宇宙の歩き方

The Astrogators' Guide to the Charted Space.

宙域散歩(18) リム・メイン1 ハーレクイン星域

2012-11-30 | Traveller
 ソロマニ・リム宙域を語るなら、まずは「リムの玄関口」であり、「リム・メイン」の一方の端であるハーレクイン星域から。ここは(かつてほどではないにしろ)星間交通の要所であると同時に、数々の冒険の舞台となっています。GDW時代には『アルゴン・ギャンビット(The Argon Gambit)』『デス・ステーション(Death Station)』『逃避行/単独逃避行(Marooned/Marooned Alone)』『The Lost Village(JTAS24号掲載)』『A Body Swayed to Music(Challenge誌37号掲載)』といったシナリオが刊行され、ライブラリ・データやその後のサプリメントでも設定が手厚くサポートされています。古参ファンの方なら「チャンパ中央宇宙港(Champa Interstellar Starport)」(JTAS7号・タクテクス21号掲載)の名前に聞き覚えがあると思いますが、その惑星チャンパがあるのもここです。
 今回はハーレクイン星域に加え、リム・メインで接続された、シナリオ『Prison Planet(GDW版)』の舞台のニューカム星系を含むバナスダン星域の一部も採り上げます。


 ソロマニ・リム宙域の他の銀河核方向星域と同じく、ハーレクイン星域も元はヴィラニ人によって入植され、後にソロマニ人によって開発された星域です。700年から1001年まで続いたソロマニ党政権の間、この星域はテラとオールド・エクスパンス宙域の繁栄地域を結ぶ、非常に重要な位置にありました。しかし戦災によって宙域経済は不況に落ち込み、帝国統治下となってからは大規模交易の流れはハーレクイン星域をあまり経由しなくなりました。1002年に戦争が終わって以後、星域経済はかつてのようには回復しておらず、住民の多くは帝国に不満を持っています。
 戦後、帝国陸軍と海兵隊は各地で、隠匿した武器を引き渡す協定を調印して非暴力に転じさせるなどして、過激なソロマニ運動を根絶していきました。その結果、1047年から星域内における帝国軍による占領統治は徐々に解かれていき、1102年には完全に終了しています。
 それでもソロマニ党はハーレクイン星域の多くの世界でいまだに勢力を保っています。ソロマニ連合は公的には帝国内の地方ソロマニ党の活動との連帯を表明していますが、現実には支持だけに留まっています。稀に狂信的なソロマニ主義者による暴動は発生しますが、星域内に平和と安定は広まっています。
 現在の星域公爵は、「抵抗派」に属するハーレクイン公ドミトリー・オート=フィオンブレア(Dmitri hault-Fionbrea)が勤めています。老境にある彼は、星域内の民族問題を長きに渡る対話と暴力の抑制で解決しようと試みていますが、彼のお膝元である星域首都アルキイルキイ(ここはヴィラニ民族主義の温床です)の反ソロマニ派貴族からは、弱腰であると突き上げられています。また彼はいわゆる「お堅い」人物として知られています。
 おそらくハーレクイン公に対する最も厳しい批判者は、彼の妻であるコムネナ(Commnena)でしょう。かつては名門だった彼女の家は、混血人種だったためにソロマニ統治下の間にほぼ絶えてしまい、さらにソロマニ・リム戦争で祖父を失っているのですから。また、公爵家の跡取り息子であるエンキドゥ(Enkidu)は、まだ未成年ですが、思想面で母親の影響を受けていると言われています。

 ハーレクイン星域には33の世界があり、総人口は671億人です。最も人口が多いのはアオスタの170億人です。帝国海軍第293艦隊が、アルキイルキイ基地とユイ・ブラシール基地に駐留しています。


ガッデン Gadden 2506 D893200-8 低人・非工 G Im
 ガッデンは濃厚で汚染された大気を持つ、乾いた寒冷の惑星です。人口は1000人に満たず、政府組織もこれといった産業もありません。中緯度のツンドラ地帯にある惑星唯一の小さな入植地では、簡単に入手できるタングステンの鉱石を細々と採掘しています。ラッキー地上宇宙港(Lucky Down)はDクラスに分類され、原っぱにかろうじて宇宙船の補修「小屋」と燃料補給ポンプがある程度の代物です。また、惑星の大部分は未探査のままとなっています。
レフリー情報:ここには、鉱夫たちも知らない資源が眠っています。惑星上の植物の中には、戦闘ドラッグの原料になる化学物質を含む品種があるのです。もしも薬品の精製法を発見することができれば、それはSuSAGのような企業にとっては大きな利益となるでしょう。ただし現時点では、その成分が使い物になるかどうかもわかっていません。

スカラムーシュ Scaramouche 2509 A7C6503-9 非工・非水 R Im
 スカラムーシュの腐食性の大気には、塩酸の蒸気と有毒な化学物質が混じっており、酸性の海は工業用の漂白剤並です。惑星には塩素を呼吸するバクテリアや植物が生息していますが、高等な動物は発見されていません。
 この世界はかつてのヴィラニ人には無視され、暗黒時代の間に入植されたと考えられています。地元の伝承では、自分たちはイースター協定やディンジール連盟(※双方とも暗黒時代~第三帝国初期にかけてこの宙域に存在した小国家)やヴェガンを相手に暴れ、後にこの地に独立国を興したソロマニ系海賊団の末裔であるとしています。その起源の真偽はともかくとして、現在の住民はそのたくましさと自立心で知られています。
 資源の乏しさにも関わらず、彼らは機械技術で人口を支えられるだけの食料と工業力を得ています。多くの住民は、自前の核融合発電所と水耕栽培農地と鉱山を抱える地下都市に住んでいます。ただし、昔から自由貿易商人たちの母港であるブローガン地上宇宙港(Brogan's Down)を抱える、(地上宇宙港を持つ唯一の都市である)ティベリオ(Tiberio)だけは塩酸の海の岸辺に位置しています。
 スカラムーシュの住民は、ほぼ全てが純血のソロマニ人です。帝国の貴族支配に対する嫌悪感から、彼らはソロマニ主義の黎明期から熱心な支持者となり、ソロマニ・リム戦争の頃には、成人の15%が愛国心に燃えてソロマニ連合軍や商船艦隊に志願しました。
 戦争が終わっても、スカラムーシュの惑星防衛艦の小戦隊は降伏を拒否し、最後の1艦まで戦い続けました。その後長い間、進駐した帝国軍が統治を行いましたが、住民は帝国の支配をよしとせず、「古き良き日々」を求める反帝国暴動や小規模なテロ活動が頻発しました。住民の敵意のために、スカラムーシュはハーレクイン星域の中で1090年代末でも軍政が続いた数少ない星系となりました。
 1098年、総督暗殺を発端としたいわゆる「一斉蜂起(Unity Uprisings)」に対し、ティベリオ駐留部隊(海兵隊大隊と陸軍旅団の混成部隊)の指揮官兼代理総督のリンジイル・ウルシュカアン陸軍大将(General Ringiil Urshukaan)が容赦のない対抗措置を行った結果、ゲリラ攻撃は鎮圧され、蜂起の首謀者であるモラデヨ・デービス・アティヤー(Moradeyo Davis Atiyah)は逮捕され、この蜂起が星域全体に飛び火することを未然に防ぎました。
 しかし、ウルシュカアン大将に残虐行為などの疑いが浮上し、紛争終結後に総督に就任したチャンパ出身のローザ・ディミトリュー准男爵(Baronet Rosa Demetriou)は、駐留軍の縮小などを定めた和解案の中に、ウルシュカアン大将の告訴のための追加調査を含めています(一方ウルシュカアン大将は、疑惑をかけられたこと自体に抗議して自ら退役しました)。
 1102年の民政移管後、駐留軍は緊張緩和のために撤退を開始しました。しかしそれ以後、スカラムーシュの政府は非常に不安定な状態が、時には無政府同然となることが続いています。地元のソロマニ党は、有力な政治指導者たちが一斉蜂起の際に殺害されるか収監されたために、複数の派閥に分裂して内紛を起こしました。そしてそれに取って代わる政治勢力は出て来ませんでした。党派間の暴力と犯罪は日常のものです。
 現在、組織化された反帝国ゲリラ部隊の存在は無いように見えますが、将来的にこの混乱した世界にソロマニ主義テロ集団やソルセックが基地ないしは訓練キャンプを建設するのではないかと、帝国の情報部は警戒しています。なお「一斉蜂起」以来、トラベラー協会はこの星をレッド・トラベルゾーンに指定し、帝国も進入禁止指定をいまだ解いていません。
(※この星の進入禁止指定の解除とレッドゾーン指定のアンバーへの格上げがなされるのは、1107年088日のことです(その時期に駐留軍の撤退も完了しています)。元となったGDW版『The Solomani Rim』が1108年設定であるため、一般的な星図でここがアンバー指定されていることと矛盾はしていませんが、紛らわしいため修正を施しました。余談ですが、理由は不明ながら帝国では慣例的に準男爵位は男女で呼び方の区別をしないようなので、女性であるローザ卿が"Baronet"と書かれているのは誤植ではありません)
 1103年にウルシュカアン元大将は、アルクトゥルス星域、バナスダン星域、ソル星域を商圏とするラマルク・ミネラルズ社(Lamarck Minerals, LIC)の社長に就任し、わずか2年で同社の経営の立て直しに成功しています。しかし元々このラマルク社自体が、贈賄や暴力沙汰の話題が絶えない、あまり評判の良くない企業であるのも事実です。

