宇宙の歩き方

The Astrogators' Guide to the Charted Space.

星の隣人たち(7) グヴァードン宙域の(帝国に関係する)諸勢力

2018-05-12 | Traveller
「王子の新しい船は、新しい国を築く鍵となりました。船の名を冠した彼の国はこの宙域で最も大きくなり、今も宙域の名に残っています。王子は、船を授けてくれた恩人の名を船に付けていました。放浪者グヴァードン、と――」
――童話『グヴァードンの物語』より


 グヴァードン宙域は様々なヴァルグル政府によって統治され、帝国とゾダーンの双方国境に隣接し、多様な文化、政治的不安定、先の読めない貿易、頻繁な紛争地帯となっています。このような状況は帝国やゾダーン市民には混沌としているように見えますが、ヴァルグルにとっては日常の生活様式です。
 ヴァルグルを知る者ならわかることですが、ここでは過去2000年以上に渡って数え切れないほどの国家が生まれてはすぐに消えていきました。そのほとんどは記録にも残らず、名高い(もしくは悪名高い)大国だけが歴史書の中に記されています。


■国家
第40戦隊(エッヘー・クォフィ) Ekhlle Ksafi
 第40戦隊は元々、第一次辺境戦争のジヴァイジェの戦い(Battle of Zivije)で壊滅したヴァルグル艦隊の生き残りです。コウドヴォン准将(Commodore Koudvan)に率られたこの敗残兵たちは、内輪揉めばかりの星々を制圧して封建的な軍事政権を打ち立て、以後500年に渡って権力を維持し続けています。今ではゾダーンの支援を受けている戦隊海軍は、グヴァードン宙域の中でも最精鋭と言われています。
 国家は将校たちによって統治されており、第一次辺境戦争時に確立された階級構造と軍事規律が保たれています。ヴァルグルらしからぬことに、各艦の乗組員は生涯の大半を同じ艦で過ごすうちに相互に深い友情を芽生えさせ、それぞれ独特の閉鎖的な文化を生み出しています。
 首都をユシス(グヴァードン宙域 1738)に置いている第40戦隊は、ユシェ星域の6星系を支配下に収めています。各星系では自治がなされていますが、実際には守備艦隊司令部と星系政府の合議政です(※というのも建前で、軍部の意向が優先されるため住民には不満が溜まっているようです)。現在、政情はやや不安定化していると伝えられていますが、それでも海軍艦隊の名声はこの国の統一を保つ接着剤として機能しています。
(※ゲーム『第五次辺境戦争(Fifth Frontier War)』に登場するユシス艦隊(Uthith Fleet)とギリール艦隊(Gireel Fleet)はこの第40戦隊の所属とされていますが、後の設定変更に伴いギリール星系は無かったことになり、ユシス星系の座標も変わりました)

ケズジ共同体 Kedzudh Aeng
 この緩やかな連合はフィルグル星域における海賊行為の抑止を目的として、1044年に結成されました。現在では海賊団クフォルゼンの脅威に晒されている9星系が加盟しています。共同体の各星系政府は自治権を保持しながら、警察力と小艦隊の維持のために少額の加盟税を支払っています。なお連合体の法執行権限は、奴隷売買や密輸などの犯罪防止に限定されています。
 共同体海軍は首都アックズ(3034)にある唯一の基地に駐留し、そこから国境内の通商路を哨戒しています。海軍は領内にいる宇宙船への臨検の権限を持ち、不法行為があれば容疑者の逮捕・起訴を行います。そして発見された違法物品や盗難品は押収され、艦隊の維持費として役立てられます(窃盗の被害者は押収から1週間以内の提訴が認められています)。海軍の運営費の約3分の1はこうして賄われていますが、多くの市民は中には冤罪もあるのではないかと疑っています。

