これまで紹介してきたのは、帝国(第三帝国)という安定した巨大国家の領内、逆に268地域星域やアウトリム・ヴォイドといった独立星系群でした。今回紹介するリーヴァーズ・ディープ宙域はその中間、俗に「小帝国(Pocket Empire)」と呼ばれる中小国家が林立し、その周囲を帝国、ソロマニ連合、アスランといった「列強」が取り囲む、というこれまた違った趣きのある宙域です。
この宙域はまず1981年にMarischal Adventures社から「スコティアン・ハントレス号」シリーズのシナリオが発売され、続いて1982年からFASA社の『Far Traveller』誌で関連記事の掲載が始まり、本家GDWからもハントレス号シリーズのシナリオ『侵略の夜(Night of Conquest)』が出ました。Gamelords社からは1983年から84年にかけて設定やシナリオが数々出版され、その後はSword of the Knight Publications社の『Traveller Chronicle』誌で設定の連載が行われたり、1999年にCargonaut Press社から幻のサプリメント・シナリオなどをまとめた『Lost Supplements Collection』が出るなど、息の長い(というかKeith兄弟の情熱とも執念とも言える)サポートが続いていました。他にも『Travellers' Digest』誌のグランドツアー第16話の舞台となったり、JTAS誌やGURPSやT20でも異星種族設定が紹介されるなど、和訳資料は少ないですがその設定量はかなりのものになっています。
今回からは、そんなリーヴァーズ・ディープ宙域のディープな魅力を少しでもお伝えできたら、と思います。ただ、この宙域に関してはシナリオ等で本格的に動き出すのが1108年以降、多くの設定は1115年視点のものとなっています。いつものように1105年設定に変えるのは不可能ではないですが、国境線やトラベルゾーン指定の変更問題に加え、シナリオのネタになりそうな美味しい事件が減ってしまうこともあり、あえて「1115年設定」で記述しています。ただし1108年以降判明したいくつかの新事実については、意図的に伏せています。
大裂溝に面したリーヴァーズ・ディープ宙域は帝国の最辺境の一つであり、アスランやソロマニ連合との緩衝地帯でもあります。これら列強国の狭間には様々な独立中小国家や中立星系が存在し、様々な勢力の思惑がうごめく、魅力と危険が背中合わせの宙域です。
宙域のその名前は、暗黒時代に様々な《略奪者》たち(Reavers)がこの宙域、そして周辺宙域を荒らし回っていたことから付けられました。《略奪者》たちは暗黒時代の終わりとともに拡大を始めた第三帝国やアスランによって歴史の中に封じられていきましたが、現在でもこの宙域に多数ある中立世界は海賊や犯罪者の隠れ家であることは否めません。
【宙域史】
リーヴァーズ・ディープ宙域の古代史はほとんど判明していませんが、少なくとも他の宙域と同じく、30万年前には太古種族が活動していたと考えられています。その痕跡は各地の遺跡や遺物、最終戦争の傷跡、テラから持ち込まれた群小人類たち、そして彼ら太古種族の末裔であるドロインの存在に見ることができます。
太古種族が去り、再びこの宙域が動き始めたのは-2600年頃でした。衰退と腐敗の過程にあった第一帝国の辺境の総督は自らの覇権を維持拡大するために、内密に国境外世界から「蛮族」の傭兵を雇い入れ始めました。現在のダイベイ宙域にあたるランキシダム属州の総督も例外ではなく、将来の謀反を企図してディープ方面へ探検隊を送り込みました。そこでヴィラニ人は、当時TL7に達していた知的種族サイエと接触したのです。
目的に適ったサイエ文明に対しては極秘裏に技術供与が行われ、武器や宇宙船を作る能力を彼らは得ました。しかし総督の野心は露見し、罷免された上で処刑されました。その結果、サイエの存在は帝国内では闇へと消えてしまいました。一方、サイエ文明に送られた派遣団は帰国することができなくなり、そのまま留まって彼らに技術供与を続けました。
攻撃的で拡張主義的なサイエは、得た技術を用いてカレドン、リフトリム、ナイトリムの各星域に広がる小帝国を一時は築きましたが、やがて拡大し過ぎた彼らは大規模な内戦に突入し、滅亡しました。各地に広がったサイエ文化は跡形もなく消え、サイエの存在は彼らが征服した種族の神話伝承の中に封じられました。
次にディープに人類が足を踏み入れたのは、ヴィラニ人と「地球人」が衝突した恒星間戦争の末期から「人類の支配」(第二帝国)の時代にかけてで、ディープはソロマニ人によって探査され、いくつかの世界に植民が行われましたが、多くの世界は無人のままでした。やがて第一帝国の負の遺産を抱えた第二帝国も崩壊して暗黒時代が始まると、孤立したわずかな最先端地域を除き、恒星間政府と通商は失われました。
《略奪者》がこの宙域に現れたのは、そんな時代でした。彼らは初めは数隻の宇宙船をかき集めた小規模な海賊団に過ぎませんでしたが、やがて後進世界の略奪などを繰り返すことで小帝国化していきました。最盛期にはダークネビュラ、マジャール、ソロマニ・リム、アルファ・クルーシスの各宙域にまで襲撃範囲を広げていた《略奪者》たちでしたが、-1118年のヤロスラフの戦いを境に衰退に転じ、アスラン国境戦争(-1120年~380年)の開戦によって強大なアスランとの交戦リスクを避けるようになったこともあり、周辺宙域に数々の伝説を残した彼らは次第に消えていきました。「ブラックジャック」デュケイン("Blackjack" Duquesne)、「淡紫の」ウー・ルー(Orchid Wu Lu)、「乱暴者」アリソン・マードック(Alison "Hellion" Murdoch)といった著名な《略奪者》たちは、後に多くの(史実より美化された)書籍やホロドラマを生み出しました。
暗黒時代が終わりに近づくにつれてスピンワード方面からアスランが、100年頃にはトレイリング方面から第三帝国がこの宙域に進出してきました。両者の船は探査と征服を繰り返し、380年のフトホルの和約によって緩衝地帯が設けられるまで衝突を続けました。
現在のディープはいくつもの勢力に分断された宙域となっています。アスラン、およびアスランの従属国は宙域のスピンワード/リムワード方面の端に存在します。帝国は緩衝地帯を挟んでコアワード/トレイリング方面にあります。ソロマニ連合に属する星系はファールナー星域の一部に広がっています。しかしディープの中心部は独立しているか、もしくは宙域の2大国家であるカレドン公王国かカーリル合集国の影響下にあります。ディープを取り囲む列強国の影響はなくはないですが、この辺境宙域には外部干渉からの自由を謳歌する、面白くも危険な伝統が染み付いています。
【知的種族(人類)】
アヤンシュイ人 Ayansh'i
母星:ゴースト(3115)
太古種族によって樹林溢れるゴースト星系に持ち込まれた彼らは、第二帝国期に他の人類との「接触」を果たしています。そしてその後の暗黒時代を経ても彼らの文化はほとんど変化せず、87年に帝国偵察局が再接触した際には来訪を歓迎した、と記録されています。
平均体重70kg程度と痩せ型の彼らは、目の95%を虹彩が覆っているので、母星の照らすわずかな光の中でも良好な視界を得ることができます。また彼らはヴィラニ人以上の250年の寿命を持ち、双子出産は普通のことです。これらの特徴は自然進化によるものではなく、太古種族による遺伝子操作の可能性が考えられ、実際彼らは他の人類と交配することができません(ただし彼らはこれらを「我らの先祖が選んだこと」と主張し、現在も学術調査を許可していません)。
彼らは独自の言語を保有していますが、それは他の人種の前ではめったに話されません。彼らは自分たちの言語の秘密を守るために、他の言語を非常によく学びます。そのため訪問客に対しては、訛りのない訪問客の自国語で応対しています。
アヤンシュイ人の美術は帝国では非常に高く評価されており、ダイベイ宙域を通じて帝国中に輸出されています。彼らはめったに母星の外には出ませんが、顧客の熱心な説得に折れて星系外で作品制作をすることもあります。有名なものでは、ワリニア(ダイベイ宙域 0507)の公爵庭園の造園や、ソル大公所有の『季々の笏(The Scepter of Seasons)』、キャピタル(コア宙域 2118)の皇宮の『クシウム・マタリ(K'sium Matari)』を手がけています。なお作品が完成し次第、必ず彼らは速やかにゴーストに戻ります。
アヤンシュイ人の遊牧社会には、アヤタ(Ayata, 生活界)とインチャタ(In'chata, 精神界)の2つの概念が存在します。アヤタの全てはインチャタの現れとみなされ、女性の預言者(Oracle)とパツァイター(Patza'itah, 預言者の弟子)のみがインチャタを解釈することができます。一人のパツァイターにはイノシャン(Inoshan)と呼ばれる非常に訓練された護衛が一人付けられ、共に中央の儀礼用の建物に住むのですが、この一組が全てにおいて双子の兄妹(や姉弟)であるのは興味深い点です。