ミスカトニック Miskatonic 2603 A487863-9 富裕 G Im アルファーが統治
 この星系は当初はヴィラニ人植民地でしたが、後に放棄されて、暗黒時代の間に隣接するアルファー星系(2703)のソロマニ人によって再植民地化されました。現在でも母星との関係は非常に良好で、今ではかなりの自治権を持ってはいるものの、公的にはアルファーの保護領のままとなっています。
 ミスカトニックは低重力ですが、水と自然に溢れた世界です。技術面では少し遅れていますが、人々は友好的ですし、惑星の資源は豊富です。一方で治安レベルは3と低いのですが、別に住民が公然と小銃を携帯しているのではありません。大多数の住民は大地主で、自分の土地を凶暴な害獣から守るために重火器を必要としているのです。
(※Challenge誌37号の記述によれば、時期は不明ですがソロマニ主義者による反乱がここでかつて発生したらしいです)

ビータス Beatus 2608 A688989-E 高技・高人・肥沃 G Im
 この星を統治する伯爵家では、風変わりな継承方法が採られています。家を継承するのは女性に限られますが、女当主の死後に長女が自動的に継ぐのではありません。当主の長男の妻が新たな女伯爵となるのです。

フィリーン Phireene 2807 A469895-D 高技・富裕 G Im
 フィリーンはスコットランド系のソロマニ人によって入植され、今でも儀礼用の衣装などに先祖の文化を見ることができます。
 この星のオトバ宙港街(Otoba startown)の裏の支配者は、「マザー・ショム(Mother Shom)」です。犯罪組織の元締めである彼女は、宙港街の全ての賭博場や、合法な商取引から違法な麻薬取引までを取り仕切り、酒場や歓楽施設から上前をはねています。彼女は太っていてかなり短気な一面もありますが、上流階級の作法や身なりを的確に身に着けていますし、彼女を出し抜こうとする目論見はたいてい死を招きます。
 マザー・ショムは、宙港街で最も大きくて豪華なカジノ複合ホテルである「ゴールデン・ランタン」のスイートルームに住み、そこから通信機器でビジネスの指示を出しています。建物の周囲は子飼いの「警備員」(と言っても凶悪犯やチンピラの集まりですが)によって厳重に守られ、対立組織を寄せ付けません。
 フィリーンの司法当局は、彼女の活動を渋々黙認しています。彼女自身が決して犯罪に「直接には」関与しておらず、また彼女の組織が宙港街における犯罪の横行や薬物の氾濫をある程度抑えているのも事実だからです(両方とも長い目で見れば彼女のビジネスにとっては良くないので、宙港街内のトラブルには「警備員」がすぐに乗り出してきます)。そして彼女には、星系の内外に有力な多くの「友人」がいるのです。
 マザー・ショムを捕らえて有罪判決を下すことは司法当局の悲願ではありますが、彼女は帝国法も犯さないよう注意を払っているため、帝国でさえも彼女に対しては動くことができません。
(※フィリーンは隣接するアンバー(2808 B777464-D)を領有していますが、設定には「比較的最近フィリーンから入植された」としかありません)

アオスタ Aosta 2902 A453A26-F 高技・高人・貧困 G Im
 しばしば「ソロマニ・リムの玄関口」と呼ばれるアオスタ星系は、ディアスポラ宙域やオールド・エクスパンス宙域とソロマニ・リム宙域を結ぶ物流の拠点として位置しています。アオスタ自体は住みにくい惑星で、主星の引力によって自転を固定され、バクテリア以上に進化した生命を持たず、寒冷で乾燥しています。さらに小惑星帯も含めて鉱物資源も少ない星です。つまりアオスタの人々は、資源なしに外世界との交易のみで自活していかなくてはならないのです。しかしこの不利な条件にも関わらず、彼らは長年に渡ってとても成功しています。
 アオスタの社会は、資本主義と共産主義が奇妙に交じり合っています。ここでは従業員が会社を所有し、厳しい法律によって利益は平等に分配されます(仮に重役であっても、給与や配当は新入社員と同じです)。法律は外世界資本の企業がアオスタの従業員に株式を譲渡することまでは求めていませんが、大部分の企業はより良い労使関係を築くために地元の慣習に従っています。よって、メガコーポレーションに勤務しているアオスタの住民は、宙域内のどの支社よりも気前の良いストック・オプションを得ています。また一部のメガコーポレーション従業員は、宇宙船の現物で配当を受け取っているので、アオスタ出身の自由貿易船長は宙域中の至る所で見ることができます。なお、アオスタでの商業活動に対する規制は非常に少ないです。
 アオスタでは、コンピュータのネットワークによって支えられる、あらゆる社会階層が参加する直接民主制が運用されています。地方規模の物事は電子議会(electronic town meeting)で、惑星全体規模の法律は住民投票で決められます。一方で、政府機構自体は非常に小さく、民間企業と多くの業務を契約することで運営されています。
 アオスタの企業は、革新的で、積極的にリスクを取り、常に利潤を求めることで知られています。一方で激烈な競争社会ゆえに、裏取引も辞さず犯罪まがいの手も使う、という悪評もあります。外世界からの訪問者は、あらゆる契約書の細かい字の部分までちゃんと読んでいる者のみに大きな可能性が開けている世界であると思い知ります。

アルキイルキイ Arkiirkii 2905 A66A8AD-F NW 海洋・高技 Im 星域首都
 この海洋世界はハーレクイン星域の首都であり、ハーレクイン公の居住地です。大多数の住民は、潮の満ち干きの激しさを避けて海中か空中の都市に居住しています。惑星唯一の地上宇宙港は、最大大陸の中心にある最も高い休火山の頂上にあります。ここは満潮時でも水没せず、昼季の暴風の影響を比較的受けない数少ない地点です。
 -4900年頃にヴィラニ人によって入植されて以来、約6000年に渡ってこの星系はヴィラニ文化を守り続けてきました。そのため、ソロマニ政権下ではこの星は占領統治の形で支配され、住民は大規模な反乱こそ起こしはしませんでしたが、惑星の広大な海と暴風を利用して反体制派の住民はソロマニによる抑圧から逃れていました。一方で連合は惑星上に軍事基地を建設し、戦争時には重税を科し、生産力を供出させました。
 その間、帝国貴族のオート=フィオンブレア侯爵家はこの地に在り続け、1世紀以上隠遁を続けました。やがて帝国がリム宙域に「戻って」来ると、反体制派住民を率いていた女侯爵シャナ(Shana)は、帝国に対する忠誠を示すために世に出てきました。代々続いた揺ぎない忠誠心と、ソロマニに対する住民の抵抗が皇帝に認められ、彼女にはハーレクイン公爵の称号を与えられ、星系は星域首都となりました。それ以来、オート=フィオンブレアの一族はこのアルキイルキイでハーレクイン星域の統治を続けています。
 比較的脆弱な海中都市には何よりも「安全」が求められるため、アルキイルキイは非常に厳格な規律を持つ階級制社会です。生活のあらゆる局面で規則が定められ、人間とロボットによる大規模な警察と広範囲な市民監視システムが、「清潔」で「静か」な犯罪のない社会を作っています。一般的には軽犯罪とみられる行為(泥酔や風紀紊乱等)でさえ重い罰金を科せられ、懲役刑には重労働が付き物です。さらに重犯罪者を当局に通報しなかったことが証明されると、犯人本人だけでなくその関係者も処罰対象となります。そして死刑となった重犯罪者の資産は、臓器バンクや医学研究用に売られた自身の肉体の売却益も含めて、犯罪被害者の家族への弁済に回されます。
 戦後、アルキイルキイ市民はソロマニの支配下で受けた屈辱を許す気はありませんでした。絶対君主制の星系政府は、ソロマニ政権時代に制定された人種差別的な法律の数々を、立場を逆にして延長したのです。遺伝子検査は義務であり、少数派である純血のソロマニ人市民は所有できる資産や就くことができる社会的地位に制限が課せられ、異民族間での結婚や性的関係を持つことは重罪とされています(罰則は強制的な不妊化から長期の禁固刑までです)。さらにこの「制裁」は外世界からの訪問者にも適用され(ただし公爵宮殿は宇宙港の内部にあるため、治外法権の対象となります)、ソロマニ系であることを明かした、もしくはソロマニ風の名前を持っている外世界人は、遠回しに嫌がらせや差別を受けるかもしれません。
 この政策は親帝国のソロマニ人貴族ですら不愉快に感じるほどで、アデアー大公は外交団を通じて制裁を緩和するようハーレクイン公ドミトリーに圧力をかけましたが、彼は「オート=フィオンブレア家を守ってくれたアルキイルキイに恩義がある」として拒みました。また、帝国が傘下世界の内政に介入すべきではないと考えているディンジール公は、ハーレクイン公を支持しています。

