「宇宙港は音、宇宙港は詩、宇宙港は歌、そして楽器。適切に扱われていれば決して間違いはない――私が狂皇クレオンでなければ」
――マーガレット二世時代の港務局長ドロテア・パカール
帝国は、その広大な領土を間接統治するために数多くの機関を使っています。その中でも帝国海軍以上に重要な役割を担い、迷宮のような官僚機構でも特異な存在なのが「帝国宇宙港務局(Imperial Starport Authority)」です。港務局は国内全ての官製宇宙港を統括し、帝国領内における通商と旅客の実に97%(加えて帝国近隣星系での4割)を扱っています。
港務局は市民から信頼されている組織です。様々な役割を果たしながら星間交易と旅行を促進し、帝国市民にとってごく当たり前の生活を守っています。そこに存在するだけで実効統治の象徴となる帝国宇宙港の日々の運営は、一見簡単そうに見えますが実際には管理・交渉・危機対応などあらゆる面での才覚が求められます。仮に港務局が止まれば貿易は完全に停止し、想像を絶する経済的混乱が生じるでしょう。しかしありがたいことに、港務局には非常に優秀な人材が集っており、巨大企業に匹敵するほど多くの分野に手を広げながらも、目に見えないあらゆる危機に対処してきた実績があります。
第三帝国は建国当初、各地に探査拠点と海軍基地を優先して建設していきましたが、商業港の重要性はかねてから認識されていました。同時に、その質の保証を帝国政府自らが背負わなくてはならないこともわかっていました。すぐに偵察局は基地課に「民間宇宙港管理室(Civilian Starports Office)」を設立し、既存宇宙港を国有化する際の規則作りや、新宇宙港の建設手続きの法制化、新規建設や拡張工事の優先順位付けなどを行いました。第一次大探査(First Survey)完了後の帝国暦422年、皇帝マーティン三世の勅令によってこの管理室は偵察局から独立し、帝国宇宙港務局として再編されました。現在の港務局は組織系統では商務省の下にありますが、最高責任者である港務局長は皇帝直属とされています。
「海軍は発砲の権限を握り、偵察局は初接触の興奮を占め、外交官は理想を追い求める。しかし、袖を捲り上げて帝国の日常を支えているのは宇宙港職員である」
――とある格言
全ての官製宇宙港は(現地が帝国をどう思っていようとも)帝国の所有物であり、治外法権(XT)として扱われています。このXT線の帝国側では現地の法律や政治的圧力は通用しません。仮に現地では違法の品(煙草程度でも)が貨物として宇宙港に持ち込まれたとしても、XT線を越えなければ現地政府には何もできません(密輸の温床であるとして苦情を入れることはありますが、密輸の大半が港務局管轄外の港で行われているのが実情です)。また、現地政府による宇宙港への攻撃は即座に「帝国への反逆」とみなされ、海兵隊による軍事介入が行われます。
港務局は星間貿易にかかる費用を間接的に抑え、公正と安全に関する帝国法を遂行することで経済交流を促進し、必然的に税収を増やす手助けをしています。港務局宇宙港を介した自由貿易は非常に効率的かつ関税もかからないため、もはや港務局に対抗できる地方政府や民間企業は存在しません。
(※建前では関税徴収権は何らかの危機に備えて留保されているだけです。例えば、反乱を起こした/起こしそうな星系に懲罰的関税をかけることはありえます)
帝国の宇宙港がある全ての世界は「公正な貿易」を実践せねばなりません。港務局管轄の宇宙港を介して取引される商品に対して、星系特有の関税や貿易慣行で排除・優遇することは法律で禁じられています。ただし星系自治権との兼ね合いで「あらゆる宇宙港で」禁じる法的根拠はなく、それが今も地方港や私設港が残っている理由の一つでもあります。
この「公正」を重んじる長年の努力は、何千もの世界を港務局の仕組みに染め、そしてそれを通じて帝国そのものを売り込むことに繋がりました。摩擦や抗議もありましたが、うるさくとも帝国の宇宙港を持つことが多大な経済的利益になるという実績の積み重ねが、帝国への信頼と献身を呼び起こしていったのです。そこから得られる多くの利益に比べれば、宇宙港や職員に掛かる多額の経費はむしろ安いものです。
■港務局理事会
宇宙港運営における最高組織は、キャピタルに置かれた「港務局理事会」です。理事会は宇宙港にある10部署と施設部(後述)それぞれの代表に、監察室長を加えた12名で構成されます。皇帝に任命された港務局長は、会の場で票が賛否同数となった際の13票目を入れる権限を持ち、理事会の決定を皇帝に推挙する立場です。この港務局長は伯爵級の人事とされ、なるべく世襲にならないよう配慮されます。ただし官庁としての港務局にはあまり貴族が勤めることはなく、職員はほぼ平民です。
(※ちなみに理事は男爵級、港長は士爵級の人事です。低いように見えますが、宙域艦隊提督ですら男爵級人事ですし、平民が一代で取れる爵位の上限が男爵であることも影響しているかもしれません)
そして理事会には商務省や偵察局から代表者が必ずと言っていいほど出席して議論には参加はしますが、投票権はありません。港務局はこの両機関と密接に連携して活動するため、常設の連絡室を置いています。
■星域/宙域統括本部
港務局は各宇宙港の運営を監督・指導するために、星域や宙域ごとに統括本部を置いています。各地の港長からの報告は星域統括本部に送られ、それを集約・分類・要約して宙域統括本部に流します。宙域統括本部も同様の作業を行い、最終的にはこれらはキャピタルの理事会で報告されます。もちろん報告書の原本は全て保管され、疑義がある場合は後々再確認が取れるようになっています。
