガーの人口を支えてきました。
 しかし急速な人口増加に加え、工業化で貴重な水資源が汚染され、草原地帯での牧畜がかえって砂漠化を進行させたため、もはや惑星の全人口を養うだけの食料供給が得られなくなってしまいました。そして人々は十数もの国家に分かれ、水や漁場や農地を巡って争いを始めました。
 1102年のクレーラ国(Crella)とマルミ・コルマ国(Malmi Kolma)の列強同士の対立は、数国を巻き込んだ世界大戦に進展しました。現時点で200万人が犠牲となりましたが、戦争は終わる兆候を見せていません。そして、戦争に参加していないもう一つの列強国であるトニール国(T'neel)の動向が、戦争の行方を大きく左右すると見られています。
 フィルド宇宙港(Fird Starport)は外世界の投資家によって979年にCクラスの能力を備えてクレーラ領内に建設されましたが、頻繁な空襲や艦砲射撃により現在はDクラス程度の機能に低下しています。宇宙港にはなかなか宇宙船が訪れませんが、訪れた際には武器や食料や水を降ろして、裕福な避難民を運んでいきます。
 Eクラスの着陸地点は惑星全ての国家で見つかるかもしれませんが、クレーラ国は宇宙港以外のあらゆる土地への着陸は敵対行為であると宣言しています。一方でマルミ・コルマ国は、海賊船もしくは傭兵艦の借り入れを検討していると噂されています。
 シンガーに対しては、世界大戦の激化を理由としてアンバーゾーン指定が今後なされる予定です。旅行者は現地で大量の現金や貴重品を持ち歩いていると、戦争継続のためと称して没収される恐れがあります。また、汚染された水を飲まないよう十分注意してください。
(※GURPS版の1120年設定によると、「世界大戦の結果」、(1102年にはマルミ・コルマ陣営に属していた)アグリール国が北半球にある宇宙港を押さえて新大国として台頭し、一方で没落した旧列強同士が連携して「第三次大戦」の火種が燃え上がろうとしていますが、1120年にはアンバーゾーンであるこの星が1117年時点でアンバーゾーン指定されている公式設定はないため、1117年以降に「第二次大戦」が起きてアンバーゾーンが再指定された、と解釈可能です(1120年では停戦間もないため解除されていない)。よって、1102年から数年間戦われたであろう大戦はこの星で「初の」世界大戦と思われます)

567-908 567-908 1031 E532000-0 貧困・未開 Na
 帝国の第一期探査(First Survey)では発見されず、第二期探査でかろうじて星図に書き加えられたこの星の地形は、惑星の半分を覆う砂漠と、一つの大きな海とそれを囲むサバンナ、そして巨大山脈に分けられます。惑星の薄い大気と予測できない火山活動は入植地や企業の進出先としての魅力を損なわせ、いまだにこの星がただの番号で呼ばれている理由となっています。
 無人の粗末な「宇宙港」は、飲料水と燃料を確保するために赤道上の小さな川のほとりにあります。そしてほとんどの訪問者は、燃料補給を済ませる以外に長く滞在することはまずありません。
 この星系は、スピンワード・マーチの中でも最も価値のない星であると思われています。
(※1105年当時のこの星系に対する認識はこの程度だと思います。星系の詳細およびその後の展開については『Adventure 10: Safari Ship』『Planetary Survey 2: Denuli』を参照してください。また、1105年頃に「数名の偵察局員と傭兵が「宇宙港」に詰めていた」とする資料もありますが、少なくとも1110年時点で無人であることは間違いありません。『メガトラベラー』の1117年設定で「3人」が居住していることになっているので、そこから逆算で起こされた設定の可能性があります)

