宇宙の歩き方

The Astrogators' Guide to the Charted Space.

宇宙港 ~未知への玄関口~ 第1集:宇宙港の形式

2022-03-09 | Traveller

「人生で初めて宇宙港を訪れた時の事を忘れる者はいないだろう。慌ただしく行き交う見知らぬ人々、漂う新鮮な香り、リフトに乗せられた貨物コンテナ、鳴り響くアナウンス、そして沢山の宇宙船――、宇宙の広大さと多様性を感じるには、港で宇宙船を見るのが一番だと思う」
「帝国に仕えようと志す者に私が勧めるのは、とても簡単なことだ。宇宙港でしばらく過ごしてみれば、数時間の観察で何年もの座学よりも多くの事を学べるだろう。なぜ我々の帝国に守るべき価値があり、何びともそれを脅かすことは許されないことを」
――アンタレス大公ブルズク


 宇宙港はSFゲームにおいて、宇宙船に次ぐ重要な存在です。単に船が接舷し、プレイヤーキャラクターが降り立つだけの場としてではなく、その星と文明の最初の接点になるのです。多くのシナリオでは、プレイヤーキャラクターは宇宙港から出ることなく、燃料を補給して新しい貨物を積み込んで出港するだけかもしれません。レフリーとしても、キャラクターを安全な宇宙港からどうにか出して、危険な荒野や街角に向かわせようとあれこれ画策します。
 しかし、宇宙港はそれぞれ個性を持っています。氷の惑星には氷を利用した宇宙港がきっとあり、技術水準(TL)の低い辺境宇宙港では荷役獣がコンテナを引っ張っているかもしれません。切り立った渓谷の奥、大河の中洲、高山の台地、大都市の中心、海上の人工島、異種大気の地下、ガス惑星の軌道――それぞれ宇宙港の形は変わってきます。宇宙に同じ星が無いように、同じ宇宙港も無いのです。そして時には冒険や事件の舞台となりえますし、宇宙港で働くこと自体がロールプレイの題材としての可能性を秘めてすらいます。
 この連載では、これまであまり重視されてこなかった宇宙港の設定を掘り下げ、あなたの旅と冒険がより「楽しく」「豊かに」感じられるよう、その助力ができたらと思います。


「貿易航路が帝国に血液を供給する毛細血管だとしたら、宇宙港はその血管の弁にあたります。順調な時には気づかないものです、それが無くなると血があちこちに流れてしまったり、詰まってとんでもないことになってしまうことに」
――宇宙港港長タイラー・ヘクセ


 宇宙港の繋がりほど、帝国の強大な力を示す象徴はありません。光り輝く巨大都市であれ、辺境の小さな拠点であれ、宇宙港は帝国の境界とその領有を示しています。そして宇宙港は銀河経済の結節点であり、既知宇宙を横断する商人や旅人の立寄り先であり、無数の旅の起点と終点であり、超富裕層への階段と社会的弱者への奈落でもあります。
 それら全てが宇宙港、銀河宇宙への入り口なのです。

 第三帝国の宇宙港のほとんどは帝国商務省傘下の宇宙港務局(Starport Authority, SPA)によって管理されています。港務局の指導の下で宇宙港の規律と技術が一定に保たれ(例えば、帝国の宇宙港は全てTL12以上で建設されています)、港が効率・安全・公平に運営されることで、星系間の移動はより安心して行えるものとなっているのです。
 宇宙港とその種類は千差万別なため、港務局では都市国家に匹敵する規模のAクラスから辺境のただの着陸床に過ぎないEクラスまで、宇宙港を5段階に区分けする制度を設けています(※一級宇宙港、二級宇宙港……とする分け方もあります)。一般的に宇宙港には「軌道港(Highport)」と「地上港(Downport)」の2種類があり、軌道港は惑星軌道上で非流線型宇宙船に燃料補給や整備などを提供し、船員の息抜きや新しい商談の場を設ける施設です。地上港は惑星地表(場合によっては地下)にある宇宙港で、小規模港はこの地上港しかないことが多いです。そして地上港の周辺には「宙港街(Startown)」と呼ばれる、港から生ずる経済的利益を求めて様々な企業や商店や住宅が寄り集まる街区がしばしば出現します。宙港街には宇宙港本体と連携した綿密な計画のもとに建設された都市から、法も秩序もない荒れ果てた町まで様々です。
 港務局は帝国内の宇宙港を所轄し、同一の原則と規則で運営することを保証しています。とはいえ、それぞれの宇宙港には独自の個性と特徴があり、それによって様々な冒険の機会が生まれているのです。