ユイ・ブラシール Huy Braseal 2910 A255989-F N 高技・高人 Im
 120年間に及んだ第一期探査の末期、帝国偵察局は当時帝国国境外であったソロマニ・リム宙域の探査に着手しました。その際、偵察局はとても資源が豊かな小惑星帯を発見しました。その外側の軌道には小さな惑星が周回しており、こちらは特に鉱物資源は豊富ではありませんでしたが、氷塊で覆われていました。資源と水の両方を兼ね備えた星は開発が容易であり、帝国は420年頃にこの星系を併合して採掘の許可を与えました。
 星系内での活動の拠点となった氷の惑星にはユイ・ブラシールという名前が付けられ、入植地は物凄い勢いで発展しました。ソロマニ自治区初期には星系の人口は約10億人に達し、地元の製造業と造船所は宙域内で最も繁盛していました。ソロマニ党政権下で星域首都となったユイ・ブラシールには大きな海軍基地が建設され、オールド・エクスパンス宙域方面への主要な通商路が通る重要な星系となりました。
 その全てはリム戦争で終わりました。包囲戦によって造船所などの施設に多くの被害が出て、いくつかの入植地は破壊されました。
 現在、ユイ・ブラシールには帝国海軍基地があり、見た目は繁栄しています。しかし星間流通網の変化によって星系の経済は以前のようには回復しておらず、ゆっくりと衰退している社会は内向きに、排他的になっています。
 このような状況では、この星が親ソロマニ感情の温床となるのは避けられませんでした。惑星上の一部地域は既にソロマニ党によって支配されています。帝国の情報部は、この星系の広大な小惑星帯がソロマニ活動家や工作員の隠れ家となっていると考えていて、帝国海軍と星系政府が共同で星系内のパトロールを実施し、帝国の防諜部隊が活発に活動していますが、その任務は困難を極めています。
(※ユイ・ブラシール基地には20万トンのコキラック級弩級戦艦(Kokirrak-Class Dreadnought)で構成される戦艦戦隊(BatRon)が配備されています。通常コキラック級は国境沿いの1宙域で3~5戦隊しかなく、ソロマニ・リム宙域では他にシュルルシシュ、ムアン・グウィ、ディンジール、テラの各海軍基地にしか配備されていません。よってこの星系が帝国海軍の重要拠点であることが伺えます)

ヤノーシュ Janosz 3008 A564978-B S 高人・肥沃 G Im
 ヤノーシュは、いくぶん乾燥したテラ型の惑星です。総人口は10億人をわずかに上回り、それぞれ100万~1億人以上の人口を抱える32もの主権国家に人々は分かれています。そのうち29国が帝国の傘下にありますが、残る3国はソロマニ・リム戦争を経ても帝国に加盟せず、独立したままです。その中の1つであるクロラリー国(Cloralie)は、帝国の介入を避けるために、国内でのソロマニ運動を兆候の段階から情け容赦なく弾圧することで独立を維持しようとしています。
 一方で、帝国参加国の中にはクロラリーと対照的な手法を採っている安定した国もあります。インテネバック(Intanevac)は、首都アルゴンにAクラス宇宙港を持つ国家です。星系外から沢山の人々が訪れる関係で、アルゴンの治安レベルは4程度に低下しています。インテネバックは個人の高度な自由が保証されている議会制民主主義国家で、政治的にも宗教的にも寛容であることが広く知られています。そのため、現地のソロマニ党は合法政党であり、選挙で親帝国派の政党と戦っています(ただしインテネバックのソロマニ党は、すぐに暴力に訴えるという話もあります)。
 ヤノーシュにおける政治の複雑さと、その多い人口や産業の発展性は、メガコーポレーションや外世界資本の企業の魅力的な進出先と捉えられています。また、帝国の情報部は、ソルセックが連合の利益のためにヤノーシュのいくつかの国家の内政を巧妙に操っているのではないかと考えています。
 1104年末、宇宙鉱夫が小惑星帯にて戦争時に破壊されたと思われるソロマニ連合の救命艇を発見し、艇内を捜索すると冷凍睡眠中の2体の遺体と1人の生存者がいました。しかしその生存者は、身元が確認される前にアルゴン地上宇宙港の偵察局基地から姿を消してしまったのです。
 逃亡した人物は、連合陸軍特別奇襲部隊(Confederation Army Commandos)所属のヘンリク・サルバドーリ大佐(Colonel Henryk Salvadori)と特定されました。彼は先の戦争中にインスラ(オールド・エクスパンス宙域 0607)の重要な生命維持装置を破壊して何百万人もの市民を殺害した、「インスラの虐殺者(Butcher of Inthra)」の悪名を持つ指揮官です。サルバドーリは今もヤノーシュのどこかに潜んでいると思われ、帝国司法省(Imperial Ministry of Justice)は戦犯である彼に50万クレジットの賞金をかけ、彼を捕まえるか、逮捕に繋がる情報を求めています。ただし、惑星内のソロマニ党支持者が彼を援助している可能性もあります。
(※ここはホビージャパン版では「ジェイノス」と訳されていた星です。余談ですが、インテネバックは『アルゴン・ギャンビット』の舞台、インスラはグランドツアー第12話で訪れています)

シャパム Shapam 3009 C232533-C 高技・非工・貧困 G Im 研究基地α
 シャパムは500年頃にチャンパ(3109)から入植が始まり、583年のチャンパの民主化革命によって貴族など上流階級の亡命先となった星です。その後、亡命者がチャンパに帰還しない約束と引き換えに、シャパムは独立を果たしました。現在では、先人のインフラ投資が実ってチャンパよりも技術レベルは上回り、リム・メインを行く低ジャンプ宇宙船の燃料補給拠点として、そして何よりもソロマニ・リム宙域の富裕層のための贅沢なリゾート惑星として有名となっています。
 シャパムは、美しい輪を持つガスジャイアントの小さな衛星です。世界そのものは不毛ですが、氷の山、クレーター、火山は自然の美しさを備えています。
 3つあるドーム都市のうち、最大の人口を抱えているのがザナドゥ・エ・シャナプア(Xanadu et Shanapour)で、その空にはいくつかの重力制御された城が飛んでいます。わずかな例外を除いて、最高級品揃いのシャパムの物価は天文学的な高さです。星域内で最も格の高いホテルやレストランやカジノの全てがここにはありますし、娯楽施設として体験型ホロ映画や低重力スキー場なども整備されています。宇宙港からはガスジャイアントのリングに向けて観光用の小艇が発着しており、リングの氷にレーザーで彫刻された巨大な歴代皇帝像を眺めることができます。
 しかし多くの観光客にとって、シャパムを訪れる理由は風景でも高級ホテルでも料理でもありません。シャパム政府は他の星系では不道徳と考えられていることを大目に見ていて、むしろ助成金さえ支給しているのです。賭博、麻薬、売春、淫靡な格闘技イベント、慰安用ロボットの販売または貸し出し、バイオ技術やサイバー技術による肉体改造手術…双方が合意の上で、金になり、帝国法を犯さない限りは、シャパムでは全てが合法です。
 地元警察は、訪問客用のリゾート区域を主に守っています。犯罪を検挙し、違法武器を取り締まり、プライバシー法を振りかざして外世界からのパパラッチを帝国の著名人から遠ざけています(この星でのご乱行が世に知れ渡ると困る人は多いのです)。
 一方でシャパムの寡頭政府は、土地を帝国研究基地アルファに有償で貸し出しています。研究基地は1043年に、ザナドゥ・エ・シャナプアの反対側にある氷海の無人島に建設されました。精鋭の偵察局保安派遣隊(IISS security detachment)が、施設の周囲20km以内の立入禁止区域を警備しています。研究基地の関係者は必ず小さな専用宇宙港で出入りし、リゾート区域で「交流する」ことは許されていません。なお、この基地が何を研究しているのかは不明で、様々な噂が上がっています。
(※シナリオ『逃避行』で出てくる「ハーレクイン公爵夫人のスキャンダル」は、ここで撮られたもの…らしいです)

カーライル Carlyle 3101 B9B5865-C 高技・非水 G Im パルヌーが統治
 戦前のカーライルはソロマニ主義運動を熱心に支持していましたが、ここを占領した帝国当局は、駐留軍に統治させるよりもパルヌー(3101)の親帝国政権に委任する方を選びました。元々カーライルとパルヌーは関係が良好だったため、この措置はうまく働きました。現在でもカーライルはパルヌーの信託統治下にあります。
(※ちなみにパルヌーはオパール(3202)にも科学研究拠点(scientific outpost)を置いて統治しています)

キレンヌル Kilennur 3208 B5958BE-B 肥沃 G Im
 世襲の帝国貴族であるキレンヌル侯ファルケンブルグ(Marquis Valkenburg of Kilennur)は、同時にこの星唯一の合法政党の「帝国忠誠党(Imperial Royalists)」の党首でもあります。ソロマニ活動家が激しく非難しているこの支配者一族は、最も過酷なソロマニ党独裁政権よりも専制的な、腐敗した政治を行っているのです。
 侯爵と側近グループは、かなりの不正収入と引き換えに、市場の独占取引や資源の開発契約などをシャルーシッド、LSP、デルガドといったメガコーポレーションと結びました。その収入の一部はセキュリティ強化と武器購入に回され、侯爵が誇る私設軍や秘密警察の装備を充実させました。
 キレンヌル政府は、帝国と強力な後ろ盾であるハーレクイン公(キレンヌル侯の遠い親戚なのです)への忠誠を強要しており、大多数の民衆には嫌われています。しかし、異議申立ては今まで何度も挫かれています。反体制派は外世界の反帝国活動家などとの連携を模索していますが、専制政治を打倒して「自由共和国」を築こうという運動は、冷酷な支配体制の前では今は噂レベルに留まっているのが実情です。
 なお、キレンヌルの南大陸にはドロイン社会(オイトリップ)が存在します。ここのドロインは今でも現地ではヴィラニ語のヌギイリ(Nugiiri)と呼ばれていますが、これは宇宙各地に散らばるドロインたちが一つの種族であると判明していなかった頃の名残りです。523年に当時のハーレクイン公爵が、南大陸におけるドロインの自治権を正式に認めていて、現在のドロイン集落には小さなCクラス宇宙港と自前の農場や工場があり、数隻の宇宙船を運用しています。キレンヌル侯との関係も落ち着いており、毎年彼らの代表は中央宇宙港まで税を納めに出向いています。
 キレンヌルの人々の間には様々な民間伝承があり、いくつかは妖精の国にまつわる古代テラのお伽話に類似しています。愚かな人間がドロインの住む土地に入り込み(攻め込み)、そして二度と戻って来なかったという類のものです。