アヴァスタン Avastan 1037 C433520-A 非工・貧困 G Na
 アヴァスタンは薄い大気で水界の少ない、小さく貧相な惑星で、268地域星域の中でも入植が後回しにされていた星系の一つです。しかしここはファイブ・シスターズ星域とグリッスン星域を結ぶジャンプ-1航路上で重要な位置を占めています。
 1000年代の初め、投機目的でこの地にCクラス軌道宇宙港を建設すべく、アヴァスタン宙港開発社(Avastan Portways,Inc.)がコレース(1237)で設立されました。コレース・アームでは少なかった、修理施設を備えた新宇宙港はたちまち自由貿易商人などの人気を集め、彼らの投資は早くも成果を上げました。その一方で地表は文字通り寒々とした無人の地で、宙港街すらありませんでした。
 API社は惑星自体の所有権を主張してはいましたが、大した資源のない惑星開発に投資したところで利益は見込めなさそうなため、入植には消極的でした。しかし、不法居住者の小集団がアヴァスタンに集まり始めた際には、同社は彼らの追放を思い留まりました。惑星を開拓する気のない我が社に彼らを追い出す大義はなく、それに自分たちの資金を使わずに開発が進んだ結果、宇宙港の利益が増えるのならそれで良いのではないか、と。
 かくして1024年にAPI社はアヴァスタンの所有権主張を取り下げ、新たな移住規制を行わないことを条件にして土地を不法居住者たちに譲り渡しました。この情報が広まると、コレースの開拓魂を持った人々だけでなく、268地域星域の圧制的もしくは硬直的な政治体制の星系の反体制派住民が入植者としてやって来ました。
 70万人の住民の多くは、1027年に建設されたアヴァスタン地上港(Avastan Downport)の周辺に住んでいます。そこで彼らは、API社運営の宇宙港に売却するための小規模農業や燃料抽出、港内でのサービス業に従事しています。一方、その他の住民は惑星のあちこちに小さな自給自足集落を建設しています。
 アヴァスタンの人々は自治と(無制限の武器所有を含む)自由を好み、外部からの干渉はわずかでも看過できません。司法機関も存在しないので、治安は地元の自警団(posses)が維持しています。裁判や立法は、全ての成人が参加する公開の「町会」の投票で決定されます。稀に惑星全体に影響を与える決定をしなければならない際には、全ての成人が惑星全体を結ぶ衛星通信網による投票行動で、直接的に政治に関与します。
 ただしアヴァスタンは決して無秩序ではありません。旅行客は、街中で公然と武器を持ち運ぶのが無礼とされていることを意外に思うでしょう。
 宇宙港当局は書類と積み荷の整合性の確認にあまり熱心ではありません。よって、海賊や密輸業者はアヴァスタンが自分たちの「商売」に向いた星であると認識しています。そして驚くことでもないですが、アヴァスタンの宇宙港はその荒々しさと乱暴さで有名です。API社の警備課は軽歩兵師団と同等の装備はしていますが、会社の資産を守ることのみ注力しています。そのため大規模な騒乱に発展でもしない限り、少々の不当行為では抑止には乗り出してきません。
 星域内の「冷戦」の影響で、トレサロン(1339)は海賊活動を助長するAPI社の共犯としてコレースを糾弾しました。コレース政府はAPI社の企業登録を取り消す対応をしましたが、すぐさま「アヴァスタン政府」が新しく同等のものを同社に与えました。トレサロンの狙いは、960年に帝国がターカイン(1434)に対して行った介入行動との差異を訴えて親帝国派のコレースに打撃を与えようとしたものですが、帝国の公式見解はアヴァスタンは海賊を「支援した」のではなく「見抜けていないだけ」としています。しかし真の理由は親帝国であるコレースへの外交的配慮であるのは言うまでもありません。