■宇宙港等級
 前述した通り、港務局は宇宙港の規模・設備などに応じて5段階の宇宙港等級(Starport Classifications)に分類しています。あくまで目安であるため、ある一分野の施設だけ上(や下)の等級と同等のものが備わっている場合もありますし、天災や戦争などの理由により機能が低下している場合もありますし、星系内の事情によって宇宙港自体が一時的に(もしくは無期限で)封鎖されていることもありえます。Aクラスだからといって賑わっているとは限らず、無謀な設備投資による閑散とした港であるかもしれないのです(※そのため、宇宙港等級が実態を表していないとの批判もあります)。
 宇宙港等級はあくまで帝国港湾局の指標ではありますが、帝国偵察局(IISS)やトラベラー協会(TAS)発行の星図では便宜上、無所属中立星系や他国領にある宇宙港の分類にも用いられています。


「そりゃ公式には宇宙港のトップなら誰だって港長を名乗れるようになってるけどよ、ここには俺とエリーとザックしか居ねえんだから、他所のあばら家――ああ、Eクラス宇宙港のことな、そこらと同じように俺は『チーフ』と呼ばれてる。それに、エリーに俺のことを『港長』と呼ばせようとしたら、きっとここから蹴り出されちまうよ!」
――「チーフ」ことEクラス宇宙港港長デニス・マックイーン


Eクラス宇宙港 Class E Starport
 真の意味での辺境港であり、貿易路の末端からも外れていることが多いEクラス宇宙港は、「宇宙港」の体裁すら整っていないのが常です。言い換えれば「指定された着陸地点」でしかないのです。このクラスの宇宙港には数隻の小型宇宙船の「置き場」(整地しただけの地面)があり、最大に整地がなされていても1000排水素トンの船までしか受け入れられません。そして、開港当時から建て替えられていなさそうなプレハブ(pre-fabricated)建築や、現地の資材を集めて作られたような単純構造の建物が宇宙港の「管制塔」として設置されています(場所によっては誘導ビーコン等で無人化されていることもあります)。
 XT線(治外法権境界線)も建設当初こそ金網や港務局規格の金属板が敷地を囲うように埋め込まれていますが、やがては石や材木などで雑に補修されていくのが常です。とはいえどんなに粗末なものであっても、このXT線は帝国(および港務局)の権限の境界を示すものとして重要なことに変わりありません。
 (在籍しているのであれば)宇宙港に関する全ての職務は港長と片手で数えられる部下たちだけで請け負っています。職員は一般的に様々な役割を同時に受け持ち、港長自らが税関と通信と警備を担っていることも珍しくありません。
 Eクラス宇宙港では着陸管制はほとんど行われません。同時に着陸が行われるようなことが仮にあれば「早い者勝ち」となります。職員が通信で着陸時の注意点を教えたり誘導灯を着けたりはしますが、それ以上は望めないので荒天での着陸は危険が伴います。
 ちゃんとした格納庫のあるEクラス宇宙港は稀で、貨物というより郵便物を保管するための簡素な倉庫がある程度です。その容積も数百排水素トンの単位になることはほとんどありません。腐食性などの異種大気の世界だとさすがに安っぽくても格納庫が用意され、管制室との出入りのためにエアロックが設置されています。そして管制室には職員全員分に加えて予備の宇宙服が数着用意されています。
 Eクラス宇宙港では補給や整備のための施設はまず置かれていません。その代わりとして職員が地元の人を紹介したり、宇宙港が水場に隣接して拓かれていたり、港の片隅に廃棄された宇宙船の屑鉄の山が積まれていたりするのです。宇宙港ではなるべく緊急用の部品や消耗品があるように努めてはいますが、切らしている時は外世界から取り寄せる必要があります……それをどうやって伝えるのかは別として。
 たまにEクラス宇宙港には売店や立ち呑み屋がありますが、これは地元住民の矜持や饗しの気持ちから用意されているものです。それが無い場合でも、職員が雑談や忠告(現地の習慣や法律など)のついでに飲み物の一つでも出してくれるかもしれません。宿泊に関しては、最寄りの街まで出向く必要があります。
 Eクラス宇宙港はえてして辺鄙な場所に置かれているため、武器の所持規則は緩い傾向にあります。辺境では自分の身は自分で守るのが当たり前であり、宇宙港職員も訪問客がよほど不審な行動を取らない限りは黙認します。

