宇宙の歩き方

The Astrogators' Guide to the Charted Space.

『2300AD』太陽系周辺宙域図(を『トラベラー』形式で)

2016-03-18 | Alternative Universe
 『2300AD』の難点といえば、リアルだけど見辛い星図がまず挙げられると思います。『トラベラー』のツッコミどころだった「宇宙が平面図で表現されている」点に対する回答とも言えるのですが、そもそも三次元の図を二次元に落とし込む時点で無理があるわけで、そういう意味では『トラベラー』のヘクス星図は「決してリアルではないけど利便性は高かったなぁ」と思うわけです。

 じゃあ『2300AD』の航路図を『トラベラー』のヘクス星図に落とし込めばどうだろう…ととなるわけですが、私が考える以前にGDWの情報誌『Challenge』第75号(1994年発売)にて「Core Subsector」という、わずか2ページ(しかも大部分は扉絵)ながらもそういった記事が掲載されたことがあります。『Traveller: The New Era』で『2300AD』設定を楽しむための企画に見えましたが、その後は続かなかったので今となっては意図は不明です。

 それから20年が経ってちょうど『2300AD』に触れる機会がたまたまやってきて、そして手元にツールがある。なら、やるか(笑)。ということで、『2300AD』の太陽系周辺を『トラベラー』の宙域図方式に落とし込んでみました。試行錯誤の結果、結局『トラベラー』と同じ「1ヘクス=1パーセク」で表し、

  1. 隣の星系までの距離は大体正しくする。
  2. 隣の星系への方角はなるべく正しくしたいが、距離同士の兼ね合いで難しいなら大胆に動かすのもあり。
  3. 再現するのは『2300AD』基本ルールブックの範囲(後に開拓される航路は無視)。
  4. UWPはマングース版を利用し、なるべく多くの資料で裏を取る。データがない未入植星系は宇宙港X・水界なし扱いとする(水があれば入植しているだろうから)。
  5. 「星系名」は惑星名の設定があればまず優先、次に前哨基地名、前哨基地が複数ある又は惑星設定がないなら恒星名とする。
  6. ガスジャイアントの再現は資料が揃わないし、燃料スクープができない『2300AD』では意味がないので諦める。
  7. Travellermap APIの都合上、一度に再現できるのは1宙域範囲まで。はみ出たら別宙域扱いとなる。

 というルールで再現しました。よって、航路で結ばれていない星系間の距離や方角は全く正しくありません。これは実は『2300AD』の設定では致命的で、牽引船(タグシップ)を利用して「7.7光年の壁」を突破されてしまうと、『2300AD』の設定では本来行けないような場所でも今回の星図では行けるように見えてしまうのです。まあ実際に利用される方はいないでしょうし、今回の星図はあくまで雰囲気だけを楽しんでください。

(凡例)
【航路】濃い線:主要航路 薄い線:その他の航路
【宇宙港】A:軌道エレベータ B:加速射出路 C:宇宙往還機(シャトル) D:再使用型単段式ロケット(ロトン) E:多段式ロケット X:なし
【種別】★:植民地 ▲:前哨基地 ■:知的種族母星
【領土】Fr:フランス UK:イギリス US:アメリカ Ma:満洲 Ge:ドイツ Ca:カナダ Br:ブラジル Au:オーストラリア Ba:複数国領有 Co:企業・団体所有




 ……あまり改善されたようには見えませんね(大汗)。そこで主要でない航路を外してみたのがこれです(ペンタポッド領域はカット)。




 航路がXボートっぽく見えるので、『トラベラー』に慣れた身にはこれぐらいでいいかも。宇宙港X・水界なし・ガスジャイアントなしの三重苦の「行き止まり」星系は『トラベラー』に慣れた人ほど本能的に避けるでしょうから、実質的に航路上しか動こうとしないでしょうし。
 あと、もっと『トラベラー』っぽくしたおまけを。