クァイ・チン Kwai Ching 1040 C503758-A 真空・非農・氷結 Na
 星系の第2惑星であるクァイ・チンは、非常に遅い自転速度(公転が181.7標準日に対して自転が21.5標準日)と大きな地軸の傾き(43度)が見られる奇妙な惑星です。おそらく10億年前の大規模な小惑星衝突によって大気が剥ぎ取られるとともに、その風変わりな回転をするようになったのだろう、と科学者は考えています。
 クァイ・チンの政治は、7人で構成される「統治理事会(Board of Directors)」で立法と司法の両面を執り行っています。理事は終身制で、欠員が出た場合には残る全理事の承認を経て後継者が指名されます。理事はたいていクァイ・チン大学の工学や経済学の学士号を得ており、理事の中でも最高位の者が国家元首とみなされます。
 行政当局は、一般市民の投票で選ばれた任期4現地年(≒2標準年)の主幹(Senior Manager)の下に置かれています。ただし有権者は40歳以上かつ、保安記録に何も注記が無い者に限られます。
 もう一つの機関は秘密警察である「監督局(Wardens)」です。名目上は理事会直属の組織ですが、実際は独自に活動しています。監督局は治安を維持し、市民を監視し、認可外の経済活動が行われないようにしています。
 この星の3000万人の住民はいくつかの大都市に集まって住んでいますが、それらは地表深くにか、渓谷の間に「屋根をかけて」居住施設化して造られています。
 クァイ・チンは500年頃に、コレース(1237)の反体制派によって入植されました。彼らは自由市場経済が人々から人間性を奪っていると考え、合理的な経済活動と社会計画をこの星にもたらすために統治理事会を立ち上げました。この体制は800年頃に産業用の宝石鉱脈が大規模に発見されるまで、驚くほどうまく機能していました。
 鉱脈の発見とともに帝国やソード・ワールズから富を求めて移民が押し寄せた結果、理事会の立てた計画経済は崩壊し、政権維持のために弾圧的な政策を取らざるを得なくなりました。それ以来ずっと、この星では社会不安の増大と監督局による弾圧が繰り返されてきました。
 その一方でクァイ・チンは、星域内の様々な対立構造の中で巧妙に中立であり続けました。宇宙港はコレースにもトレサロン(1339)にも開放され、農世界連合(※ターサスを参照)との貿易も保っています。惑星経済は鉱業に集中していますが、電子産業や鉱業機械も主要産業となっています。また近年では、隣接するシンガー星系向けに反重力車両などの兵器も輸出しています。クァイ・チンは後進世界ではありますが、星系に豊富にある鉱物資源や氷塊の存在は、やがてこの星が急速な発展を遂げるであろうと感じさせます。
(※余談ですが、星系名がT5 Second Surveyにて「Kuai Qing」に変更されたため、おそらく星系名の意味は「快晴」だと思われます)

ファルドー Faldor 1131 E5936A7-2 低技・非工 Na
 ファルドーはオターリ(Otarri)という両生類の群小種族の故郷です。鱗のある皮膚、(人類には不気味な)大きな目など、外見がとても魚のように見えることから、人類は彼らを「肺魚」(lung fish)とも呼びます。彼らは沼地に産業化以前の原始的な、女王を中心とした社会を築いています。最高権力者こそ常に女王に限られますが、オターリ社会は非常に男女平等的です。
 工業力がなく、商業航路からも外れた後進世界であるファルドーは、濃い大気中に胞子が漂っているので呼吸するにはフィルタ・マスクが必要です。気候は温暖ですが、極地の氷冠が成長を続けていて氷河期入りの兆候が見られます。さらに海面の後退により、惑星の大部分を占める陸地の乾燥化も進んでいて、このまま推移すれば、生息に湿潤が必要であるオターリは絶滅に向かってしまうと危惧されています。
 1042年まではオターリがどう文明を築いていくか帝国の異星生物学者が研究する目的のため、進入禁止星系に指定されていました。指定が解除されて帝国の商人がやってくるようにはなりましたが、新しい技術の取り込みに関してはよそ者への不信感から最小限でした(ただし一部の富めるオターリは、ハイテク製品をエノス(スピンワード・マーチ宙域 1130)経由でソード・ワールズから輸入しています)。彼らの文明は自力で銃器を開発できる水準に到達はしていますが、まだまだ不安定であり、時折爆発してしまうような代物です。