Dクラス宇宙港 Class D Starport
 誰の目にも明らかに「宇宙港」だとして認識される最小規模のものが、このDクラス宇宙港です。EクラスとDクラスの差は、適切に舗装された着陸床と低純度のみとはいえ燃料補給設備の存在です。着陸床は世間で思われているよりもずっと大きく、十数個ある着陸床の少なくとも1つは2000排水素トンまでの宇宙船を着陸させ、格納庫に収容することができます。残りは200トン以下の小型宇宙船用と500排水素トン以下の中型宇宙船用のものが混在していて、いくつかには格納庫も付いています。また、反重力化されていない(垂直離着陸できない)機体のために滑走路が用意されていることもあります。
 Dクラスからは宇宙港の外観も管理もしっかりしたものとなり、金属製フェンスやコンクリートの壁などで明確にXT線を示すようになります。着陸を希望する宇宙船は接近時に宇宙港に連絡を入れた上で管制に従わなくてはならず、停泊料も必ず課せられるようになります。一般的に荷役を担当する宇宙港職員はいても1人か2人のため、大型・大量の貨物を下ろす(上げる)には臨時で経験者を雇わなければ遅延が発生するかもしれません。
 宇宙港内では簡単な修理を行うことができますが、大抵整備員は1名しかいないので発注してすぐ作業に取り掛かってもらえるとは限らず(むしろ自分でやった方が早いかもしれません)、修理費は1割ほど高くつきます(Eクラスのように屑鉄を積んでいる所もありますが、避けた方が懸命です)。なぜならDクラス宇宙港は建設目的からして特定の目的(観光や工業)のために特定の定期便(客船や貨物船)を扱うことに特化している場合が多く、不意の需要に対応できるとは限らないからです。同様に、港内施設が特定の観光客や企業関係者専用に作られていて、一般客は立ち入れない場合もあります。
 このクラスの宇宙港には軽食や立ち呑みの施設が付属していることが多いですが、宿泊に関しては(近隣にあれば)宙港街の安宿か最寄りの街まで出向く必要があります。

Cクラス宇宙港 Class C Starport
 このクラスになると随分「宇宙港らしく」なってきます。Cクラス宇宙港は小さいながらも定期的な流通・交通があり、輸送商船から自家用ヨットまであらゆる船に対応する設備を備えています。前述の小規模港よりも遥かに堅固で賑やかな印象があり、商人や地元住民たちの基本的需要を満たす以上のことができ、雇用を求め、会議を開き、取引を行う場でもあります。宇宙港の質の当たり外れがなくなり、安心して頼ることができるようになるのがこのCクラスからです。
 典型的なCクラス宇宙港には50~100の着陸床があり、そのうちのいくつかは5000排水素トン級の船を扱える大きさです。ほとんどの着陸床には格納庫があり、異種大気の世界ではそれらは密閉されて船と乗組員の双方が安全に出入りできるようにエアロックが装備されています。そして大気のある世界では滑走路が併設されていることもあります。
 このクラスの宇宙港には正式な管理施設が用意され、飛行・交通管制や税関業務など重要な職務が担われています。そして港のより進歩した通信網とレーダー網によって複数の宇宙船の同時管制が可能となっています。XT線の管理はより厳格になり、警備部門によって常に監視されています。
 Cクラス宇宙港では低純度燃料が無制限で供給されます。高純度燃料を入手できることもありますが、在庫には限りがあります。貨物の取り扱いは効率的になりますが、危険物を扱う際には遅滞することがあります(※経験のある作業員不足や安全対策で港外での作業を強いられるためです)。修理施設は5000トンまでの宇宙船の予備部品を在庫を切らすことなく保持していますし、仮に切らしていても数日後には入荷されます。
 約半数のCクラス宇宙港には軌道港が備えられていますが(※TL8未満の星には無いようです)、これらは単なる非流線型宇宙船用の補給・修理施設に過ぎません。恒久的な軌道上施設ではなく、タンカー船が周回している場合もあります。いずれにせよ地上港とは連絡シャトルで結ばれていて、行き来が可能です。
 旅行者の増加に伴い、Cクラス宇宙港は民間業者にとって魅力的な場となっています。通常は何かしら必要十分な宿泊施設や飲食店、乗組員向けの娯楽施設が併設されています。また、大手との競合を避けたい星域規模程度の運輸・流通企業は、Cクラス宇宙港に支社や営業所を置いていく傾向があります。
(※宇宙船の修理に関する設定が基本ルールから変更されていることに注意してください。おそらくCクラス以下で修理する術がないというのは厳しすぎるからではないかと思われます。また、最近ではCクラス宇宙港でも小艇の建造を可とする設定も見受けられます)

