宇宙の歩き方

The Astrogators' Guide to the Charted Space.

1105年版ヴランド宙域図

2012-10-25 | Traveller
 事の始まりは、先日にtravellermap.comがリニューアルされたことでした。星図のフォントや色が『トラベラー』付属のあの宙域図に近くなるように変更され、この方向性自体は別にいいとして、今後の連載のことを考えると、今までアップした星域図を全部差し替えてこれから掲載する星域図と揃えないといけないかなーと、「また余計なことをしやがって」と思わなくもなかったのでした(笑)。
 この時、最大の問題となるのがヴランド宙域。実は現行のTravellermapの問題点の一つに「ヴランド宙域のXボート・ネットワークが1120年仕様になっている」のがあり、連載第8~11回のヴランド宙域編では、私が推測して補ったものを(こっそりと)掲載していました。そのものずばりの正解がトラベラーズ・ダイジェスト誌の第5号に載っていることは知っているのですが、残念ながら持っていないので(※ヴランド星系の回は翻訳版のタクテクス第66号を参考にしました)これまでどうすることもできませんでした。
 「またあれを作り直さないといけないのか…」と嘆息しつつ、ふといつもお世話になっているThe Zhodani Baseを眺めていると、データの先頭に"Trade routes within the subsector"という文字とともに、数字の羅列が…があるのは知ってはいましたが、どうせ同じだろうと今まで気にも留めていませんでした(汗)。
 しかし何の気なしにその数字が示す地点を繋いでみると…これはもしかして?と期待の持てる出力がなされたではありませんか。

 ということで前置きが長くなりましたが、信憑度80%ぐらいの1105年仕様のヴランド宙域のXボート・ネットワーク図(と思われる物)を公開いたします。なお、The Zhodani Baseに掲載されているデータは「明らかにこれは誤植だろう」という数字も含まれていたので、そこは独自に直してあります。


ヴランド宙域図(1105年版)(クリックすると拡大)

 ではどこが変わっているのか、星域別にざっと検証していきます。

【星域A・B:ヴォスコード星域・ヴォーダン星域】
 最大の違いは、カッティ(0404)からルガルル(0502)、そしてオサイルーグー(0902)と国境外へと伸びていくルートの存在ですね。反乱発生後にはルガルルは陥落してしまうので、このルートが1120年に消滅しているのは当然でしょう。またオサイルーグーは国境外かついかにもヴァルグル風な名前とはいえ帝国属領ですし、帝国海軍基地もあるので、そこまでXボートが伸びていてもまあ不思議ではないでしょう(珍しいですがないこともないです)。それだけ重要拠点なのかもしれません。
 むしろ不思議なのは、Travellermapにはハッカト(0109)からコリドー宙域方面に繋がるルートが記載されていますが、このルートは今回のデータどころか、DGPの『Vilani & Vargr』に掲載されている1120年仕様のXボート・ルート図にも載っていません。これはトラベラーズ・ダイジェスト誌の第3号があればはっきりするのですが、残念ながらこれも持ってなくて…(涙)。「ハッカト(0109)からコリドー宙域方面に繋がるルート」の存在の裏が取れましたのでこの部分は削除します(『Short Adventure 8: Memory Alpha』内のコリドー宙域図に記載)。
(※今回の宙域図でヴォスコード星系(0706)を星域首都としていますが、これを裏付ける資料は実はありません。1120年版のUWPではミスなのか設定上の理由なのか星域首都ではないことになっています。しかし星域名と名前が同じで、Bクラス宇宙港とはいえTL15で高人口世界で工業世界でXボートの中継拠点になっているのですから、平時に星域首都であったと考えても不自然ではないでしょう)

【星域C・D:アナルシ星域・シートン星域】
 両星域を跨ぐルートが全く変わってしまっています。1105年版ではボルジイン(2308)からラルタイズ(2605)を経由してパヴァル(2806)に至るルートが、1120年版ではサルディイカ(2409)からスピンポート(2808)を経由してパヴァルに着いています。これも反乱の発生によってラルタイズがヴァルグルに落とされてしまった影響でしょう。
(※1120年版データではヴォスコードと同じくアナルシ(2205)も星域首都ではないことになっていますが、こちらはダアマ(1904)のライブラリ・データによって1105年設定では星域首都であることが明らかになっています。また、タクサルーグ(1701)とザンノーク(1802)の所属は設定の内容に合わせて、Travellermap掲載のものと意図的に入れ替えています)

【星域F:カガミラ星域】
 星域首都カガミラ(1519)からエストフ(1217)に向かうルートは、1105年にはありませんでした。これはトラベラーズ・ダイジェスト第4号(翻訳版はタクテクス第64号)掲載のカガミラ星域図でも裏付けられています(この図は正確には1102年時点のものですが、1105年設定として扱います)。

【星域G:ヴランド星域】
 タウリ(1817)から分岐して、クラ(1919)とシュシュグウム(2020)を通って、カセール星域のカールム(2221)に至るルートも1105年当時には存在しておらず、グランドツアー第5話のヴランド星域図でも確かにそうなっていました(なぜ気づかなかったんだ…)。

【星域H:シイグス星域】
 ものすごく地味な違いですが、ダマコ(2912)からオクサナド(リシュン宙域 0111)に向かうルートが、1105年当時はウルキムガル(3211)を経由していません。ウルキムガルでXボートの誘致運動をやっていて、それが実ったのかもしれません(笑)。
 誘致運動は冗談ですが、Xボートのルートは情報の流れだけでなく経済の流れも表現しているので(スピンワード・マーチ宙域のアル・モーレイ社に限らず、大手の運輸会社はだいたいXボートのルートに沿って営業所を置いたり船舶の運行を行っています)、経済的な変化が反映された、と解釈することも可能です。実際、GURPS Travellerの『Starports』のルールでは、どんな田舎星でもXボートのルート上にあるだけで、その星系の物流取扱量を示す宇宙港規模値が最低でも6(結構な高人口かつ高TLで、さらにメインに属するような星系並)が確保されることからもうかがえます)

【星域M:パルシ星域】
 ここに限らず、反乱時代のヴランド宙域のリムワード方面4星域は、新ジル・シルカとストレフォン(もしくはルカン)の「国境線」が走っていた地域です。当然Xボートは国境線で分断されてしまうため、アンスウェリン(0431)~パスパア(0333)間や、キスベル(0834)~サヴッド(0635)間が切り離されていました。
 1105年版と1120年版の最大の相違点は、1120年版では星域首都パルシ(0336)をXボートが迂回していることです。後付け設定に近いものですが、星系の政変などによってXボートが一時的に迂回ルートを形成することについてはトビア星域の回で記載したのですが、それにしても星域首都級の星を回避するというのは、なかなかの事態が想像できそうです。

【星域N:ダアンギイル星域】
 1105年に星域首都ダアンギイル(1136)からダルム(1339)に向かっていたルートが、1120年にはイギクウニ(1437)に目的地が変更されています。これも国境線によってルートが分断された影響です。