各統括本部では星域(宙域)統括本部長が業務を指揮し、その下に宇宙港と同じ10部署が置かれています。その各部署を率いているのは星域(宙域)調整官で、その肩書きが示す通り指揮監督よりも調整が主業務です。
加えて宙域統括本部には「施設部(Facilities departments)」という第11の部署があり、その下には2つの課が置かれています。「立地査定課(Survey and Siting)」は新宇宙港の建設候補地や(宇宙港等級が上下するような)大規模改築の妥当性を検討する部署です(※小規模なら星域統括本部や現地で決裁されますが、その繰り返しで結果的に査定を経ずに大規模改築が成し遂げられてしまうこともあります。こういったやり口を立地査定課は嫌いますが)。「土木課(Civil Engineering)」は測量や建設の計画を港務局系列や外部の建設会社と契約して手配する部署です。なお、特殊な技術課題や政治的問題が無い限り、通常は外部に発注します。
■港務局監察室
港務局内部に睨みを利かせる部署で、ここには局内の上下関係は通用しません。また、「正々堂々と」仕事をすることもあまりないため、他部署の管理職は監察室からの単なる日常的な質問であっても胃を痛めています。
監察室の規模は公表されていませんが、少なくとも数千名と言われています。1人の監査官の下には班員たちが属し、班単位で独立行動がなされます。この活動内容は、例え同期の友であっても他の班のことはぼんやりとしかわからないと言われています。
監察室はまるで諜報機関のように見えますが、実際、「機密予算」の存在も含めてそう言われても仕方のない側面があります。なぜなら宇宙港では、よくある密輸から世界を揺るがす政治的陰謀までありとあらゆる「闇」があるからです。とはいえ囮捜査や盗聴など、訴追に支障が出るような行為はなるべく避けられます。
■宇宙港の収入面
宇宙港の建設と運営にはとにかくお金がかかります。基本的に開港から20年で収支均衡を達成するのが理想とされていますが、実際には平均して25~30年かかり、中にはいつまでも赤字のところもあります。特にEクラス港が黒字になることはまずありません。また、先に「大きな箱」を建ててから顧客を呼び込む、というやり方は確実に失敗するようです。
とはいえ以下に挙げた収入源により、港務局全体としての財政は非常に健全です。
1.補助金
帝国の宇宙港は港務局を通じて国庫から運営資金を受け取っています。経済成長は結果的に国家財政を潤すため、帝国が赤字港であっても熱心に運営をするのはこのためです。また、海軍など他の官庁や星系政府も個別に補助金を出すことがあります。
2.船舶へのサービス料金
帝国は宇宙港を公共事業として運営していますが、その利用は無料ではありません。宇宙港は利用者から入港料や点検費などの安定した収入を得ています。
(※造船所からも莫大な利益が出ているそうですが、民営化されているという設定と矛盾するため、賃貸料を取っていると解釈すべきでしょう)
3.賃貸事業
宇宙港の屋内空間の多くは民間業者に貸し出されていて、人の集まる大規模港では都会の一等地並みの賃料相場となっています。これに関しては「管理部事業課」の項目で解説します。
■港長と幹部
宇宙港で「幹部(Executive)」と呼ばれるのは組織の頂点にいる港長(と副港長)とその直属の部下(つまり各部署の長)です。港務局の内規では、宇宙港業務の全ては「港長の裁量で行われる」と明記されています。これが意図的に曖昧にされているのは、星系間の通信にかかる時間を考慮に入れて、わざわざ一つ一つ条文化することなく各地の環境や状況に応じて広範囲に柔軟な対応を行えるようにするためで、港長に独裁的権力を与えるものではありません。港長にできるのは各業務の許可や停止ぐらいです。理由もなく民間人を警備員に逮捕させることはできませんが(※ただし警備員は不審者を港長に諮ることなく捕縛することはできます)、問題を起こした店舗に営業停止を命じることはできます(私有財産の没収はできません)し、船を法的根拠と証拠なく差し押さえることはできませんが、離陸許可を無制限に却下することはできます。
また、港内にあっても命令系統が異なる海軍・偵察局基地に指図することはできませんし、領事館があったとしても同じです。しかし、重要な事柄について現地の宇宙港長に相談しない指揮官や外交官は滅多にいません。表向きは港長は単なる宇宙港の管理人に過ぎませんが、その影響力はXT線を越えて遥かに広がり、発言一つで様々な事象を動かします。言わば「帝国の代理人」である港長には特権を濫用することなく粘り強く各種状況に対応する能力が求められるため、独善的な性格だと出世の過程で排除される傾向にあります。しかし、人里離れた星に長くいると少々風変わりになり、権限を強めに行使することが知られています。そして港長の働き方も様々で、現場に全てを任せる港長もいれば、末端まで細かく指示を出す港長もいます。いずれにせよ、港長は優秀な人物でなければ長くは務まりません。
■宇宙港の部署