Bクラス宇宙港 Class B Starport
 この規模の宇宙港は、星系・惑星経済の中核となっていることが常です。Bクラス宇宙港の多くはその星の主要都市(たいてい首都)に近接し、そこには様々な形や大きさの着陸床が置かれて、それぞれに専用の荷降ろし施設を備えた格納庫があります。Bクラス宇宙港はそれ自体が一つの街と言うに十分な大きさで、地元住民に加えて多数の訪問客が行き交う場となります。
 Bクラスに分類されるためには、少なくとも高純度燃料を実質無制限に供給できる必要があり、非恒星間宇宙船や小艇を建造できる造船所も備えていないとなりません。これは同時に優れた(補修部品の在庫を気にしなくていい)修理・整備施設があることを意味し、大規模な改造を除けばあらゆる修繕に対応します。敷地面積に規定はありませんが、一般的なBクラス地上港は少なくとも10平方キロメートルはあり、様々な地下施設も存在します。さらに地上港と大体同面積の宙港街も周辺に形成されています。一般的な恒星間運輸企業は、このBクラス以上の宇宙港に営業所や支店を構えています。
 Bクラス宇宙港には9割方軌道港も付随していて、地上との間で定期連絡シャトルが運行されています。軌道港は大型船が補給や修理を行い、乗組員がわざわざ地上に降りなくて済むような娯楽施設をも含む規模があります。高度な衛星通信網を駆使して絶えず出入港する船と連絡を取り合い、管制官と交通管制システムの組み合わせによって安全性と信頼性が高められています。
 C・Dクラスの小規模港と異なってBクラスともなると、宇宙港自体が様々な商業活動の拠点となりえます。これは地元経済(と港務局)の大きな収入源となるだけでなく、訪問客が単なる通過点としてではなくより多くの物事を行うようになります。高級な宿泊や食事の施設、カジノや劇場といった娯楽設備を備えたこの規模の宇宙港は、それ自体が観光や休暇の目的地となりえるのです(ただし旅客数の少ない工業世界ではそういった要素を省いて運搬の効率化を優先しているかもしれません)。
 一方で経済規模の大きさゆえに組織犯罪に悩まされる宇宙港も存在します。収益性が高い上に安定した「カモ」の供給があるため、あらゆる違法行為にとって魅力的な環境でもあるのです。よって宇宙港の警備部門は、違法行為の抑止と摘発のために日夜様々な努力を重ねています。

Aクラス宇宙港 Class A Starport
 艦隊をも収めることができるAクラス宇宙港は、まさに星間交通の結節点です。実際、多くのAクラス宇宙港はその主要世界よりも有名であり、毎日何千何万もの旅行者や商人が訪れる主な理由にもなっています。そしてここは、乗り換え便待ちの旅行者だけでなく、船上での仕事を求める者や、未知に挑もうとする冒険者たちが出会う場でもあります。
 宇宙港がAクラスに認定されるためには、軌道港と地上港の双方を備え、高純度燃料を無制限に供給し、恒星間宇宙船を建造できる造船所を備えなければなりません。必然的にそのような重厚な施設を収容・維持するためには、膨大な量の貿易と旅客を扱えるだけの組織と財源が必要となります。Aクラスともなると、その星系の経済規模すら越えることもあります。
 巨大なAクラス地上港の輝きは、まるで星々に掲げられた燭台のようだと詩的な旅人たちに称され、冷たく果てのない宇宙空間から異邦の人々を招き入れているのだと言います。地上港には必ずと言っていいほど宙港街が付随し、旅客や商品の流通によって支えられている企業や住民が多数入居しています。そして宇宙港を中心とした巨大な都市づくりが成されていることも珍しくありません。
 何百もの大小様々な宇宙船がひっきりなしに出入りしているAクラスの巨大軌道港は、一見の価値ある光景です。そして最先端の管制制御システムがこれら無数の船に正確な情報を提供し、事故や長時間の滞留とは全くの無縁です。考えうるあらゆる形や大きさに合わせた着陸床が完備され、格納庫とエアロックも当然あり、危険な貨物の積み下ろしでも素早く安全にできるよう対応されています。
 Aクラス宇宙港の修理施設では補修部品の供給はほぼ無制限かつ安価なのですが、これは熾烈な事業者間競争と際限のない需要の相互作用によるものです。宇宙港内の民間造船所では小艇から巨大軍艦までありとあらゆる宇宙船が建造され、新造船だけでなく再整備船や中古船の売買も盛んです。また、船主の好みに応じた改造にも応じられます(そして船主への活発な売り込みも――)。
 宇宙港内の施設は大都市に匹敵するどころか時に凌駕します。派手できらびやかな演劇から歓楽街の怪しげな酒場まであらゆる種類の娯楽が提供されていて、探し方さえ知っていれば驚くほど色々なものが見つかります。宿泊施設も充実していて、質の割に意外と安価だと言われるのですが、これは多くのホテルが巨大カジノを併設していてその利益から部屋代を割り引くことができるからです。もちろん一泊で1万クレジット以上もするような最高級の部屋もあり、旅行客はそこでは銀河交易の中心ならではの料理に舌鼓を打ち、格別なサービスを受けることができます。商店も高級店から量販店まで様々です。
(※何事にも例外はあります。『トラベラー・アドベンチャー』のアラミスや『黄昏の峰へ』のフューラキンのように軌道港を持たないAクラス宇宙港もありますし(宇宙港の設定が整備されてない時代の作りなのでやむを得ませんが……)、地上港と軌道港に等級の格差がある設定も、全く問題はないのです)