 星域名は単なる雰囲気付けです(一応公式設定の裏付けはありますが)。ちなみに『Challenge』誌では「シリウス宙域」となっていましたけど、確かに一番明るい恒星名を付けるというのは考えられなくもないにしても、太陽系がある宙域で太陽(ソル)を差し置いてシリウスにするかなぁ、という疑問も。『2300AD』の宇宙ではシリウスはほぼ無価値の星ですし…。

 とりあえず作ってみたものの、『2300AD』のルールでは隣の星までの正確な距離がワープ時間の算出に必須である以上、実用性は皆無ですね(大汗)。ワープのルールをいじって「民間船は1ヘクスで2日、軍艦は1ヘクス1日」とか丼勘定にするぐらいでないと、テーブルの飾り以上の使い道はないかもしれません(苦笑)。

ぶらりTL11の旅(3) 『2300AD』

2016-03-14 | Alternative Universe
 第3回のテーマは『2300AD』。旧GDWにおいて『トラベラー』と双璧をなしていたSF-RPGです。サブタイトルに"Mens Battle in the stars"とあるように、西暦2300年を舞台にした人類の戦い(だけではないけどゲームシステムの傾向で戦闘がテーマになりがち)を描いています。
 以前にも書きましたが、元々1986年に初版が発売された際には『Traveller:2300』の題名でした。当時のGDWの屋台骨であるトラベラーにあやかったかどうかは知りませんが、システム面でも宇宙史面でも全くトラベラーと繋がりがなかったのにこのタイトルを付けたことで、当時は混乱が広がったようです(恒星間戦争をテーマにした新作と誤解されても仕方ないですよね)。結果、1988年の第2版からはタイトルは『2300AD』となり、トラベラーとは全くの別ゲームとして人気を博しました。
 GDW倒産後は絶版状態でしたが、Traveller20発売後の2007年にQLI社から『2320AD』としてd20システム版が発売されました(言うまでもないですが「20年後を舞台にした続編」と「d20システム」を掛けたタイトルになっています)。しかし、サプリメント展開はなされずに終わりました。
 そして2012年、マングース版トラベラーのATUとして『2300AD』が復活し、徐々にではありますがサプリメント展開も続いています。このバージョンは『2320AD』の著者が手掛けていて、『2320AD』の復刻と言いますかロールバックに近い体裁になっています(よって『2320AD』の原稿そのままで修正されなかった部分が初版には存在した)。トラベラーを冠しながら違うゲームだったものがトラベラーシステムで戻ってくる、というのも何かの因縁を感じます(笑)。

 『スターウォーズ』や『銀河帝国の興亡』といったスペースオペラの影響が色濃いOTUに対し、『2300AD』ではハードSF(『2001年宇宙の旅』『エイリアン』等)をモチーフにしたリアル路線を打ち出し、後には『ブレードランナー』に代表されるサイバーパンクや、遺伝子改良によるトランスヒューマン要素をも貪欲に取り込んでいます。

 この『2300AD』の世界観は同じくGDWの『Twilight:2000』と地続きとされています。これは20世紀末の第三次世界大戦を戦い抜く兵士となるRPGで、当然ながら軍事・戦闘志向の強いものです。『2300AD』の世界観は、当時GDW社内で行われた"The Great Game"という戦略ゲームの結果だそうですが、『Twilight:2000』の設定を含めて知らなくても全く問題ありません(マングース版では「歴史記録の多くが戦争で破壊されて不明確になった」と改めて設定されました)。

 では、その第三次世界大戦から24世紀に至る歴史を追いかけてみます。


 局地的な核戦争を含む相次ぐ戦乱や、伝染病の蔓延、長年に渡る飢饉によって、西暦2000年~2089年は「黄昏の時代」と呼ばれています。「幸運にも」それらの災難を避けられたフランスがいち早く宇宙開発を再開させた一方、アメリカは三つ巴の内戦に苦しみ、ロシア、ドイツ、インド、中国といった国々は崩壊していきました。
 2100年にはフランスはアラビア半島などの権益を収める超大国の地位に上り詰めましたが、一方で22世紀初頭は新天地である宇宙を巡って各国がしのぎを削る時代でもありました。満洲が水星に進出し、フランスに続いてアメリカも火星に足を踏み入れました。最終的に2119年のメルボルン合意によって、地球軌道の非武装化と太陽系惑星の植民地化の取り決めがなされました。

