goo blog サービス終了のお知らせ 

宇宙の歩き方

The Astrogators' Guide to the Charted Space.

宇宙港 ~未知への玄関口~ 第2集:付録

2022-05-18 | Traveller
■税関
 帝国の税関は、実は港務局ではなく帝国歳入庁(Imperial Revenue Department)の一部門ですが、その仕事は関税の徴収ではありません。なぜなら帝国はほとんどの世界で関税をかけていないからです(例外は宇宙港建設費を賄うための「臨時徴収」ですが、完済された時点で終了します)。
 税関の主な仕事は、到着した船舶を検査し、盗難船や密輸行為や指名手配犯を探し、旅客(や生体貨物)の検疫を実施し、時にはXT線や星系自治権との衝突問題に関わります。亡命権や星間移動の自由を制限し、好ましからぬ人物を星系政府に引き渡すことも含まれます。これらの任務は港務局の警備部と一部重なっていて、港務局自体の独立性が災いして時に混乱が引き起こされることもあります。
 宇宙船が宇宙港に到着すると、税関の担当者が船長と面談して航行計画書(フライトプラン)や積荷・乗組員の子細を確認します。港が特に混雑している場合は、待たされることもあれば船の通信機を通じて行われることもあります。この際に不審点(申告の矛盾や船体の明らかな損傷)があれば臨検や検疫が行われます。
 民間客船で宇宙港に到着した旅客は別の扱いを受けます。Cクラス港以上では旅客は港を出入りする際に、必ず税関の保安区画を通過しなくてはなりません。そこでは監視カメラや武装警備員による厳しい視線、そして(Bクラス以上では)武器や爆発物を発見する透過装置(スキャナー)が待っています。とはいえ厳重な警戒態勢ではありますが、通常は短時間で確認は終了して自由に港内を歩き回ることができます。なお、Dクラス以下の小規模港にはこのような設備はないため、下船時にざっとした検査を行い、明らかに不審な人物を別室で聴取するぐらいしかできません。
 帝国の官庁はその名を貶めぬように、冷酷なほどに勤勉であろうとします。人は皆、過ちを犯しやすいものではありますが、帝国の税関職員を堕落させるのは特に一筋縄ではいきません――もちろん物語を盛り上げるための例外はいくらでもありますが、その動機は単なる金目当てよりもずっと深いものであるべきです(※基本的に税関職員への〈贈賄〉判定はDM-6されます)。
(※帝国歳入庁は、実は後の設定では見当たらない組織です。しかし商務省の仕事として「徴税」が設定されているため、その下に歳入庁があってもいいだろうと判断してそのまま残してあります)


■労働組合
 帝国法では軍人以外に団結権が認められており、宇宙港が軍や企業との競争に打ち勝って優秀な職員を確保するためにも、公正な賃金と労働慣行の遵守は避けて通れません。
 宇宙港最大の労働組合が「宇宙港機械技師総連(ASMET)」で、ほぼ全ての宇宙港に支部を構え、技術系職員の加入率は約75%と言われています。また、職場単位の小規模組合も多数あり(例えば、設備部の運転手と貨物部の運転手は別々の組合に加入しています)、港長の中には何十もの組合支部との団交を強いられている者もいます。
 帝国法は団結権と同時に、組合に加入しない権利も認めています。幹部は組合員に偏見を持ってはなりませんし、組合員も非組合員を蔑視してはならない――のですが、これはあくまで理想にすぎないのが現実です。公然と組合潰しが行われる宇宙港もあれば、雇用安定の美名の下に労働者を強制加入させた組合が経営側に迎合している宇宙港もあるのです(※組合が全体主義の地元政府に取り込まれていることもあるようですが、XT線の設定を考慮して注釈付きとしました。現地雇用労働者の組合ならありえるかもしれません)。
 この労働問題はシナリオの種を与えてくれ、その多くは「正しい」側も「間違った」側もないことでしょう。労働組合のストライキによって修理点検が滞ったので、納期を守らせるために「ならず者」を雇うことは正当化されることでしょうか? 貿易商人が組合の圧力で高い組合員を使うことを強いられ、拒否すれば宇宙港での取引から締め出されるとしたら?


