昨日(7月1日)厚生労働省が発表したデータによると、5月の所定内賃金は26か月ぶりに前年同月比上昇(0.2%アップ)に転じた。一方4月の消費税増税等の影響で実質賃金は前年同月比3.6%減少した。これは2009年12月以降で最大の落ち込みだ。
事実はこのとおりだが、これをニュースのヘッドラインにする時、前者を使うか後者を使うかで印象は随分異なる。
ロイター(日本語版)の見出しは「5月の実質賃金は前年比3.6%の減、消費下押しを懸念との声」とあり、WSJの見出しはJapanese Base pay rises for first time in more than two years(日本の所定内賃金は過去2年以上で初めて上昇)とあった。
最初に受けた印象がアンカリングになり、それから先の考えをまとめる上でも影響を受けるのではないか?と興味深く感じた次第。
景気が回復基調になっても最初は企業は低賃金のパートタイマーを増やすことで対応するので基準内賃金は上昇しない。しかし今年に入って企業は正規雇用者を増やし始めたので、基準内賃金が上昇し始めた。
リーマンショック後の企業活動を見ると、減収ながら増益であり、その増益は正規雇用者の削減を含む経費削減策によりもたらされている。
正規雇用者の数は5月にようやくプラスに転じた。また残業代を含む総賃金ベースでは3か月連続の上昇となっている。
しかし消費税増税や物価上昇を差し引くと実質賃金が減っていることは事実だ。今後実質賃金が上昇するには正規雇用者の数と所定内賃金が上昇することが必要だ。それは日本経済が好循環に入るための試金石である。
実質賃金のマイナスに着目するか、所定内賃金の上昇を好転の兆しとして着目するかは中々興味深い。