 22世紀前半に各国は宇宙開発に多額の投資を行い、地球~月間のラグランジュ点には初の宇宙居住地L-4、L-5が建設され、月や火星には入植が進みました。2112年に基礎理論が確立されていた恒星間航法は、2130年までにはいくつかの研究所がワープ機関の試作を終えていました。
 最初の恒星間宇宙船は2146年に欧州宇宙機関(ESA)によって造られました。ケンタウルス座α星への最初の探検によって入植に適した惑星ティラナが発見され、ESA加盟国のフランス、バイエルン、イギリス、アザニア(※この時代の南アフリカ)が領有を主張しました。少し遅れてアルゼンチン、中国(※満洲の誤りのような気がしますが、どの文献にも"China"と記載されています)、アメリカが独自に恒星間宇宙船を建造し、それぞれケンタウルス座α星、バーナード星、ウォルフ359星を探査しました。
 「フランスによる平和」の下、各国は国力を回復し、必然的に各国はフランスと国力を競うようになりました。一方でフランスは「世界を導く」負担に耐えかねて国力を低下させ、2150年には曲がり角を迎えていました。2149年~2154年のアルファ・ケンタウリ戦争でアルゼンチン(とその同盟国)に破れたのを契機に「フランスによる平和」は終わり、国際紛争の新たな時代が始まりました。
 22世紀末には、人類は地球から約20光年の範囲を探査し、10ほどの星に植民地を築いていました。植民星の拡大は地球上の紛争を宇宙各地に持ち込むこととなり、地球の本国が植民星から搾取するという「歪み」も広まっていきました。

 22世紀が探検の時代なら、23世紀は通商の時代でした。新たな領土は新たな商圏を産み、高額な恒星間輸送費を払ってすら利益が出る様々な資源、製品、サービス、情報がそこには満ち溢れていました。
 中でもこの時代に栄えたのがフランスでした。地球上ではアフリカ、中近東、太平洋での権益を取り戻し、時間を掛けて対立国(アルゼンチン、メキシコ、満洲)との緊張を緩和させ、軍事力と評判を立て直し、2250年には再び超大国の地位に返り咲いていました。
 そんな中人類は、いくつかの知的生命体と接触を果たしました。彼らとの交流と研究によって人類社会には新たな多様性がもたらされ、これまでになかった遺伝子工学技術を得、同時に異種族との摩擦や紛争を経験していくこととなるのです。

 23世紀の中頃、成熟期を迎えた植民地が新たな危機を呼んでいました。これまで地球経済を支えていた重商主義(地球の本国は原材料を植民地から手に入れ、植民地は本国の製品を購入する)が、植民地の発展によって成り立たなくなっていたのです。多くの大国は景気停滞に陥ってしまいました。地球近傍では国家主義が台頭し、逆に宇宙入植者の間には自主独立の気運が高まっていきました。
 2289年、フランスでクーデターが発生して第十二共和政が崩壊しましたが、代わった軍事政権が国債を乱発したために極度なインフレーションが発生しました。さらに軍が立て続けに対外戦争に敗れたので、2293年に著名な実業家であるニコラ・ラフィンに自由選挙で権力を譲渡する羽目になりました。
 ラフィン新政権は経済を劇的に立て直し、2298年の総選挙にて「国民からの支持によって」フランスは頼りない共和制から第三帝政への移行を決定します。かくして新皇帝ニコラ1世を戴く『フランス帝国』が、約400年ぶりに宇宙に蘇ったのです……。

(※なお年号はマングース版準拠で、旧版とは差異があります)


 このように、SFにありがちな超国家連邦なんか夢のまた夢、むしろ19世紀の帝国主義時代に逆戻りしてしまったかのような未来像が描かれています(ウィーン体制からナポレオン3世にかけての時代を明らかに模していますね)。また、割愛した部分はほとんど戦争に関することで、よくこれまで第四次世界大戦が起きなかったなというぐらいにあちこちで戦闘が繰り広げられています(まあ元が戦争テーマのゲームなので…)。


 さて300年後の未来、地球のパワーバランスはどのようになっているのでしょうか?