各部族では自治がなされ、先祖から受け継いだそれぞれの猟場を支配します。部族は十数家以上の家族からなり、最上位家の最高齢の双子が部族を統治します。部族は伝統的に狩人かつ採集人で、いくつかの仮小屋を猟場に散在させています。これらの仮小屋はサジターティウス樹の上に大枝などで居住空間を築かれ、世界の大型生物から身を守っています。また、部屋の「壁」には部族の記録として彫刻が施されています。
預言者が部族間のどのような問題でも解決するため、アヤンシュイ人の間には戦争どころか部族対立すらありません。猟場を巡る狩人同士のいさかいは起きますが、これは部族の長によって速やかに止められ、預言者に仲裁が委ねられます。そのような文化のため、アヤンシュイ人には狩人以上の「軍人」はいません。
ハッピルーヴァ人 Happirhva
母星:レジャップール(1218)
太古種族によって30万年前に、乾燥気候のため居住にはあまり適さないレジャップールに移住させられたハッピルーヴァ人は、生き残りのための絶え間ない戦いを強いられました(※さらに言えば、レジャップールは太古種族の最終戦争の際に隕石爆撃の標的となっています)。その教訓から彼らは、科学技術や文明を開発しないようにする風習を築きました。実際、彼らが約250年前にカレドンの影響下に入った頃でも、その文明はTL3に留まっていました。
外世界からレジャップールへの入植が始まった頃、ハッピルーヴァ人には2つの集団が形成されていました。「大地の民」を意味するハップラーニ族(Happrhani)と、「草原の民」を意味するハッピジョム族(Happijhom)です。前者は後者より人口こそ少なかったのですが、より文化的でした。
ハップラーニ族は惑星の肥沃な地域で数々の農業集落を形成し、砂漠のオアシスや湖の周辺にも井戸を掘って入植していました。TL3の文明は繁栄していて、平和的な生活様式をしています。
一方、ハッピジョム族は惑星の広大な草原地帯や砂漠地帯に住む遊牧民です。一年のほとんどにおいて、大草原は騎乗獣ジェダーハイ(jhederhai)や食用草食動物ハージャンキ(herjhanki)を容易に養うことができます。しかし、最大100日間の冬季には大草原は不毛となるため、遊牧民は他の土地に餌を求めて移動しなくてはなりません。それは時として、ハップラーニ族の住む肥沃な土地も対象となります。この季節性の「移動」は対立を定期的に引き起こしてはいますが、ほとんどの場合において両者は共存できています。時折起こる事件や衝突を除けば、「移動の季節」は交易の、祭典の、そして異部族間結婚の季節であり、文化や友情の交流を図る時期です。
レジャップール出身者の宗教的信条は様々で、変化に富みます。一部の遊牧民は「空の神」に対する畏敬と不信を持っていますが、この「神」は異星人類学者によれば太古種族の隠喩ではないかと考えられています。また彼らは水面を病気と死を呼ぶ不浄のものと考えていて(実際この星のわずかな水界は淀んでいます)、「空の凶神」である外世界人による灌漑を「自然の摂理に反する邪悪な魔術」と見て反発しています。
一方でレジャップールのどんな人々も、人生に対する考え方は類似しています。野蛮ではありますが、外部との競争に際しては協力し、勇気と名誉を美徳とし、良き家族や民衆や種族への献身を重んじます。彼らは冷酷な殺害をせず、死刑囚にすら自らの潔白を証明する戦いの機会を与えます。
ハップラーニ族は独特の口語および書き言葉を発達させました。この言語は遊牧民たちとの公用語にもなっていますが、遊牧民は部族ごとに相互理解のできない方言を使用しています。また、多くのハップラーニ族(特に兵士や農園に雇用された者)はカレドン訛りの銀河公用語を解します。
一方で外世界人はいくつかの単語を俗語として取り入れた以外には、わざわざ地元言語を学びませんでした。地方港ではハップラーニ語に対応した翻訳機が利用可能ですが、様々な遊牧民方言に対応したデータはわずかか、全くありません。
イルサラ人 Iltharan
母星:ドレシルサー(1826)
「諸君がイルサラ文化を知っているのなら、『イルサラ人』という単語が多くの方言で『海賊』と同義語になっていった事に驚きはしないであろう。そしてそれが当のイルサラ人にとっては誇りの表現である事にも驚かないであろう」
母星の名を取って「ドレシルサー人」とも呼ばれるイルサラ人は、地表の9割が海に覆われたドレシルサーのわずかな土地をめぐる争いから、活発で好戦的な種族となりました。惑星上の3つの孤立した小さな大陸でそれぞれ別の民族集団が文明を築き、お互いに争いと混乱の長い歴史を持ちました。そもそも「イルサラ」というのは、他の2大陸をも制した民族(そして国家)の名前なのです(※人類系種族としてのイルサラ人と一民族としてのイルサラ族を区別しやすくするため、民族名としては「高イルサラ族」(High Iltharans)という表記も使われます)。
一方、征服されたアカカード族(Akakhad)とトリング族(Tring)はイルサラ帝国(Iltharan Empire)に吸収されましたが、民族としての独自性は完全には失われませんでした。ちなみに、-850年頃にイルサラ帝国の軍艦がガージパジェ(1124)に不時着しましたが、この時の生存者の子孫がクトリング族(K'tring)です。生存者の大多数がトリング族であったことから、現地語でこの名が付きました。
太古種族によって人類が持ち込まれたドレシルサーは、他所から離れていたためにヴィラニ帝国、人類の支配(第二帝国)、アスラン氏族に取り込まれることはありませんでした。3つの民族に分かれたドレシルサーの人類は互いに戦争を続け、銀河の歴史に関わることはありませんでした。
第二帝国の衰亡によって始まった暗黒時代、リーヴァーズ・ディープ宙域には《略奪者》が横行しました。そのような中、ドレシルサーに不時着した《略奪王》イザナク大提督から核融合とジャンプ技術を手に入れたイルサラ族は、得た知識をドレシルサーの征服に用い、-1000年までにアカカード族とトリング族を「イルサラ帝国」に取り込むと、ジャンプ-1宇宙船を発進させました。
その後のイルサラ帝国は、自分たちより遅れた文明の星々を素早く征服し、征服するには人口の多すぎる世界には略奪に向かいました。無人世界は、例え環境が良くても無視されました。-890年から-100年までイルサラ帝国は無敵を誇りましたが、やがてソロマニ人系国家であるカレドン公王国や、この宙域にやって来た第三帝国との戦いの果てに滅亡しました。
現在イルサラ人は、リーヴァーズ・ディープ宙域内に点在しています。多くの世界ではソロマニ人や他の種族と比べて少数派ではありますが、旧帝国の中心部だったいくつかの星系では今でも多数派です。彼らの攻撃性は今も衰えることはなく、中には祖国を滅ぼした者たちへの復讐のためにテロリズムや海賊行為に走る者もいます。
成人のイルサラ人男性は身長約2メートル、体重95キログラムが平均的な体格です。大部分の人類と同様に、女性は男性より背が低く、軽いです。皮膚の色は薄い青銅色から乳青白色(milk-pale)で、眼の色は一般的に青、灰色、榛色(アカカード族は茶色の眼が多い)です。髪の色は茶褐色か黒で、体毛は濃い傾向があるので成人男性は常に顎髭を伸ばします。またイルサラ人はドレシルサーの低重力(0.5G)と寒冷気候(平均気温マイナス2度)に適応しています。
イルサラ人は人類の根源種にかなり近く、特に問題なく他の人類(特にソロマニ人)と交配することができます。ただし一番の違いはこの生殖に関することで、イルサラ人は基本的に不妊症ですが、代わりに長い寿命を持ちます。イルサラ人は誕生から18標準年ほどで成熟しますが、100歳頃までは老化を感じさせません。そして適切な医療を受けていれば150標準年程度は生きます。そのためイルサラ人の数は、理想的な状況下でもゆっくりと増加する傾向があります。母星ドレシルサーの人口は最盛期でも1億人に過ぎず、イルサラ帝国の滅亡による荒廃期から現在までも、惑星人口はほとんど変化がありません(※現在の人口は930万人ですから、爆撃によって人口は1割以下になったようです。そして皮肉なことに、ガージパジェのクトリング族の人口は母星よりも多い3700万人にまで達しています)。
イルサラ人の出生率の低さと寿命の長さ、そして特殊な老化曲線は、他の人類との精神面での違いも生み出しました。イルサラ社会は年功序列で、50歳未満の「若者」は見習い、単純労働者、従卒といった扱いです。若者は厳しい鍛錬の対象であり、彼らの意見は通常無視されます。75歳ぐらいになるとようやく指導的な立場になれます。
この影響で、イルサラ社会は非常に保守的となりました。前星間技術時代のドレシルサーの歴史の中で社会が破綻するような事態はほとんど起こりませんでしたが、同時に文明の歩みは非常に遅かったのです。科学的発見、技術革新、芸術や建築の新様式、といった全てにおいて、発達するのに長い時間が掛かりました。考古学者はドレシルサーの農耕文明が5万年前に誕生したと考えていますが、イザナク大提督がドレシルサーを発見した時でも最先端文明はかろうじて無線と電気を開発した程度でした。
宇宙に出て「接触時代」を迎えたイルサラ人は、他の文明から物品だけでなく芸術家や科学者や技術の専門家も略奪するようになりました。以後1000年間に渡ってイルサラ帝国は「寄生文明」でしかなく、自分自身の社会を維持するためにいくつもの他の文明を食い物にしていました。イルサラ人が他文明を虐待こそしていても、虐殺に至らなかったのはこうした理由があったようです。当然のことながらこの手法は効率が悪く、イルサラ帝国がより優れた文明と接触すると、変化を拒んだ彼らは滅亡に向かって落ちていくしかありませんでした。