パグリアッキ Pagliacci 3209 C754733-6 農業・肥沃 G Im
 パグリアッキは後進の農業世界です。惑星表面のほとんどは無人で、未踏の地となっています。約6500万人の住民は、宇宙港と政治機能がある最大都市ディオン(Dion)を中心として数百km以内の農業入植地に集まっています。ここはソロマニやハイヴの領域に向かう宇宙船が時折燃料補給に立ち寄る程度で、星域経済においてはほとんど目立たない存在です。
(※ここの生態系についてはシナリオ『逃避行』にて詳細に書かれています)


【ライブラリ・データ】
ニシナシャ Nisinasha 2812 A9EA987-E W 海洋・高技・高人 G Im
 ガスジャイアントの衛星であるニシナシャは、遥か昔、よりガスジャイアントに近い軌道を巡っていた頃に潮汐力で歪められて楕円形をしています。しかし大気は球形なので、極点付近はほぼ真空となり、赤道付近ではとても高い気圧となっています。
 第一帝国時代には「ニシナシャ星域」の星域首都として栄えましたが、ヴィラニ系人口は「人類の支配」を経て徐々に減少していきました。ソロマニ自治区の時代には、ヴィラニ文化を根絶しようとした原理主義的なソロマニ党政権が恐怖政治で支配しましたが、結局、混血の住民はソロマニ・リム戦争に呼応して反乱を起こし、帝国軍を解放者として迎え入れました。戦後は速やかに自治を回復し、リム・メインの流通の要所として復興していきました。
 この星系の官僚機構は非常に効率的で、周辺からもお手本とされるほどです。また、優秀な卒業生を輩出しているニシナシャ大学に代表される、充実した教育制度も有名です。
 ニシナシャを代々統治している、由緒ある貴族のガマルキッドゥン伯爵家(Count Gamarkhiddun)は、長年バナスダン(2920)のオート=タゴール公爵家(Duke hault-Tagore)との確執が続いています。伯爵は、ソロマニに対する反抗の恩賞としてニシナシャこそがかつてのように星域首都となるべきで、バナスダン公はただの成り上がり者だと考えているからです。宙域公爵のディンジール公は、その対立を終わらせるために両家の跡継ぎ同士の縁組みを検討するよう、双方に圧力をかけています。
(※ガマルキッドゥン家は、872年に一旦ニシナシャを離れている「亡命派」貴族で、その家系はおそらく第一帝国時代から続いています。一方でオート=タゴール家は、ソロマニ・リム戦争終結までは(バナスダンの大統領とはいえ)平民だった上に、戦争時の功績で侯爵(後に公爵)位まで授与されているのですから、ニシナシャ伯からすれば「成り上がり」に見えるのも無理はありません)

ニューカム Newcomb 2913 D441443-6 非工・貧困 G Im 刑務所
 7つの衛星を持つニューカムは、なんとか居住に適する世界です。濾過マスクを用いて呼吸できる汚れた薄い大気を持ち、惑星の大部分は砂漠です。住民のほとんどは、Dクラス宇宙港を持つ人口12000人の小さな都市、サークル市(Circle city)に住んでいます。政治制度は、選挙によって市議会(city council)を構成する議員が選ばれ、その議員の投票で市長(mayor)が選ばれる形式が採られています。大多数の住民は代々この地に住んでいて、帝国当局も含めて外世界人に対してよそよそしい態度を取ります。また、地元の名士たちはソロマニ人意識が強い傾向があります。
 この星には帝国の刑務所が存在します。約100年前に倒産したオリオン冶金社(Orion Metallurgy Corporation)が運営していた鉱山キャンプを改築して、当初はソロマニゲリラやテロリストを収容し、現在では普通の刑事犯も収められています(政治犯はここには収容されていません)。
 囚人は鉱山で働き、採掘された鉱石はサークル市に運ばれて宇宙港から輸出され、その利益は賃金ではなく刑務所の維持費に回されています。採掘現場の安全対策は特になされておらず、囚人たちは放射線と高濃度の粉塵にさらされています。
 刑務所は周囲1000kmを砂漠で囲まれた、危険な動物の徘徊する無人地帯にあるため、刑務所自体の警備は軽いものです。ただし月に一度、帝国の軍艦がパトロールを兼ねてこの星を訪れています。


(※現在発売中のマングース版『The Solomani Rim』は、travellermap.com掲載のT5仕様のUWPをそのまま引用してしまったらしく、惑星規模やテックレベルの数値がかなり異なっています。今回はオリジナルのGDW版『The Solomani Rim』に数値を合わせ、貿易分類を手作業で記入しています)


【参考文献】
・Supplement 10: The Solomani Rim (Game Designers' Workshop)
・Adventure 8: Prison Planet (Game Designers' Workshop)
・Adventure 11: Murder on Arcturus Station (Game Designers' Workshop)
・Double Adventure 3: The Argon Gambit (Game Designers' Workshop)
・Double Adventure 3: Death Station (Game Designers' Workshop)
・Double Adventure 4: Marooned (Game Designers' Workshop)
・Traveller News Service: 088-1107 (JTAS #7/Game Designers' Workshop)
・Casual Encounter: Mother Shom (JTAS #19/Game Designers' Workshop)
・Amber Zone: The Lost Village (JTAS #24/Game Designers' Workshop)
・Amber Zone: A Body Swayed to Music(Challenge #37/Game Designers' Workshop)
・Rebellion Sourcebook (Game Designers' Workshop)
・Alien: Solomani & Aslan (Digest Group Publications)
・GURPS Traveller: Rim of Fire (Steve Jackson Games)
・GURPS Traveller: Starships (Steve Jackson Games)
・GURPS Traveller: Nobles (Steve Jackson Games)
・GURPS Traveller: Interstellar Wars (Steve Jackson Games)
・Traveller: The Solomani Rim (Mongoose Publishing)
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宙域散歩(17) ソロマニ・リム宙域・概要編

2012-11-04 | Traveller
 コア宙域編を終えて次はどこに向かうべきか。順番からすればマッシリア宙域なのですが、実はここはほぼ全ての公式資料の和訳が『ナイトフォール(Knightfall)』で済んでしまっていて、残っているのはあの「人類の支配」の首都だったカッグシュス星系(の周辺の通称「ハブ・ワールズ」)と、グランドツアー第11話の舞台になったシウォニー星域、あとDGPの独自設定過ぎて頭を抱えるピルグラ星系(『ナイトフォール』で訪れるダトルムナ星系と場所がかぶってるんだけど…)のみ。どれもわざわざ紹介するには微妙なところなのでパス。他は、ザルシャガル宙域やディアスポラ宙域やオールド・エクスパンス宙域は資料のほとんどが1127年以降の荒廃した時代のものばかりだし、ダイベイ宙域も資料が少なすぎるし、イレリシュ宙域やデルファイ宙域は資料すらないし。
 となると、資料なら膨大にあるあそこしかないか…。

 前置きが長くなりましたが、今回からいよいよ「人類の故郷」ソロマニ・リム宙域の紹介を始めます。第三帝国の冒険の舞台で双璧を成すこの宙域は、もう一つの帝国最辺境であるスピンワード・マーチ宙域とは全く違う雰囲気と活気に満ち溢れています。


 ソロマニ・リム宙域は、広大な帝国の3%ほどに過ぎない星系群ですが、帝国の全人口の約1割強がこの宙域に住み、貿易額の実に40%がここで産み出されている、高度人口密集かつ経済先進地域です。ヴランド宙域やコア宙域ほどの歴史はありませんが、それでも数千年の(ある意味では30万年以上の)歴史があり、宇宙の歴史上で重要な役割を果たしてきました。
 その積み重なった「過去」について語り始めると膨大な量となってしまうので、それについては別の機会にするとして、今回は「現在」について語りたいと思います。

 現在のソロマニ・リム宙域を語る場合、絶対に欠かすことのできない要素は「ソロマニ主義」です。マギス・セルゲイ・オート=デヴロー(64年生~141年没)によって提唱された「ソロマニ仮説(Solomani hypothesis)」は、宇宙各地に存在する「人類」の起源がテラ(1827)であったとする学説で、588年にテラが帝国に編入されて研究が進んだことによって、その正しさが証明されました(ただし人類のテラ起源説は第二帝国時代から半ばプロパガンダ的に唱えられていたこともあって、特に驚かれることもありませんでした)。ソロマニ主義者たちは、このソロマニ仮説を自分たちの都合のいいように解釈し、ソロマニ人の優越性を掲げているのです(ソロマニ仮説自体には人種間の優越性に触れている部分はありません)。
 このソロマニ主義は、ある意味でソロマニ・リム宙域の状況を簡略化しました。どこの宙域でも色々な勢力の思惑や信条が複雑に絡み合うものですが、この宙域では「ソロマニ主義を肯定するか、否定するか」の二択しかありません(ただし、肯定派同士否定派同士が味方同士であるとは限りません)。このソロマニ主義をめぐって様々な事件が、時として戦争が起きているのです。