【超大国】 Tier 1
フランス French Empire
系外植民地:フルーム/キマンジャノ星、ヌー・ヴァラ/かみのけ座β星、フォーゲルハイム/アドラーホースト星、オロール/うしかい座η星、ヌーベルプロヴァンス/ティラナ、ユーロップ・ヌーヴ/クイーン・アリス星、フランス領ベータ・カヌム/りょうけん座β星、およびサン・スーシ前哨基地/DM+36 2219星など多数
 21世紀以降の世界史はフランス史である、と言っても過言ではないほどに、この300年間はフランスを中心に国際政治は動き、文化や技術の中心もフランスであり続けた。
 地球上ではフランス本国に加え、俗に「フランス地上帝国(Imperial France)」と呼ばれるアフリカ諸国やポリネシアを傘下に収め、中でもガボンの首都リーブルヴィルに建設された軌道エレベータはフランスに莫大な利益をもたらした。

【列強】 Tier 2
アメリカ United States of America
系外植民地:ティラニア/ティラナ、ニューコロンビア/キング星、ヘルメス/ヘラクレス座μ星、アヴァロン/DM-34 11626星、エリス/エリス星、およびアームストロング前哨基地/ブロワード星など
 黄昏の時代の内戦による混乱でアメリカは長い間孤立主義を採ったが、近年では国際社会に復帰しつつある。黄昏期以前の超大国の底力は今も健在。

イギリス United Kingdom of Great Britain
系外植民地:ニューアルビオン/ティラナ、アリシア/クイーン・アリス星、ニューアフリカ/りょうけん座β星、クレーター/ヘンリー星、ニューコーンウォール/おおぐま座61番星、およびデビルビス前哨基地/クラーク星など
 黄昏の時代に大きな傷を負ったものの、(フランスの影ではあるが)再び列強として返り咲いた。恒星間交易による収益を科学研究に振り向け、特に宇宙開発技術では他国より優位にある。現在の君主は、在位30年を迎えたマーガレット2世。

ドイツ Germany
系外植民地:フライハーフェン/ティラナ、ドゥンケルハイム/DM+36 2393星、ホーエンバーデン/ホーエンバーデン星、ノイバイエルン/ニーベルンゲン星、ドイツ領ベータ・カヌム/りょうけん座β星、フォーゲルハイム/アドラーホースト星、ハルビンゼル/おおぐま座61番星、およびフンスリュック前哨基地/オージュロー星など
 黄昏の時代に小領邦に四分五裂したドイツは、その後300年間フランスの影響下にあったが、2292年のドイツ再統一戦争でフランスを破って一国としての独立を回復。しかし統一派の旗手だったハノーファーと、最後までフランスと共にあろうとしたバイエルンの亀裂は未だ回復しきれておらず、旧バイエルン系植民地では不穏な動きも…?

日本 Japan
系外植民地:天照(アマテラス)/ティラナ、大黒(ダイコク)/みずへび座β星、土佐清水(トサシミズ)/おおぐま座61番星、および峻厳(シュンゲン)前哨基地/ダヴー
 21世紀の戦火を逃れた日本は、その後経済大国として世界に君臨。内戦で混乱したアメリカから太平洋の委任統治領を引き受け、ロシアから北方四島どころか千島列島と樺太の領有権を奪い返し、フィリピンと経済統合をもした。また地球最大の海中都市「かいてい」や、ラグランジュ点にスペースコロニーも領有。