【星域K・O・P:カセール星域・ヌリスド星域・カカダン星域】
 大きく異なるのはこの地域でしょう。まず例によって国境線によって、ヌリスド(1937)~イディ(2337)間、イムシイグ(2132)~ミイリインルー(2335)~イディ間、ラアンバッジイル(3037)~アレマン(3137)間、イクスピン(2931)~タマヨ(3232)間が寸断され、カカダン(2635)~ジャルマト(2733)~キッディヌ(2531)~トブルン(2329)~ジクラグ(2227)のルートに至っては消滅してしまっています。一方でイムシイグからギカルルム(2232)、カラアリト(2540)からバコル(2240)に向かうルートが新設され、シャキル(2438)からカカダンへは直接ではなく海軍基地のあるアコン(2637)を経由するようになりました。
 ヌリスド~イディのルートで、間にEクラス宇宙港のシャカ(2137)が含まれているのが気になるところです。Xボートのルート選定には、D・Eクラス宇宙港やレッドゾーン星系をなるべく含まない、という不文律がある…ような気が今までしていたのですが、ヴランド宙域をよく見てみると、Eクラス宇宙港だけでもデグラアアルビイス(2210)、ナシャ(2419)、ララジム(1626)、カプレ(2527)、シェルヴァン(3025)とごろごろと存在しているため、どうせEクラス宇宙港の星を「飛び越えて」運用しているんでしょ、と半ば投げやりな気分で黙認することにしました(汗)(飛び越えて運用していると仮定すると、国境線による分断でルートが「大きく」消えていることの説明もつきます)。同様に、海軍基地と偵察局中継基地があるいかにも重要そうなザンスキー(2932)が無視されてしまっていますが、中継基地にXボートが来ないのはよくあることなので、こちらはまあ納得です(笑)。
 カカダン~ジグラグ間の長距離ルートの「廃止」が非常に目につきますが、このルートはヴランド(ないしはカセール)でカカダンの情報をいち早く知るためのものだったが、カカダンが「他国」となってしまったので必要がなくなった…とか想像が膨らみます。真相は不明ですが。
 ルートや迂回路の新設は、国境沿いの基地間の連携強化を目的としたものと思われますが、だとするとミイリインルー~イディ間の海軍基地星系群のルートがなくなってしまったのが解せません。もしかすると基地の存在は既に星図上だけのもので、基地を放棄せざるを得ないほどの激戦があった…のかも。


 以上、あれこれ考察と妄想を交えて解説いたしましたが、皆さんの旅のお役に立てましたら幸いです。

(※jtas.netのTraveller Atlasのページにあるヴランド宙域図にも独自のXボート・ネットワーク図があるのですが、さすがに独自すぎて参考にすることはできませんでした)
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宙域散歩(16) カムシイとレファレンス

2012-10-12 | Traveller
 コア宙域を行く旅も今回で一区切り。最後はトラベラーズ・ダイジェスト誌で紹介されたシレア・メインの4星域を…と考えていたのですが、星系の設定の量が意外となくて「冒険の舞台」とはなりにくく、「観光地」としては地味(汗)、という問題もあって、今回はコア宙域の中から特筆すべき2星系を紹介しようかと思います(シレア・メインはリクエストがあったら、ということで)。

 まずはキャピタルから9パーセク離れた、ディントラ星域のカムシイ。ここは星系全体がレジャーランド、という非常に興味深い場所です。ここはGURPSの『Planetary Survey 1: Kamsii』にて詳細に全体像が設定されています。
 もう一つはコア宙域の端、一方で「帝国のへそ」でもあるカディオン星域のレファレンス。『メガトラベラー』の宇宙図などで散々名前は出ているのに、細かい説明は特になされていなかった星です。その名の通り、ここを「基準」にして帝国の各星系の位置は測定されているのですが、こちらはグランドツアー第10話「Reference Point」の舞台となっています。


カムシイ Kamsii 3021 A45778C-A 農業 G Im
 カムシイは、帝国貴族のオート=ジョーンズ家(haut-Jones)がオーナーを務めるカムシイ社(KamsiiCo)によって運営される、数々のエンターテイメント施設や(管理された)野生の動物園があるリゾート星系です。人口は統計上6100万人ですが、そのうち約3000万人が滞在中の旅行客と言われるほど、大勢の人々で常に賑わっています。
 カムシイの歴史は、ハンセン家の歴史でもあります。恒星間戦争時代の末期を生きたロデリコ・ハンセン(Roderico Hansen)は、後に「人類の支配」を打ち立てるヒロシ・エスティガリビア総司令に仕え、その功績でウシュラ(ダグダシャアグ宙域 1016)の公爵に任ぜられました。ハンセン家はその後、-2045年にこのカムシイを(食い詰めた)ヴィラニ貴族から獲得しました。暗黒時代を経て第三帝国の時代になると、クレオン1世をかねてから支持していたハンセン家は帝国貴族の一員となり、領地もそのまま保証されました。しかし、内戦時代のハンセン家の当主レンヤード(Renyard)は、ソロマニ主義に傾倒し、さらに後に皇帝となるアルベラトラ提督を支援したにも関わらず、その見返りにアンタレス大公になれなかったことで皇室に恨みを抱きました(※別に大公にする約束があったわけではないようです。結局アンタレス大公には、アルベラトラの忠臣であったヴァルグルのソーグズ提督(Admiral Soegz)が就きました)。
 そしてそれはレンヤードの息子ジャカモ(Giacamo)の時代に暴発します。領地と共に思想も父から引き継いだ彼は、当時の皇帝ザキロフがヴィラニ貴族のシイシュギンサ家(※ヴィラニ系メガコーポレーションであるジルンカリイシュの創業者一族です)から后を迎えたことに激怒し、ザキロフの暗殺を企てます。が、陰謀は露見し、ウシュラ公爵位を剥奪された上で、680年にジャカモ本人と共謀者4人(ジャカモの長男ポーティオ(Portio)を含む)は死刑となりました。その一方で、陰謀に加わらなかった一族の他の者は全くお咎め無しとなりました。とはいえ皇帝暗殺を企てる、という恥ずべき悪名から逃れるために、ジャカモに代わって当主となった娘のポーフィリア(Porfiria)がアダスカグル(ダグダシャアグ宙域 0320)のオート=ジョーンズ男爵家と縁組みしたのを機に、生き残ったハンセン一族もオート=ジョーンズの姓を名乗るようになり、ザキロフ皇帝が残してくれた領地であるカムシイの統治を行うようになりました。そしてポーフィリア(と一族の者たち)は一門を建て直すために、カムシイの豊かな自然とヴィラニ帝国時代から増改築を繰り返した施設に目をつけ、星系のリゾート化を推進しました。
 現在のカムシイは、惑星全体がレジャーランドとなっています。惑星各地には、古き良きテラを模したアラビアン・ナイトやマンハッタンやヴァイキングの建物が立ち並び、「住民」はその時代の服装を身にまとって観光客に応対するのと同時に、そのまま生活も営んでいます。また本当にハイヴやドロインが出迎えてくれる「ハイヴランド」「ドロインランド」も存在します。さらに、マリンリゾートや、野生動物を見物できる自然地区もありますし、カムシイの玄関口であるジャジル地上宇宙港(Jadzil Downport)周辺は高級ホテル街となっています。美術館には古のグーテンベルク聖書やXメンの第1話が展示され、レストランでは(予算に応じて)様々な美味しい食事を堪能でき、北極の山岳地帯では剣士となってドラゴンと戦えるアトラクションもあります。
 カムシイの治安レベルは極めて高くなっていますが、ここはあくまでレジャーランドだからです。特徴的なのは、カムシイでは通常の帝国クレジット通貨は使えず、入園時に渡される「カムシイ・カード」に予め入金をしておいてから、カードを通じてカムシイ内での全ての決済がなされます。さらにこのカードひとつでID認証、短距離通信、ホテルの電子ルームキー、生体機能モニター、GPSなどの機能も兼ね備えています。また名称こそ「カード」ですが、形状はカード型以外にもブレスレットやペンダントといった装飾品型もあるので、子供に着けておくことも容易です。カードの機能はカムシイを離れると停止されますが、デザインが定期的に変更されるため、カード自体が旅行者にとっての記念品にもなります。このカードなしではカムシイではほぼ何もすることが出来ず、利用者の行動は管理会社であるカムシイ社にほぼ筒抜けとなるわけですが、これは旅行客の安全確保を何よりも優先に考えているからです。
 ちなみに、ハンセン家からウシュラ公爵を継承したヴィラニ人貴族のシマルー家は、その後も代々ウシュラ公爵であり続けました。現在の当主はクギ・ララギイ・シマルー(Khugi Laragii Simalr)で、帝国貴族院においてダグダシャアグ宙域の多くの貴族の委任票を取りまとめている有力議員です。彼の長男のガニディイルシ(Ganidiirsi Ling Simalr)は、現在キャピタルのシレア大学に留学して知的生物学を学んでいます(※このガニディイルシ氏は1106年に博士号を得て大学を卒業し、後に帝国の超重要人物になる…かもしれません)。