イルサラ社会は非常に軍国主義的です。高イルサラ族が「軟弱で平和主義的」だと捉えているアカカード族やトリング族ですら、大部分のソロマニ人やヴィラニ人よりは攻撃的で、厳しく統制されています。また、若者はより好戦的な傾向があります。
多くの人類とは異なり、イルサラ人は父権的社会ではありませんでした。産業化前の時代でも女性には男性と同等の社会的・政治的権利がありました。これはイルサラ人の不妊症の影響で女性の人生において出産育児に費やす時間が少なく、その分だけ社会活動に回すことができたからです。
イルサラ社会の中核にあるのは職業ギルドです。子供たちは国によって一般教育が与えられ、成人すると見習いとしてギルドの一つに所属します(通常は親の片方もしくは両親が所属していたギルドに属します)。ギルドは訓練と仕事を提供し、同時に構成員としての規律を求めます。またギルドは男女を引き合わせ、育児を手伝い、他の社会福祉事業も担います。こういったギルドの存在により、イルサラ人には企業の概念は発達しませんでした。
また、軍隊も一つの「最も大きく最も由緒ある」ギルドでした。イルサラ社会は伝統的に軍隊が統治していましたが、その軍隊は代々上級将校を輩出する特定の家系によって導かれていました。しかしイルサラ帝国が没落してからは、軍隊は富や栄光を得る機会を失い、実権は官僚機構に移りました。今や最上級将校からなる「支配階層」は表看板に過ぎません。
【知的種族(非人類)】
ダーフィガッサク Derfi'gassak
母星:オークニー(2919)?
オークニー(2919)及びメイデン(2920)に住む群小種族ですが、彼らがオークニーを母星として進化したのか偵察局は未だに断定しきれていません。それだけ、彼らについてはわずかしか判っていないのです。
偵察局による帝国暦110年の第一期探査では彼らは発見されず、ようやく180年に偵察局の船が接触しました。その後、隣接するメイデン星系に彼らの植民地が発見され、これは世代間宇宙船によって植民されたことが判明しました。
ダーフィガッサクは平均全長150cm未満の小柄な種族で、黒い肌と白い髪を持ちます。6本の手足が身体から出ていて、そのうち4本が長くなっています。彼らは道具を使う際はどの「腕」でも使うことができます。彼らには目がないように見えますが、「腕」にはとても敏感な感覚器官を備えていて、周囲全ての動き、匂い、音を感じることができます。また、彼らの「口」は身体の下部にあります。男性は筋肉質で、女性は痩せている傾向があります。
オークニーの熱帯雨林環境に適応したため、彼らは何も着用しない狩猟文化を持ちます。また彼らの平均寿命は短いのですが、これはオークニー土着の巨大捕食生物によるものです。乳幼児死亡率の高さから来る「短命」が、彼らに早い性的成熟を促したと偵察局は考えています。
彼らの言語は音楽に似ていて、喉頭音と舌打ち音から成り、これがオークニーの濃い大気と密林に響き渡っています。しかし偵察局は彼らの言語の翻訳に成功していません。
フオスキーキール H'Oskhikhil
母星:ストーム(1404)
惑星ストームの偏心軌道は、フオスキーキールの生涯を「貪欲に捕食する幼体」と「文化的だが捕食される成体」に分けました。このことは、彼らが比較的最近まで永続的な技術社会を構築できなくしていました。
成体が幼体に捕食されないように「防護住居」を築くようになったことで、彼らの文明は始まりました。フオスキーキールの成体の一部は、暑い近日点季の間は極地の涼しい洞穴に移り住み、出産期を生き残ることができていました。このことから学んだ彼らは、防護住居に空調を施しました。文字は数百年前に開発され、彼らは口伝されていた歴史と業績を住居の壁に忙しく書き記しています。
フオスキーキールの成体の身体は直径1.5m、高さ0.5mの膨体で毛皮に覆われ、周囲に様々な大きさの12肢の触手が並んでいます。これらは全て足の働きもします。
一方幼体は高さ1mの管状体で、そこから茎状に飛び出た2つの目と掴むための4本の触手と4本のしっかりとした足が突き出ています。幼体には毛皮はありませんが、単純な道具を使う程度の知性があります。幼体も成体もストームの通常より高濃度のオゾン大気に適応しています。
近日点季による気温上昇は幼体の出産を引き起こすため、成体は涼しい環境にいることでその工程を先送りすることを望みます。なぜなら出産は成体の死を伴うからです(そして親の死骸は生まれた幼体の最初の食料となります)。
彼らは声を発していないように見えますが、実際には超音波域で複雑な会話を交わしています。また可聴域は人類の音声の領域まであるので、彼らの一部は銀河公用語を学び、外世界からの訪問客との通訳になっています。
幼体のフオスキーキールは動くものは何でも攻撃して捕食しようとします(幼体は群れで行動するので仲間は例外です)。それが成体であろうと、動物であろうと、人類であろうと。そして彼らには、獲物を殺す武器として道具を使用する以外には知性は見られません。
一方、成体は友好的で平和的です。初めて出会う者に対しては用心深くなりますが、訪問者が自身や生息地への脅威ではないことがわかれば、彼らは友人になろうとします。
成体のフオスキーキールは本能的に好奇心が旺盛で、新たな技術を素早く吸収します。このことにより彼らはこの300~400年ほどで急速に技術水準を向上させることができました。そしてあと数十年もすれば、彼らは自力で宇宙に飛び出していくことでしょう。
フオスキーキールの成体は要塞と霊廟を兼ねたような大きな石の建物に住んでいます。これらの建造物は彼らが次世代に文化と技術を受け渡すための、守りが固く空調の効いた避難所です。ストームの各地には何百万ものこういった建物が点在し、全て合わせて80億人の成体が現在住んでいます。
それぞれの建物の中で一番知的な者が指導者に選ばれるため、フオスキーキールの社会は封建的技術主義に分類されます。最も技術的に進んだ建物の指導者がその地域の指導者となり、地域の建物同士は互いに協力し合います。そして地域指導者は惑星全体の問題を話し合うために会合を持ちます。会合を主導する者は、出席者の中から最も知的な者が選ばれますが、その指導力はその会合の間のみで発揮されます。
成体のフオスキーキール同士で争うことがなかったので、彼らは軍隊を持ったことはありません。幼体から身を守るために唯一有効な手段が防護住居の建設だったこともあり(それは幼体と戦うよりも効果的でした)、最大の脅威を退けた彼らにはそれ以上の力は必要なかったのです。
ジアージェ J'aadje
母星:ガージパジェ(1124)
ジアージェは小柄(平均身長1.5m、平均体重60kg)で機敏な、大きな目と金色の皮膚を持つ二足歩行知的種族です。ジアージェは互いに友好的で、外世界人に対しても親切に応対します。ジアージェのTL4文明は技術発展をあまり重視せず、代わりに詩や舞踏といった芸術を重んじています。上品で繊細な芸術とそれを支える技量には高い商業的価値があり、外世界でも高値で取引されています。
ただしガージパジェには長い闘争の歴史があり、彼らをひ弱な種族と決めつけるのは早計です。
ラングルジゲー Languljigee
母星:ラジャンジガル(1721)
母星の塩素環境で進化した三本足の知的種族である彼らは、行動的で活力にあふれています。環境は技術を進歩させるには向いていませんが、それでも彼らは知的で賢いです。TL3の文明を持つ彼らと交易する人類の貿易商人はあまり多くはありません。
1080年に彼らはダカール・コーポレーション(Dakaar Corporation)の支配下に入り、地元の様々な希土類や放射性物質の採掘作業における奴隷的な労働力として使用されています。
ルーシャナ Lhshana
母星:ルーシャミ(2111)
雑食採集生物から進化したルーシャナは、身長1.2mほどの三角体型に優れた操作能力を持つ触手が付属しています。触手にはそれぞれ感覚器が付いており、聴覚、嗅覚、味覚に加え、赤外線域の視覚にも対応しています。口は腹部に位置して食物摂取のみに使用され、呼吸は触手の根本にある開口部から行われます。
非攻撃的で静かな種族である彼らは、カレドン公王国の商業探査隊(merchant explorers)と598年に接触した頃には2000年の歴史を持つTL9の文明を築いていました。まず前文明期のルーシャナはサイエの支配下に置かれ(サイエの活動や風習の記録はルーシャナの民間伝承や神話の中に遺されています)、そして暗黒時代には人類の《略奪者》の接触も受けています。これらの要因により彼らの技術進歩は後押しを受けましたが、一方で彼らは宇宙には関心を持たず、宇宙飛行技術は開発していませんでした。
ポリフェミー Polyphemes
母星:フタリェア(1226)
ポリフェミーは原始的な狩猟採集社会を形成しています。飛び出た耳と大きな一つ目、屈強な体を持つ、大きな体格の二足歩行種族です。彼らは最近になって人類の貿易商人と接触したため、まだ詳しいことはわかっていません。
サイエ Saie
母星:リフトディープ星域かリフトリム星域のどこかの赤色矮星星系?