スーングリング帝国 Thoengling Raghz
 スーングリング帝国はグヴァードンとトゥグリッキの両宙域にまたがる中央集権的な大国です。この国は792年以来現在の形で存在しており、ヴァルグル全体でも最も大きく、安定した国として知られています。終身制の皇帝は議会の投票によって選出されますが、皇帝の子息がその跡を継ぐことは法律で禁止されています。またこの国には皇室に忠義を誓う貴族階級が存在します。
 国家は領内全ての警察力と軍事力を統御し、犯罪者に対する刑罰は迅速かつ厳しいものがあります。外世界(および国境間)取引には貿易許可証が必要とされますが、これは滅多に拒否されず、加盟世界はスーングリング帝国内外の諸企業との健全な取引関係を結んでいます。第三帝国もこの国の安定性と強大さを見込んで主要な貿易相手としており、ヴァルグル諸国における第三帝国の権益を強力に支えています。

第三帝国 Third Imperium
 グヴァードン宙域の世界を帝国が支配するのは困難を極め、結局、トライアド(2436)とギューツォン(3233)に属領を確保して海軍・偵察局基地を設置するのが精一杯でした。
 帝国が基地を置く目的は2つあります。帝国はヴァルグルを潜在的な脅威とみなしており、ヴァルグル領内に観測拠点を必要としていました。一方で帝国はヴァルグルとの良好な貿易関係を築くことで、帝国領への襲撃を減らそうともしています。両基地の存在は効果的に機能しており、国境付近での海賊攻撃を低減させています。


■企業
グヴァイノックス Gvaeknoks
本社:クフォリール(1421 B86AAA6-B)
商圏:グヴァードン宙域
 グヴァイノックスはグヴァードン宙域最大級の運輸会社です。同社には各星系を定期航路で回るジャンプ-2船団と、主要世界間を素早く運ぶジャンプ-3船団があり、宙域内のあらゆる世界で輸送業を展開しています。

オベルリンズ運輸 Oberlindes Lines
本社:リジャイナ(スピンワード・マーチ宙域 1910)
商圏:リジャイナ星域、アラミス星域、ユシェ星域、フィルグル星域
 グヴァードン宙域内ではグヴァイノックス社に次ぐサービスの良さで知られる帝国系の運輸会社です。帝国とヴァルグル諸国の国境越え貿易の多くをこのオベルリンズ運輸が取り扱っています。
 同社のヴァルグル諸国における象徴が巡洋艦エミッサリーで、その存在は海賊への抑止力として十分なほどに機能しています。
(※リジャイナ~ケズジ共同体~スーングリング帝国間の交易路は確保していますが、そこから先についてはさすがにグヴァイノックスの牙城は崩せていないようです。ちなみに、ラウグジルゾーラ(2040)の宇宙港をAクラスに改修したのもオベルリンズ運輸だそうです)

ラッハソール造船 Rrakhthall Shipyards
本社:アックズ(3034 A424551-E)
商圏:フィルグル星域
 ラッハソール造船は、897年に当時無人だったアックズ星系に家族経営企業として創業されました。創業者こそラッハソール家の家長でしたが、造船会社として必要とされる技術・専門知識・取引先を持っていたのは3人の息子たちでした。
 同社は最初は主に軍事用小艇の建造を担い、近隣星系に納入していきました。社の繁盛とともにアックズへの入植は進み、一族は得られた富をより大きな艦艇を建造できる造船所や、労働者の教育に投資していきました。やがて造船所は海軍基地としても機能するように拡張され、ケズジ共同体が結成される際には海賊と戦うための艦船の多くを供給しました。同社のこれらの多大な貢献により、共同体の首都としてアックズが選ばれたのは必然でした。

ウォーカー・ロボティクス Walker Robotics
本社:パンドリン(2240 B560675-A)
商圏:ユシェ星域
 スピンワード・マーチ宙域の帝国国境すぐ外にあるこの会社は、ヴァルグル市場向けのロボット設計・製造を行っている人類系企業です。ここの大規模な工場で造られた製品は、ヴァルグルの商人や代理店に出荷されていきます。
 ヴァルグル諸国ではロボットの需要はそこまでありませんが、ウォーカー・ロボティクス製品はヴァルグル系企業のものよりも優れており、非常に高い売り上げを誇っています。
 同社の主な競争相手は、帝国製のロボットを盗んでヴァルグル諸国で売りさばく海賊団です。
(※マングース版ルールから利用可能となった二足歩行兵器「ウォーカー」を製造している…ことはないと思います)