レファレンス Reference 0140 D100100-B NS 真空・低人・非工 Im 研究基地γ
 レファレンスは、星系内に海軍基地・偵察局基地・帝国研究基地の3つを抱えながらも、帝国市民にはあまり有名ではない星です。なぜならここは帝国の測量の「基準点(レファレンス)」であり、伝統的に星図にはあまり記されていないからです。
 大地は真空で乾き切っており、天然資源を特に持っていないレファレンスは、歴史的に第一帝国の時代から様々な理由で「存在しない」星でした。第一帝国の末期、軍の科学者たちは宇宙船用兵器の研究をする最高に機密を保てる場所を探していました。当時ママタヴァ(Mamatava)と呼ばれていたこの星は、まさにうってつけの環境だったため、地表にはドームが、地下にはトンネル網が建設され、様々な機材とともに科学者がやって来ました。
 こうしてママタヴァは星図から消されましたが、元々この星系はガスジャイアントも水界も持っていなかったのでジャンプ-1の通商路からも外れており、誰の不便ともなりませんでした。
 こうして恒星間戦争の間、ママタヴァの研究施設はヴィラニ人のために研究を続けましたが、その甲斐もなく、価値ある成果を得ることはできませんでした。やがて地球連合軍の偵察艦によって発見されて科学者たちはママタヴァを去り、施設は閉鎖され、そのまま「ガタガタ帝国」の間は星系ごと放置されました。
 暗黒時代が来ると、ママタヴァは他の多くの世界と同じく孤立しました。元々の研究施設の記録は失われ、帝国暦4世紀に行われた第一期探査(Grand Survey)によってようやく再発見されました。
 その大探査で集めた膨大なデータを集積する特別な場所を、偵察局は欲していました。その時、ママタヴァの地下にかつての研究施設が発見されたのです。399年、この研究施設は大探査データの保存所として改装されました。同時に、世界の名前は「レファレンス」と改められ、帝国の各星系の位置を定める基準点となりました。
 レファレンスの膨大な数のコンピュータは、その後の補修と改装を経て、第二期探査(Second Grand Survey)のデータも加えられました。ここに収められた国勢調査や天然資源埋蔵量などのデータは、帝国加盟世界の地方政府にだけでなく、様々な研究目的にも利用されています。
(※レファレンスの設定はT4・T5版では異なっていて、第一帝国時代にShiishuusdarと呼ばれていた星が、第一期探査の頃にはAadkhienと変わり、1065年の第二期探査ではUWPがB100717-Bだったそうです。しかしわずか50年ほどで人口が6桁も減ったことへの何の解説もなく、合理性を欠いていると判断したため、今回は名前も含めて採用しませんでした)


【参考文献】
・Planetary Survey 1: Kamsii (Steve Jackson Games)
・GURPS Traveller: Nobles (Steve Jackson Games)
・MegaTraveller: Imperial Encyclopedia (Game Designers' Workshop)
・Signal-GK #3
・Travellers' Digest #10 (Digest Group Publications)
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宙域散歩(15) キャピタル

2012-10-05 | Traveller
「幼い頃から『自分は帝国市民である』と教わってきてはいたが、それが何を意味するかは漠然としていた。しかし実際にキャピタルを訪れて、皇宮を眺めて、皇帝陛下本人と対面して、ようやく真に『自分は帝国市民である』と実感することができた」
アキッダ・ラアギイル「11000の星々の父、キャピタル」
トラベラーズ・ダイジェスト誌 1105年


惑星キャピタル図 1ヘクス=400.5km

キャピタル Capital 2118 A586A98-F NW 高技・高人・肥沃 G Im 帝国首都
 公転周期:364.97日 衛星:なし 軌道離心率:0.0
 直径:7652km 密度:1.1 質量:0.27 重力:0.69G
 自転周期:24時間4分1秒 自転軸傾斜:20度32分5秒
 地表平均気圧:2.2atm 大気組成:酸素・窒素の混合気体 呼吸可能
 水界度:63%(液体の水) 地表平均気温:27.2度(気象制御あり)
 総人口:326億人(1億人以上都市5、5000万人以上都市28、500万人以上都市135)
  ベンカ市:人口6億人(Aクラス宇宙港)
  クレオン市:人口4億人(Aクラス宇宙港)
  ミファ・ランコ市:人口3億人(Aクラス宇宙港)
  テュルス市:人口9億人(Bクラス宇宙港)
  トン・ヴォルン市:人口5億人(Aクラス軌道宇宙港)