ボウマン Bowman 1132 D000300-9 S 小惑・低人・非工 G Cs
 小惑星星系であるボウマンは、主星から3000万~1億8000万kmの軌道(※軌道番号0~3)を覆う、これまで発見された中で最大級の分厚い小惑星リングを持っています(あまりの広さのために小惑星帯の本数に関する議論が行われたほどですが、現在は1本であると考えられています)。さらに、主星から2億5400万km離れた軌道(※軌道番号4)をガスジャイアントであるボウマン・プライム(Bowman Prime)が周り、プライムの周囲を衛星が2つ(とリングが1本)回っています。ギャリソン宇宙港(と粗末な偵察局基地)はプライムの内側の方の衛星アルファに建設され、もう片方の衛星イプシロンには1093年に発見された約2000年前のダリアン人前哨基地跡があります。また、主星とガスジャイアントのトロヤ点には、小規模ながらも宇宙鉱夫のために燃料補給や娯楽の施設が建設され、第二次辺境戦争後に帝国に戦いを挑んだソード・ワールズのデニソフ艦隊の残骸が今も漂っています。
 ボウマンには政府や法律に類するものはありません(110条の「掟」のようなものはあります。またギャリソン宇宙港およびギャリソン市内は帝国偵察局が独自の法を執行しています)。8500人の住民は、それぞれが独立宇宙鉱夫か小規模会社の鉱夫かその家族であり、小惑星帯に点在して住んでいます(ちなみに衛星アルファには3100人(内、ギャリソン市に2100人)、小惑星帯中心部のケーニヒズ・ロック(Koenig's Rock, デニソフ艦隊を打ち破った帝国のケーニヒ提督にちなんで付けられました)と呼ばれる直径600mの小惑星には800人が生活しています)。彼らは小惑星の採掘や探査活動で生計を立てていますが、それとは別に約3000人の「会社の人間」がボウマンには居ます。
 彼らは高給で雇われた(元独立鉱夫の)LSP社の人間で、社が買い取った小惑星軌道で武装小艇と傭兵の保安要員に守られながら採掘活動を行い、宇宙港近くのLSPの2つの宇宙ステーションまでマスドライバーで鉱石を射出し、そこで延べ棒に加工しています(地元との契約上、地元住民が採掘した鉱石の加工もここで請け負います)。また第3のLSP基地がプライムのリング上に置かれ、リングの氷塊から化学物質や酸素や水素を抽出しています。
 地元住民は、LSPが大きな施設を星系内に建設して、我が物顔で活動していることに不快感を抱いています。
 第二次辺境戦争(615年~620年)の後、帝国が当時のソード・ワールズ領11星系を占拠したことを受け、ナルシル(スピンワード・マーチ宙域 0927)のデニソフ提督(Admiral Denisov)は621年、艦隊を率いて帝国への抗戦を開始しました。同年、ナルシルでの戦いで敗北したデニソフ提督は残存艦艇をまとめてボウマンに逃げ延び、そこを拠点に各地で巧妙な通商破壊戦を続けました。しかし遂に628年にマータクター(1537)でケーニヒ中将(Vice-Admiral Koenig)率いる帝国艦隊に破れ、ボウマンの小惑星帯まで追撃を受けてデニソフ艦隊は降伏しました。この時以来姿を消したデニソフ提督の不屈の精神は、今でもソード・ワールズ海軍に受け継がれています。

スクァーリア Squallia 1133 C438679-9 非工 Na
 スクァーリアは、人口危機を迎えたフォーニス(スピンワード・マーチ宙域 3025)から453年に入植されました。その頃から入植者たちは意見の違いからゆっくりと分裂していき、やがて小国分裂世界となりました。現在では32国のうち6国が親帝国路線を掲げていますが、多くの国は中立の立場を採っています。なお、300万人の住民のうち200万人が惑星の五大都市国家に住んでいます。
 帝国偵察局はこの星系をTL9と記載していますが、全ての国がTL9というわけではなく、大体の国はTL7~8程度です。低い生産力のために輸出は盛んではありませんが、それでも星域の労働者のための手頃な予備部品や中TL装備の供給元となっています。ボウマンからは船が頻繁に訪れ、金属鉱石を装備や食料と交換しています。
 近頃、都市国家ダサス(Dasas)から約200キロメートル離れた場所にある、数十年前の紛争で放棄された鉱山街に数百人のイハテイ(土地を持たないアスラン集団)が住み着き始めました。ダサス周辺の都市国家の住民は、この「不法占拠者」たちが呼び水となって大勢のアスランがこの星に押し寄せるのではないかと心配し、ダサス政府は傭兵を呼んでイハテイを追い払おうと検討しています。