宇宙港では、様々な法律や政治にも対処しながら数多くの技術やサービスを厳格な基準で提供しなくてはならず、例え小さな港であっても港長一人で全てに目を配ることは不可能です。よって日々の運営には非常に複雑化した各部署の組織的な協調が必要となり、それぞれの港の職員は星系独特の文化・環境の中でそれを実現するために日々奮闘しています。
ほとんどの港務局管轄宇宙港には以下の10部署がありますが、小規模港ではいくつかが廃止されたり他部署と兼務していたりします。
●管理部 Administration Department
各種許可証を発行し、船籍登録や航行記録や貨物目録から自動販売機の販売統計まで、宇宙港のあらゆる事務処理を担当する部署です。港長が定めた運営方針をどのように反映させていくかは、この管理部の働き一つにかかっています。ちなみに、その職務経験から港長の多くは管理部出身者が占めます。
この部署の仕事はほとんど全てが退屈なもので、「宇宙への玄関口」を担っているという華やかさは微塵もありません。多くの事務職員は杓子定規で無感情に見えますが、自由貿易商人なら誰しもがこことうまく付き合うのが商売の一番の秘訣だと語ります。見た目は地味ですが、この管理部こそが宇宙港全体の業務を潤滑に回すための重要な部署なのです。
大規模な宇宙港であれば、管理部の事務所はメインターミナルと繋がった別棟に置かれていることが多いです。そうでなくても港の隅や孤立した場所にある傾向があります。つまり宇宙港職員以外がここに立ち入ることはほぼなく、職員とも交流は少ないのです。よって、管理部に用事ができてしまった一般旅行者は、どこに行けばいいのか苦労することでしょう。〈管理〉技能を駆使したり、警備員や清掃員の善意や好意を得られればその助けになります。
そして管理部の事務所を訪れると、そこには――ぎっしりと並べられた事務机、安っぽい椅子、薄暗い照明、古びたコンピュータ端末といった、いかにも役所めいた光景が目に付きます。港長には(例えEクラス港であっても)専用の部屋が充てがわれますが、一般職員は陰鬱としたこの部屋で日々事務作業に追われているのです。
「前からずっと思ってたんですけど、お宅の新しい格納庫の見苦しさときたら……、毎朝寝室の窓からあれを見る方の身にもなってくださいよ。港長にちゃんと言っといてくださいね!」
――宇宙港に実際に寄せられた苦情
惑星関連連絡室(planetary liaison office)とも呼ばれる「連絡室(Line Office)」は、宇宙港と地元政府との間の主要な窓口となっています(この部署を置けないような小規模港では、管理部の職員が兼務していることもあります)。ここの職務は主に2つあり、(広報課と共同で)宇宙港の重要性とその利点を講演会や教育啓発などによって地元に広めることと、地元住民からの苦情処理です。
宇宙港への苦情も様々で、騒音や廃棄物処理、交通接続の利便性、時には美観問題も寄せられます。連絡室がこれらの苦情や地元政府とどう付き合うかは、人員配置に左右されます。余裕があれば地元の政治家や役人を接待して問題が起こる前に回避することができますし、余裕がなければ「検討中です」の一言で先送りしてしまうかもしれません。
辺境や帝国に併合されたばかりの星系の連絡室は非常に忙しく、地元との間で板挟みになることしばしばです。また、入植初期の星系の連絡室は事実上の「植民なんでも相談係」で、入植者たちに情報を提供し、援助を求める人を繋ぐ役割をします。
宇宙港は基本的に地元への干渉は避けますが、星系自治権と帝国市民としての普遍的権利が衝突した際には、連絡室は躊躇なく後者を守ります。著しい人権侵害が行われた場合は避難民の脱出を黙認したり、影から支援したりするのです。帝国政府は建前上こういった行為を褒めはしませんが、露見しない程度に報いてはくれます。
港務局の任務である「地元との良好な関係を促進する」ことと「帝国の治外法権を守る」ことは時に対立し、港長と連絡室はその両者の平衡を慎重に守らなくてはなりません。連絡室の仕事は決して華やかなものではありませんが、危機を未然に防ぐのは連絡室職員の交渉術にかかっているのです。
「事業課(Concessions)」は、小さな土産物屋から巨大な遊技場まで港内で様々な民間業者が営む事業を統括し、賃料などを徴収する部署です。ほとんどの大規模港では事業者向け賃貸に割かれた空間が港全体の6割以上となっていて、年間総収入の過半を時に占めることもあります。賃料は床面積と場所に応じて固定額もしくは売上高の歩合で決まり、基本的には単年契約ですが、特定の企業が特定の倉庫や着陸床を「ほぼ永久に借りている(≒99年契約)」ことも珍しくありません。
事業課は契約更新の際に条件を変更したり、常習的に賃料の支払いが遅れたり苦情の多い業者を退店させる権限を持ちます。その際には業者が重大な契約違反をしているという証拠を集め、法的措置を講じる必要があります。
どのような業者が入居するかは、その宇宙港が持つ経済力次第です。宿泊・飲食・雑貨といった定番から、地上車や銃器や通信機の販売店、産直朝市、旅行代理店、劇場など娯楽産業、そして宇宙船自体も手に入るかもしれません。
余談になりますが、特別な技能を持つ在野の人材を欲する団体、例えば傭兵部隊や私立探偵、「何でも屋」を探している企業などは、宇宙港を採用の場として事務所を構え、見込みのありそうな旅人の選考や接触を行っています。
「――ジュエル宇宙港の敏腕港長がテュケラ運輸と300年間の独占契約を取り付けたんだが、莫大な前金が振り込まれた直後にゾダーン艦隊がやって来て、爆撃で宇宙港が更地になっても契約通り渋々賃料は払い続けられたらしい。結局、戦後にその金で宇宙港は無事再建されたとさ」