 キャピタル(一部の伝統主義者にはいまだにシレアと呼ばれますが)は、第三帝国の中心世界です。皇帝の玉座、帝国貴族院(Imperial Moot)の尖塔、全ての帝国政府機関と軍の最高本部、多数の主要な帝国企業の本社を抱え、そしてさらに、恒星間通信の拠点であり、既知宙域の主要な文化の中心地でもあります。
 第三帝国建国後からほぼ増減していない300億人以上の住民は、80%がヴィラニ系、11%がソロマニ系、6%が原住種族のシレア人となっていて、残る3%はそれら以外の人類や非人類です(※当然ながら人類間での混血は進んでいます)。また人混みを避けるため、キャピタルの人々は子供たちを幼い頃から全寮制の学校に入れるのを普通の事と考えています。
 キャピタルは小さいながらも濃い大気を持ちます。数百万年前、この惑星は火山活動による急速な造山期を経験しました。活発な火山活動は遥か昔に終息しましたが、それ以来惑星は濃密な大気と大きな山脈を得ています。高い大気圧と比較的低い表面重力は、非常に高地でも空気を心地よく呼吸できることを意味し、海抜5000メートル以上の地点でも小さな街や農耕地が作られています。
 温暖な世界であるキャピタルは豊かな生態系を持ち、知能を得る前段階の動物も存在します。太古種族が人類以外のテラの動植物を持ち込んだとは考えられていません。多くの外来種は、ヴィラニ人との接触以後に持ち込まれたものです。
 多くの地元の食べ物は、シレア人にはごちそうですが、一部の外世界人には軽い消化不良を起こすかもしれません(それでもシレア産の食品は多くの人々に食されています)。純血のシレア人は、このような難儀を起こさないように進化したのです。
 なおキャピタルの平均テクノロジーレベルは15ですが、医療技術分野ではTL16に到達しており、脳の移植手術が最近成功しています。


■大宮殿観光案内

 キャピタルのクレオン市にある帝国大宮殿(Grand Palace of the Third Imperium)は、帝国の統治者たる皇帝一族の住居です。
 最初の「クレオン大宮殿(Grand Palace of Cleon)」は、クレオン1世によって-7年に建設が始まり、-5年に完成しました。当時の他の宮殿の例と同じように、クレオン大宮殿は皇族の住居としてだけでなく、軍の要塞としても用いられました。宮殿はピラミッドのような、山脈のような斜面の集合体で、見上げれば鋭い杭がいくつも空に突き立つようでした。このびっくりするような建築は、攻め込んできた反重力化兵士(grav-troopers)の安全な降下地点を見つけにくくする、という目的に非常にかなっていました。
 クレオン大宮殿は現在でも皇宮公園(Imperial Park)内に建っており、多くの人が訪れる記念碑となっています。また宮殿に隣接して、第三帝国の母体となったシレア連邦時代の遺物や、クレオン1世の生涯を展示している博物館があります。
 195年に帝位に就いたマーティン2世は、様々な芸術に興味を抱き、特に絵画や建築や科学を愛好していました。皇室の第二宮殿はそんな彼の情熱の産物でした。マーティン2世自身がデザインを手がけた宮殿の建設は、195年に始まり、200年に完了しました。宮殿はソロマニのお伽話のようにきらめく白い尖塔と光るドームの集まりで、発着ポートと展望デッキが周囲を囲み、反重力発生機が宮殿全体を皇宮公園の上空500メートルに浮かべていました。反重力を用いたこれほど巨大な建築物は、当時は帝国のどこにも存在しませんでした。マーティン2世の夢を実現したこの宮殿ですが、彼自身は帝国の統合に力を注ぐために各地を回っていたため、皮肉なことに短い期間しか住むことはできませんでした。マーティン2世大宮殿(Grand Palace of Martin II)は、歴代の住人による少々の改築や、時折起きた不祥事によって、建設当初の輝きはやや失われはしたものの、その後400年間に渡って住み続けられました。例えば、「狂王クレオン」として知られているクレオン3世は、宮殿内で反逆者を(それが真実かどうかは関係なく)日常的に処刑し、幾多ものテラスを銃座に改装しました。さらに内戦(604年~622年)の発生によって、皇帝の座をめぐる争いが帝国中心部で絶え間なく荒れ狂うと、内部構造は強化されました。
 その気品と優雅さを誇った宮殿は、現在ではその墜落痕を残すのみとなっています。620年に、後に皇帝となるマラーヴァが率いる軍による短期間の包囲を経て、マーティン2世大宮殿は陥落しました。爆発による炎は反重力発生機に致命的損傷を与え、宮殿は皇宮公園内に滑り込むようにして墜ちました。宮殿のエンジニアリング要員の勇敢な努力が、建物がクレオン市の市街地の真ん中に墜ちることを防いだのです。倒壊した第二宮殿は、後に皇宮公園の湖となった大きな三日月型のクレーターを造りました。現在、この湖は記念碑とともに穏やかに水をたたえ、岸辺には第二宮殿が存在した頃の統治者たちの遺物を展示する博物館が建てられています。

アルベラトラ大宮殿 Grand Palace of Arbellatra
 現在の第三の大宮殿は女帝アルベラトラによって、内戦終結後の629年に建設が開始され、633年に完成しました。現在の帝国中心部の政治情勢はアルベラトラ帝の時代より遥かに安定していますが、しかし(控えめではありますが)宮殿は今でも軍事的な雰囲気を保持し続けています。
 アルベラトラ大宮殿の建設の主な目的は、新宮殿のその圧倒的な規模によって、帝国に新たな力が誕生し、進歩の時代が再来したことを帝国内の諸世界に知らしめることでした。そのため、宮殿はどこか畏怖を呼び起こすような構造になっています。
 直径1キロメートルの球状の大宮殿は、皇宮公園上空500メートルに浮かんでいます。また大宮殿近辺には付随する施設が同様に浮かんでおり、それぞれ三連宮殿、パウロ離宮、トムトフ宮殿と呼ばれています。
 内戦時代の教訓から、大宮殿は長期の包囲戦にも耐えられるよう設計されました。防衛のために、分厚い装甲の外殻、対核ダンパー(nuclear dampers)、中間子スクリーンなどが装備され、さらに宮殿全体をテレパシーによるスパイ活動へのほぼ絶対的な防御手段である対超能力フィールドが覆っています。なお、スピンワード・マーチ宙域から運ばれたブラック・グローブ発生装置が最近装備された、という噂もありますが、皇室親衛隊の広報は「報道機関の活発過ぎる想像力が産んだ非現実的な発想」と一笑に付しています。
 また限定的ではありますが、宮殿は攻撃能力も持ちます。普段はその能力を民衆の目から隠している化粧板が危機の際に速やかに取り外されると、中間子砲や粒子加速砲、ミサイルやレーザーの砲台が表面のあちこちに姿を現すのです。これらの兵装は皇室親衛隊によってよく訓練されていますが、幸運にも今まで一度も使用されていません。
 宮殿近くの付属施設とは異なり、大宮殿のすぐ下だけには地下深くまで続く施設が建設されています。この施設は帝国海軍の中央指揮所として用いられ、反重力チューブによる輸送網がクレオン市の隅々まで張り巡らされています。
 なお宮殿内部には反重力浮遊システムが組み込まれていますが、これは万が一地上施設の宮殿支持システムが機能しなくなった際に、大宮殿を「軟着陸」させるためのものです。