ターサス Tarsus 1138 B584620-A 農業・肥沃・非工 G Cs
 ターサスは濃い呼吸可能な大気に恵まれた星系です。水界は、2つの海(北方の「風の海(Sea of Winds)」と南方の「大極洋(Great Polar Ocean)」)などで惑星表面の42%を占めています。惑星ターサスの公転周期は91.25標準日で、自転周期は73標準時間です。ここでは1現地年が30現地日となる暦が使われています。
 ターサスは農業世界で、大部分の人は耕作や牧場経営で生計を立てています。中でもターサス産のノブル(nobble)の肉は代表的な輸出品です(※ノブルは長い尾で体を守る体重400kgほどの半家畜化されたがっしりとした草食動物です。ノブルからは肉の他に高品質の革が取れます)。
 ターサスには450年代に、約2万人の「亡命者」がフォーニスから移り住みました。よく組織された植民地は技術後退することなく、502年にはフォーニスからの独立を達成しました。
 人口は何世紀にも渡って確実に増えていきました。また他の世界からの移民によっても時々補われました。625年には、ソード・ワールズ軍のティソーン第3反重力化連隊(Tizonian 3rd Lift Regiment)とその家族が、第二次辺境戦争時にヴィリス(スピンワード・マーチ宙域 1119)にて犯した戦争犯罪の告発によって追われ、ターサスにやってきました。彼らの子孫はやがてターサス社会に溶け込んでいきました。780年には、隣接するパヴァビッド(1238)に宗教独裁政権が誕生し、流れてきた難民たちがターサスに落ち着きました。また、800年代には帝国内の超能力弾圧を逃れた人々が到着しています。彼らの子孫の存在により、ターサスはスピンワード・マーチの多くの世界で見られる超能力への恐れをほとんど持っていません。
 ターサスはモトモス(1340)とターカイン(1434)と共に農世界連合(Ag Worlds Combine)を780年に結成しました。連合はコレースやフォリンといった高人口世界における破滅的な価格競争の連鎖を避けるために、ゆるやかなカルテルとして運営されています。また、268地域星域の農業に適さない惑星に食料を供給もしています。
 帝国系メガコーポレーションのSuSAG社は、この地で860年から大きな研究施設と工場を運営しています。この工場が何を生産しているのかは、厳重な警備がなされていて不明です。
(※1110年にある「発見」があり、ターサス史が大きく書き換えられるのですが、このことについては伏せました…といっても、マングース版『The Spinward Marches』ではなぜか1105年当時では知られていなかったはずの「発見」について言及されてしまっています)

ウォルストン Walston 1232 C544338-8 S 低人・肥沃・非工 G Cs
 ボウマン・アームで人気の立ち寄り先であるウォルストン星系は、この星を最初に訪れた帝国の探査船の船長の名から付けられたアルビン星(Albin's Star)の周囲を、5つの惑星と2つのガスジャイアント(インシヴ(Insive)とグリーニッシュ(Greenish))が回っています。小惑星帯はありませんが、ガスジャイアントのトロヤ点には彗星や小惑星の集まりが見られます。
 惑星ウォルストン自体はアルビン星の最内周軌道の可住圏内に存在します。薄い大気によって気温は非常に変化しやすくて乾燥していますし、低標高地域での呼吸にはフィルタ・マスクが必要です。可住圏の外端に位置する関係で日中でさえさほど暖かくはなく、夜間は惑星上の全地域が凍結するほど気温が急落します。地表の半分近くは水界ではありますが、それは液体の状態とは限りません。極点付近ではかなりの深度まで凍結しており、赤道付近でも氷山が見られます。水分が凍結して蒸発しないので、雨量は少ない傾向があります。ウォルストンは衛星を持たないため潮流は弱いのですが、深海で熱せられた水が暖流を形成していくつかの地域を住みやすくしています。
 住民は、最大大陸であるウォルストン=メイン(Walston-Main)の東海岸沖に浮かぶセツルメント島(Settlement Island)に集中して居住しています。この島はかなり大きく、南北に約200km、東西に350kmほどあります。島自体は南端にある巨大な死火山であるサルバリイ山(Mount Salbarii)とその周辺の丘陵地域を除けば、標高は高くありません。島の周辺を流れる暖流によって海は多種多彩な生命に富んでおり、雨量も平均的です。サルバリイ山が吸収した雨は2つの美しい湖に貯められてから、北に向けて川を流れていきます。この川は島の内部に惑星内で最も居住に向いた地域を作るだけでなく、入植地間の交通路としても用いられています。ここでは主に、水産養殖と農業を中心とした自給自足経済が営まれています。
 帝国は第四次辺境戦争後の1084年に、帝国に忠誠を誓ったヴァルグルに(多くの議論の後)帝国属領の低人口世界であるこのウォルストンに「新しい家」として土地を提供しました。今では人口の90%がヴァルグルとなっていますが、政府は第二帝国時代から住む人類の特権階級によって支配されており、ヴァルグルは二級市民扱いされています。帝国偵察局はこのことが反乱の発生に繋がるのではないかと懸念しています。