――第五次辺境戦争後に広まった噂話
「法務課(Legal)」は、保険金の請求、警備員による過剰制圧の告発、契約違反など、宇宙港が関わる法律問題や訴訟を扱います。法務課が港内で逮捕された犯罪者を直接起訴することはありませんが、審理や裁判の前には帝国もしくは現地の当局と協議を行います。また、治外法権に関する問題は連絡室と調整を行います。
「財務課(Financial)」では、宇宙港の経理や帳簿、(大規模港では)港や地元への投資案件(債券発行など)の管理を行っています。こうした投資によって地元経済が活性化し、宇宙港と地元との結び付きを様々な面で更に強くしているのです。
ちなみにこの財務課が取り扱う情報、例えば巨大企業の収入報告書などは、多くの競合他社や税務当局、そして犯罪組織などの垂涎の的であり、その保全については気を使って――いるはずなのですが、それらは財務課にとってあまりに日常的な物のため、油断や慢心から隙を生んでいるのは否めません。
「人事課(Personel)」は港内労働者の募集や面接を行い、彼らの上司から働きぶりの良い面も悪い面も聞き取って記録を残します。なお、人事課は昇進や解雇を決定することはなく、それはその部署の責任者が行います。
「労務課(Labor Relations)」では、労働環境に関する労働者からの苦情や、労働者の働きぶりに関する管理職からの苦情に対処します。これらが訴訟沙汰になる前に仲裁に入ることもあります。
ちなみに労務課では、港内入居店舗の従業員(つまり厳密には港内労働者ではない)からの苦情も受け付けていて、同じく仲裁が行われます。とはいえ港務局と結んだ契約書や帝国法に著しく反することでもない限り、労務課にできることはあまりありませんが。
「記録処理課(Records and Data-Processing)」には、膨大な文書を(複製も含めて)完全に保全し、必要な情報をすぐに取り出す専門家が配属されています。言わば「宇宙港の司書」であり、その専門性ゆえに職員人生をたいていこの記録課のみで終えます。
世間にあまり知られていない事として、重要港の記録処理課には暗号係が置かれており、機密性の高い業務を遂行する際に幹部と共同で職務にあたっています。
「広報課(Public Relations)」は現地市民に対して情報を提供し、声を聞く部署です。港内で事件事故があった場合は広報課から声明が発表されます。また、港長によっては記者会見の原稿を広報課に代筆させる者もいますし、そもそも会見場に広報課を立たせる者もいます。
広報課は宇宙港の設備やサービスを星系内外に宣伝する役割もあります。競争の激しい市場で印象は非常に大切であり、(大規模港では特に)費用を投じて旅客や企業を誘致する宣伝を打っています。時には著名人の推薦を求めることがありますが、このような契約は両者にとって有益であることが多いです。
「通商連絡課(Commercial Liaison)」は、船主や荷主、仲買人、店子、出入り業者といった宇宙港を商売で利用する人々からの要望や苦情を受け付けています(旅客からの苦情は旅客部の担当です)。
軍基地が併設されていれば、「基地連絡課(Military Liaison)」が常日頃から情報共有を行っています。宇宙港駐留の海兵隊は現場の将校の直接指揮下にあるため、ここが関わることはありませんが、部隊の現状について星系外の上層部に報告することがあります。
ちなみにここは退役した軍人や偵察局員の再就職先によく選ばれます。多くの港長は、兵士が民間人よりも元軍人の方が接しやすいだろうと思っているのです。
(※偵察局と港務局の長年の関係から、偵察局員の再就職先として宇宙港は定番となっていて、この課に限らず職務経歴に応じた適切な待遇で迎えられています)
「官舎課(Employee Residence)」は職員に住居を割り当て、管理する部署です。
帝国領内(および属領)では地上港職員の大半は宇宙港の外に居住して通勤していますが、緊急時に即応するためにXT線内に住む職員は必ずいます。また、現地の特異な環境に馴染めなかったり、安上がりという理由で港内居住を希望する職員もいます。
軌道港の職員は地上から通勤するか、軌道港内に住むかの二択です。
「契約課(Contracting)」の最大かつ最も一般的な業務は、宇宙港の新施設の建設や改良工事に関わる企業や個人の選定と監督です。また小規模港では施設管理や職員用食堂といった業務は経費節減で外注されることがあり、その際にも契約課の出番となります。
なお、帝国領内では安全面の理由から船の整備や警備業務を外部の民間業者に委託することはありません。
●管制部 Traffic Department
宇宙港の管制区域内における全ての宇宙船・航空機・車両に対して、指示する権限を持つのが管制部です。また、人工衛星の状態を把握する役割も担っています。
管制区域は宇宙港の規模(というより管制塔の設備)によって範囲が定まります。Aクラス港では星系全体、Bクラス港では100天文単位圏の「勧告区域(Advisary Zone)」内、Cクラス港では惑星直径100倍圏の「遷移区域(Transition Zone)」内、Dクラス港では直径10倍圏の「軌道区域(Orbital Zone)」内で、全ての宇宙船は管制からの通信に従わなくてはなりません。Eクラス港では管制が行われませんが、(相手がいれば)通信は直径0.1倍圏の「気圏区域(Airspace Zone)」内で可能です。また、宇宙港から20km以内は「制限区域(Control Zone)」となっていて、航空車両の乗り入れが制限ないしは禁止されます。