ローイギール・オッハ Rraegnaell Oukh
本社:ジエンギ(1539 B9789AA-A)
商圏:本文参照
 ゾダーンと帝国の双方の国境に近いという立地を活かし、ローイギール・オッハはヴァルグル・ゾダーン・帝国の「三角貿易」を営んでいます。そして時には直接の輸出入が許可されないような品物を第三国経由で流したりもしています。

エンクソー・オロズ Enksoe Aloz
母港:ケズジ(2833 B000525-D)
商圏:ケズジ共同体、および周囲6パーセク以内の世界
 経営者エンクソーは個人商船で旗揚げし、幸運にも今やジャンプ-2商船7隻の船団を持つほどにまで会社を成長させました。彼の船はケズジ共同体領内だけでなく、時には国境を越えて他のヴァルグル世界や帝国領内にまで旅をしています。


■海賊団
カイルーゴ Kaerrgga
 カイルーゴはグヴァードン宙域のコアワード(銀河核方向)端にある星を根城にしていますが、彼らは弱い目標をあえて狙わず、国家を相手取って襲撃することを好みます。時には、遙かスーングリング帝国や第40戦隊といったリムワード(銀河辺境方向)側の国家まで遠征を行うことすらあります。

クフォルゼン Kforuzeng
 帝国国境近辺での海賊の代名詞でもあるクフォルゼンは、ウーラツォス(3238)を根拠地にして帝国領内への襲撃をほぼ独占しており、国境付近の海軍関係者や商人たちにはその冷酷さと残虐さは広く知れ渡っています。
 1041年の結成以来クフォルゼンは様々な勢力や船舶を襲撃し、他の海賊団を吸収しては勢力を拡大し続けてきました。最近では地上戦を得意とする海賊団(事実上の傭兵部隊)イグジング(Aegzaeng)をも配下に加えて、更に戦力を増しています。
 一方で彼らは、帝国とスーングリング帝国を行き来するテュケラ運輸貨物船の「用心棒」役を(もちろん幾度となく襲ってから)買って出るなど、したたかな一面もあります。
 現在、クフォルゼンはオベルリンズ運輸の巡洋艦エミッサリーに対抗するため、多額の資金と威信をかけて大戦艦の建造に着手しています。しかし艦の規模に見合う武装の調達先は不明であり、完成が疑問視されています。
(※GDW時代のクフォルゼンは中小規模の新興海賊とされていましたが、その後HIWGで設定が盛られて、今では宙域最大級の海賊団ということになっています)

ローングゾーカーズ Llangzoekirs
 女海賊オンギグズーロ(Ongaegzlla)が率いるこの海賊団は、威信ある彼女の旗下に集った数々の小海賊団から成っています。ローングゾーカーズはスーングリング帝国の国境付近に現在4つの基地を構えており、近隣星域に進出するのも時間の問題と噂されています。


【ライブラリ・データ】
ジヴァイジェの戦い Battle of Zivije
 604年に繰り広げられた、第一次辺境戦争の最後を飾る有名な会戦です。この戦いでゾダーン・ヴァルグル連合軍に対し、帝国海軍のオラヴ・オート=プランクウェル大提督(Grand Admiral Olav hault-Plankwell)が多くの犠牲を払いながらも勝利を収めて停戦に持ち込みました。