3700年前に滅亡した非人類種族サイエの文明については、ほとんどわかっていません。彼らが残した痕跡は極わずかで、グレンシエル(1912)にある「ジュラの墜落痕(Crash Jura)」、ヴィラニ人による記録、イン=ツァイやルーシャナの神話伝承から得られる程度のものしかありません。
集められた数少ない証拠から、サイエは肉食の捕食動物から進化した直立二足歩行種族だと考えられていますが、彼らの母星どころか、姿形がどうだったかすら判明していません。彼らは謀反を企んだヴィラニ総督から極秘裏にジャンプ技術を入手し、現在のカレドン星域あたりを中心にして小帝国を築いたようです。彼らは好戦的で内部のいざこざも多く、征服惑星には数百名程度の統治者や兵士しか置いていなかったと思われます。そして最終的にサイエの小帝国は、破滅的な内戦の末に自分たちもろとも消え去りました。
カレドン公王国の者に限らず考古学者たちは、この謎めいた種族の詳細を追い求めていますが、これまで誰も決定的な証拠を手に入れられていません。
トリェトライ Tlyetrai
母星:ホア(0310)
(※非人類の群小種族であること以外には資料が存在しません)
ヴィルシ Virushi
母星:ヴィルシャシュ(2724)
「戦車の血を引くケンタウロス」「考えるブルドーザー」などと仇名されるヴィルシですが、実際は穏やかな巨人です。彼らはとても礼儀正しく、柔らかな声で話します(※ヴィルシは高圧大気に適応した発声をするので、人類には弱く静かに聞こえるのです)。彼らは母星でも最大の生命体だったので他の動物は脅威とならず、群れを作らずに生きていくことができました。彼らの社会は家族を中心とした「協力体(cooperative)」以上には発達せず、結果的に個々の自由を重んじた牧歌的なものとなりました(※よって彼らは帝国にコンピュータや経済学を教わるまで高度な文明を築けませんでした)。ヴィルシは納得さえすればどのような仕事でも喜んで協力してくれますが、反面、彼らに命令して仕事をさせるのはほぼ不可能です。
ヴィルシは確かに個人主義的ですが、これは我が儘だからではなく、お互いの違いを尊重しあう礼儀正しさから来ているものです。しかしその静かで穏やかな性格にも関わらず、彼らは友人や家族を守るためなら戦いを厭いません。とはいえ大抵は理性的に非暴力的な解決法を探して交渉を試み、戦いになっても敵が引き下がってくれれば争いの拡大は好みませんが。また、ヴィルシは痛みに対して無関心と言っていいほど非常に強く、身体を傷つけた程度で彼らを怒らせるのはまず無理です。
地球人の目には「サイとケンタウロスの混血」に見えたヴィルシは、全長3メートル、肩までの高さが1.8メートル、体重は1トンもある、これまで遭遇した知的種族の中で最大級の体格を持ちます。彼らの母星の高重力・高圧大気・伴星からの重度の放射線が、彼らをこのように進化させたのです。硬い皮に覆われた身体には、樹木のように太い4本の足と、人類ほどの大きさで驚くほどに器用な一対の上腕と、かなり屈強な一対の下腕が付いています(つまり腕は4本です)。さらに彼らの体重を支え、身を守る強力な武器となる長く太い尾が付属します。ヴィルシの目は眩しい日光下の環境に適応したので、薄暗い環境を苦手とします。また、聴力は高濃度大気に適応しているので、一般的な大気下ではうまく機能しません(人類の声は彼らの可聴範囲ぎりぎりに入っています)。彼らは草食で、基本的に人類の倍以上の量を摂取します。
ヴィルシは母語としてヴィルシ語を話しますが、大部分のヴィルシは銀河公用語を話せます(ただし気を抜くと人類の可聴域を下回る聞き取りづらい声を出してしまいます)。ヴィルシは母星以外でもよく見られる種族で、他者に奉仕するような職業に就くことが多いです。特にその器用さから医者としては優秀で、ヴィルシの外科医の腕前は既知宙域各地で有名です。ストレフォン皇帝の侍医団にヴィルシの外科医が含まれていることからも、その優秀さはわかるでしょう。一方でその大きさと強さがありながら命令と争いを嫌う性格から、軍隊の中にはいられません。
イン=ツァイ Yn-tsai
母星:不明(少なくともツァネシ(1711)ではない)
イン=ツァイは七本指で二足歩行の知的生命です。彼らは身長およそ1.9メートルで、白か灰色か金色の柔らかい毛で覆われています。髪は長く伸ばされ、自身の社会的地位を表すために精巧に編まれます。肉食動物から進化したと思われる彼らは、低い気圧を好みます。
563年にカレドンの探検隊がツァネシでイン=ツァイと初めて接触した時点では、彼らはTL3の封建的で(肉食動物らしからぬ)極端に平和主義的な社会を構築し、「空の向こうから来た訪問者」を非常に恐れていました。これはサイエによる悲惨な内戦の影響と考えられ、彼らの不信と恐怖を解きほぐすのに数十年を要しました。
カレドン公王国の商人や科学者や探検家が(渋々)受け入れられた結果、彼らの技術水準はこの数世紀で向上しましたが、戦争や宇宙旅行に関連する技術の受け入れは未だに避ける傾向があります。
現在の一般的な説では、イン=ツァイはサイエに隷属していたどこかの種族の末裔と考えられていますが、太古種族によって別の星から持ち込まれたとする説を唱える学者もいます。
ヰスライ Yslai
母星:イスライアト(0221)
群小種族のヰスライは、身長1メートル、体重40キログラムほどの小柄な体型をしています。外見はテラ原産のキュウリのようで、同様に緑色をしています。彼らは手を兼ねた3本指の4本足で器用に歩くことができます。
彼らは性を持たず、数年に一度、自分自身を「発芽」させることで繁殖します。ただしこの発芽は、周辺の食物や資源が十分に豊富である時のみ起こります。発生した「芽」は数週間で独立し、6~8年後には発芽が可能となる成熟期を迎えます。
彼らの唯一の食べ物は、イスライアトのみで育つ特別な植物を発酵させた泥水のようなもので、アスランには匂いがきついものの食べられないことはありませんが、人類には吐き気を催す上に有毒です。
ちなみに、星図に記されたイスライアト領内全ての星系名はアスラン語によるものです。ヰスライの言語はアスランにも人類にも表記や発声が不可能であり、高級翻訳機なしでは意思疎通が困難です。
(※これは非公式設定です。現時点で公式にはイスライアトの群小種族は何も設定されていません)
(この宙域の国家・企業等についてはこちらを、ライブラリ・データについてはこちらを参照してください)
この宙域はまず1981年にMarischal Adventures社から「スコティアン・ハントレス号」シリーズのシナリオが発売され、続いて1982年からFASA社の『Far Traveller』誌で関連記事の掲載が始まり、本家GDWからもハントレス号シリーズのシナリオ『侵略の夜(Night of Conquest)』が出ました。Gamelords社からは1983年から84年にかけて設定やシナリオが数々出版され、その後はSword of the Knight Publications社の『Traveller Chronicle』誌で設定の連載が行われたり、1999年にCargonaut Press社から幻のサプリメント・シナリオなどをまとめた『Lost Supplements Collection』が出るなど、息の長い(というかKeith兄弟の情熱とも執念とも言える)サポートが続いていました。他にも『Travellers' Digest』誌のグランドツアー第16話の舞台となったり、JTAS誌やGURPSやT20でも異星種族設定が紹介されるなど、和訳資料は少ないですがその設定量はかなりのものになっています。
今回からは、そんなリーヴァーズ・ディープ宙域のディープな魅力を少しでもお伝えできたら、と思います。ただ、この宙域に関してはシナリオ等で本格的に動き出すのが1108年以降、多くの設定は1115年視点のものとなっています。いつものように1105年設定に変えるのは不可能ではないですが、国境線やトラベルゾーン指定の変更問題に加え、シナリオのネタになりそうな美味しい事件が減ってしまうこともあり、あえて「1115年設定」で記述しています。ただし1108年以降判明したいくつかの新事実については、意図的に伏せています。
大裂溝に面したリーヴァーズ・ディープ宙域は帝国の最辺境の一つであり、アスランやソロマニ連合との緩衝地帯でもあります。これら列強国の狭間には様々な独立中小国家や中立星系が存在し、様々な勢力の思惑がうごめく、魅力と危険が背中合わせの宙域です。