フレクソス Flexos 1233 E5A1422-6 非工・非水 Na
 フレクソスは広大な砂漠、異種大気、低人口、質の低い宇宙港と悪条件が揃った典型的な後進世界で、ターカインからボウマンにかけてのジャンプ-2通商路からも外れています。しかし惑星の海や植物は未知の可能性を秘め、絶滅した原住知的種族の遺跡は宙域中の異星生物学者や観光客の注目を集めています。
 この星の植物相は主に多肉植物ですが、湿気や光や土の成分次第で非常に異なる形に変化するため、その種類は膨大な数です。この興味深い特徴は入植者の間に「植物愛好会」を作らせ、首都や郊外での社交場のような役割をしています。しかしこの植物愛好会の人気の一部には、多くの植物が向精神作用物質を含んでいるから、というのもあります。この中毒性は大した事が無い上に商取引でも利益を得られるため、政府は愛好会を黙認していましたが、中には(抗老化薬や超能力ドラッグを含む)医学的用途に向いた成分を含むものもあり、政府は帝国やダリアン連合の研究者を雇い入れて研究を進めています。
 フレクソスの62000人の住民のうち、9割はダリアン人、残る1割は(ダリアン社会に同化していた)アスランのアーリュクーティスタオクーテ氏族(Arlyukhtistaokhte clan)です。彼らのほとんどはフテヤローア地方(Htyarloa)の農地に住み、残りの者はアスランを中心として惑星の防衛力の中核を担っています。フレクソスはダリアン連合の公式の植民地ではありませんが、地元では製造できない核融合発電所や中古の宇宙船の形で非公式に援助を受けています。
 治安レベルは低いのですが、エネルギー武器の所持は常設軍に限られています。そして全ての市民は予備役兵でもあり、良く訓練された上で小銃を所持しています。住民は時折起こる海賊の襲撃に備えるだけでなく、持ち回り制で警察の役割もしています。一方で外世界からの訪問客に対しては、市街地でのあらゆる武器所持は禁止され、郊外でも軽火器が許されるぐらいです。
 フレクソス軍はアスランを主体として1000人ほどから成ります。密輸業者から買い付けたTL10~12の装備で立派に武装されていて、中古の反重力戦車や輸送用エアラフトも保有しています。彼らは住民から信頼されており、高い士気を保っています。近年ではアスランに率いられる(人類と混成の)私掠船団と契約して、老朽化した惑星防衛艦による惑星防衛や、ぼろぼろのガゼル級護衛艦によるダリアン連合方面への輸送護衛任務にあたらせてもいます。
レフリー情報:フレクソスの現在の最高指導者であるゾス・ニャデレモンド(Zos Nyaderemond)は、最初期の入植者から続く家系の末裔です。カリスマ的指導者である彼は実利を重んじ、入植地の発展のためにダリアン連合と帝国、そしてTTC(※トレサロンを参照)の全てに対して機嫌を取る政策を慎重に進めました。帝国海軍に有用な情報を流す一方で、TTCからは資金や機材を受け取って星系内に秘密宇宙港を建設することを黙認するなどしています。