 現在のソロマニ・リム宙域は、大きく分けて3つの勢力が星々を領有しています。

ソロマニ連合 Solomani Confederation
 ソロマニ連合は、ソロマニ主義を元に「宇宙は優越人種であるソロマニ人によって支配されるべきである」と(派閥によって程度の大小はありますが)主張している国家です。かつてソロマニ連合が帝国の一自治区であった時代にはソロマニ・リム宙域のほぼ全域を支配していましたが、ソロマニ・リム戦争後は宙域内の7割以上の星系を帝国に「奪われた」格好となっています。この失われた「ソロマニ圏」の領地を、そして何よりも自分たちの故郷であるテラを奪還することが連合の悲願です。
 現在ではホーム(アルデバラン宙域 1009)を実質上の首都としているソロマニ連合は(正式な首都は今でもテラです)、かつての「地球連合」を模した行政組織を作ってはいますが、実際はソロマニ党による一党独裁国家です。ソロマニ全軍の指揮権も持つ行政の長である事務総長(Secretary-General)は、法的にはソロマニ党の最高評議会(High Council)と同格とされていますが(※事務総長は最高評議会の議長も兼ねます)、その権限は限られたものです。
 ソロマニ軍は大きく海軍と陸軍に分けられ、それぞれの最上位将官は最高評議会のメンバーでもあります(※他に最高評議会には各省の長官も名を連ねています)。ソロマニ海軍は平時は星域単位で運用が行われ、戦時のみ連合海軍として結集します。帝国の偵察局や海兵隊の役割も、ソロマニ軍では海軍が担います。一方ソロマニ陸軍は色々な星系に駐屯しています。また、国境付近などの重要星系には祖国防衛隊(Home Guard)と呼ばれる軍組織が置かれていることもあります。
 そして、ソロマニ連合にはもう一つ重要な組織である、ソロマニ治安警察こと「ソルセック(SolSec)」があります。ソルセックは「ソロマニ主義を外敵から守る」ための、言わば秘密警察的な組織で、国内の治安維持から国外の諜報活動まで行っています。ソルセックは一般市民の中から監視員(Monitor)を選び、文字通り周囲を監視させてソルセックに報告させています。同時に軍にはソルセックから政治士官(political officers)が送り込まれています。そして、一般市民の中に紛れ込んだ秘密工作員が、ソロマニ主義にとって危険と判断された対象の排除を行います。暗殺だけではなく、拉致や社会的地位の失墜など、排除の手段は様々です。これによって市民は(表面上は)党や国家への忠誠を誓うようになるのです。
 しかしソルセックが守るのはあくまでソロマニ主義です。えてして市民を弾圧するように動きがちではありますが、どの組織の下にも置かれてないソルセックは、軍を含む行政機構のチェック役でもあるのです。
 連合に加盟している各星系には帝国以上の自治権が与えられていて、それぞれの星は平等とされています(そのため、ソロマニ連合には星域首都という概念はありませんが、重要な行政組織などが集中する星が帝国の星図で「星域首都」として記載されています)。そして星系間を旅行する際には、ソルセックが発行したパスポートが必要となります。また帝国と異なり、国内で恒星間組織を結成することも可能なので、ある恒星間組織が別の組織と対立しあっていることもありえます。ソロマニ・リム宙域内だけでも、ジャルダン、ククルカン、牛飼座近傍星団(Near Bootes Cluster)、テティス・ラピュタ共同体(Thetis-Laputa Coalition)といった組織があります。国内だけでなく、ソロマニ党内すら様々な派閥が入り交じっていて、ソロマニ主義で統一されているとはいえ連合は一枚岩ではないのです。
 ただ忘れてはならないのは、連合市民の多くも戦争よりは平和を望んでいることです。正式な国交こそありませんが、国境を越えた経済や文化交流は着実に行われています。帝国も国境侵犯がない限り、ソロマニ連合を黙認する姿勢を取っています。

帝国 The Imperium
 リム宙域の12星域を統治下に置いている帝国は、その他の宙域と同様に貴族制による支配を行っています。ただしあくまでここは占領地なので、治安回復のためにいまだに軍政が布かれている星系も多くありますが(軍政の星系には貴族が置かれません)、帝国政府は徐々に自治権を回復させています。ちなみにテラ星系は、1110年に軍政が解かれることになっています。
 宙域内の貴族は、主に3つの派閥に分けられます。スレイマン女公に代表される「抵抗派(Resistance Houses)」は、ソロマニ自治区成立後も領内に残って帝国への忠誠を保っていた一族です。彼らは現実主義で実利を重んじ、リムの諸問題の平和的解決を目指しています。アルクトゥルス公やアスカロン侯が主導する「亡命派(Exile Houses)」は、一度自治区から帝国中央に脱出して戦後に戻ってきたグループです。彼らは急進的かつ好戦的で、ソロマニ連合との再戦を主張しています。「新興派(New Houses)」は、自治区時代に絶えてしまった貴族の領地を引き継ぐべく戦後に任命された貴族たちで、彼らの主義主張は急進的から穏健的まで様々です。強いて言えば「野心的」であるのが共通点です。
 ソロマニ党以外の政党が非合法である連合に対し、現在の帝国内でもソロマニ党の活動は合法です(ただし星系政府や軍政によっては非合法化されている場合もあります)。もちろん暴力や破壊活動が伴わない範囲内で、ですが。帝国内のソロマニ党員は当然大なり小なりソロマニ主義を掲げ、「征服者」である帝国に対して反発的な立場を取りがちですが、ソロマニ連合政府としては、これらの「同胞」に対して声援は送るが、経済的・軍事的援助は行わない、という態度を取っています。確かに彼らは有事には味方となってくれるでしょうが、煽って呼び込んだその有事が必ずしも連合やソロマニ主義にとって利益になるとは限らないからです(ただしそんな消極的に見える姿勢が過激なソロマニ主義者の不満を呼んでいるのも事実です)。
 現在の宙域公爵はディンジール公爵ロバート・オート=ボードゥアン(Duke Robert haut-Beaudoin of Dingir, またはRobert Stephanos Beaudoin)が務めていて、彼は現ソル大公キーラン・ランゴス・アデアー(Archduke Kieran Langos Adair of Sol)がソロマニ・リム宙域にやって来るまで(※ソル大公は領域首都をエクセター(ディアスポラ宙域 2729)からリム宙域内に移転させる計画を進めています。この遷都は1112年に完了する予定です)、宙域最高位の貴族として統治を行います。

ヴェガ自治区 Vegan Autonomous District
 帝国領内のヴェガ星域とエスペランス星域に存在するヴェガ自治区は、群小種族ヴェガン(Vegan)が高度な自治権を持って統治しています。帝国は通常、国内に恒星間行政組織の結成を認めていませんが、ヴェガ自治区はソロマニ・リム戦争後の国境の監視と宙域の安定化を目的として、例外措置で1004年に設置されました。
 自治区の中央政府は、試験によって選抜された官僚によって統治されています。彼らは「聖約の守護者(Guardians of the Sacred Covenant)」と呼ばれるトゥフール(後述)で、他のトゥフールを監督し、仲裁することを人生の道と考えています。
 なお自治区内は帝国の市民や貨物が自由に通ることができますし、人類も多く居住しています。


 ソロマニ・リム宙域に主に住んでいるのは人類、それもソロマニ人です。ソロマニ人の故郷であるテラが近いので当然と言えますが、ヴィラニ人の故郷であるヴランド宙域ですら人種間の混血が進んで「純血のヴィラニ人」に滅多に出会えないのに対し、ソロマニ・リム宙域では今でも「純血のソロマニ人」が多く存在します(ただし自分が純血のソロマニ人だと主張している人が本当にそうなのかは別の問題です)。次に多いのが俗に「帝国人(Imperials)」と呼ばれる混血の人類です。また数は少ないですが、第一帝国時代から住むヴィラニ人に加え、ジェオニー人(Geonee)やスーラット人(Suerrat)といった群小人類も居住しています。
 ジェオニー人はシウォニー(マッシリア宙域 1430)を母星とし、ヴィラニ人が初めて遭遇したジャンプドライブを「用いた」小柄な人類です。彼らは太古種族の宇宙船のジャンプドライブを複製して宇宙に乗り出したため、現在では「主要種族」に数えられていません。スーラット人はイレリシュ(イレリシュ宙域 2907)出身の人類で、猿人に似た外見をしています。こちらは世代間宇宙船で恒星間航行を実現していましたが、やがて両者ともにヴィラニ人に征服され、彼らの一部はリム宙域で恒星間戦争に関わりました。

 人類以外では、距離的な近さからアスランやハイヴの姿を見かけることがあります(宙域内に昔から移住しているアスランもいます)。逆にヴァルグルやククリーはあまりいません。ヴァルグルも遺伝子的にはテラが故郷なのですが、彼らはあまりテラに郷愁を抱かないようです。宙域の帝国領内のヴァルグルは、主に帝国の官僚として赴任してきた者です。