(※ただし現実には直径100倍圏の外、つまり勧告区域から先では厳格な管制は行われておらず、いつでも連絡が取れるという意味で捉えるべきでしょう)
管制区域内の宇宙船の動きを全て把握するのが「管制課(Traffic Control)」で、宇宙港の心臓部と言えます。古代も現代も管制官は事故を防ぐために細心の注意を払い、事象の地平面で綱渡りするような自信と鋼鉄の神経が求められ、4時間交代の勤務であっても職業病として胃腸障害や神経症に悩まされています。古代と違うのは、反重力推進による垂直離着陸が当たり前となって滑走路がなくなったことぐらいです(※高度数メートルを維持しながら格納庫などに移動するための「誘導路」はあります)。特に大規模港では一度に数百もの船が入り乱れる中、それら全てを正確な飛行経路に乗せて発着時間を調整し、着陸場所を割り当て、無事にジャンプするまで見守らなくてはなりません。しかし管制官らの苦労と最新機器の支えもあって、港務局宇宙港での発着事故は10万回に1回程度に抑えられており、しかもそのほとんどは宇宙船側の過失によるものです。
「船籍課(Ship Registrar)」では星系内に入る全ての船舶の記録を残し、乗っ取りや盗難の報告があった船舶を税関職員に通知しています。船籍情報は毎週更新され、Xボートを通じて宙域統括本部で各港と共有されます。
「車両課(Vehicular Control)」は、軌道まで上がれないような小型の反重力機器や、低TLの車輪型機器など「地上の」乗り物の交通整理を行います。車道と誘導路は可能な限り分けられていますが、交差する場所では(緊急車両を除いて)原則として宇宙船が優先されます。
●整備部 Ship Services
停泊中の船舶の修理、燃料補給など、安全運航に欠かせない機械整備を担当する部署です。管制と連携して宇宙船を格納庫に誘導し、貨物部の仕事を滞らせないのも整備部の仕事です。これらの業務は宇宙港の大きな収入源であるため、どこの港長も(小さな宇宙港では特に)ここの業務が円滑に行われるよう配慮しています。ここが機能していないと、宇宙港どころか周辺地域に多大な損害を与えてしまうのです。
「係留課(Berthing)」は、宇宙港に欠かせない着陸床や格納庫での作業を担当します。地上港のこれらは単に整地されているだけのもの、壁で囲われているもの、屋根だけがあるもの、開閉式の屋根や扉があるものと様々で、ここに宇宙船を降下させ(ないしは「滑り込ませ」)ます。軌道港では小型船は港内格納庫に入港させ、大型船は外部に接続係留されることがあります。入港後の機器点検は整備部職員か船の乗組員によってこの場で行われますが(※小規模港では整備小屋に移動させることもあります)、多くの機関士は整備部職員に全てを預けずに少しでも(可能なら全部自分たちで)携わることを好みます(ただし点検料金は入港料に含まれています)。
小規模港でなければ格納庫には空気フィルタなどを洗い流す装置と外部電源があり、動力炉を落とした状態でも円滑に点検が進められるようになっています。格納庫の鍵は発行された暗証番号で管理されますが、大規模港では生体認証が採用されています。
「補給課(Fueling)」の仕事は、入港した宇宙船に文字通り燃料を補給することです。燃料を自力で賄える宇宙船もありますが、ガス惑星まで遠回りするぐらいなら港で買った方が手っ取り早いと考える船長も多いのです。
ほぼ全ての宇宙港では、燃料を星系内の水素源(水、氷、メタン)から調達しています。これは主要惑星内で自給できることもありますし(※ただし水資源が貴重な世界では地元政府が汲み上げを許さない場合があります)、星系内の小惑星帯やガス惑星から輸送される場合もあります。なお、石油のような化学燃料は物資供給課で販売されています。
「物資供給課(Stores and Provisioning)」は言わば、運航や船内生活の必需品が何でも揃う雑貨店です。大規模港ほど品揃えが豊富ですが、空気フィルタや潤滑油、宇宙服といった特に必要不可欠なものは、港が封鎖されでもしない限りは必ず手に入ります。帝国の宇宙港では常識的な商品が常識的な価格で販売されていますが、各港の仕入れ担当には大きな裁量が与えられているため、時には目玉商品が入荷していることもあります。
「修理修繕課(Maintenance and Repair)」は船長からの依頼を受けて破損した宇宙船を修復する部署です。(帝国内での)修理は公定価格で先着順に行われ、真に優先すべき緊急の案件が発生するか船長自ら後回しを望む以外では決して変更されません。逆に言えば、帝国外の宇宙港では価格に差異があったり、公開入札や担当者への賄賂によって割り込みが許されたりしています。
なお、船体構造自体を修復するような深刻な場合は、造船所に持ち込む必要があります。
「清掃課(Housekeeping)」は宇宙船内の居住空間などを掃除する部署で、船体洗浄や窓拭きからシーツの交換・洗濯までを受注します。とはいえ、常日頃から清潔を保っているので必要ないから、他人に私室を掃除されるのが嫌だから、単に汚れてても気にしないからと様々な理由で、全ての船がここを利用するわけではありません。客室が数室程度の小型商船からの引き合いが意外と多いのは、乗客が残した汚物処理など乗組員の雑用が一つ減るからです。一方大型客船からは、船員に専門の清掃員を抱えていることもあってあまり利用されません。