コレース Collace 1237 B628943-D S 工業・高技・高人 G Cs
 おそらく268地域で最も重要な非帝国世界であるコレースは、低コストでハイテク製品を製造している高人口世界です。直径約1万キロで表面重力0.91Gの惑星コレースの大気はとても薄くて汚染されており、呼吸にはフィルタ処理されたマスクを必要とします。平均気温もマイナス9度しかないため、与圧居住施設区画である「ハブ」の外に出る際には寒冷地/紫外線対応の装備が必須です。コレースの大量の水界はいくつかの湖の底や、夏期の赤道沿いで溶けた氷河が曲がりくねった川や小さな浅い海を作り上げる以外には、主に凍結しています。なお、コレースの1現地日は約20標準時間です。
 およそ10億人の住民(ほぼ全てが人類)がコレースに居住していて、二大派閥に分かれた議会制民主主義政府に統治されています。多数派のコレース人民党(People of Collace)は帝国への正式加盟を強く推進しており、高人口世界のコレースを将来の星域首都に位置付けようとしています。実際、人民党政権はグリッスンを通じて帝国に加盟申請を行いましたが、申請は現在保留されています。その理由は、反帝国の姿勢を採ってソード・ワールズの支援を受けているトレサロン(1339)を過度に刺激しないためですが、これにより両星は「冷戦」に突入しています。
 人民党は星系のハイテク産業を帝国加盟によってさらに発展させようと考えています。一方、少数派であるコレース右派同盟(Right of Collace Coalition)は自星の経済力が貪欲で非情な恒星間経済に飲み込まれてしまうことを警戒し、デモ行進などで抗議活動を繰り返していましたが、徐々にそれが過激化していったため、大多数である人民党支持派住民の悩みの種になっています。
 コレースの治安レベルは比較的低いですが、空気や環境の特性から幾分厳しい規制も敷かれています。船の着陸は宇宙港に限定され、強力な武装は港周辺では封印しなくてはなりません。個人用の防具に関する規制は特にありませんが、武器に関しては密閉された居住区への影響を最小限にするために白兵戦武器の所持のみに限定されています(ただし港周辺では小銃が公然と持ち歩かれているのが実情ですが)。与圧区画内での戦闘行為は通常1~3週間程度の投獄となる罪ですが、銃器を使用した場合にはそれが5~15週間と重くなります。なお旅行者は、貧困層が多く住む居住区では犯罪に十分注意してください。
 Bクラスの軌道港と地上港は共に、グリッスン星域方面からの貿易や旅客需要の増大に伴って拡張工事が(たびたび遅れてはいますが)続けられています。帝国加盟を目指すコレース政府の要望により、帝国偵察局は星系内惑星やその衛星に訓練施設や補給庫や早期警戒ステーションを構えて、それらを惑星コレースの衛星カークトン(Kirkton)にある基地で統括し、同時に宇宙港や星系軍の管制網の後援もしています。これらの基地の存在は少数の反動的な政治集団にとっては、自分たちの首根を帝国が踏みつけに来たように映っていますが、とはいえ大多数のコレースの人々は、帝国からやってくるあらゆる報道、有名人、美術、文化、そして特に貿易を切望しています。

パヴァビッド Pavabid 1238 C6678D8-6 肥沃 A G Na
 パヴァビッドは平均的な重力、温暖な気候、豊富な水を持ち、潜在的には豊かな世界ですが、この星系は780年から星神教会(Church of Stellar Divinity)の一派によって支配されており、経済発展や技術開発は大きく遅れています。異端パヴァビッド派の教義によれば、他の全ての星の神は悪であり、唯一の善神(パヴァビッドの恒星)が預言者として「星の子」(Son of the Star)を遣わした、と主張しています。教会は日常のささいな振る舞いも厳しく教義で定めています。
 そんな柔軟性のない停滞した世界に住む7億人の住民は、TL6の技術を維持していますが、情報が制限されているので外世界人への知識がありません(旅行者は「悪の星」から来ているのです)。
 「星の子」が統治を行っている空中教会は、民衆は神の手によって空に引き上げられているのだと信じています。が、実際はグリッスン製の反重力技術によるものです。
 外世界人との貿易のために面積4平方キロの貿易飛び地が設けられています。ここは「汚染」を防ぐために広大な荒野に囲まれていてパヴァビッドの住民たちからは切り離されており、教会に忠実な聖職者が常駐し、教会の突撃兵(church shock troops)によって守られています。飛び地内の治安レベルは8であり、飛び地の中でさえ多くの規則に抵触することは容易です。さらに飛び地の外の社会はレベル9ないし10に分類されるため、トラベラー協会はパヴァビッドをアンバーゾーンに指定しています。
 パヴァビッドはコレース(1237)とトレサロン(1339)の「冷戦」の舞台にもなっています。プラチナとイリジウムの鉱脈が(それらの採掘技術を持たない)パヴァビッドに発見されて以来、両者は鉱物の採掘権を確保するために「星の子」の支持を得るべく争っていました。しかし現在まで、外世界の鉱夫がやってくることでパヴァビッドの純粋な神政社会を取り返しのつかぬほどに汚染してしまう恐れのために、「星の子」は両者の申し出を拒絶しています。
 星神教会の基本的な理念は、全ての恒星が神(並外れた力の精神的存在)であるということです。人が恒星を崇拝し、良き人生を送り、教会の教えに従うなら、その魂は死の際に恒星に引き入れられ、神と一つとなるとしています。教会は帝国内では、信者としての義務がほとんどなく、政府とも争わないので、人気があります。
 なお教会はパヴァビッド派を公式に異端であると宣言し、批難しています。