【ライブラリ・データ】
飛散物衝突事故 Foreign Object Damage
 無重力空間においては、細かい破片であってもその速度と角度次第では凶器となりえます。特に、事故によって発生した飛散物の塊が宇宙船の軌道と交差した場合、まるで拡散弾頭のような損傷を与えかねません。よって軌道港における事故処理は、まず先に飛散物の除去を行ってから救命活動に移るのです。

Kブランケット Kinetic Containment Blankets
 Kブランケットとは、約3メートル四方の多層防弾繊維布の俗称です。その主な用途は、爆発しそうな宇宙船から破片が飛散するのを防ぐことです。1枚または複数枚のKブランケットを救急隊員が危険区域に広げ、杭で(通常は船体に)固定します。その際に、飛散物は補足してもガス圧は逃がすために端は緩めたままにします。
 これは他に、大気中の火災を鎮火させたり、兵器や爆発物の木箱を包むために使用されますし、転落した者を下で受け止めるような即興的な使い方もされます。

マーシー級100トン救命艇 Mercy-Class 100-Ton Rescue Vessel
 事故現場に駆けつけ、被災した船から生存者(最大76名)を救出・捜索するための医療・救助用の非恒星間宇宙船です。この大きさの船で艦橋があるのは珍しく思われますが、徹底した捜索のためには探知機や通信機を増設する必要があるからです。船室のほとんどは病室や手術室や診察室に置き換えられていて、20名を同時に自動診療装置にかけつつ最大40名を治療することができます。さらに冷凍寝台には20名を横たえることができます。格納庫には2基の生命維持台(Life Support Carrier)など、救助や医療・生命維持のための装備を搭載することができます。
 救難艇は6G加速ができ、運用には船長兼操縦士、副操縦士兼航法士、通信士兼探知士2名、機関士2名、医師および宇宙医学士(flight surgeon)が必要です。

ブレイクウェイ級100トン急行艇 Blakeway-Class 100-Ton First Response Vessel
 この船は偵察艦を改装して緊急対応船として造られました。主な任務は遭難した船から乗客乗員を救助し、可能な限り機器の悪化を防ぐことです。ジャンプ能力は外され、代わりに推進力を強化しています。これにより、自分より大きな船を牽引することができます。内部には外科手術対応の手術室が2室あり、緊急手術するほどでもない負傷者は6基の自動診察装置(か生命維持台)に収容されます。無傷または軽傷者は36基の椅子に座らせます。4つの二人部屋は乗組員が長時間の作業中に仮眠をとるためか、いざという時は患者用の寝台に転用されます。また、スレイマン級偵察艦を改装した急行艇にはレーザー砲塔が1門残されていますが、これは切断トーチとして使用されます。
 急行艇は4G加速と大気圏突入ができ、運用には操縦士、航法士、救急隊員15名(執刀医1、医師2、看護師4を含む)が必要です。

救助ロボット Crisis Recovery Robot
 救急隊に配備されているこのTL13ロボットは、厚い装甲、優れた知能、無重力対応のスラスターを備え、人間には危険な環境下でも活動することができます。また、切断や牽引など様々な機器を装備し、貨物運搬ロボットの屈強さと医療ロボットの精密さを兼ね備えています。ただし、当然ながら非常に高価(15万クレジット)なため、よほどの緊急事態でないと使用されません。

生命維持台 Life Support Carrier
 これは生命維持装置を搭載した傷病者の運搬台(ストレッチャー)で、患者が適切な医療施設に到着するまで生命を維持するため「だけ」に特化した作りになっています。車輪付きの折り畳み式の脚を持ち、野外での簡易寝台や担架として利用できるほか、車載時には畳んで収納することもできます。生命維持装置は単独で数日間連続使用が可能で、電源から電力供給を受けることもできます。重量は約70キログラム、価格は1基Cr.7500です。
 なお追加装備によって、反重力化や耐弾加工、伝染病対応の完全密閉化なども可能です。
(※テクノロジーレベルに関する記載がないのですが、TL12と推測されます。これは、以前「仮死技術と二等寝台」で解説したTL12可動式寝台(portable berth)と同じものと思われます)


【参考文献】
・Starship Operator's Manual Vol.1 (Digest Group Publications)
・GURPS Traveller: Starports (Steve Jackson Games)
・GURPS Traveller: Far Trader (Steve Jackson Games)
・GURPS Traveller: Nobles (Steve Jackson Games)
・Starports (Mongoose Publishing)

post a comment

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。