満洲 Manchuria
系外植民地:東湖(トンフー)/ティラナ、寒山(コールド・マウンテン/ハンシャン)/くじゃく座δ星、休寧/シュウニン星、成都(チョンドゥ)/インディアン座ε星、船梯(チュアンティ)/きょしちょう座ζ星、関東(クァントン)/くじら座τ星、渡口(ドゥーコウ)/エリダヌス座ε星、および撫遠(フーユエン)前哨基地/バーナード星など
 列強の中でも超大国一歩手前にある満洲は、旧中国北部からチベット地方を治め(同時に統一朝鮮を衛星国として確保)、地球上では最も人口の多い国家。人口の多さを産業力に活用する一方、人口負担軽減のために積極的な植民地獲得政策を採っている。日本やフランス等欧米諸国とは緊張関係にあるが、カナダとの関係は良好。

【先進国】 Tier 3
アラビア、アルゼンチン、オーストラリア、アザニア、ブラジル、カナダ、広東(カントン)、インカ共和国、メキシコ、テキサス、アラブ共和国連盟(UAR)、ウクライナ
 いずれも地球の外に植民地を持つ国家。

【中小国】 Tier 4
インド諸州(The Indian States)、イラン、ロシア、パレスチナ連合、フランドル、インドネシア、アイルランド、中央アジア共和国、ナイジェリア、スカンジナビア同盟、その他

 2300年現在、地球上の国家は「127国」と設定されているので、様々な小国が姿を消したのだと思われます。その一方でカタルーニャやクルディスタンが独立を果たし、ロシアが分裂している(シベリアと極東共和国が独立)など、国境線は大きく変貌しています。そこに歴史的な対立構造や近年の利害関係が絡み合い、国際情勢は複雑怪奇極まりない状態です。そこを上手く盛り込めればシナリオに深みを与えられるのですが、上手くプレイヤーに伝える技量も求められそうです。


 恒星間社会とトラベラーらしさを支える基幹技術である超光速航法ですが、『2300AD』では「スタッターワープ」と定義されています。ジャンプとの違いは、移動距離に比例して時間がかかる点と、ワープ1回で7.7光年以上の移動が不可能である点です(これ以上はワープコアが致死量の放射線を発してしまう)。よって、太陽系を起点として7.7光年以下の星々が航路として結ばれています。
 リアル志向のため、OTUや一般的なATUで採用されている「平面ヘクス星図」ではなく、それぞれの星々が三次元座標を持つ「立体星図」が採用されているので、ぱっと見の航路図が非常にごちゃごちゃしているのは否めません。また、OTUのように行く先々の星々で入植が行われている、ということもなく、入植に適した重要な星のみが栄えているのです。「ただの通過点」が多く書き込まれていることで、よりごちゃごちゃさに拍車がかかっている感はあります。

 そしてOTUや他のATUとの決定的な違いは、反重力が存在しないことです。従って人工重力プレートもスラスター航法も存在しません。宇宙空間で重力を得るには遠心力に頼らないといけないので、宇宙船を軸にして居住区を回転させるなどの工夫が必要になります。宇宙船を加速するにしても1Gですら簡単には得られませんし、宇宙に出るにしても惑星重力を振り切る手段が必要なので、従来型のロケット打ち上げや射出路(カタパルト)の利用、そして軌道エレベータに莫大な費用を投じて建設することで、やっと宇宙への行き来が出来るようになるのです(それでも軌道ステーションまで5日掛かりの旅ですが…)。
 反重力がないということは、エアラフトも反重力戦車もありません。移動の定番はATVやヘリコプター、そして……ホバークラフトなのです! 『2300AD』の世界では大抵の戦闘車両がホバー化されていて、このゲームの代名詞とも言える存在です。現実を見てもさすがにそこまで万能じゃないだろ、という気もしますが、まあ未来のホバークラフトなので色々問題点が解消されているということにしましょう(笑)。
 また、TL上では十分にエネルギー武器が実用化されている頃合いなのですが、戦場では未だに銃弾が主戦力として活用されています(一応エネルギー武器のデータは存在)。


太陽系から15光年以内をフリーソフトChviewで再現した図
緑の線がスタッターワープ航路、数字は距離(単位・光年)
(※恒星座標が調整されているのでゲーム内設定とは一致しない)