宙域のその名前は、暗黒時代に様々な《略奪者》たち(Reavers)がこの宙域、そして周辺宙域を荒らし回っていたことから付けられました。《略奪者》たちは暗黒時代の終わりとともに拡大を始めた第三帝国やアスランによって歴史の中に封じられていきましたが、現在でもこの宙域に多数ある中立世界は海賊や犯罪者の隠れ家であることは否めません。
【宙域史】
リーヴァーズ・ディープ宙域の古代史はほとんど判明していませんが、少なくとも他の宙域と同じく、30万年前には太古種族が活動していたと考えられています。その痕跡は各地の遺跡や遺物、最終戦争の傷跡、テラから持ち込まれた群小人類たち、そして彼ら太古種族の末裔であるドロインの存在に見ることができます。
太古種族が去り、再びこの宙域が動き始めたのは-2600年頃でした。衰退と腐敗の過程にあった第一帝国の辺境の総督は自らの覇権を維持拡大するために、内密に国境外世界から「蛮族」の傭兵を雇い入れ始めました。現在のダイベイ宙域にあたるランキシダム属州の総督も例外ではなく、将来の謀反を企図してディープ方面へ探検隊を送り込みました。そこでヴィラニ人は、当時TL7に達していた知的種族サイエと接触したのです。
目的に適ったサイエ文明に対しては極秘裏に技術供与が行われ、武器や宇宙船を作る能力を彼らは得ました。しかし総督の野心は露見し、罷免された上で処刑されました。その結果、サイエの存在は帝国内では闇へと消えてしまいました。一方、サイエ文明に送られた派遣団は帰国することができなくなり、そのまま留まって彼らに技術供与を続けました。
攻撃的で拡張主義的なサイエは、得た技術を用いてカレドン、リフトリム、ナイトリムの各星域に広がる小帝国を一時は築きましたが、やがて拡大し過ぎた彼らは大規模な内戦に突入し、滅亡しました。各地に広がったサイエ文化は跡形もなく消え、サイエの存在は彼らが征服した種族の神話伝承の中に封じられました。
次にディープに人類が足を踏み入れたのは、ヴィラニ人と「地球人」が衝突した恒星間戦争の末期から「人類の支配」(第二帝国)の時代にかけてで、ディープはソロマニ人によって探査され、いくつかの世界に植民が行われましたが、多くの世界は無人のままでした。やがて第一帝国の負の遺産を抱えた第二帝国も崩壊して暗黒時代が始まると、孤立したわずかな最先端地域を除き、恒星間政府と通商は失われました。
《略奪者》がこの宙域に現れたのは、そんな時代でした。彼らは初めは数隻の宇宙船をかき集めた小規模な海賊団に過ぎませんでしたが、やがて後進世界の略奪などを繰り返すことで小帝国化していきました。最盛期にはダークネビュラ、マジャール、ソロマニ・リム、アルファ・クルーシスの各宙域にまで襲撃範囲を広げていた《略奪者》たちでしたが、-1118年のヤロスラフの戦いを境に衰退に転じ、アスラン国境戦争(-1120年~380年)の開戦によって強大なアスランとの交戦リスクを避けるようになったこともあり、周辺宙域に数々の伝説を残した彼らは次第に消えていきました。「ブラックジャック」デュケイン("Blackjack" Duquesne)、「淡紫の」ウー・ルー(Orchid Wu Lu)、「乱暴者」アリソン・マードック(Alison "Hellion" Murdoch)といった著名な《略奪者》たちは、後に多くの(史実より美化された)書籍やホロドラマを生み出しました。
暗黒時代が終わりに近づくにつれてスピンワード方面からアスランが、100年頃にはトレイリング方面から第三帝国がこの宙域に進出してきました。両者の船は探査と征服を繰り返し、380年のフトホルの和約によって緩衝地帯が設けられるまで衝突を続けました。
現在のディープはいくつもの勢力に分断された宙域となっています。アスラン、およびアスランの従属国は宙域のスピンワード/リムワード方面の端に存在します。帝国は緩衝地帯を挟んでコアワード/トレイリング方面にあります。ソロマニ連合に属する星系はファールナー星域の一部に広がっています。しかしディープの中心部は独立しているか、もしくは宙域の2大国家であるカレドン公王国かカーリル合集国の影響下にあります。ディープを取り囲む列強国の影響はなくはないですが、この辺境宙域には外部干渉からの自由を謳歌する、面白くも危険な伝統が染み付いています。
【知的種族(人類)】
アヤンシュイ人 Ayansh'i
母星:ゴースト(3115)
太古種族によって樹林溢れるゴースト星系に持ち込まれた彼らは、第二帝国期に他の人類との「接触」を果たしています。そしてその後の暗黒時代を経ても彼らの文化はほとんど変化せず、87年に帝国偵察局が再接触した際には来訪を歓迎した、と記録されています。
平均体重70kg程度と痩せ型の彼らは、目の95%を虹彩が覆っているので、母星の照らすわずかな光の中でも良好な視界を得ることができます。また彼らはヴィラニ人以上の250年の寿命を持ち、双子出産は普通のことです。これらの特徴は自然進化によるものではなく、太古種族による遺伝子操作の可能性が考えられ、実際彼らは他の人類と交配することができません(ただし彼らはこれらを「我らの先祖が選んだこと」と主張し、現在も学術調査を許可していません)。
彼らは独自の言語を保有していますが、それは他の人種の前ではめったに話されません。彼らは自分たちの言語の秘密を守るために、他の言語を非常によく学びます。そのため訪問客に対しては、訛りのない訪問客の自国語で応対しています。
アヤンシュイ人の美術は帝国では非常に高く評価されており、ダイベイ宙域を通じて帝国中に輸出されています。彼らはめったに母星の外には出ませんが、顧客の熱心な説得に折れて星系外で作品制作をすることもあります。有名なものでは、ワリニア(ダイベイ宙域 0507)の公爵庭園の造園や、ソル大公所有の『季々の笏(The Scepter of Seasons)』、キャピタル(コア宙域 2118)の皇宮の『クシウム・マタリ(K'sium Matari)』を手がけています。なお作品が完成し次第、必ず彼らは速やかにゴーストに戻ります。
アヤンシュイ人の遊牧社会には、アヤタ(Ayata, 生活界)とインチャタ(In'chata, 精神界)の2つの概念が存在します。アヤタの全てはインチャタの現れとみなされ、女性の預言者(Oracle)とパツァイター(Patza'itah, 預言者の弟子)のみがインチャタを解釈することができます。一人のパツァイターにはイノシャン(Inoshan)と呼ばれる非常に訓練された護衛が一人付けられ、共に中央の儀礼用の建物に住むのですが、この一組が全てにおいて双子の兄妹(や姉弟)であるのは興味深い点です。
各部族では自治がなされ、先祖から受け継いだそれぞれの猟場を支配します。部族は十数家以上の家族からなり、最上位家の最高齢の双子が部族を統治します。部族は伝統的に狩人かつ採集人で、いくつかの仮小屋を猟場に散在させています。これらの仮小屋はサジターティウス樹の上に大枝などで居住空間を築かれ、世界の大型生物から身を守っています。また、部屋の「壁」には部族の記録として彫刻が施されています。
預言者が部族間のどのような問題でも解決するため、アヤンシュイ人の間には戦争どころか部族対立すらありません。猟場を巡る狩人同士のいさかいは起きますが、これは部族の長によって速やかに止められ、預言者に仲裁が委ねられます。そのような文化のため、アヤンシュイ人には狩人以上の「軍人」はいません。
ハッピルーヴァ人 Happirhva
母星:レジャップール(1218)
太古種族によって30万年前に、乾燥気候のため居住にはあまり適さないレジャップールに移住させられたハッピルーヴァ人は、生き残りのための絶え間ない戦いを強いられました(※さらに言えば、レジャップールは太古種族の最終戦争の際に隕石爆撃の標的となっています)。その教訓から彼らは、科学技術や文明を開発しないようにする風習を築きました。実際、彼らが約250年前にカレドンの影響下に入った頃でも、その文明はTL3に留まっていました。
外世界からレジャップールへの入植が始まった頃、ハッピルーヴァ人には2つの集団が形成されていました。「大地の民」を意味するハップラーニ族(Happrhani)と、「草原の民」を意味するハッピジョム族(Happijhom)です。前者は後者より人口こそ少なかったのですが、より文化的でした。
ハップラーニ族は惑星の肥沃な地域で数々の農業集落を形成し、砂漠のオアシスや湖の周辺にも井戸を掘って入植していました。TL3の文明は繁栄していて、平和的な生活様式をしています。