Xクラス Class X
 主に無人惑星などで規定された着陸地点がない場合は、分類上「Xクラス」とされます。また、既存の宇宙港が何らかの理由で長期的に閉鎖されたり、完全に機能停止に陥っている場合もXクラスと表記されることがあります。いずれにせよ、Xクラスは「立入禁止星系」であることとほぼ同義です。

■様々な宇宙港
地方港 Spaceport
 星系内の主要世界以外の惑星に建設された、系内交通を扱う宇宙港を「地方港」と呼び、その規模や質を「F・G・H」の3段階で表します。設備内容はFクラス地方港がCクラス宇宙港相当、GがD相当、HがE相当と考えると目安になります。
(※F・G・Hクラスを用いずに初めからC・D・Eで表記している星図もあります)
 地方港は港務局の管轄外であり、運営は星系政府(や企業)が担っています。そのため本来は規約や質は千差万別のはずですが、帝国内では港務局管轄宇宙港と大差ないと考えて構いません。
 恒星間宇宙船は通関の都合上、緊急時でもなければ星系外から直に地方港には乗り入れないため、地方港に向かう旅客や貨物は一旦主要港で乗り換えることになります。なお、主要世界内に複数の宇宙港があっても、それが地方港であるとは限りません。テラ星系(ソロマニ・リム宙域 1827)のように港務局が複数の宇宙港を管轄していることもあるのです。一方で人口が各地に分散して居住している星系の場合、軌道主要港を中核拠点として、各地方港が地上港の役割をしていることもあります。

私設宇宙港 Private Starport
 一個人や一企業が宇宙港を所有するには多額の資金が必要なため、一般的に困難ではありますが不可能ではありません。現実に、有力貴族が邸宅から出仕するためだけに専用の宇宙港を建設したり、(庶民との交流を望まない)超富裕層のみの住宅区域に併設されたり、機密保持のために企業研究所関係者のみが出入りを許される宇宙港もあります。いずれにせよ、広く一般に開放されている宇宙港は私設宇宙港とは呼ばれないのです。
 私設宇宙港の規模はEクラス相当がほとんどで、Dクラスすら珍しいです(稀に惑星環境の保護などの理由で軌道上に置かれる例外はあります)。ただし、私設宇宙港の周辺警備はその規模に似つかわしくなくBクラス相当にまで引き上げられていることが多いので、不用意に近づけば警告の後で発砲を受けるかもしれません。
 当然ながら私設宇宙港は港務局の管轄外であり、一般的な星図やUWPコードに記されることはまずありません。

経由港 Transit Port
 主に経由港は貿易の旨味に乏しい低人口星系に置かれ、主要航路を行く貨物や乗客の移動を円滑にするために存在します。経由港は大量の船の往来をさばいていますが、通過点に過ぎないその星とやり取りされる貨物や乗降客はほとんどありません。
 余談ですが、労働力は人口密集地からの出稼ぎに頼らざるを得ないため、運用経費は高く付く傾向があります。