ちなみに小規模港では宇宙港専属の人員ではなく、近隣の街から清掃業者や家政婦が派遣されることが多いです。
帝国では船舶の安全航行のために認証点検制度が存在し、その検査を担当するのが「認証課(Certification)」です。有効な運航認証を持たずにCクラス以上の宇宙港に到着した船は、他の船から離れた指定区画に停泊し、直ちに検査を求められます。それが不合格の場合は、基準を満たすまで出港が許されません。認証の有効期限は5年間ですが、普通は年次点検(オーバーホール)の際にまとめて認証を受けます。認証試験には1日かかり、費用は船体容積1排水素トンあたり1クレジットです(年次点検のついでならその費用や期間は既に含まれています)。
検査官はいつでも、いかなる理由でも帝国船籍の船舶に抜き打ち検査をすることができます。検査に問題がなければ費用は取られませんが、検査にかかった時間に対する補償はありません。問題があれば罰金が課され、もちろん問題が改善するまで認証は一時的に取り消されます。とはいえ船舶の数は多すぎますし、検査官の数は少ないため、よほど怪しくなければ抜き打ち検査は行いません――が、普通にしていれば抜き打ち検査が行われない、という保証はどこにもありません。
●貨物部 Cargo
宇宙港の主な仕事は、人ではなく物を運ぶことであるのを我々は忘れがちです。貨物部はそんな意味で重要な部署で、非常に忙しい所です。
今でも「港湾労働者」と呼ばれがちな「荷役課(Freight Handling)」は、港内で貨物を移動させる部署です。実のところ船の乗組員(や企業)は着陸床や格納庫内で自分の貨物の上げ下ろしができる権利を有しますが、港内での運搬(例えば企業保有の港内倉庫から格納庫まで)は全て荷役課が担当します(倉庫から格納庫までを一体で借り上げていれば別です)。
星間貨物のほとんどはコンテナで輸送されるため、宇宙港ではそれを運ぶための様々な機器(フォークリフトや貨物積載車、地上と軌道港を行き来するシャトルなど)が用意されています。一般的な輸送用コンテナは耐久性が高く、居住可能な惑星では屋外に積み重ねていても問題はありません。異種大気の中でも運搬する程度なら特に保護は必要ありませんが、長期保管するには密閉された倉庫が必要となります。
「倉庫課(Warehouseing)」が管理する倉庫は、ほとんどの場合は輸送されるまで貨物を一時的に置いておく単なる大きな密閉空間に過ぎず、需要や環境によって地上や地下に設置されます。軌道港では利便性を考慮し、発着口の付近に様々な大きさの倉庫が用意されています。宇宙港の交通量の多い区画から離れたXT線境界付近(時には宙港街)に置かれた倉庫は、XT線を通過する免税品を長期保管するために利用されています。
倉庫は様々な手段で盗難から守られていて、TL12以上の高度な自動防犯装置が反応すれば警備員が駆けつける手はずになっています。しかし、それらへの対抗策を備えた泥棒と腐敗した内通者は、大体どこの星にもいるのです。
爆発物や化学薬品などが置かれる危険物保管倉庫(HAZMAT Storage)は、宇宙港規模が大きくなるほど必要性が増します(※100排水素トン未満であれば防火対策や入構制限がしっかり取られた一般倉庫が利用されなくもありません)。全ての荷役作業員は危険物運搬の訓練を受けており、中でも細心の注意が必要な放射性物質や有毒廃棄物などに対処する特殊な要員もいます(普段は通常の荷役作業に従事しています)。このような危険性の高い貨物の移動には港内業務の混乱を最小限にするために事前計画が立てられ、運搬中は人や車両を近づけることなく警護車付きで運ばれます。適切な梱包がなされていれば事故はほぼ起きませんが、一時的とはいえ警備の目がそちらに集中する分、他が疎かになってしまうのは否めません……。
宇宙港には貨物の売り手と買い手を仲介し、売買手数料を徴収する仲買人(ブローカー)と呼ばれる人々がいます。「仲買人室(Broker Office)」では、港に出入りする仲買人らの名簿を管理しています。名簿への記載は「港が御墨付きを与えた」わけでないので、仲買人のやり口や実力にまで港は責任を負えませんが、苦情の多い仲買人は名簿から抹消されます。
ほとんどの仲買人は港内に事務所を(事業課から借りて)構えていますが、港外に事務所を置いて必要に応じて宇宙港を訪れる者もいます。また、宙港街にも必ず「仲買人」はいますが、その多くは貨物の出処や行き先を尋ねない代わりに法外な手数料を取る輩です。
●旅客部 Passenger Services
多くの貨物が行き交う宇宙港には、当然多くの旅客も押し寄せます。旅客部職員は、そんな利用者のために様々なサービスを提供しています。
「接客課(Hospitality)」は宿泊・飲食・娯楽など、旅行者が快適に過ごすための施設を担当する部署です。通常、運営は管理部事業課と契約した民間企業が担いますが、港が直接経営する場合は接客課が担当します(契約違反で入居業者が退店させられた場合に事業を引き継ぐのも接客課です)。大手運輸会社が自社客専用の特別待合室(ラウンジ)を港に設置する場合に、接客課が手数料を取って下請けに入ることもあります。