一方、ハッピジョム族は惑星の広大な草原地帯や砂漠地帯に住む遊牧民です。一年のほとんどにおいて、大草原は騎乗獣ジェダーハイ(jhederhai)や食用草食動物ハージャンキ(herjhanki)を容易に養うことができます。しかし、最大100日間の冬季には大草原は不毛となるため、遊牧民は他の土地に餌を求めて移動しなくてはなりません。それは時として、ハップラーニ族の住む肥沃な土地も対象となります。この季節性の「移動」は対立を定期的に引き起こしてはいますが、ほとんどの場合において両者は共存できています。時折起こる事件や衝突を除けば、「移動の季節」は交易の、祭典の、そして異部族間結婚の季節であり、文化や友情の交流を図る時期です。
レジャップール出身者の宗教的信条は様々で、変化に富みます。一部の遊牧民は「空の神」に対する畏敬と不信を持っていますが、この「神」は異星人類学者によれば太古種族の隠喩ではないかと考えられています。また彼らは水面を病気と死を呼ぶ不浄のものと考えていて(実際この星のわずかな水界は淀んでいます)、「空の凶神」である外世界人による灌漑を「自然の摂理に反する邪悪な魔術」と見て反発しています。
一方でレジャップールのどんな人々も、人生に対する考え方は類似しています。野蛮ではありますが、外部との競争に際しては協力し、勇気と名誉を美徳とし、良き家族や民衆や種族への献身を重んじます。彼らは冷酷な殺害をせず、死刑囚にすら自らの潔白を証明する戦いの機会を与えます。
ハップラーニ族は独特の口語および書き言葉を発達させました。この言語は遊牧民たちとの公用語にもなっていますが、遊牧民は部族ごとに相互理解のできない方言を使用しています。また、多くのハップラーニ族(特に兵士や農園に雇用された者)はカレドン訛りの銀河公用語を解します。
一方で外世界人はいくつかの単語を俗語として取り入れた以外には、わざわざ地元言語を学びませんでした。地方港ではハップラーニ語に対応した翻訳機が利用可能ですが、様々な遊牧民方言に対応したデータはわずかか、全くありません。
イルサラ人 Iltharan
母星:ドレシルサー(1826)
「諸君がイルサラ文化を知っているのなら、『イルサラ人』という単語が多くの方言で『海賊』と同義語になっていった事に驚きはしないであろう。そしてそれが当のイルサラ人にとっては誇りの表現である事にも驚かないであろう」
ダフィド・ジュガシヴィリ教授による、シレア大学の比較知的種族学講義より
母星の名を取って「ドレシルサー人」とも呼ばれるイルサラ人は、地表の9割が海に覆われたドレシルサーのわずかな土地をめぐる争いから、活発で好戦的な種族となりました。惑星上の3つの孤立した小さな大陸でそれぞれ別の民族集団が文明を築き、お互いに争いと混乱の長い歴史を持ちました。そもそも「イルサラ」というのは、他の2大陸をも制した民族(そして国家)の名前なのです(※人類系種族としてのイルサラ人と一民族としてのイルサラ族を区別しやすくするため、民族名としては「高イルサラ族」(High Iltharans)という表記も使われます)。
一方、征服されたアカカード族(Akakhad)とトリング族(Tring)はイルサラ帝国(Iltharan Empire)に吸収されましたが、民族としての独自性は完全には失われませんでした。ちなみに、-850年頃にイルサラ帝国の軍艦がガージパジェ(1124)に不時着しましたが、この時の生存者の子孫がクトリング族(K'tring)です。生存者の大多数がトリング族であったことから、現地語でこの名が付きました。
太古種族によって人類が持ち込まれたドレシルサーは、他所から離れていたためにヴィラニ帝国、人類の支配(第二帝国)、アスラン氏族に取り込まれることはありませんでした。3つの民族に分かれたドレシルサーの人類は互いに戦争を続け、銀河の歴史に関わることはありませんでした。
第二帝国の衰亡によって始まった暗黒時代、リーヴァーズ・ディープ宙域には《略奪者》が横行しました。そのような中、ドレシルサーに不時着した《略奪王》イザナク大提督から核融合とジャンプ技術を手に入れたイルサラ族は、得た知識をドレシルサーの征服に用い、-1000年までにアカカード族とトリング族を「イルサラ帝国」に取り込むと、ジャンプ-1宇宙船を発進させました。
その後のイルサラ帝国は、自分たちより遅れた文明の星々を素早く征服し、征服するには人口の多すぎる世界には略奪に向かいました。無人世界は、例え環境が良くても無視されました。-890年から-100年までイルサラ帝国は無敵を誇りましたが、やがてソロマニ人系国家であるカレドン公王国や、この宙域にやって来た第三帝国との戦いの果てに滅亡しました。
現在イルサラ人は、リーヴァーズ・ディープ宙域内に点在しています。多くの世界ではソロマニ人や他の種族と比べて少数派ではありますが、旧帝国の中心部だったいくつかの星系では今でも多数派です。彼らの攻撃性は今も衰えることはなく、中には祖国を滅ぼした者たちへの復讐のためにテロリズムや海賊行為に走る者もいます。
成人のイルサラ人男性は身長約2メートル、体重95キログラムが平均的な体格です。大部分の人類と同様に、女性は男性より背が低く、軽いです。皮膚の色は薄い青銅色から乳青白色(milk-pale)で、眼の色は一般的に青、灰色、榛色(アカカード族は茶色の眼が多い)です。髪の色は茶褐色か黒で、体毛は濃い傾向があるので成人男性は常に顎髭を伸ばします。またイルサラ人はドレシルサーの低重力(0.5G)と寒冷気候(平均気温マイナス2度)に適応しています。
イルサラ人は人類の根源種にかなり近く、特に問題なく他の人類(特にソロマニ人)と交配することができます。ただし一番の違いはこの生殖に関することで、イルサラ人は基本的に不妊症ですが、代わりに長い寿命を持ちます。イルサラ人は誕生から18標準年ほどで成熟しますが、100歳頃までは老化を感じさせません。そして適切な医療を受けていれば150標準年程度は生きます。そのためイルサラ人の数は、理想的な状況下でもゆっくりと増加する傾向があります。母星ドレシルサーの人口は最盛期でも1億人に過ぎず、イルサラ帝国の滅亡による荒廃期から現在までも、惑星人口はほとんど変化がありません(※現在の人口は930万人ですから、爆撃によって人口は1割以下になったようです。そして皮肉なことに、ガージパジェのクトリング族の人口は母星よりも多い3700万人にまで達しています)。
イルサラ人の出生率の低さと寿命の長さ、そして特殊な老化曲線は、他の人類との精神面での違いも生み出しました。イルサラ社会は年功序列で、50歳未満の「若者」は見習い、単純労働者、従卒といった扱いです。若者は厳しい鍛錬の対象であり、彼らの意見は通常無視されます。75歳ぐらいになるとようやく指導的な立場になれます。
この影響で、イルサラ社会は非常に保守的となりました。前星間技術時代のドレシルサーの歴史の中で社会が破綻するような事態はほとんど起こりませんでしたが、同時に文明の歩みは非常に遅かったのです。科学的発見、技術革新、芸術や建築の新様式、といった全てにおいて、発達するのに長い時間が掛かりました。考古学者はドレシルサーの農耕文明が5万年前に誕生したと考えていますが、イザナク大提督がドレシルサーを発見した時でも最先端文明はかろうじて無線と電気を開発した程度でした。
宇宙に出て「接触時代」を迎えたイルサラ人は、他の文明から物品だけでなく芸術家や科学者や技術の専門家も略奪するようになりました。以後1000年間に渡ってイルサラ帝国は「寄生文明」でしかなく、自分自身の社会を維持するためにいくつもの他の文明を食い物にしていました。イルサラ人が他文明を虐待こそしていても、虐殺に至らなかったのはこうした理由があったようです。当然のことながらこの手法は効率が悪く、イルサラ帝国がより優れた文明と接触すると、変化を拒んだ彼らは滅亡に向かって落ちていくしかありませんでした。
イルサラ社会は非常に軍国主義的です。高イルサラ族が「軟弱で平和主義的」だと捉えているアカカード族やトリング族ですら、大部分のソロマニ人やヴィラニ人よりは攻撃的で、厳しく統制されています。また、若者はより好戦的な傾向があります。
多くの人類とは異なり、イルサラ人は父権的社会ではありませんでした。産業化前の時代でも女性には男性と同等の社会的・政治的権利がありました。これはイルサラ人の不妊症の影響で女性の人生において出産育児に費やす時間が少なく、その分だけ社会活動に回すことができたからです。