外縁港 Farport
 経由港の別形態で、有人惑星から遠く離れた空間に設置された軌道複合体です。燃料源となる巨大ガス惑星の周回軌道や、主要惑星のない伴星系に置かれたものを指します。
 超光速航法の仕組み上、巨大恒星(や複数の恒星)がある星系では宇宙船は遠く離れた空間にジャンプアウトを強いられます。そこから主要世界まで長い時間をかけて移動するのが(物理的に・経済的に)無駄に感じられる際に、この外縁港が建設されます。

深宇宙施設 Deep Space Station
 恒星のない深宇宙空間(※つまり星図に何も書かれていないヘクス)に置かれた宇宙港施設のことです。ジャンプブリッジとも呼ばれ、通常の手段では結ぶことのできない2星系間を行き来するための補給拠点(Calibration Point)となっています。歴史的には、恒星間戦争初期に地球連合がジャンプ-3を要した「シリウスの空隙(Sirius Gap)」を突破するために設置し、ヴィラニ帝国に衝撃を与えたものが有名です(※そもそも地球人はバーナード星への初飛行の際にも同様の手段を使用しています)。
 この種の補給拠点は戦略的に重要なため、存在自体が秘匿されたり、暗号コード等で許可された宇宙船のみ寄港させることがあります。一方で公に利用されているものとしては、プレトリア星域(デネブ宙域)の33星系をジャンプ-1で結ぶために設置された2か所の「ブリッジ」があります。

■基地
 軍事基地も一種の宇宙港と言えます。海賊行為を抑止して「安全地帯」を作り出す軍事基地の存在は、宇宙港と同様に貿易にとって必須のものです。さらに、帝国が海軍や偵察局の基地を設置することは「帝国がこの星系を重視している」という意味で、地元住民からの誇りと好感を引き出すものでもあります。地元の人々は兵士たちを我が子のように思い、様々な飲食店や小売店が基地関係者向けに提供されています。
 基地司令官と宇宙港港長はたいてい密接な協力関係にあり、それを維持するための連絡係を設けています。なお、自給自足が大前提である軍基地の中でも造船能力だけは宇宙港に依存しており、他国との緊張が高まったり紛争状態に陥った際には、海軍基地司令官は民間造船所を管轄下に置いて軍艦艇を建造させる権限を持っています。
 海軍と偵察局は独立した基地だけでなく、宇宙港内に常設施設を持っていることもあります。そこでは専用の燃料補給施設や、軍人がくつろぐための娯楽施設が置かれています。また、平時では最寄りの宇宙港に物資を供給する役割も基地は担っています。

偵察局基地 Scout Base
 偵察局基地は、偵察艦の燃料補給や修理・定期整備を行う場であり、命令で危険な任務に挑む局員たちの安全で快適な帰還場所でもあります。偵察局基地はCないしDクラス宇宙港の開発途上星系に置かれる傾向がありますが、AやBクラス宇宙港の星系にもあります。基地は初めのうちは設置と撤去が容易になるように工場製の仮設施設が置かれますが、長い年月を経て恒久化されると現地で入手できる資材で増改築が繰り返され、各基地独特の個性が生まれていきます。
 現場の「最前線」に赴いた偵察艦はしばしば損傷して帰還するため、全ての偵察局基地は小さくとも修理施設を軌道上に持ち、そこには地上からのシャトル(や物資)が到着するまで乗組員を待機させる設備があります。

 一方でXボート施設(Xboat Station)は同じく偵察局管轄の基地ですが、星系外から来たXボートを受け入れ、それが運んで来た通信を受領しては惑星に送信し、補給と簡単な整備の後にまたXボートを送り出すために存在しています。通常、Xボート施設は恒星や巨大惑星の重力井戸を避けて星系端に置かれ、そこから無線や光線で多数の通信を主要惑星上の支局とやり取りしています。この支局は多くの場合宇宙港にありますが、宇宙港が星系の外れにある場合はその星系の中心都市に置かれます。
 また、大規模なXボート施設として「整備施設(Way Station)」があります。ここではXボート自体に決して不具合が起きないよう徹底した整備が行われています。
(※Way Stationは従来「中継基地」と訳されていましたが、用途が整備のみであることと、これ自体がXボート航路から外れた星系に置かれることもあり、「中継」では誤解を招くと判断して訳語を変更しました)