エミッサリー(巡洋艦) Emissary
 ライトニング級巡洋艦エミッサリー(排水素量6万トン)は、現在オベルリンズ運輸がヴァルグル諸国内で運行させています。元々帝国海軍の「スパークリング・ディストレス(Sparkling Distress)」として運用された後に民間に払い下げられたのですが、その際に粒子加速砲など武装は撤去されるはずだったのを、巧妙な書類操作と官僚の対立を利用してそのままの形で1049年にオベルリンズ運輸が入手したのです(※これを画策したのは当時22歳のマルク・オベルリンズ青年であり、彼はその後エミッサリー初代艦長として16年間を過ごします)。
 もちろんこれは違法なのですが、オベルリンズ運輸は艦を帝国領外に出して戻さないことで追及をかわしました。それ以後は現在の船名に改称してパンドリン(2240)を母港にし、同社貨物船の護衛艦としても、ヴァルグル諸国におけるオベルリンズの「旗艦」としても(近年危うくヴァルグル海賊に乗っ取られかけましたが)活躍しています。

パンドリン Pandrin 2240 B560675-A C 砂漠・非工・富裕 G Va
 この砂漠の星へは第一次辺境戦争中に人類の難民が入植を始め、第二次辺境戦争でヴァルグルに占拠されるまでの20年間でその規模は随分と拡大されていました。
 人類とヴァルグルの関係は徐々に改善されてきてはいますが、両種族は宇宙港から等距離に位置する別々のドーム都市にそれぞれ分かれて住んでいます(人口比は8対2です)。とはいえ人類街に住んで働くヴァルグルも少数いますし、その逆もあります。種族間には若干の緊張があり、いざこざは珍しくありませんが、それは主に酒場や市場で発生します。
 所得面では全体的に人類の方が貧困層に甘んじていますが、唯一の例外がウォーカー・ロボティクス社で、同社従業員の賃金水準はヴァルグルのそれを上回っています。

トライアド Triad 2436 B587777-9 N 農業・肥沃・富裕 Cs
 トライアド星系は第二次辺境戦争直後(620年代)に帝国人によって入植され、広大な海で隔てられた3つの大陸からこの名が取られました。帝国はここを属領として小さな植民地を建設し、ヴァルグルの攻撃を事前に察知する観測拠点としています。
 肥沃な大地や豊富な野生生物を利用して、トライアドは繁栄した農業世界となりました。ヴァルグルと帝国との緊張が緩和されると、近隣世界は家畜や農作物の取引をトライアドと行うようになりました。食糧生産物はこの星の主要輸出品であり、それによって非常に裕福な世界となっています。
 トライアドには人口の3割を占めるヴァルグルの居留地がいくつかありますが、人類の指導者に威信を感じられない彼らの間で不満が高まっています。ヴァルグル住民の間では自分たちの中から指導者を出そうと2つの派閥が争っていますが、人類の指導者層がこの事態にどう対処するかは定まっていません。
(※オベルリンズ運輸はこの星に営業所を構えているようです)

ギューツォン Gvutson 3233 A85A7CE-9 S 海洋 Cs A
 ギューツォンはグヴァードン宙域に2つある帝国属領の1つで、ここに建設された偵察局基地を支えるために入植されました。3000万人の人口は全て、この海洋惑星唯一の大陸にある一つの都市に住んでいます。
 政府は等しい権力と権限を持つ5名からなる統治評議会によって治められています。660年に入植されて以降、人口比半々の人類とヴァルグルの社会はうまく統合されており、これまで通りに有能で威信ある指導者が選出され続ければ両者間の摩擦は起こりそうにありません。
(※アンバー・トラベルゾーン指定がされていますが、おそらく治安レベルEによるものだと思われます)


【参考文献】
Journal of the Travellers' Aid Society #21 (Game Designers' Workshop)
Traveller Adventure (Game Designers' Workshop)
Book 7: Merchant Prince (Game Designers' Workshop)
Alien Module 3: Vargr (Game Designers' Workshop)
AAB Proceedings #14 (History of the Imperium Working Group)
GURPS Traveller: Alien Races 4 (Steve Jackson Games)
GURPS Traveller: Nobles (Steve Jackson Games)
Gvurrdon Sector Campaign Book (Roger Malmstein)
Alien Module 2: Vargr (Mongoose Publishing)

(※古いグヴァードン宙域のUWPはいくつか問題があるため、今回はTraveller5 Second Surveyのものを採用しています)
Comments (2)
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