イルサラ社会の中核にあるのは職業ギルドです。子供たちは国によって一般教育が与えられ、成人すると見習いとしてギルドの一つに所属します(通常は親の片方もしくは両親が所属していたギルドに属します)。ギルドは訓練と仕事を提供し、同時に構成員としての規律を求めます。またギルドは男女を引き合わせ、育児を手伝い、他の社会福祉事業も担います。こういったギルドの存在により、イルサラ人には企業の概念は発達しませんでした。
また、軍隊も一つの「最も大きく最も由緒ある」ギルドでした。イルサラ社会は伝統的に軍隊が統治していましたが、その軍隊は代々上級将校を輩出する特定の家系によって導かれていました。しかしイルサラ帝国が没落してからは、軍隊は富や栄光を得る機会を失い、実権は官僚機構に移りました。今や最上級将校からなる「支配階層」は表看板に過ぎません。
【知的種族(非人類)】
ダーフィガッサク Derfi'gassak
母星:オークニー(2919)?
オークニー(2919)及びメイデン(2920)に住む群小種族ですが、彼らがオークニーを母星として進化したのか偵察局は未だに断定しきれていません。それだけ、彼らについてはわずかしか判っていないのです。
偵察局による帝国暦110年の第一期探査では彼らは発見されず、ようやく180年に偵察局の船が接触しました。その後、隣接するメイデン星系に彼らの植民地が発見され、これは世代間宇宙船によって植民されたことが判明しました。
ダーフィガッサクは平均全長150cm未満の小柄な種族で、黒い肌と白い髪を持ちます。6本の手足が身体から出ていて、そのうち4本が長くなっています。彼らは道具を使う際はどの「腕」でも使うことができます。彼らには目がないように見えますが、「腕」にはとても敏感な感覚器官を備えていて、周囲全ての動き、匂い、音を感じることができます。また、彼らの「口」は身体の下部にあります。男性は筋肉質で、女性は痩せている傾向があります。
オークニーの熱帯雨林環境に適応したため、彼らは何も着用しない狩猟文化を持ちます。また彼らの平均寿命は短いのですが、これはオークニー土着の巨大捕食生物によるものです。乳幼児死亡率の高さから来る「短命」が、彼らに早い性的成熟を促したと偵察局は考えています。
彼らの言語は音楽に似ていて、喉頭音と舌打ち音から成り、これがオークニーの濃い大気と密林に響き渡っています。しかし偵察局は彼らの言語の翻訳に成功していません。
フオスキーキール H'Oskhikhil
母星:ストーム(1404)
惑星ストームの偏心軌道は、フオスキーキールの生涯を「貪欲に捕食する幼体」と「文化的だが捕食される成体」に分けました。このことは、彼らが比較的最近まで永続的な技術社会を構築できなくしていました。
成体が幼体に捕食されないように「防護住居」を築くようになったことで、彼らの文明は始まりました。フオスキーキールの成体の一部は、暑い近日点季の間は極地の涼しい洞穴に移り住み、出産期を生き残ることができていました。このことから学んだ彼らは、防護住居に空調を施しました。文字は数百年前に開発され、彼らは口伝されていた歴史と業績を住居の壁に忙しく書き記しています。
フオスキーキールの成体の身体は直径1.5m、高さ0.5mの膨体で毛皮に覆われ、周囲に様々な大きさの12肢の触手が並んでいます。これらは全て足の働きもします。
一方幼体は高さ1mの管状体で、そこから茎状に飛び出た2つの目と掴むための4本の触手と4本のしっかりとした足が突き出ています。幼体には毛皮はありませんが、単純な道具を使う程度の知性があります。幼体も成体もストームの通常より高濃度のオゾン大気に適応しています。
近日点季による気温上昇は幼体の出産を引き起こすため、成体は涼しい環境にいることでその工程を先送りすることを望みます。なぜなら出産は成体の死を伴うからです(そして親の死骸は生まれた幼体の最初の食料となります)。
彼らは声を発していないように見えますが、実際には超音波域で複雑な会話を交わしています。また可聴域は人類の音声の領域まであるので、彼らの一部は銀河公用語を学び、外世界からの訪問客との通訳になっています。
幼体のフオスキーキールは動くものは何でも攻撃して捕食しようとします(幼体は群れで行動するので仲間は例外です)。それが成体であろうと、動物であろうと、人類であろうと。そして彼らには、獲物を殺す武器として道具を使用する以外には知性は見られません。
一方、成体は友好的で平和的です。初めて出会う者に対しては用心深くなりますが、訪問者が自身や生息地への脅威ではないことがわかれば、彼らは友人になろうとします。
成体のフオスキーキールは本能的に好奇心が旺盛で、新たな技術を素早く吸収します。このことにより彼らはこの300~400年ほどで急速に技術水準を向上させることができました。そしてあと数十年もすれば、彼らは自力で宇宙に飛び出していくことでしょう。
フオスキーキールの成体は要塞と霊廟を兼ねたような大きな石の建物に住んでいます。これらの建造物は彼らが次世代に文化と技術を受け渡すための、守りが固く空調の効いた避難所です。ストームの各地には何百万ものこういった建物が点在し、全て合わせて80億人の成体が現在住んでいます。
それぞれの建物の中で一番知的な者が指導者に選ばれるため、フオスキーキールの社会は封建的技術主義に分類されます。最も技術的に進んだ建物の指導者がその地域の指導者となり、地域の建物同士は互いに協力し合います。そして地域指導者は惑星全体の問題を話し合うために会合を持ちます。会合を主導する者は、出席者の中から最も知的な者が選ばれますが、その指導力はその会合の間のみで発揮されます。
成体のフオスキーキール同士で争うことがなかったので、彼らは軍隊を持ったことはありません。幼体から身を守るために唯一有効な手段が防護住居の建設だったこともあり(それは幼体と戦うよりも効果的でした)、最大の脅威を退けた彼らにはそれ以上の力は必要なかったのです。
ジアージェ J'aadje
母星:ガージパジェ(1124)
ジアージェは小柄(平均身長1.5m、平均体重60kg)で機敏な、大きな目と金色の皮膚を持つ二足歩行知的種族です。ジアージェは互いに友好的で、外世界人に対しても親切に応対します。ジアージェのTL4文明は技術発展をあまり重視せず、代わりに詩や舞踏といった芸術を重んじています。上品で繊細な芸術とそれを支える技量には高い商業的価値があり、外世界でも高値で取引されています。
ただしガージパジェには長い闘争の歴史があり、彼らをひ弱な種族と決めつけるのは早計です。
ラングルジゲー Languljigee
母星:ラジャンジガル(1721)
母星の塩素環境で進化した三本足の知的種族である彼らは、行動的で活力にあふれています。環境は技術を進歩させるには向いていませんが、それでも彼らは知的で賢いです。TL3の文明を持つ彼らと交易する人類の貿易商人はあまり多くはありません。
1080年に彼らはダカール・コーポレーション(Dakaar Corporation)の支配下に入り、地元の様々な希土類や放射性物質の採掘作業における奴隷的な労働力として使用されています。
ルーシャナ Lhshana
母星:ルーシャミ(2111)
雑食採集生物から進化したルーシャナは、身長1.2mほどの三角体型に優れた操作能力を持つ触手が付属しています。触手にはそれぞれ感覚器が付いており、聴覚、嗅覚、味覚に加え、赤外線域の視覚にも対応しています。口は腹部に位置して食物摂取のみに使用され、呼吸は触手の根本にある開口部から行われます。
非攻撃的で静かな種族である彼らは、カレドン公王国の商業探査隊(merchant explorers)と598年に接触した頃には2000年の歴史を持つTL9の文明を築いていました。まず前文明期のルーシャナはサイエの支配下に置かれ(サイエの活動や風習の記録はルーシャナの民間伝承や神話の中に遺されています)、そして暗黒時代には人類の《略奪者》の接触も受けています。これらの要因により彼らの技術進歩は後押しを受けましたが、一方で彼らは宇宙には関心を持たず、宇宙飛行技術は開発していませんでした。
ポリフェミー Polyphemes
母星:フタリェア(1226)
ポリフェミーは原始的な狩猟採集社会を形成しています。飛び出た耳と大きな一つ目、屈強な体を持つ、大きな体格の二足歩行種族です。彼らは最近になって人類の貿易商人と接触したため、まだ詳しいことはわかっていません。
サイエ Saie
母星:リフトディープ星域かリフトリム星域のどこかの赤色矮星星系?