 宙域内の群小種族は、何といってもヴェガンの存在が大きいです。帝国と友好関係にあるヴェガンは、ムアン・グウィ(ソロマニ・リム宙域 1717)を母星とする知的種族です。「ヴェガ人」という名前はテラから見てムアン・グウィの方角にある明るい恒星の名前から付けられたもので、彼らは自身を「テュイ(Tyui)」と称しますが、他種族と交流する際は主にヴェガンを使います。
 ヴェガンは平均身長2.2メートルほどの、酸素を呼吸する恒温生物で、2本の腕と2本の足を持ちます。彼らの平均寿命は200年以上です。母星の低重力の影響で、体の大きさの割に人類より頑強ではなく、0.5G以上の環境では何らかの対策なしに生きることができません。彼らは砂漠気候で進化したので、熱の発散のためにひょろっとした体型となり、足は砂地に沈み込まないように幅広く広がり、目は砂塵から守るために透明な目蓋の膜で覆われるようになっています。また主星の赤さに適応したため、赤外線を見通すこともできます。手は3本の触手になっています。
 ヴェガンは人類と比べて、あまり感情を持ちません。怒りや恐れといった強い感情はめったに出さず、富や権力というものにもそれほど興味を示しませんが、好奇心は旺盛です。
 ヴェガン社会はトゥフール(tuhuir)という役割に分けられます。それぞれのトゥフールは特定の仕事(政治や軍事、商売や芸術など)に従事し、それ自体が言わば哲学的な「道」でもあります。それぞれのトゥフールは世襲制ではなく、ヴェガンは50歳頃に成人の時期を迎えると、自分の道を求めて放浪の旅(イッリシュテョシュン(irrishtyoshun))に出ます。そして時間をかけて自分のトゥフールを選択し、大人として社会に迎えられます。一旦選んだトゥフールは生涯変えることはありません。しかし実際には、半数のヴェガンが親と同じトゥフールを選択する傾向はあります。また、0.5%のヴェガンはそのまま一生「放浪者(pilgrims)」となります。彼らは他者から軽蔑されますが、時として偉大な革新者となり、新たなトゥフールを築くこともあります。
 トゥフール同士が対立するということはあまりありません。「ヴェガンの誓約(Vegan Covenant)」で抑制されているからです。これは全てのヴェガンの最低限の権利や道理を定めた言わば憲法のようなもので、1万年前からあると伝えられています。原本こそ残っていませんが、ヴェガンの言葉の変化に応じて何十回と翻訳され、改定されてきました。ヴェガンには人類における宗教のような概念はありませんが、この「誓約」が彼らにとっての聖典のような役割となっています。

 またこの地域の特色として、「知性化種(uplifted species)」の存在があります。恒星間戦争の頃から、ソロマニ人は軍事利用のためにテラの動物に遺伝子改良を施し、知性を与えました。有名なものではドルフィン、エイプ、ウルサ、ミニファントが挙げられます。彼らは帝国では知的種族として平等な市民権を得た反面、ソロマニ連合では二級市民扱いです。それでも連合内のドルフィンは、自分たちに知性を与えてくれたソロマニ人に感謝し、ソロマニ主義を奉じて、ソロマニ以外の人類や異星人よりも自分たちが優秀だと考え、宇宙の全ての海に植民地を作るべく、星系政府や祖国防衛隊に勤めています。さすがにソロマニ党に入ることはできませんが、ソロマニ主義者の多くはドルフィンに対してはあまり差別的な待遇をしませんし(優秀な部下程度には見ています)、ソロマニ党の中にも少数派ですがソロマニ人とドルフィンの平等を求める「ドルフィニスト派」が存在するほどです。
 そんなドルフィンは学名をTursiops galactisといい、ソロマニ・リム宙域だけでなく宇宙各地の海洋世界の様々な分野で活躍しています。元々のイルカの寿命は20年程度でしたが、遺伝子改良の結果50~60年程度生きることができるようになりました(さらに抗老化薬による延命も可能です)。彼らは水中を平均時速40キロ程度で泳げて、無呼吸で30分間は耐えることができ、水深200メートルまで潜ることができます。また彼らは肉食で、1日に15キログラムの魚を食べます。
 ドルフィンは完全なる平等の文化を持ち、私有財産の概念すらありません。個人の持ち物は全て「公共物を借りた」と考えるのです(そのため、他種族の所有物を勝手に「借りて」しまうトラブルがよく起きます)。彼らは15~20人程度の大家族の単位で生活し、大家族同士の交流は行われますが、お互いがあまり近くに住むことはありません。また人類のような大きな社会構造を作ることもないため、ドルフィン移民のみの星系は政治形態コードで0(無政府)と分類されます。
 ドルフィンは海中のみで生きるように体ができているため、海の上での活動を支援するために様々な装備が開発されました。代表的なのはトラベルスーツ(通称Tスーツ)で、ドルフィン版の宇宙服といった感じです。Tスーツの内部はとても湿っていて、さらに反重力ベルトと内蔵通信システムが動きと会話をサポートします。また「手」を持たない彼らは、元々は人間用に開発されたウォルドー(Waldos)という義手を愛用しています。TL9のウォルドーはTスーツに装着して舌と頭の動きでぎこちなく操作していましたが、TL12以降のウォルドーは手術によって神経と直接接続され、脳による直感的な制御が可能となっています。
 ドルフィンと人類は友好関係を築いていますが、問題となるのは会話です。人類はドルフィンの言語を肉声では理解できず、一部のドルフィンは銀河公用語を学んだものの、発声器官の大きな違いにより適切な発音をすることが困難でした。解決策として、手話に加えて両者が共に発声や聞き取りが可能な音を組み合わせたデルフィン語(Delphinese)が生み出されました。人類社会と隔絶した極一部のドルフィン以外は、今ではこのデルフィン語を理解することができます。また、コンピュータによる同時通訳も利用されています(TL10から利用可能です)。
(※ドルフィンの誕生時期については、恒星間戦争時代という設定と、第二帝国時代のジェナシスト社(GenAssist)によるものという設定が混在しています。ただしジェナシスト社自体は恒星間戦争時代に設立されています)

 他には、ウガルップ星系(0502)のグルンガン(Gurungan)が(有名ではないですが)知られています。グルンガンは蛸のような6本の手足を持つ水棲知的種族ですが、知性を持つのは女性だけです。グルンガンの男性は女性に寄生する小生物に過ぎず、グルンガンは「性が2つある」という概念を理解することができません。彼女たちには、人類の男女が全く別の種族に見えるのです。
 余談ですが、グルンガンとドルフィンは非常に仲が悪いです。ドルフィンの発する音波が、聴覚しか持たないグルンガンの癇に障るからです。


 人口が多く、経済が活発なソロマニ・リム宙域には、500年頃から750年にかけて多くのメガコーポレーションが進出してきました。しかしソロマニ自治区や、その後のソロマニ連合の「独立」政権下では、非ソロマニ人を雇用する帝国企業は活動に大きな制約を受け、やがてソロマニ圏から撤退していきました(その資産は接収されて国有化されました)。
 1002年にソロマニ・リム戦争が帝国の実質的な勝利に終わると、荒廃した占領地の復興と再統合のために帝国政府は大規模な開発援助計画を組み、帝国のメガコーポレーションは再びこの地に戻って来ました。彼らは星系政府と連携し、活発な雇用と多額の寄付によって、人々の心を再び帝国に惹きつけています(それに対しソロマニ連合は(特にヴィラニ系企業を)「帝国の覇権の手先」として非難しています)。例えば、ゼネラルプロダクツやスターンメタル・ホライズンが建設した運動競技場や歌劇館に市民が集い、何億人もの学生がナアシルカやシャルーシッドの提供する奨学金で学んでいます。

デルガド貿易 Delgado Trading, LIC
 997年に設立されたデルガドは、ソロマニ・リム戦争によって今日のメガコーポレーションの地位を築きました。この数十年内でも、ヴェガ自治区へ対核ダンパーや中間子スクリーン技術を供与する数兆クレジット規模の契約をまとめ、大きな利益を得ていました。しかし品質管理の問題で、ライバル社であるLSPやインステラアームズの追い上げを許しており、ヴェガでの取引の維持がデルガド重役の最大の関心事となっています。
 またデルガド社内には、リム戦争中にテラからソロマニ連合領に持ち出された古代の遺物を正当な所有者の依頼によって「返還する」部門があり、連合内で密かに特派員による情報網を張り巡らせています。
 なお軍需から鉱業、燃料精製、出版、古物商、さらには玩具製造まで幅広く手がけるデルガドは、従業員に対するきつい待遇で知られています。もちろん(一部とはいえ)優秀な従業員には好待遇で応えていますし、利益の追求という面では優れているのも否定できません。
(※旧来は「Delgado Trading」が会社名でしたが、GURPS版以降では「Delgado」になっています(ややこしいことに、マングース版の『The Spinward Marches』だけTradingまで表記)。今回は正式社名を「デルガド貿易」、通称を「デルガド」と解釈しました)

ゼネラルプロダクツ General Products, LIC
 同社は安くてそれなりの品質の宇宙船の建造で知られています。リムにおいてはエレクトロニクス産業の巨人であるナアシルカとの戦略的提携で、宇宙船や産業用ロボットのためにコンピュータや航空電子工学(avionics)技術の提供を受けています。
 ゼネラルプロダクツは他の宙域では苦戦していますがリム宙域では順調であり、それゆえに不祥事の芽は根こそぎ絶とうと常に心掛けています。