ダトリリアン Datrillian 1331 E227633-8 非工 G Na
 ボウマン・アームにおけるジャンプ-1宇宙船のための玄関口にあたるダトリリアンは、公転周期約50標準日のガス惑星ラーン(Ran)の最外周衛星です。極地でこそ年中氷が見られますが、赤道の昼間(自転周期は約13標準時間)の気温は25度あり、地軸の傾きが少ないため季節の変化は乏しいです。しかしラーンの影に入る2週間の「冬季」には激しい嵐が吹き付け、その時の気温は赤道でも-135度に達します。ダトリリアンの7割は極地を除いて液体の水で覆われていますが、海上には氷山が多い上に潮汐力で海が荒れることも多く、水上船舶の航行は危険を伴います。
 人口840万人のうち、770万人が赤道沿岸部にあるドーム部と地下部から成るヴィンターガルド市(Wintergard)に、残りの住民は沿岸や内陸にある重要な資源採掘地に10万人規模の小さなドーム都市を建設して住んでいます。ほとんどの住民は暗黒時代や帝国拡張初期に入植したソロマニ人やヴィラニ人の血を引いていますが、少数の支配階級は300年ほど前にグラム(スピンワード・マーチ宙域 1223)からやって来た亡命者の子孫(つまりソード・ワールズ人)で固められています。彼らは技術的優勢でこの世界の支配権を手に入れ、その後は賢明な統治を続けました。
 ダトリリアンは封建君主制で、王族に生涯の忠誠と奉仕を誓う見返りに、住宅や教育や健康管理といった公共サービスが提供されます。この社会構造は安全で安定しているため住民には受け入れられていますが、変化を好まない自給自足型社会はえてして変化をもたらす余所者を嫌うものであり、ここも例外ではありません。ダトリリアンは今後の投資や開発が見込まれる世界ですが、特に支配階級は世界の安定を揺るがしかねないという理由から反対を続けています。
 この世界では政権へ不平を唱えると収監されます(主に政治的理由ではなく、王族が惑星産業を独占支配している事への不満です)。金持ちなら金で解決することも可能ですが、有罪判決を受けると片道ロケットで打ち上げられて惑星レギン(Regin)に送り込まれます。公式にはレギンは「植民地」とされていますが、数百人の政治犯や刑法犯しかいないこの惑星は事実上の刑務所です。
 現時点で宇宙港は非常に初歩的ですが、軌道防衛施設の改修が続いています。これは旧式のPADミサイル(Planetary Aerospace Defense missiles)から、帝国傭兵部隊の払い下げ品である軌道迎撃機(orbital interceptors)への更新を目的とし、軌道上での通関検査を今後実施するためのものと見られています。最近、王はラーンの荒れ狂う大気圏内での燃料補給を「安全確保のために」禁じ、地上宇宙港で相場の倍額の非精製燃料を購入させています(※しかしラーンでの燃料補給が非常に危険なのは事実です)。
(※グラムでは788年に第一次辺境戦争敗戦をきっかけとした政変が発生しているので、この星の支配階級はこの時の亡命者である可能性が高そうです)

ニルトン Nirton 1332 X600000-0 真空・未開 R G Na
 ニルトンは空気も水もない「死の世界」ですが、500年代前半の帝国偵察局の探査によって、広範囲に放射性物質や重金属の鉱脈が発見されました。第二次辺境戦争後、ソード・ワールズ連合にこれらの資源を与えないため、621年に帝国当局はニルトンを戦略的鉱物保護地(strategic mineral reserve)と宣言し、進入禁止星系に指定しました。さらに、帝国がニルトンの領有を主張せず、268地域星域全ての独立星系や帝国属領星系に等しく鉱物資源を共有すると約束したため、この指定は全ての世界で守られています。
 ニルトンにやってきた宇宙船は、ニルトン以外の唯一の惑星であるガスジャイアントで燃料補給するかもしれません。しかし、ニルトンまたはその衛星テデハン(Tedehan)に着陸することは、懲役刑と宇宙船の没収の罰を受ける罪であることを星系外周のビーコン衛星は絶えず警告しています。
 ニルトン星系唯一の住民は、テデハンにある小さな帝国海軍監視所です。この施設はテデハンに近づく船に対して、明らかに発砲できる能力を備えていますが、実際に発砲された記録はありません(帝国海軍が発砲記録の公表を差し控えている可能性はあります)。また、頻繁に帝国軍の巡洋艦やガゼル級護衛艦が惑星ニルトンやテデハンの周囲でパトロールを行っています。


その2に続きます


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