加えて港内の装飾や案内表示、苦情対応も接客課が担います。大規模港ではよく著名な建築家や芸術家を起用して宇宙港の「顔」を創っていますが、その雰囲気を維持し続けるのは接客課の働きにかかっているのです。
「案内課(Passenger Assistance)」は迷子や旅客の質問に対処する部署です。案内課の職員には港内の見取り図を暗記し、複数言語を解し、どんな人にも笑顔で応対する無限の忍耐力が求められます。この仕事はトラベラー協会と混同されがちですが、実際に職員は協会の仕事も把握していて、場合によっては旅客を最寄りのトラベラー協会窓口に繋ぐこともあります。
「手荷物課(Baggage)」の「手荷物」とは、各客席等級で定められた範囲内で個人が船に持ち込める小型貨物、と定義されています。手荷物課の職員は貨物部と同様の技能で手荷物を運びますが、貨物部よりは旅客と直に接する機会が多いので常に身だしなみを整え、礼儀正しくあることが求められます。中には、港の繁忙具合によって手荷物課と貨物部を「行き来」する者もいます。
●警備部 Security
その仕事のほとんどは駐在所で待機したり、廊下を巡回することです。保安上の問題が発生したとしても、万引き、スリ、荷物の盗難、酔客の破壊行為といった軽犯罪ばかりです。とはいえ海兵隊が駐留しない大半の宇宙港では、警備部は自称テロリストや有象無象の悪人に対する唯一の抑止力です。
旅人が保護を受ける(あるいは裏をかく)保安対策は、宇宙港の規模によってかなり異なってきます。Eクラス宇宙港は小さすぎて訪問者も少ないため、最低限のもの――港長(または日中8時間だけ雇われた元軍人の保安官)が銃を持ち、もしあれば監視カメラで警戒するぐらいです。Dクラス港でも常時複数の警備員が配置されることは珍しいですし、この規模では緊急事態に備えて防弾服や狙撃銃などの特殊装備をいくつか用意しておくのが精一杯です(場合によってはその都度港長が突入志願者を募ったり、部外者に依頼もします)。
Cクラス港ともなると、中央監視室から複数の監視装置と無人機(ドローン)を駆使した警戒が行われ、警備員も5~10人単位になります。警備員の半数は私服で、もう半数はクロース相当の防弾服と電磁警棒(スタナー)を持って巡回を行います。また、緊急時に備えて詰所には軍用銃が保管され、複数の犯罪者を収容する独房も設置されています。
Bクラス港の警備規模はちょっとした警察署ぐらいになります。警備主任を含めて昼夜3交代の人員配置が行われ、関係者が港内宿舎に寝泊まりどころか定住することも珍しくありません。また、小規模ながら海兵隊が駐屯していることもあり、普段は目立たないようにしながら人質事件やテロ攻撃などの大規模暴力犯罪に備えています(海兵隊がいない場合は警備部内に特務班(SWAT)が組織されます)。収容施設には十数名分の独房があります。
Aクラス港の規模はもはや都市と同じなので、その保安業務も膨大な人手と機械を必要とします。港内の地区ごとに所轄が分けられ、それぞれが人員と警備車両と収容施設を持っています。情報は中央の警備本部に集められて各所轄に指示が送り返されます。Aクラス港にはたいてい海兵隊が駐屯しており、宇宙港の警備能力を超える事態があれば、最後の手段として軍用車両や兵装を駆使して沈静化させます。
●医療部 Medical Department
全ての宇宙港には何らかの医療施設を置くことが義務付けられています。Eクラス港では救急箱に過ぎませんが、Dクラス港では正規の救命訓練を受けた者が最低1名は勤務しています。こういった小規模港で深刻な病人が出た場合は、最寄りの医療機関に搬送されるか、たまたまいるのであれば船医に救命措置を依頼します。
Cクラス港以上では常勤の医師や看護師がいる医務室があり、訓練を受けた救急隊員が24時間体制で待機しています。ただしCクラスでは外科医が常勤していることはまずないため、重傷者は港外のより設備の整った医療機関に運ばれます。これがAクラス港ともなるとその規模は病院と言っていい程になり、人類以外の医学知識も持った医師、手術室や自動診療装置(AutoDoc)、さらに常勤外科医も待機していますが、意外にも冷凍寝台や入院設備はありません。これは、医務室の目的が救命救急であって長期的な入院は考慮されないからです。
辺境星系では、宇宙港が唯一の医療機関である場合もあります。その結果、宇宙港規模に似つかわしくない充実した医務室が出来上がっていることがあるのですが、その費用は医療費を取っても回収できなくなることもしばしばです。帝国はこの損失を辺境開発の必要経費としてあえて受け入れています。
このような現実は興味深い状況も生み出します。例えば、惑星の指導者(やその親族)をXT線を越えて入院させる際に、惑星の反政府派はその「慈悲深い行い」を黙って見過ごさないでしょうし、仮に患者が帝国側で亡くなれば市民の帝国への感情が悪化するのは避けられないでしょう。
●救急部 Emergency Services
火災、化学物質の流出、墜落事故――人員や設備の質こそ様々ですが、どの宇宙港も(特に軌道港では)最優先で災害対策を行っています。人命尊重からして当然ですが、宇宙港の評判が落ちれば経済面でも打撃になるからです。