GSbAG Geschichtkreis Sternschiffbau AG
 「当社の源流となる会社は-2438年にテラの衛星ルナで創設され、ソロマニ人によるジャンプドライブの開発も当社によるものです」…という広報はあまり世間では信じられていません(※ちなみに、公的文書に最初にGSbAGの名前が出てくるのは、-334年のシレア連邦海軍との造船契約によるものです)。
 テラ起源を主張する割に本社はリム宙域外にあるGSbAGですが、それでもリム宙域内の多くのAクラス宇宙港に造船所を構え、豪華ヨットや急使船(couriers)の主な建造業者です。現在GSbAGは、かつて高品質で知られた「メイド・イン・テラ」ブランドの宇宙船を帝国の上流階層に向けて売り出そうと計画しており、造船所をテラの3つの宇宙港のどこに建設するか検討しています。

オルタレ・エ・シェ Hortelez et Cie, LIC
 銀行や保険や金融投資のメガコーポレーションであるオルタレ社は、星系政府への融資や大規模開発の受注を行っています。同社はソロマニ・リム宙域の戦後復興において最前線で活躍し、宙域を財政的に支配しています。同社の支社はリム宙域内のヴェガ自治区を含む帝国領内全ての高人口世界に置かれ、営業所はほぼ全星系にあります。
 帝国領内でも存在するヴィラニ系企業への偏見は、オルタレ社に同業者のジルンカリイシュに対するわずかな優位性を与えています。
 オルタレ社は他宙域では傭兵斡旋も手がけていますが、ソロマニ・リム宙域ではイチバン・インタステラー社との競合を避けるために手控えています。
 ちなみに同社は、「情報収集活動」にフリーランスの人材を雇う傾向があります。

インステラアームズ Instellarms, LIC
 インステラアームズはリム宙域のAクラス宇宙港の多くの星系に支社を持ち、企業や星系政府の保安業務に傭兵の派遣を行ったり、兵器の販売をしています。
 同社は、ソロマニ・リム戦争時に鹵獲されたTL10~13のソロマニ軍の小銃、弾薬、補給物資、戦闘車両を帝国から買い上げる契約を結びました。これらの武器は再整備され、ソロマニ軍の識別コードを取り除かれた上で、帝国各地の地上軍や傭兵部隊や治安警察に売却されました。ところが皮肉なことに、これらのソロマニ軍兵装の高品質さが評判を呼んでしまい、需要に応えるために同社はその複製品を作るようになりました。
 やがて帝国とソロマニ連合との関係が安定してくると、連合内の牛飼座近傍星団は、本物のソロマニ軍の兵器を購入するよりも、インステラアームズ製の複製品を輸入した方が安いことに気が付き、国境を越えた取引が始まりました。他の帝国系メガコーポレーションと異なり、インステラアームズは皇族が株式を持っておらず、反帝国国家への(複製品とはいえ)武器供与という行為に対する心理的ハードルが低いのです。

LSP Ling-Standard Products
 多角経営を行っている鉱業会社であるLSPは、戦後のリム宙域で活発に活動を行いました。LSPは資源や市場への接近を確実にするため、賄賂や軍との契約を利用して地元の有力者や独裁者などと関係を持つことを好みます。時としてそうした方針が民間人の抗議やテロリストの攻撃を呼びますが、多くのLSP施設は要塞のような建物と、いかめしい傭兵部隊によって守られています。
 さらにLSPは、数世紀前のソロマニ党政権によって接収された自社資産を取り戻すために、多くのリム世界で弁護士を立てて法的措置を取っています。

マキドカルン Makhidkarun
 メディアや娯楽産業を本業とするこのヴィラニ系企業の食品部門は、テラやガイア産の珍しい高級食品やワインなどの輸出におけるシャルーシッドの独占に穴を開けようとしています。一方で、反ヴィラニ感情や、電子製品部門がリム宙域の市場に不正な手法で進出しようとしたこともあり、他宙域での名声に反して同社はリムではあまり人気がありません。

ナアシルカ Naasirka
 このヴィラニ系のエレクトロニクス企業は、ソロマニ・リムで着実にシェアを拡大しました。また同時に、リム宙域におけるゼネラルプロダクツの下請けも行っており、仕事を容易にするために、多くのナアシルカの工場はゼネラルプロダクツの造船所の近くに置かれています。なおナアシルカの電子機器は、反ヴィラニ感情が残っている星系ではゼネラルプロダクツの名義で販売されています。
 ナアシルカはシュルルシシュ(0214)にロボット研究所を持つなどしていますが、加えて、大学のコンピュータや数学や人工知能といった研究に直接資金を提供しています。同社は優秀な卒業生の取り込みを強めるために、高等教育に多額の寄付を行っているのです。中でもテラ大学に新設されたナアシルカ・エンジニアリングセンターは、同社の気前の良さの代表格です。
 最近では若いヴェガン科学者の獲得を目指し、科学的な専門知識を持つトゥフールとの合弁事業をムアン・イスラー(1816)で開始しました。

SuSAG Schunamann und Sohn AG, LIC
 SuSAGのリム宙域への進出は、小国家イースター協定(Easter Concord)が帝国に加盟する直前の425年に、工場用地としてイニドゥ(2406)を取得したことから始まりました(現在でもイニドゥは同社の宙域本部です)。
 SuSAGの全ての部門はリム宙域で活発に活動していて、同社の営業所は帝国領内の全てのAないしBクラス宇宙港で見ることができます。また、SuSAGはリム内のいくつかの企業を買収しています(その中で最も大きなものがシーハーベスター社です)。
 同社の帝国外事業部は、ヴェガ自治区内だけでなく、ソロマニ連合内の何十ものの世界で事業を行うために、ペーパーカンパニーや秘密の子会社を運営しています。ただしソロマニ連合内でも超能力ドラッグの製造は違法ですので、それが目的ではありません。ソロマニ連合のバイオテクノロジー(特に遺伝子操作)技術はある地域では帝国よりも優れており、この技術への接近を図るためなのです。これらの子会社とSuSAGの関係は、「ソロマニ企業を所有している帝国企業」という悪評と法律問題を避けるために秘密にされています。
 他にもSuSAGには、ソロマニ連合への化学兵器供与やソロマニ主義政治犯への人体実験などの悪い噂がつきまとっています。

シャルーシッド Sharurshid
 数千年前はこの地を統治していたシャルーシッドですが、現在のリム宙域におけるシェアは大した規模ではありません。しかし、テラ産の贅沢品の貿易に関しては別です。テラで作られた飲料(コーヒー等)、酒類(ワイン、ウイスキー、ビール等)、タバコなどは、ほぼ全てがシャルーシッドの宇宙船によって輸出されています。一方で帝国の支配階層向けの極少数のとても高価なビンテージ品に関しては、帝国偵察局の船に委託して運ばれています。
 なお、シャルーシッドのブローカーは、手強いが誠実な交渉人として名高いです。

スターンメタル・ホライズン Sternmetal Horizons, LIC
 LSPのライバル企業であるスターンメタル・ホライズンは、惑星上でも小惑星帯でも、ソロマニ・リム宙域最大の鉱業会社です。同時に、一般車両のパワープラントから核融合発電所、合成食品製造機械、生命維持装置といった分野の主要な製造元でもあります。よって、リム宙域の高人口世界やアーコロジーの多くは、スターンメタル製品に生命を預けていると言っても過言ではありません。リム宙域の広告で親しまれている『スターンメタルおじさん(Uncle Sternmetal)』のキャラクターは、同社の信頼性と優秀なサービスの象徴でもあります。真面目で不正を働かない企業、という世間一般の評価は、本業の鉱業分野においてもLSPより有利な契約を得る助けとなっているのです。
 ソロマニ・リム宙域のインフラへの高いテロ攻撃の危険性により、同社は重要な発電所や生命維持システムを守る緊急対応チームを組織し、訓練しています。

テュケラ運輸 Tukera Lines, LIC
 旅客・貨物輸送で帝国最大手企業であるテュケラ運輸は、他の宙域と同様に主要通商路の独占を目指しています。しかしリム戦争以降、同社はソロマニ・リム宙域内におけるシェアを確保することに苦戦しています。シャルーシッドや宙域企業(ソラー輸送やエウム・シャオ・グウィなど)の牙城を崩すためにテュケラは手段を選ばず、貴族社会に張り巡らせた人脈や、冷酷な社内諜報部門であるヴィミーン(Vemene)を活用しています。
(※1105年設定のマングース版原文では、手段として「皇族との近さ」が挙げられていたのですが、先々代皇帝ガヴィンの曾孫であるデルファイ・アナクシアス両公マーガレット・イェティリナ・アルカリコイが、テュケラ一族のアレクヴァディン伯爵ブライン・トゥルーラ・テュケラ(Count Blaine Trulla Tukera of Alekvadin)との結婚後にテュケラ姓を名乗るのは1110年のことです。1120年設定のGURPS版に影響された勘違いと思われますので、独断で「貴族社会の人脈」と変更しました)

ジルンカリイシュ Zirunkariish
 ヴィラニ系投資銀行である同社は、ソロマニ連合の歴史書で頻繁に非難されています。これは、ジルンカリイシュの創業者一族の末裔であるアンティアマ妃とザキロフ皇帝との結婚に端を発します。ソロマニ主義の陰謀論者は、このヴィラニ系企業が帝国を影からいまだに操っていると主張し、帝国の公人や政策にジルンカリイシュの不透明な資金が流れているという「創作物」を出版し続けています。
 一方でジルンカリイシュはその遵法精神の高さだけでなく、密接に帝国政府と協力する安定した金融機関としての高い評判を得ていて、同社はウルティマ星域やアルバダウィ星域の発展途上惑星の開発においても大きな役割を果たしています。
 ジルンカリイシュはヴィラニ系企業の類に漏れず、ソロマニ主義活動家の標的になりがちであり、リム宙域で活動する同社の幹部社員には必ず1人以上の護衛が付けられています(仕事先の危険度に応じて護衛の人数は増やされます)。