海軍基地 Naval Base
 海軍が軍艦の維持・給油・修理のための施設を欲したのなら、AないしBクラス宇宙港のある世界に海軍基地は建設されます。このクラスに限られるのは、大規模宇宙港は戦略的に重要であることと、造船所などの軌道港施設を併用するからです。そして基地があることで、地元住民の安心感(と帝国への忠誠心)がさらに高まることも期待できます。
 海軍基地は自前で食料貯蔵・燃料弾薬補給・艦艇の修繕・訓練・兵員宿舎などの機能を持っていますが、造船能力だけは機能の重複を避けて宇宙港の民間造船所に委ねています。これにより造船所は平時でも安定した受注が見込めますし、戦時には基地司令官が造船所を直接管理下に置くことで対応もできるのです。ちなみに海軍基地にはバーや社交場があって関係者がくつろげるようになってはいますが、できることならより多くの娯楽がある地元宇宙港に足を運びたいと兵士は考えています。
 全ての海軍基地は防御兵装を備えていて、番号艦隊以外にも予備艦隊が控え、常に哨戒を怠りません。さらに重要なことは、攻撃を受けた基地は(※ジャンプ-6連絡艦で)すぐさま救援を呼び、宙域各地から増援が駆けつけることです。帝国海軍は帝国で最高峰の存在であり、多くの市民にとって海軍の存在こそが帝国そのものです。そのため、海軍の艦艇や基地を攻撃した者は、誰であれ迅速かつ無慈悲な報復を受けることになります。名誉と誇りは守られなければならないのです。

 この海軍基地が星系規模にまで巨大化したのが海軍兵站基地(Naval Depot)です。兵站基地はたった一つで宙域全ての軍艦を支え、仮に宙域が孤立しても数年間持ち堪えられるだけの物資を製造・貯蔵する能力を持っています。その重要度から、兵站基地の存在自体を隠蔽できないまでも、星系への立ち入りは厳しく制限されます(※「迷い込んだ」宇宙船を曳航して送り返すための補給港が用意されてもいます)。
 また、士官教育を行う海軍兵学校はこの兵站基地に置かれますし、士官に限らず兵士の訓練や保養のための施設も用意されています。
(※スピンワード・マーチ宙域には設定上兵站基地がないのですが、1130年以降にメイシーン(2612)が兵站基地となるので、1105年時点でも実質的に兵站機能を持っていた(実際ここには戦術大学校(Tactics College)があります)、もしくはモーラ海軍基地と分散して担っていたと考えるべきでしょう)

■帝国外の宇宙港
 帝国領外の独立星系の宇宙港は当然港務局の管轄下にはなく、主に現地政府が管理を行っています。運営手法は(※人類であるなら)港務局と大体似たような感じで行われてはいますが、所によっては公平・公正さを欠いていたり、地場産業の保護目的とはいえ理不尽な関税を掛けてきたりすることもありえます。よって旅人や商人は予期しないトラブルに巻き込まれる可能性があります。
 ちなみに将来的に帝国が中立星系を併合するなら、まずは港務局管轄宇宙港を「現地政府の了解の下で」建設するところから始めます。やがてその宇宙港は帝国の流通網に取り込まれ、地元の産業は徐々に帝国のやり方に染まっていくのです。
 また、一部の友好星系(帝国属領)には帝国政府が基地を設置することがあります。

 アスラン領内の宇宙港は治外法権の飛び地であり、地元氏族から土地を借りた企業によって運営されています。その企業は土地を所有する氏族と関係が深い場合が多く、直系親族だけでなく重臣や同盟氏族の女性が運営しています。貿易航路も同じく、まず企業が所有し、その上に氏族があります。
 宇宙港の外(に限らずアスラン領の全て)は即何かしらの氏族の土地である以上、出入りするにはその氏族の許可が必須となります。認証を与える代理人は宇宙港など交通の要所に必ず居ます。
 アスラン社会には港務局に該当する組織はなく、全て運営企業(を支配する氏族)の裁量次第です。多くの宇宙港は支配氏族に便宜を図るように設計されているため、アスラン領内での旅は部外者にとっては非常にもどかしいものとなりがちです。