大規模港には専用の「緊急指令本部(Emergency Operations Center)」が置かれていて、いざとなればここに港長以下関係する部署全ての幹部職員が集合し、備え付けられた通信回線や情報表示装置を駆使して、広大な港の中の災害対応や救助活動の指揮を執っていきます。小規模港ではここまではできませんが、規模は小さくともやっていることは大きく変わりません。
そんな中でも「救急隊(Rapid Response Emergency Team)」は港内の消防士、救命士、危険物取扱資格者を集めた緊急対応班です。救急隊は、火災が発生すれば延焼を防ぎ、負傷した人を救助して医療部に運び、港内に劇物が漏出すればそれを速やかに除去し、無重力中の危険な飛散物衝突事故(FOD)からの防護を試みます。ただしDクラス以下の宇宙港では救急隊はほぼ組織されておらず、その代わりに職員全員が消火・救命訓練を受けています(が、大規模災害がひとたび起これば為す術がありません)。
Cクラス以上の宇宙港では救急隊は常設されていて、宇宙港が大規模化すればそれだけ救急隊にも多くの人員や装備、例えば専用の消防車や救急車(TLが許せば反重力化)、瓦礫除去ロボット、劇物や真空に対応した装備などが置かれます。隊員は全員、消火・危険物処理・救難救助の訓練を受けた精鋭で、必要に応じて特殊作業班(無重力空間対応や爆発物処理)も組織されます。もちろん宇宙港職員も全て日頃から緊急対応の訓練と講習を受け、災害時には事前計画通りに各々の現場で旅客の避難誘導や安全確保に向かいます。
ちなみに救急部と医療部は、基本的に現地の医療・救急機関と相互協力協定を結んでいて、小惑星帯で座礁した船の救助に向かったり、地元政府の要請で災害出動を行ったりすることはよくあります。これらの勇敢な活動により、宇宙港と地元が友好関係を深めているのです。
●航空部 Flight Operations
宇宙港の航空宇宙部門である航空部には、連絡シャトル、燃料運搬船、牽引船といった小艇の操縦士や乗組員が所属しています。この部署の重要性は軌道港の有無によって大きく左右されますが、仮に軌道港がなくても管制用人工衛星の保守修繕など、わずかであっても日常的に航空部の役割が求められることはあります。
●設備部 Physical Plant
宇宙港のインフラを維持管理する部署です。港内各所から求められる仕事であり、大規模港では職員がひっきりなしに呼び出されるのはありがちです。旅客から宇宙港が「はずれ」と思われるのは、たいてい予算不足でここが機能不全を起こしているからなのです。
「機械課(Engineering)」は機械類の修理、電球の交換、傷ついた着陸床の再舗装など、宇宙港備え付けの全てを保守します。同様に「電力課(Power)」は港内の電力供給網や、1つはある(大規模港なら複数ある)核融合発電所を整備しています。これらの部署は小規模港では統合されていることもあります。
「通信課(Data/Communications)」は、交通管制には欠かせない通信設備を守ります。それだけに限らず、ほぼ全ての部署が港内の様々な最新情報を迅速に欲しており、その要求に応えています。帝国の宇宙港ではほぼ中間子通信が採用されていますが、低技術星系では現地の通信方式(有線電話や光通信など)で代用されていることもあります。また通信課は、航法衛星・気象衛星・通信衛星・中継衛星の通信を監視する役割もあります。
(※中間子通信はTL15の最先端技術のため、少なくとも小規模港では代用されていそうです)
「輸送課(Transport)」は、広い港内で人と物を運び、その機器を管理保守しています。定番の反重力バス・トラックに加えて、大規模港ではリニアレールなどの鉄路も導入されています。運転手は基本的にこの輸送課に属していますが、貨物運搬車の運転手のみ例外として貨物部の所属になっています。
ちなみに、ターミナルビルから船(またはその逆)への旅客の移動は、小規模港では旅客は歩いて船まで移動しなければなりませんが、大規模港では宇宙船がまず待機所まで移動して搭乗口に接舷し、乗客はターミナルビルから搭乗口まで歩走路(Slidewalks)などで移動して乗る方式が採られています。保安上の理由から、港外の公共交通機関がXT線を越えて直接宇宙船まで乗り付けることはありません。
「物資課(Stores)」では、港内で使われる消耗品を全て管理しています。小規模港では単なる物置小屋ですが、大規模港では機械倉庫や化学薬品庫や食品冷凍倉庫など、利便性を考えて目的別に分散化されています。当然、食料倉庫はターミナルビルの近くに、部品倉庫は格納庫の近くに置かれます。それら倉庫と物資をやり取りするのは輸送課の役目で、場所によっては自動搬送機や地下路線も利用されます。
加えて宇宙港には、あらゆる事態を想定して港の維持に必要な物資(宇宙船の予備部品、医薬品、衣類、保存食など)だけを集めた備蓄庫があります。これは宇宙港自体が危機に陥った際に現地の人々の善意に頼ったり負担を強いたりすることなく自活するためのものですが、同時に、現地が災害に見舞われた際に物資を放出することも考慮されています。
「食堂課(Commissary)」では港内従業員向けの食事を提供しており、関係者は割引価格で専用の食堂を利用することができます。
「清掃課(Housekeeping)」は港内の窓拭き、絨毯の掃除、ゴミ箱の回収から、外壁の塗装や樹木の剪定まで、宇宙港の美観に関わる作業を全て担当します。
なお、食堂課と清掃課の業務は民間業者に委託されることが多いです。
(
「付録」につづく)