格納庫 Hanger Bays
 宮殿へのほぼ全ての出入りは、底部にある巨大な格納庫を経由します。宮殿に接近していくと、巨大な構造物が徐々に空を覆い隠していくその印象的な光景は簡単には忘れられません。
 注意すべきなのは、宮殿から100km以内の空域は飛行制限がなされていて、侵入すればどのような理由でも無線による警告と迎撃機の緊急発進が行われます。さらに特に50km圏内への無許可での接近は自動的に攻撃行動とみなされ、皇室親衛隊が躊躇なく発砲を行います。
 宮殿への車両による接近の許可は、航空機管制センター(Aircraft Operations Center)が行っています(※高TLの車両は「飛ぶ」ことを忘れてはいけません)。AOCは宮殿内の格納庫エリアの中央に位置し、大宮殿周辺全ての交通管制を仕切っています。AOC管制下に置かれた車両は、巨大な格納庫の扉から発着所の1つに導かれます。そこでは様々なセンサーによる車両検査が非常に綿密に行われ、全てに合格するとようやく空いている着陸床に降りることができます。乗客はそこから自動歩道(slidewalks)に乗って中軸部に向かいます。
 言うまでもなく、特別に許可された人以外には、宮殿内への全ての武器類の持ち込みは禁止されます。

中軸部 Core Shaft
 宮殿の低層部からは、中央部の大遊歩道などに向けて多数のリフトが走っています。大宮殿内の下半球にある150のデッキのどれにでも、リフトは迅速かつ容易なアクセスを提供しています。
 リフトには2つの大きさがあります。小さな方は個人を輸送するための直径3メートルほどのディスクで、大きな方は直径10メートルほどで、様々な貨物やククリー一家のような大人数の集団(※ククリーは個人では決して行動しません)を運びます。
 またリフトは、直径100メートル、深さ400メートル以上ある円筒形の大水槽でも用いられています。その水槽の「水面」は、大遊歩道デッキの中心にある皇室庭園(Royal Garden)にあります。水槽内の水は底に近付くにつれて徐々に冷却され、標準的な液体の海で見られる様々な気象を再現しています。そして最深部の氷のように冷たい水は一旦ポンプで吸い出され、フィルタを通して宮殿の核融合炉の冷却機構として利用されてから、水槽の上部に温まった状態で戻されます。水槽内には帝国各地から様々な水棲生物が集められ、訪問客はリフトに乗って動物たちが繰り広げる異星情緒あふれる光景を楽しむことができます。

大遊歩道 Grand Promenade
 大宮殿の「赤道」部分は、壮大な遊歩道となっています。幅25メートルの廊下は宮殿の外周を添い、総延長3キロメートルの通路となっています。大遊歩道の全ては自動歩道になっていて、ゆっくりとした散歩程度の速さで動いています。
 外壁にある大きな長方形の窓からは、下に広がるクレオン市の市街地を見渡すことができ、内壁には帝国内の様々な世界の大地や都市の景観が、ホログラフで展示されています。

皇室庭園 Royal Garden
 大宮殿のほぼ中央に位置する皇室庭園は、帝国内で最も贅沢な「室内」装飾です。大遊歩道に囲まれた庭園は、上下の階層から多数のエスカレーターで接続されています。様々な植物によって庭園は構成され、人々の頭上500メートルには巨大な天窓を見ることができます。直径約250メートルの天窓は反重力支持フィールド(gravitic support fields)の網の目で固定され、自然の日光を皇室庭園の巨大な円筒状のアトリウムに注がせます。このアトリウムの壁は、下から見上げた時に見掛け上消失点がないように工夫がされていて、まっすぐに永遠に続くように見えます。
 アトリウムの上空200メートル地点の壁からは、「スティリクス帝の空中庭園(Hanging Gardens of Styryx)」がせり出すように設置されています。驚くほど多彩な蔓や植物がここからゆるやかに垂れ下がり、付近の壁をびっしりと覆っています。このコレクションは、植物学をこよなく愛した当時の皇帝スティリクスによって、950年から作られ始めました。
 大遊歩道の75メートル上からは、四大滝(Four Grand Cascades)が降り注ぎ、常に落水音と心地良い霧で空気を満たします。4つの滝にはそれぞれ、キミシャグー(Kimishaggh)、センドゥシャド(Sendushad)、ネルソン(Nellson)、ルラガルマシイ(Luragarmashii)といった著名な宮殿建築家の名前が付けられました。滝から落ちた水は曲がりくねった流れを経て、ミミル(Mimir)と名付けられた湖、つまり大水槽の天井にたどり着きます。
 庭園の中にそびえ立つ、約300メートルの高さにもなっている「イグドラシル(Yggdrasil)」は、帝国内で最も高い樹木の一つとして知られています。ランサー星系産のイグドラシルは、約100年前に第三帝国建国1000年を記念して移植されました。木の大きな質量ゆえに、加えて建物の中心を外して植えられたため(庭園の中心には既にミミル湖がありました)、宮殿の平衡を保つために反重力の追加支援が必要となりました。ちなみにこの巨大な樹の半透明の葉には日光を色ごとに分解する性質があり、特に正午頃は天窓から降り注ぐ光によって、この空間内全体を虹色にまばゆく輝かせます。

アルベラトラの贈り物 Arbellatra's Gift
 帝国の歴史家が大きな関心を寄せている物の一つに「アルベラトラの贈り物」があります。プラチナでできた直径5メートルの球体の正体は内容不明のタイムカプセルで、イグドラシルの根元にあるイリジウム製の輝く柱の上に鎮座しています。
 この大宮殿と同時に作られたカプセルは、壮大な完成式典が行われた633年に封印されました。そしていつの日か開かれるようにタイマーがセットされました。
 誰もがこのカプセルは帝国暦1000年に開くものだと思っていましたが、そうはなりませんでした。皆をがっかりさせた後、いくつもの「開封日」が推論されましたが、今日現在でもカプセルは封印されたままです。
(レフリー情報:ここから下にはこの「アルベラトラの贈り物」の真相が伏せられています)
 本当は予想通りに帝国暦1000年の第1日にカプセルは開くはずだったのですが、滝が起こす湿気によってタイマーが800年代後半に故障してしまったのです。カプセル自体を壊さない限り、カプセルが開くことは永遠にありません。なおカプセルの中には、アルベラトラ皇帝が帝国暦1000年時点での皇帝に宛てたホログラフの祝賀メッセージが収められているだけで、歴史家以外には興味をそそられない物です。