 また帝国の宙域内企業としては以下のような会社が活動しています。

エウム・シャオ・グウィ Ewm Shao Gwi
 ヴェガ自治区内の貿易を一手に担うこの会社は、数千年前にヴェガンが宇宙に進出する以前から商業のトゥフールとして活動していた伝統を持ちます。エウム・シャオ・グウィの目的はビジネスの成功ではなく、言わば哲学的に利益の分配と資源の再分配を追求しています。
 同社は母星ムアン・グウィで旗揚げしましたが、現在ではムアン・イスラーに会社の基盤を置いています。エウム・シャオ・グウィは、ヴェガ自治区内全域と境界から6パーセク以内の一部の帝国領星系を商圏としています。

イチバン・インタステラー Ichiban Interstellar, LIC
 イチバン社はソロマニ・リム宙域で最古と言われる(その歴史は第二帝国時代から…と同社は主張しています)傭兵斡旋企業です。イチバン社は、傭兵の募集から給与の支払い事務、兵装の販売から補修、その他あらゆる傭兵に関するサービスを、傭兵部隊の指揮官や依頼人に提供しています。また宙域最高の軍事・政治両面の情報部門の専門家を取り揃えています。
 イチバン社は兵器や装備の製造部門を極わずかしか持っておらず、それらは他社(主にインステラアームズ)から購入して、契約した傭兵部隊(または傭兵個人)に転売しています。
 ちなみに昔からイチバン社には、機械もしくはバイオ技術で人体を強化した「サイバーニンジャ部隊」があるという未確認の噂があります。
(※イチバン社の大株主であるタンクレディ家は、アンタレス・ホールディングスなどを所有する帝国の名門貴族です)

シーハーベスター Seaharvester, LIC
 シーハーベスター社は、海洋の天然資源開発を専門とする企業です。同社は934年に創業され、養殖漁業、深海採掘、海中金属抽出の分野でTL13~15の技術を持っています。生化学部門では、海洋生物から薬品や栄養食品や化粧品に役立つ生成物の抽出も行っています。さらにシーハーベスター社は、狩猟用から養殖用まで、様々な水棲生物のクローンを星系政府の依頼で提供する事業も手がけています。
 同社は1099年にメガコーポレーションのSuSAGに買収されましたが、独立した子会社として営業を続けています。この買収により、SuSAGはいくつかの重要な医薬用物質、特にPDPT-βという幅広く用いられている抗生物質を独占的に確保することができるようになりました。

ソラー輸送 Solar Shipping
 テラに本社を置くソラー輸送は、ソロマニ・リム宙域の帝国領側で旅客と貨物の輸送事業を営んでいます。かつては宙域全体で運行を行っていましたが、ソロマニ・リム戦争後にソロマニ連合領側の通商路を放棄せざるを得なくなりました。その通商路はソロマニ輸送(Solomani Shipping)が引継ぎ、両社は相互乗り入れ契約を結んでいるため、国境で分断された2社はまるで一つの会社のように利用が可能です。


 ソロマニ・リム戦争の後、ヴェガ自治区の設置の効果もあってか、リム宙域の情勢はかなり安定はしています。しかし宙域が内包する民族主義の問題がある以上、様々な活動家が跋扈しているのも事実です。反帝国テロ組織「テラの支配(Rule of Terra)」などだけではなく、反ソロマニを掲げる過激な団体もあります。戦争時にテラに隠匿した軍事物資を用いてソロマニ系ゲリラが蜂起を試みようとした「フェニックス計画」の発覚以後、帝国はこうした過激派の取り締まりに力を入れています。
 こうした問題に対し、力ではなく寛容さで臨もうとする人々もいます。「オーセンティスト」と呼ばれる人々が推進するオーセンティック運動(Authentic movement)は、988年にソロマニ人の人類学者ヨハン・クラム(Johann Kramm)(946年生~1005年没)よって書かれた『信ずべき体験(The Authentic Experience)』を原典としています(この書籍の各言語翻訳版は現在マキドカルンから発行されています)。クラムは宇宙全ての文化に価値を見出し、多様性の素晴らしさを説きました。それに賛同した人々が、オーセンティック運動を始めたのです。
 最初コア宙域で広がりを見せたオーセンティック運動は、既にクラム本人が見届けることができなくなった1010年頃には、戦争で荒廃したソロマニ・リム宙域にも広がっていました。当初はソロマニ主義運動の隠れ蓑となる恐れから帝国当局に警戒されたオーセンティック運動でしたが、1050年頃には(特に亡命派の帝国貴族の支援もあって)リム宙域で大きなうねりとなっていました。
 今では、軍政下にも関わらずテラやディンジールといった歴史ある星を訪れる旅行者の多くがオーセンティストとなっています。一方で、運動が最近あまりにも商業化しているのではないかと、一部の支持者が苦言を呈しています。


【ライブラリ・データ】
ソル大公キーラン Archduke Kieran Langos Adair of Sol
 1102年にソル大公位を継承したキーラン卿は、1064年にソル領域首都であるエクセター(ディアスポラ宙域 2729)で誕生しました。ソロマニ系貴族であるアデアー家は、元々マッシリア宙域の男爵家に過ぎませんでしたが、彼の曾祖母であるアリエル・アデアー女男爵(Baroness Arielle Adair)がソロマニ・リム戦争において海軍大提督として帝国軍を勝利に導き、その功績でソル大公となったのです。
 彼はリベール(ディアスポラ宙域 1109)のオミクロン大学で政治学を学んだ後、帝国の外交使節団の一員としてリーヴァーズ・ディープ宙域やダーク・ネビュラ宙域を回り、ソロマニ連合やアスランの文化や政策、そして彼らとの付き合い方を学びました。その後、アスランの母星であるクズ(ダーク・ネビュラ宙域 1226)に帝国の代理公使(charge d'affaires)として赴任しましたが、父であるエティエンヌ大公が病に倒れたために帰国して父の名代を勤め、前大公の死去後にソル大公となりました。
 新大公はまず就任後2年間はディアスポラ宙域とオールド・エクスパンス宙域の経済活性化に努め、現在は政策の焦点をソロマニ・リム宙域に当てています。その手始めとして、領域全体の安定と繁栄を考えて、領域首都のリムへの移転を計画しています。
 穏健改革派と目されるアデアー新大公は、ストレフォン皇帝と親しい間柄です。しかし帝国貴族院(Moot)からはあまり好ましく思われていないようです。また、テュケラ運輸のやり口を嫌っており、両者は対立関係にあります。
 ちなみに、大公は現在独身です。
(※ソル領域(もしくはソロマニ人)には貴族を苗字で呼ぶ風習があるため、「アデアー大公」という呼び方は間違ってはいません)
(※マングース版『The Solomani Rim』では、アデアー大公は1105年現在、ディアスポラ宙域の首都であるリベールに「座している」ことになっていますが、リベールが領域首都であるとは記載されていないので、エクセターを領域首都とするGURPS版設定との両立は可能と判断しています)

ディンジール公ロバート Duke Robert Stephanos Beaudoin of Dingir
 ディンジール公の長子として誕生したロバート卿は、テラ大学で軍事学を学んだ後、帝国海軍中佐として勤めました。1095年に父の願いで退官し、2年後にその父の死去を受けてディンジール公爵となりました。
 野心家であった新公爵は、就任後すぐに、宙域公爵となるべく政界工作を始めました。周囲への雄弁な説得と、そして少しの陰謀を駆使して、1098年に宙域公爵であったコンコード公を不信任投票で失脚させ、自らが取って代わることに成功しました。しかし翌年に「元宙域公爵」が失意のあまりに自殺したため、宙域の貴族社会に苦い記憶を残してしまいました。
 それでもロバート公の手腕は確かで、社会不安を抑え、宙域海軍の組織改革などで成果を挙げています。彼は宙域公爵就任の際に多くの敵を作ってしまいましたが、その政敵ですら彼の実績は(渋々ですが)認めています。



 これだけでもまだこの宙域のほんの一部でしかないほどに、このソロマニ・リム宙域は隅から隅まで奥深く設定がなされています。次回からは1星域規模に焦点を絞って紹介をしていきたいと思います。


【参考文献】
・Book 7: Merchant Prince (Game Designers' Workshop)
・Adventure 9: Nomads of the World-Ocean (Game Designers' Workshop)
・Double Adventure 3: The Argon Gambit (Game Designers' Workshop)
・Alien Module 6: Solomani (Game Designers' Workshop)
・MegaTraveller: Imperial Encyclopedia (Game Designers' Workshop)
・Aliens: Solomani & Aslan (Digest Group Publications)
・Travellers' Digest #13 (Digest Group Publications)
・GURPS Traveller: Rim of Fire (Steve Jackson Games)
・GURPS Traveller: Nobles (Steve Jackson Games)
・Traveller: The Solomani Rim (Mongoose Publishing)
・Alien Module 5: Solomani (Mongoose Publishing)
・Traveller Wiki
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