3700年前に滅亡した非人類種族サイエの文明については、ほとんどわかっていません。彼らが残した痕跡は極わずかで、グレンシエル(1912)にある「ジュラの墜落痕(Crash Jura)」、ヴィラニ人による記録、イン=ツァイやルーシャナの神話伝承から得られる程度のものしかありません。
集められた数少ない証拠から、サイエは肉食の捕食動物から進化した直立二足歩行種族だと考えられていますが、彼らの母星どころか、姿形がどうだったかすら判明していません。彼らは謀反を企んだヴィラニ総督から極秘裏にジャンプ技術を入手し、現在のカレドン星域あたりを中心にして小帝国を築いたようです。彼らは好戦的で内部のいざこざも多く、征服惑星には数百名程度の統治者や兵士しか置いていなかったと思われます。そして最終的にサイエの小帝国は、破滅的な内戦の末に自分たちもろとも消え去りました。
カレドン公王国の者に限らず考古学者たちは、この謎めいた種族の詳細を追い求めていますが、これまで誰も決定的な証拠を手に入れられていません。
トリェトライ Tlyetrai
母星:ホア(0310)
(※非人類の群小種族であること以外には資料が存在しません)
ヴィルシ Virushi
母星:ヴィルシャシュ(2724)
「戦車の血を引くケンタウロス」「考えるブルドーザー」などと仇名されるヴィルシですが、実際は穏やかな巨人です。彼らはとても礼儀正しく、柔らかな声で話します(※ヴィルシは高圧大気に適応した発声をするので、人類には弱く静かに聞こえるのです)。彼らは母星でも最大の生命体だったので他の動物は脅威とならず、群れを作らずに生きていくことができました。彼らの社会は家族を中心とした「協力体(cooperative)」以上には発達せず、結果的に個々の自由を重んじた牧歌的なものとなりました(※よって彼らは帝国にコンピュータや経済学を教わるまで高度な文明を築けませんでした)。ヴィルシは納得さえすればどのような仕事でも喜んで協力してくれますが、反面、彼らに命令して仕事をさせるのはほぼ不可能です。
ヴィルシは確かに個人主義的ですが、これは我が儘だからではなく、お互いの違いを尊重しあう礼儀正しさから来ているものです。しかしその静かで穏やかな性格にも関わらず、彼らは友人や家族を守るためなら戦いを厭いません。とはいえ大抵は理性的に非暴力的な解決法を探して交渉を試み、戦いになっても敵が引き下がってくれれば争いの拡大は好みませんが。また、ヴィルシは痛みに対して無関心と言っていいほど非常に強く、身体を傷つけた程度で彼らを怒らせるのはまず無理です。
地球人の目には「サイとケンタウロスの混血」に見えたヴィルシは、全長3メートル、肩までの高さが1.8メートル、体重は1トンもある、これまで遭遇した知的種族の中で最大級の体格を持ちます。彼らの母星の高重力・高圧大気・伴星からの重度の放射線が、彼らをこのように進化させたのです。硬い皮に覆われた身体には、樹木のように太い4本の足と、人類ほどの大きさで驚くほどに器用な一対の上腕と、かなり屈強な一対の下腕が付いています(つまり腕は4本です)。さらに彼らの体重を支え、身を守る強力な武器となる長く太い尾が付属します。ヴィルシの目は眩しい日光下の環境に適応したので、薄暗い環境を苦手とします。また、聴力は高濃度大気に適応しているので、一般的な大気下ではうまく機能しません(人類の声は彼らの可聴範囲ぎりぎりに入っています)。彼らは草食で、基本的に人類の倍以上の量を摂取します。
ヴィルシは母語としてヴィルシ語を話しますが、大部分のヴィルシは銀河公用語を話せます(ただし気を抜くと人類の可聴域を下回る聞き取りづらい声を出してしまいます)。ヴィルシは母星以外でもよく見られる種族で、他者に奉仕するような職業に就くことが多いです。特にその器用さから医者としては優秀で、ヴィルシの外科医の腕前は既知宙域各地で有名です。ストレフォン皇帝の侍医団にヴィルシの外科医が含まれていることからも、その優秀さはわかるでしょう。一方でその大きさと強さがありながら命令と争いを嫌う性格から、軍隊の中にはいられません。
イン=ツァイ Yn-tsai
母星:不明(少なくともツァネシ(1711)ではない)
イン=ツァイは七本指で二足歩行の知的生命です。彼らは身長およそ1.9メートルで、白か灰色か金色の柔らかい毛で覆われています。髪は長く伸ばされ、自身の社会的地位を表すために精巧に編まれます。肉食動物から進化したと思われる彼らは、低い気圧を好みます。
563年にカレドンの探検隊がツァネシでイン=ツァイと初めて接触した時点では、彼らはTL3の封建的で(肉食動物らしからぬ)極端に平和主義的な社会を構築し、「空の向こうから来た訪問者」を非常に恐れていました。これはサイエによる悲惨な内戦の影響と考えられ、彼らの不信と恐怖を解きほぐすのに数十年を要しました。
カレドン公王国の商人や科学者や探検家が(渋々)受け入れられた結果、彼らの技術水準はこの数世紀で向上しましたが、戦争や宇宙旅行に関連する技術の受け入れは未だに避ける傾向があります。
現在の一般的な説では、イン=ツァイはサイエに隷属していたどこかの種族の末裔と考えられていますが、太古種族によって別の星から持ち込まれたとする説を唱える学者もいます。
ヰスライ Yslai
母星:イスライアト(0221)
群小種族のヰスライは、身長1メートル、体重40キログラムほどの小柄な体型をしています。外見はテラ原産のキュウリのようで、同様に緑色をしています。彼らは手を兼ねた3本指の4本足で器用に歩くことができます。
彼らは性を持たず、数年に一度、自分自身を「発芽」させることで繁殖します。ただしこの発芽は、周辺の食物や資源が十分に豊富である時のみ起こります。発生した「芽」は数週間で独立し、6~8年後には発芽が可能となる成熟期を迎えます。
彼らの唯一の食べ物は、イスライアトのみで育つ特別な植物を発酵させた泥水のようなもので、アスランには匂いがきついものの食べられないことはありませんが、人類には吐き気を催す上に有毒です。
ちなみに、星図に記されたイスライアト領内全ての星系名はアスラン語によるものです。ヰスライの言語はアスランにも人類にも表記や発声が不可能であり、高級翻訳機なしでは意思疎通が困難です。
(※これは非公式設定です。現時点で公式にはイスライアトの群小種族は何も設定されていません)
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