 太陽系を中心として今や50光年範囲に広がったワープ航路は大きく分けて3方向に広がっています。それぞれの航路網を「腕(Arm)」と呼び、それぞれの腕の最大勢力の国名が冠されています。またその腕から分岐した航路を規模によって「副腕(sub-Arm)」や「指(Finger)」と呼んでいます。
 それぞれの腕には横の繋がりがないため、全く雰囲気が異なります。仮に一つの腕で大戦争が起きていても、他の腕の人には所詮他所事に過ぎないのです(本国にも影響が出るので、全く関係がないわけではないでしょうけど)。


中心世界 Core Worlds
 太陽系(主に地球と月)とケンタウルス座α星(惑星ティラナ)をまとめて中心世界と呼ぶ。その名の通り人類文明の、政治経済に限らずあらゆるものの中心地である。高い技術力と比較的良い治安、豊かな社会生活が営まれている……見た目には。大都市を舞台にした巨大企業の暗闘や極端な貧富の格差といった「サイバーパンク」なシナリオ向き。

フランス腕 French Arm
 最も開発の進んだ腕で、12の植民星系を持つ。ESA加盟国を中心として様々な国家が入植したために国際政治に翻弄され続け、それが故に自治権拡大を求めたり、本国からの独立を画策する植民地も多い。そして、2295年に現れた人類の宿敵「ケイファー」との数々の交戦が繰り広げられているのもここである……。独立闘争やケイファー戦争など、軍事・傭兵がらみのシナリオ向き。サプリメントやシナリオもこの腕を扱うことが多い、文字通りの『主戦場』。

アメリカ腕 American Arm
 その名の通り主にアメリカが占めているアメリカ腕は、3つの腕の中では最も規模が小さく開発も遅れた「田舎」ではあるが、その分古の西部劇のような牧歌的で独立独歩精神に溢れた開拓民社会が形成されているので、移住者の人気は高いらしい(特に地球の監視社会に疲れた者には)。探査や開拓をテーマにしたシナリオ向き。また、異星種族はいないので人類のみのシナリオを組むならここ。

シナ腕 Chinese Arm
(※追記:マングース第2版では「満洲腕(Manchurian Arm)」に変更されました)
 規模はフランス腕に匹敵する。満洲、カナダ、ブラジルなどが中心となった植民は最も早かったがインフラ整備はまだまだで、場所によっては未だに「動物力」に頼る開拓が行われているらしい。人類が最初に他の知的種族と接触したのがここ。現在ではテロや海賊行為が横行している、という危険性もある。異星種族との交流や旧文明遺跡の探検シナリオ向き。


 これまで紹介してきたATUと違って『2300AD』の宇宙には知的種族が存在し、個性豊かな、OTUとは違って親しみやすさ度外視の異星人像が構築されています。
 マングース版コアルールでは以下の種族が紹介されています(※マングース版、と銘打ったのは、旧版では記載されていた1種族が後発シナリオでの追加に変更されたため)。

スン Sung
母星:スターク/DM+4 123星
 2247年に人類が最初に接触した種族。人類より小柄で無毛だが、(今のところ)唯一自力で飛行が可能。接触時点でTL8~9程度の技術力を持ち、星系内に乗り出していた。彼らには「技術的に優位な者が下の者を導くべき」という哲学があり、現在では人類の影響下に入っている。

シャン Xiang
母星:「母なる星」/DM+4 123星
 スンと同じ星系の第5惑星を母星とする甲殻類に似た種族。彼らの母星まで進出したスンは、彼らを「運搬用の動物」と見なして使役していたが、人類の科学者は彼らに知性があることを見抜き、最終的に満洲とカナダが介入した奴隷戦争(2255年)によってスンの支配下から脱した。罠作りを芸術の域にまで高めた文化が特色。

エバー Eber
母星:コモラン/エリダヌス座82番星
 2256年に接触した巨漢種族。エバー原種は4000年前に恒星間社会を築いていたらしいが、内戦により現在では2星系に遺跡を残してTL3程度に衰退。接触当初は摩擦も多かったが、人類が彼らの儀礼を尊重することで関係は良好化した。

