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金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

G20での7つの対立軸

2010年11月09日 | 国際・政治

リーマンショック直後は、世界的な危機回避のため、歩調を揃えようとした主要20カ国だが、このところ色々な局面で対立が目立っている。対立が目立つということは、しかし、穿った見方をすると経済危機が遠ざかったことの証(あかし)なのかもしれない。

経営危機が契機で合併した会社を見ていても、危機の最中は協力して社業に勤しんでいるが、熱さが喉元を過ぎると社内抗争を再開する。世界もそのようなものなのだろう。余談ながら、みずほグループのように図体が大きくなり過ぎると危機を感知する神経回路が複雑過ぎていつまでも内部抗争を続けている会社もあるが・・・・

さてFTは韓国で開かれるG20について、中心となるのは米中間の緊張だが、世界は単純に米国寄り・中国寄りと分けることはできない、むしろ7つの対立軸が世界を分けているのだとコメントしている。

最初の対立軸は貿易および経常収支の黒字国対赤字国だ。赤字国はG20で世界の経済不均衡について論じることを求める。だが彼等は行動を起こすことに懐疑的な黒字枢軸国に直面する。赤字国の代表はアメリカで黒字国の代表は中国。しかし大きな輸出超過国であるドイツはアメリカの経済政策を中国よりも強く批判し、経常赤字の数値的目標設定に反対している(米国は経常赤字・黒字ともGDPの4%以下に抑える目標を設定するべきだと主張)。日本とサウジアラビアも黒字枢軸国の主要メンバーだ。

次の対立軸は操作国対被操作国だ。アメリカは中国を人為的に人民元を低くしていると避難するが、中国はアメリカはドル札を印刷してドル価値を下げていると反論する。インドはややアメリカ寄りで人民元に懸念し、ドイツはむしろアメリカの連銀の動きに懸念している。

次の対立軸は財政引締国対財政緩和国だ。2年前のG20ではアメリカ・イギリスが財政超過支出を主張しドイツが反対した。しかし今では英国は引締側に回り、アメリカの政治も将来の超過支出を抑制しているので、財政緩和を主張するのはIMFだけとなるだろう。

次の対立軸は民主主義国家対専制主義国家だ。G20の中で専制国家は中国とサウジアラビアだけだ。だが中国にとって幸いなことにG20の議題は圧倒的に経済問題だ。

次の対立軸は西側諸国対残りの国だ。古いG7は西側諸国プラス日本だが、新しいG20はかって西側諸国に植民地化されたり、敗北した中国、インド、南アフリカ、ブラジルという新興勢力を含んでいる。このことはG20が政治経済問題だけでなく感情、独自性や人種により分かれることを意味する。

次の対立軸は条約による拘束派対ボランタリー派だ。前者は法的拘束力のある国際的取り決めを求めるが、後者はボランタリーベースで拘束力のない取決めを求める。アメリカや中国は後者の傾向が強い。欧州連合諸国は前者の傾向が強い。

最後の対立軸は大対小だ。これはG20のメンバーとそれ以外の残り約170カ国の対立軸だ。

最後の問題は除くとして仮に6つの対立軸に2つの区分があるとすれば、2の6乗=64パターンがあるということになる。20カ国の内総ての対立軸について同じ意見を持つ国というのは極めて少ないだろうから、合意点を見いだすことが難しいことは想像に難くない。

FTは「韓国はできればG20を世界の運営委員会にしたいと述べているが、余りにも多くの国がハンドルを握っているので、重大な事故なしに生き延びることができれば幸いだ」の述べていた。

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遠交近攻、だが大事なのは相互信頼~米印の関係から

2010年11月09日 | 国際・政治

オバマ大統領の3日間のインド訪問は両国の絆を強める上で大きな意義があった。中間選挙で手痛い敗北を受けたオバマ大統領、カシミール問題や食糧価格の高騰あるいはパキスタン問題で批判を受けているインドのマンモハン・シン首相だが国際舞台での評価は高まりそうだ。

米国とインドを接近させている大きな要因は台頭する中国の脅威や経済的利害関のベクトルが近いことであることは間違いない。だがそれだけを見ていると「外交における信頼関係とは何か?」を見誤るだろう。

ジョージ・ブッシュ前大統領とシン首相は原子力協定交渉を通じて信頼を高めたが、ニューヨーク・タイムズは「オバマ大統領とシン首相はもっと信頼関係を深めたかのように見える」とコメントしている。何故なら二人は表面上の違いにも係わらず、「うわべだけの外交マンというよりは政策通という共通点を持っているからだ」と同紙は述べる。

オバマ大統領はインドが国連の常任理事国入りを目指すことをサポートすると昨日表明した。

一方シン首相は同日米連銀の新金融緩和策(6千億ドルの国債購入等)を支持すると意見を述べた。NTは同首相が「強くて活力があり成長の早い米国は世界の利益である。従って米国の潜在的な経済成長や企業家精神を刺激する政策は、世界の繁栄を助長するだろう」と述べた。

ケンブリッジ大学で経済学を学び、帰国後パンジャブ大学等で教鞭を取った経済学者であるシン首相の発言に重みはあるが、発言の背景にはインドの個別事情がある。

米連銀の金融緩和策はドル安を招くとドイツ、中国、ブラジルなどが反発しているが、インドはG20の中で最も経済成長の輸出依存度が低い国である。インドはドル価値の下落によるマイナス面よりも米国の景気が活性化することのプラス面が大きいのだ。

このことは米国の金融機関等からアウトソースを受けているタタ・コンサルタンシーなどIT企業のことを考えると理解できる。インドのIT企業は欧米企業の活動が高まると潤うのだ。またGDPの3%を超える経常赤字を抱えるインドの場合、外資の流入は経済成長維持上不可欠のエンジンなのだ。先進国の豊富な流動性をインドは歓迎しているのだ。

このように見てくると米国とインドは経済面でもベクトルが一致する部分が多いことが分かる。だが両国の関係を遡ってみると、アイゼンハワー大統領とネール首相、ネールの娘インデラ・ガンジー首相とジョンソン大統領との友好関係、その後のニクソン時代の関係冷却・・・・と様々な出来事があった。

NTは元外務大臣で駐米インド大使も経験したラリット・マンシン氏の「冷戦の高まりの中で(トップの)個人的親和力が、凍りついた関係を溶かす上で役に立った」と述べている。

ではトップの信頼関係は何によって生まれるのだろうか?

シン首相はジョージ・ブッシュ大統領の直裁さstraightforwardを評価した。アイゼンハワー大統領はネールの深い人間性に惹かれた。

もう少し米国とインドの共通点を探ってみよう。一つはどちらも多民族国家であり、多様な価値観の存在を認める民主主義国家という点だ。このような国では人々を動かすにはロジックが必要だ。ロジックなしに「何とか斟酌してくれ」では相手はまったく動かない。

人間性、民主主義という価値観、ロジック、直裁さ・・・これらを共有していると理解する時トップの信頼が高まったというべきだろう。

☆  ☆  ☆

そしてこのような文脈の中で日本の政治状況を見ると暗澹たる気持ちを禁じえない。

まず国際社会で信頼関係を築くには、首相は最低でも3年程度は変えるべきではない。もっともその任に相応しい人を選ぶことが大前提だが。

次に国際社会に受け入れられるロジックを展開することだ。外交とは自国の利益拡大を目指して行うものだが、少なくともロジックがないといけない。阿吽の呼吸は通じないのである。

我々がこのような観点から政治家を選んでこなかったツケが回ってくる・・・のではないだろうか?

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