トモリンの庭園群 Gardens of Tomolin
 宮殿の上半球の各所に点在し、皇族居住区の隅々にまであるのは、スティリクス皇帝が空中庭園に続いて造園した、より小さな庭園群です。
 「トモリンの庭園群」は、スティリクス皇帝が自身の母に敬意を表してその名を付けられました。トモリン皇太后は帝国の植物相の多様性の深い魅力を、息子に教えたのです。
 最初の庭園は951年に、最後のものは955年に完成しました。長年に渡り、この庭園群は孤独を好んだスティリクス帝の癒しの空間となりました。
 全部で57ある庭園のそれぞれは、帝国のどこかの星系の環境を再現しています。スティリクス帝が選んだ美しい自然の星々は、帝国の大自然の多様性と気候の多彩さを示しています。光量、大気状態、温度、昼と夜の周期、その他の要因(夜空の星座なども含めて)は、庭園に移植される星系を詳細に、ほぼ完全に再現しています。
 この庭園群は、1つの平均直径がわずか50メートルの半球状で、天井も高さ10メートルほどと、比較的小さなものです。また再現された環境によっては、庭園の中心に素晴らしい噴水が設置される場合もあります。
 それぞれの庭園では、専任の専門家が再現された環境の管理の責任を負っています。この管理人の地位は、植物愛好家の間では垂涎の的となっています。

皇族居住区 Royal Residences
 誰もが想像するように、大宮殿の中でも在位中の皇帝とその家族が住む場所は、おそらく帝国内でも一番豪奢に飾り立てられ、そして快適な所でしょう。
 ストレフォン皇帝とイオランス妃の間には皇女が1人だけですが、過去の皇帝や女帝には大家族は珍しくなく、多数の様々な部屋が用意されています。全ての部屋は最新の技術によって快適さと利便性が追求されていますが、同時に人の温もりが失われないようにも配慮されています。

大図書館 Grand Library
 皇室が所有している大図書館は、ヴランドのAAB(ヴィラニ全情報保存所)ほど広範囲ではありませんが、皇帝の職務に必要なあらゆる情報を、最新の状態で保存しています。AABは文書の原文や大きな場所を取る人工物など「実物の」収集を行っていますが、大図書館ではホログラフ記録のみに限っているのが両者の大きな違いです。

エシュシャンドラ・マーガレット Eshushandra Margaret
 皇族居住区は同時に、宇宙各地の印象的な芸術の収蔵庫でもあります。
 元々エシュシャンドラとだけ呼ばれていたこの場所は、女帝マーガレット1世の時代に最も輝きを放ちました。元々は有名な作品だけを集めた小さな展示ホールでしたが、彫刻とホログラフ絵画を好んだマーガレット帝の指示によって大きく拡張されました。彼女が亡くなるまでに、エシュシャンドラの展示品数は3倍になり、同時にそれを展示するスペースも広がりました。
 パウロ1世が姉の悲劇的な死(※マーガレット1世はトンネルの落盤事故によって亡くなりました)によって皇位を継承すると、彼は姉を悼んで、彼女が愛したギャラリーの名に加えました。
 それからしばらくは、ホールの収蔵品はわずかに増えただけでした。しかしガヴィン皇帝時代の建国千年祝賀式典(Millennium Celebrations)の一環として、建国千年記念別館(Millennium Annex)がエシュシャンドラの隣に新設され、新たに宝物がそこに陳列されました。その中にはアルベラトラ皇帝のコレクションや、マーティン2世自身が手掛けた第二宮殿のデザイン画も含まれます。
 さらにガヴィン皇帝は、人類以外の種族による作品のコーナーも設けました。ガヴィンの画廊(Gavin's Gallery)として知られるこの一角は、例えばハイヴの絵画やヴァルグルの音波彫刻(sonic-sculptures)など風変わりな展示品が並んでいます。ただし、ゾダーンの超能力絵画は展示されずに収められたままです。

皇族専用格納庫 Royal Docks
 居住区に隣接した、皇室が所有する様々な輸送機器が収められたこの区画は、かなりの大きさです。AOCは常に、どのような車両でもここへ正しく導いています。

アビオニクス・リング Avionics Ring
 宮殿で最も高い場所にある、天窓の周囲のリングは、帝国内でも最高の受動探知システムとなっていて、あらゆる全てのセンサーと、無線やレーザーや中間子による通信システムが設置されています。時として「リング」だけで呼ばれるこの施設は、キャピタル星系全体を恒常的に監視しています。宮殿内の施設では地平線まで見える範囲を、さらに軌道上の施設を組み合わせて全体をカバーしています。
 星系内の全ての艦船(例えば警備中の惑星防衛艦なども)の位置情報はここに送られ、同時に他の惑星の前哨基地にも照会されます。光の速度による避けられない情報の遅れを除き、リングには常に最新の情報があります。
 そして全てのセンサーからの情報を合成した調査結果は、皇室親衛隊の司令室に直接送られます。

皇室親衛隊司令室 Imperial Guard Torus
 アビオニクス・リングの真下に、円環状の皇室親衛隊司令室は位置しています。この施設は高さが25階分あり、親衛隊の11個連隊の指揮と管理を担っています。
 司令室内の一番上の4階分は、SAT-C(Strategic and Tactical Command)と呼ばれる部署が占め、ここで皇帝や軍の最高幹部が皇室親衛隊などに対してあらゆる指揮を執ることができます。また司令室に隣接して、5ヶ所の詰所兼トレーニング施設が宮廷警備の当直員のために用意されています。
 宮殿内には他に、アスラン親衛隊(Aslan Guard)、海兵親衛隊(Marine Guard)、皇帝直属砲兵隊(Imperial Artillery)、皇室騎兵隊(Household Cavalry)の施設があり、大宮殿に常駐しています。

智者の広間 Hall of Wisdom
 大宮殿で最も興味をそそられる部屋の一つが、このラアップウシュ・キイ・メシュクル(Raappuush kii Meshkur)、または智者の広間と呼ばれる、長さ250メートル、幅10メートル、高さ12メートルの通路です。そこには5メートル間隔にある壁龕(※聖なる像などを置くための壁のへこみ)にホログラフ・ディスプレイが備え付けられていて、第三帝国の歴代皇帝の映像が浮かんでいます。また、その像の反対側の壁にはその皇帝の家紋が彫刻されています。広間は映像のかすかな輝きだけで照らされていて、まるで地下室のような趣があります。広間内に椅子は用意されていませんが、壁にはベンチとして使えるような膨らみが設けられています。そしてかつての第三帝国の統治者の前で訪問客が気持ち良く腰掛けることを寛大に許しています。
 広間にある映像は、実は映像以上のものです。それぞれのホログラムはコンピュータと連動していて、かなりの正確さでかつての皇帝の個性を模倣するよう、最先端のシミュレーション・プログラムが働いているのです。プログラムであるがゆえに創造的な考えはできませんが、「皇帝たち」はまるで生きているような仕草を見せ、質問に対する的確な回答で訪問客を驚かせます。例えば、経済に精通していたジャクリーン1世の像は、現在の皇室親衛隊の運営面での問題点を指摘することができました。
 より最近の皇帝であればあるほど、より正確にシミュレーションを動かすことができますが、運用規定により、現皇帝の像の起動は本人の死後でなくてはならないと定められています。よって、ストレフォン皇帝の像だけが現在はありません。