ペンタポッド Pentapod
母星:DM+43 1953星
 2251年に探査船がDM+27 28217星にて接触した、その名の通り「五脚五眼」の水陸両生種族。フランス腕の彼方に通称「ペンタポッド領域(Pentapod Space)」と呼ばれる恒星間社会を既に形成しており、惑星ベータ・カヌム4に入植地を形成するなど人類との交流も積極的。特に彼ら独特の有機機械技術は、人類の遺伝子工学に一大革新を引き起こした。

ケイファー Kaefer(※旧版ではKafer)
母星:ケイファー領域の奥?(現在のところ不明)
 2295年の接触後、フランス腕に侵略を仕掛けている二足歩行昆虫人。「ケイファー」とはドイツ語で甲虫類の意味だが、かつてのアフリカ住民に対する蔑視語と同じ発音でもある。知性は低いが(とはいえ人類並の技術力はある)狡猾で、人類以上の戦闘能力を持ち、対話は現在のところ不可能。降伏もせず死ぬまで闘いを挑むので非常に厄介。このケイファーとの戦いが『2300AD』のメインテーマとも言える。

 その他、シナリオで新種族との接触があったり、滅亡種族を発見したりもします。また人類もイルカの知性化に成功しています。未知の部分が多いので、OTUよりもファースト・コンタクトものをやりやすいのが『2300AD』の特色でもあります。


 現在のところ、マングース版『2300AD』は以下の製品が発売されています(順不同)。旧版のリメイク再版に加えて、オリジナル展開もなされています。

【マングース初版ルール対応】
●『2300AD Core Rulebook Revised』(2012-03-21)
 西暦2300年の世界で冒険するための第一歩。キャラクター作成ルール、各植民星の二十面体地形図(『2320AD』譲りだが白黒化されたのが残念)、装備品・輸送機器データ、宇宙船作成ルールおよびデッキプラン(トラベラーシステム化した最大の利点がこれ)などを収録。Revised版なので誤植は取れている、はず。
(※ただしマングース版トラベラーの第2版に合わせて版上げが計画されている模様)
(※マングース版トラベラー第2版に準拠した新版に関しては下記参照。ただし現在も旧版は併売されています)

●『Tools for Frontier Living』(2012-12-20)
 旧版の「Equipment Guide」をリメイク。辺境生活に必要な装備品の解説に加え、書き下ろしとして辺境の入植地の解説から作成ルールまで収録した、文字通りの辺境生活ガイド。

●『Ships of the French Arm』(2014-09-18)
 旧版の同名タイトルをリメイク。フランス腕を行き交う各国の宇宙船の数々を徹底解説。

●『Hard Suits, Combat Walkers and Battlesuits』(2014-03-27)
 新たな戦場の華である装甲服やコンバットウォーカーの制作ルールと、各国の装備品データを収録。

●『Libreville: Corruption in the Core Worlds』(2014-06-20)
 旧版の「Rotten to the Core」をリメイク。軌道エレベータが天空までそびえ立ち、黄昏期以前とは全く違う巨大都市に変貌したリーブルヴィル。世界中の富が集まる企業天国とは裏腹に、街をスラムが取り囲むという極端な対比を見せる「サイバーパンクな」都市、リーブルヴィルの詳細設定とシナリオを収録。

●『Atlas of the French Arm』(2015-09-26)
 旧版の「Colonial Atlas」からフランス腕部分を抜粋してリメイク。各植民星の詳細情報が得られる。

●『Terror's Lair』(2012-03-18)
 旧版基本ルールブックに収録されていた入門用同名ソロシナリオの単独再版。

●『The Tricolore's Shadow』(2012-03-18)
 りょうけん座β星のフランス領を舞台にした同名のショートシナリオの復刻。単純な調査任務だったはずが…?