 ヴァルグルの宇宙港もほとんどが、星系政府と契約を結んだ民間企業によって運営されています。統一政府のある星系では単一企業が独占契約を結びますが、小国が乱立している星系では複数の企業が競合施設を建てている場合があります。星系政府は企業に対して一定の質の保証を求めますが、それが履行されるとは限らず、そもそも保証を求めることすらできない力関係もありえます。その結果ヴァルグルの宇宙港は、企業利益の最大化を求めて極力安価に建設され、安価に維持される傾向があります。
 ヴァルグルの宇宙港には当たり前のように海賊も入港しますが、彼らは宇宙港内では極力礼儀正しく努めます。なぜなら海賊が宇宙港の株主であることも多く、そうでなくても宇宙港の価値を落とすことが損であるとわかっているのです。それどころか、宇宙港に雇われている海賊すらいるのです。

 ソロマニ連合の宇宙港は、帝国に比べれば別の意味で「自由」な所です。連合政府には港務局のような組織はなく、宇宙港の管理は各加盟星系に委ねられています。連合政府は宇宙港運営に関して統一した規約を公表していますが、それが守られるかどうかは現地政府のやる気次第です。多くの世界では帝国にも劣らない宇宙港がありますが、一方で管理への関心が欠如した宇宙港もあります。ソロマニ連合への渡航は、安全が確認された交通量の多い航路で行うことが推奨されます。
 ソロマニ連合内での星系間旅行には常にソルセック発行のパスポートが必要で、貿易にも帝国では不要な各種許可証が求められます。連合政府は安全保障のためとしていますが、反体制派は人々と思想の自由な移動を抑圧するためだと非難しています。

 ゾダーン社会は帝国よりも中央政府の役割が重いため、宇宙港の運営には複数の政府機関が携わります。各機関は自己の権限を守りながら、他の部署ともなるべく連携を図っています。帝国と同様にゾダーンの宇宙港も利潤を追い求めませんが、可能な限りの自活も求められます。
 一般的なゾダーン人は他種族を疑いの目で見がちであり、特に対超能力装備を施してきた者は必ず警備員に尾行されます。「後ろめたい気持ちがないのなら、なぜ隠そうとするのだ?」というのがゾダーン人の当然の心情だからです。その一方で犯罪を「内心で企てた」だけで拘束・処罰されるため、ゾダーンの宇宙港では犯罪が全くないのも事実です。また、訪問客は適正価格で誠実な扱いを受けることでも定評があります。


【ライブラリ・データ】
XT線 Extrality line
 「治外法権」の略語であるXTとは、星系政府の自治権と帝国法が及ぶ区域の境界を示した法的概念のことです。帝国の宇宙港にはこのXT線が必ず存在し、主権の範囲を明確に規定しています。XT線の帝国側では商品は免税で購入でき、現地では違法とされた「犯罪者」も捕らえられることはありません(ただし帝国法でも違法となる殺人犯など重犯罪犯は拘束の上、現地政府に引き渡されます)。
 XT線は基本的に地上港の土地境界線上にあり(※港内の税関や検疫所が境界となることもありえます)、それを示す形は現地政府の性格によって単純な金網から聳え立つ障壁まで様々です。


【オプションルール】
 基本ルールでの宇宙港の停泊料は、便宜上一律で「100クレジット(6日間)+延長1日につき100クレジット」とされていました。しかし、停泊料にも現実味を求めるレフリーは以下の案を検討してみてください。
 停泊料はいずれも6日分で、1日延長するごとに同額が請求されます。また、無人化されているEクラス宇宙港は無料とします。

 Aクラス:船のトン数×50クレジット
 Bクラス:船のトン数×20クレジット
 Cクラス:船のトン数×10クレジット
 Dクラス:船のトン数×1クレジット
 Eクラス:船のトン数×0.1クレジット

(※面倒ならGURPS版ルールに基づいて、全て「トン数×0.2クレジット」でもいいと思います(安いようですが倉庫の利用料が別途かかります)。上記のルールはマングース版ルールとの中庸を狙ったものです)


【付録】
 宇宙港で働いている従業員の人数は、GURPS版『Starports』にて計算式が公開されていますが、これはまず宇宙港の経済規模と物流量を求めてから必要とされる人員数を割り出すという複雑なもののため、大雑把な目安として以下を提示します。この人数は「総従業員数」なので3交代かつ予備の雇用者を含み、(大きな宇宙港では)実際に同時に働いている人数はその5分の1と考えてください。

 Aクラス:数万~十数万人
 Bクラス:数千~数万人
 Cクラス:百数十~千数百人
 Dクラス:十数~数十人
 Eクラス:0~数人


【参考文献】
・GURPS Traveller: Starports (Steve Jackson Games)
・Starports (Mongoose Publishing)
・Universal World Profile (Zozer Games)

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