謁見の間 Leshandi Mekharm
 玉座へ向かうには、レシャンディ・メカラム(長い広間)を通る必要があります。この通路は、長さ100メートル、幅20メートル、高さ25メートルあり、深紅色の広い自動歩道がホールの入口から玉座のある八角の間まで続いています。アーチ状の天井は無数の文様や絵画で彩られ、自動歩道の両側にはキャッツアイ星系(ソロマニ・リム宙域 1406)で産出された水晶の柱が立ち並び、それらは青白く輝いて広間の照明となっています。
 そして柱の上部にはプラチナのポールに吊るされた旗がひるがえります。広間の右側の柱の旗には帝国内の20の宙域の紋章が、対する向かい側の旗にはその宙域公爵家の紋章が描かれています。

八角の間 The Octagon
 大宮殿の玉座の間は、約20メートルの大きな八角形の部屋で、さらに高さ25メートルの半球型の天井が付いています。ドームの中心から差し込む光は、八角の間全体を照らすように調整されています。
 部屋の中央に、三角形の大理石の壇が用意され、その上にクレオン1世の代から伝わるイリジウム玉座があります。輝く玉座の後ろには3本の旗があり、1つは現皇帝の紋章、1つは現皇帝の配偶者の家の紋章、そして玉座のちょうど背後には、両側の旗の2倍の大きさの、誰もが知る帝国の黄金日輪旗(Imperial sunburst)が掲げられています。
 玉座や旗のさらに後ろの大部分はホログラフ・ディスプレイとなっていて、映像ライブラリにあるどのような映像でも表示することができます。特に流す映像がない通常時には、大宮殿から見える現在のクレオン市の映像が流されます。
 謁見の間と繋がっている部分には、大きなホログラフ映写機が設置されています。これは、皇帝の裁定を必要とするものの、第三帝国の巨大さゆえに実際にキャピタルまで出向くことができない大部分の貴族のために、ホログラフによる「謁見」を実現するためのものです。最先端のプログラムを用いて貴族や帝国市民は皇帝への嘆願を記録し、コンピュータは訴えたいことの「穴」がないかどうかを確認します。これを繰り返して完全な物が出来上がると、記録されたホロクリスタルはキャピタルへと送られます。そして皇帝は、智者の広間の皇帝像と同じように嘆願者と「対話」しながら決定を下せるのです。ほとんどの場合で、メッセージに記録されたもののみで採決に必要な情報は十分整っています。

イリジウム玉座 The Iridium Throne
 八角の間の中央に鎮座するイリジウム玉座は、わずかに細長い半球状(涙滴型)をしていて、長時間快適に座り続けられるように広い範囲に詰め物がなされています。表面は磨きがかけられ、ドームの天井から落ちてくる光によって白い金属光を放ちます。
 クレオン1世の最初の宮殿では、合金にプラチナメッキをした丈夫さと優雅さを兼ね備えた玉座でした。マーティン2世の第二宮殿へも当然その玉座は移され、第二宮殿が破壊されると、玉座の残骸(元通りにするには限界を超えていました)はアルベラトラ大宮殿に持ち込まれました。ここで玉座は改修とともにいくつかの修正も行われました。
 左側の肘掛けには小さな制御盤が備え付けられ、皇帝の指先で簡単に制御できます。これにより、玉座は謁見の間の方向以外にも八角の間のあらゆる方向へ向けることができます。また惑星内の通信ネットワークへの接続や、八角の間のホログラフ・ディスプレイへの投影、宮殿のコンピュータへの完全なアクセスもできます。

宮殿付属施設 Companion Structures
 大宮殿には三連宮殿、パウロ離宮、トムトフ宮殿といった施設が付随し、それらは大宮殿の付近で浮遊しています。これらは様々な理由により建設されました。皇宮の美しさと威厳は、これらの多くの「球」との構成によって、さらに高められています。

三連宮殿 Consortium Trinary
 三連宮殿は、大宮殿落成の100周年を祝うために、マーガレット1世によって729年に建設されました。3つの「球」は第一、第二、第三の帝国を表し、それぞれ各帝国時代の博物館(歴史家のための研究施設)となっています。博物館は年に数日だけ一般公開されますが、それ以外の日は学者が歴史の品々や文書を好きなだけ研究することができます。

パウロ離宮 Paulo's Annex
 740年に建設されたパウロ離宮は「娯楽の宮殿」です。内部には遊び尽くせないほどのエンターテイメントや、様々な環境でのスポーツが楽しめる運動競技場があり、長年に渡って皇族や貴族たちの憩いの場として用いられています。
 また、ここは帝国最大のスポーツイベントの開催地でもあり、10年に1度、帝国中から運動選手たちが「皇帝杯競技会(Emperor's Games)」に出場するためにキャピタルに集い、この離宮で様々な競技が行われています。

トムトフ宮殿 Tomutov's Palace
 付属施設で最後に建設されたのがこのトムトフ宮殿です。トムトフ皇帝は767年に帝位に就いたものの、宮廷内の権力闘争と「冠の重さ」に耐え切れず、翌768年に退位しました。一部の歴史家はトムトフの弱さを指弾し、一方で別の歴史家は彼が政治を「ゲームとして」見ることができなかった正直な人物であったと擁護しています。
 そのトムトフは多額の財産を持っていました。彼は個人的な邸宅を皇宮公園の上空に建設するよう依願し、宮殿内には広大な運動場やレクリエーション施設、画廊などが造られました。これは貴族院で最も裕福な者の邸宅よりも、さらに快適で優雅だと人々に思われるほどでした。
 トムトフの死によって、邸宅は帝国に寄贈されました。その後このトムトフ宮殿は、大宮殿を訪れる最も重要な訪問客の宿舎として用いられるようになりました。最高で200人の賓客を最高級の快適さでもてなせるように、内部は宿泊施設として区分けされました。