●『French Arm Adventures』(2012-11-26)
 旧版シナリオの「Beanstalk」「Kafer Dawn」「Energy Curve」を合本リメイク。特にケイファーに関しては現時点では唯一の詳細資料(旧版の「Kafer Sourcebook」を手に入れれば済むことではあるが)。シナリオに加えて舞台となるベータ・カヌム4、オロール、DM+17 2611Ⅱのかなり詳細な情報も得られる。

●『The Grendelssaga』(書籍版のみ)
 新作シナリオ「Rescue Run」「Salvage Rights」「Black as Pitch」の3部作をまとめた1冊(PDF版は単品販売)。クイーン・アリス星の植民惑星ベオウルフ…の隣の軌道にある不毛惑星グレンデルを舞台に、様々な冒険が繰り広げられる。

●『Liberty』(2015-01-07)
 アメリカの植民地エリスを舞台にした2つのシナリオを収録。砂漠の惑星エリスや、物語の舞台となるリバティ郡の解説も含む。

【マングース第2版ルール対応】
『2300AD』(2021-08-20)
 マングース版トラベラー第2版ルールに準拠した、計画発表から6年越しの発売となった改訂版ルールブック。3分冊フルカラー化され、ルールや用語の見直しが行われている。
 なお、遊ぶのに必須なコアルールと合わせて割引価格となった『2300AD & Traveller Core Rulebook』も販売中。

『Aerospace Engineers' Handbook』(2021-11-23)
 宇宙船関連ルールはコアルールブックから切り離されてこちらに回った。恒星間宇宙船だけでなく宇宙ステーションやドローンの設計も可能。加えて宇宙に生きる人々(宇宙鉱夫等々)の設定やルールも。

●『2300AD Referee's Screen』(2022-02-09)
 表題通りのレフリースクリーン。

●『Ships of the Frontier』(2022-05-31)
 『Ships of the French Arm』の改題新版。2版ルール準拠の各種宇宙船の紹介に加えて、車両やドローンも記載。

●『Tools for Frontier Living』(2022-09-30)
 装備品に特化した追加データ集(※特化したためか旧版にあった入植地ルール等は削除された反面、中心世界の象徴だったサイバーパーツが一部収録された模様)。

●『Project Bayern』(2023-01-23)
 旧版同名本を全面リメイク(文章量は約7倍!)した一大キャンペーンシナリオ(アイデア)集。遥かプレアデス星団を目指して長旅にでた探査船「バイエルン」と110名の仲間たち。船や主要NPCの解説、シナリオ等を4分冊で収録し、予定から7年遅れで遂に発売。


 元々別ゲームだったので当然なのですが、『トラベラー』とは全くプレイフィールが異なります。『トラベラー』ではPCが自由に星々を渡り歩くのが当たり前ですが、『2300AD』ではそういう方向性には目が向けられていません。キャラクター作成時に宇宙船が貰えるなんてことはありませんし、隣の星まで何日かかるという基本的なことも非常にわかりづらいです。何しろ、ワープ可能点への到達時間が惑星・恒星の重力圏距離や宇宙船の加速度や〈パイロット〉技能に左右され、スタッターワープにかかる時間自体も宇宙船の性能によって計算が必要なのですから(加えて軍用と民間用で性能が倍ぐらい違いますし)。
 つまり基本的にはどこかの惑星に腰を据えて冒険を行うか、宇宙を渡り歩くにしても星と星の間は特に気にしない(映画『インディ・ジョーンズ』のように)のが吉かもしれません。また従来通りケイファーとバリバリ戦うにしても、トラベラーシステムでは正面切って戦うよりも斥候任務や奇襲といった寄せ手搦め手の方が向いていると思います。

 とはいえ、「現実的な」国籍と人種を気にする必要がある宇宙SFというのもなかなか貴重であり、とっつきは悪いものの噛めば噛むほど味が出る世界設定は、今でもファンが多いことが肯ける出来です。宇宙は駆けないものの、特定の惑星にじっくりと腰を落ち着けて「生きて」みたいと思わせる、そんなロールプレイングを楽しみたい方に人にお薦めしたい一作です。

(※今更言うのも何ですが、『2300AD』はTL12設定だったりします…(汗)(7.7光年の移動がジャンプ-3相当だからか?)。ですが、TL12の物品が世に溢れているという感じはありません)