貴族院議事塔 Moot Spire
 皇宮公園内にある議事塔はキャピタルで最も高い建築物で、高さは1750メートルもあり、貴族院はここで議会を開きます。慣例上、議事塔は4.25km離れた大宮殿を見下ろすことができる唯一の建物とされています。
 重力補正装置付きのエレベーターは、訪問客をわずか18秒で地上から最上階まで運ぶことができます。議事塔のその最上階では貴族院の最高会議が開かれ、特別議員が非公開の審議を行っています。
 議事塔の地上から35メートルほどを占めているのは、「貴族たちの大広間(Great Hall of Nobles)」です。この広大なホールは帝国中の観光客に人気があり、彼らは自分たちの世界の貴族の展示を見たり、星系図のホログラフ表示に「触れたり」することができます(このホログラフは詳細な地形を見るために自由に拡大縮小ができます)。またこの装置で歴史や文化に関する立体番組を呼び出すこともできます。
 議事塔の下から3分の1ほどにある地点には、エアラフトの発着場があります(当然ながら皇宮に近いこの空域はAOCの管制下にあります)。また独自の地下交通網も持っており、議事塔から直接、皇宮公園内の他の地上施設へ向かうこともできます。
 議事塔内の見学会は定期的に行われ、見学者は貴族院の様々な議題の公開審議を傍聴席から見ることができます。なお、貴族院の招待がなければ、たとえ皇帝一族でも議事塔内に立ち入ることは許されません。

皇宮公園 Imperial Park
 皇宮公園はクレオン市の中心部に位置し、周囲を低層ビル群に囲まれています。公園は長辺約11km、短辺約5kmの楕円形の緑地で、アルベラトラ大宮殿、クレオン1世大宮殿、貴族院議事塔、三日月湖(第二宮殿の墜落跡)の他に、迎賓館、クレオン1世陵墓、マーティン2世陵墓、ポート・アドラエシア記念館、アルカリコイ家邸宅、レントゥリ家邸宅、ズナスツ湖(Khurmiidad Zhunastu)、「夢にまで見る宿敵(Enemy of Dreams)」の像(皇帝暗殺を題材にした彫刻)などが敷地内にあります。

(※現在の皇宮公園の外観についてはこちらのイラストが参考になります)


【ライブラリ・データ】
シレア人 Syleans
 シレア人はシレア(現在のキャピタル)で進化した群小人類です。太古種族はテラから連れてきた人類の祖先を、惑星シレアに単に「放置」したと考えられています。そのためか、シレア人は身体的にはこれといった大きな特徴を持たず、むしろ「普通」の人類であることが特徴と言ってもいいかもしれません。強いて言えば、シレア人の過半数は左利きであることと、純血のシレア人にアルビノ(色素欠乏)が発生しやすいことぐらいです(確率10%程度)。
 -12500年頃から古代文明を築いていたシレア人は、-9100年頃にヴィラニ人に発見され、当初は独自の文化を保持しながらヴィラニ人商人との交流が進められましたが、-8000年頃には惑星の最大王朝がヴィラニ人に征服されたり、ヴィラニ人のシレアへの入植が始まるなどして、「ヴィラニ化」が進みました。一方で少数のシレア人が山岳地帯に独自の文化と血統を守りながら、数千年間隠遁生活を続けました。
 ヴィラニ帝国の崩壊とソロマニ人による「解放」を経て、シレア人はヴィラニ人の来訪以前の独自文化の再興に取り組みました。既にシレアのほとんどの人々はヴィラニ人やソロマニ人との混血が進んでいましたが、古代文明の遺跡などから自分たちの文化を「継承」しました。現在ではシレア文化を継承した人々は帝国各地(リムワード方面には少ないですが)に存在し、帝国の端のモーラ(スピンワード・マーチ宙域 3124)にもシレア人のコミュニティや、シレア大学モーラ校があるほどです。
 シレア文化の復興において、宗教は重要な役割を果たしました。-1866年にほぼ完全な状態で発掘されたマール・キ・ゾン(Maar Ki Zon, 道の書)は、古代王朝期の主要宗派の経典と思われました。それが(当時の)現代シレア語に翻訳されると、シレアの民族主義者の人気を集め、組織化された宗教運動が盛り上がりました。「道の書」は言語学的に偽書である可能性も指摘されていますが、いずれにせよこの書物は、暗黒時代のシレア人にとって道徳や哲学の面で「望まれていた」ものでした。結果的に民族主義と信仰が驚くほど固く結びつき、シレア人の新たな指針が生まれたのです。
 「道の書」の信仰者はラン・キ・ゾン(Lan Ki Zon)もしくは「求道者(Followers of the Way)」と呼ばれています。彼らは現在もキャピタルに存在し、古くからのシレア文化を守る役割を果たしています。

帝国貴族院 Imperial Moot
 男爵位以上の全ての帝国貴族によって構成される貴族院は、法的には帝国の最高機関とされています。しかし実際にはその権限は大きく制約されており、貴族院の決議は皇帝への「進言」程度なのが実情です。
 また貴族院には、新皇帝の任命という重要な役割もあります。皇帝の死去や退位、もしくは何らかの理由で皇帝に不適格であると判断された場合は、貴族院は皇位継承者たちの資格を審査するのです。
 なお帝国の広大さゆえに、全ての貴族院議員がキャピタルの議事塔に集まることは不可能です。遠方の貴族は、委任状を他の貴族に託すのが通例となっています。

ランサー Ranther D539598-5 低技・非工 G
 ランサーは、高い湿度と巨大な樹木で有名です。惑星の低重力と豊かな土壌は、樹木を途方もない大きさに、高さ300メートル以上、幹の直径は20~30メートルにまで成長させます。樹木は湿気を大量に大気中に撒き、それによって惑星の気候はあらゆる種類の植物にとっての温室となります。
 ランサーの住民にとって残念なことに、これだけの大きさの樹木を伐採し、大量に恒星間市場で売りさばくための技術力を彼らは持っていません。その一方で、惑星の人口増大に伴って耕地の需要が逼迫していますし、ランサーの独特な農業に適した環境は開発次第では大きな利益を上げる可能性も見せています。そこで住民たちは、帝国企業のゼネラル建設社(General Construction LIC)などの助けを借りて、惑星の開拓を模索しています。
(※この星系はTraveller Wikiなどではフォーイーヴン宙域の2214地点にあることになっていますが、これはFree Sector宣言がなされているフォーイーヴン宙域が、The Journals of the Travellers' Aid Society誌に掲載された「場所の記載のない」星系を「ここにあったことにする」使い方もされているからです。このランサー星系の設定はJTAS誌6号に掲載されたアンバーゾーン「Loggerheads」(和訳版はタクテクス誌22号掲載)に準じたものですが、DGPではどうもこのランサーが帝国内にあることにしてイグドラシルの設定を起こした節があります(確かに帝国の祝賀式典に使われる物を遠方の国外から輸入するというのも考えにくい話です)。今回はどうとでも解釈できるように、あえて場所の特定は避けました)


【参考文献】
・Travellers' Digest #9,#10 (Digest Group Publications)
・GURPS Traveller: Humaniti (Steve Jackson Games)
・MegaTraveller: Imperial Encyclopedia (Game Designers' Workshop)
・Knightfall (Game Designers' Workshop)
・Journals of the Travellers' Aid Society #6 (Game Designers' Workshop)
・Tactics #76 (Hobby Japan)
・Traveller Wiki
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