リーマンショック直後は、世界的な危機回避のため、歩調を揃えようとした主要20カ国だが、このところ色々な局面で対立が目立っている。対立が目立つということは、しかし、穿った見方をすると経済危機が遠ざかったことの証(あかし)なのかもしれない。
経営危機が契機で合併した会社を見ていても、危機の最中は協力して社業に勤しんでいるが、熱さが喉元を過ぎると社内抗争を再開する。世界もそのようなものなのだろう。余談ながら、みずほグループのように図体が大きくなり過ぎると危機を感知する神経回路が複雑過ぎていつまでも内部抗争を続けている会社もあるが・・・・
さてFTは韓国で開かれるG20について、中心となるのは米中間の緊張だが、世界は単純に米国寄り・中国寄りと分けることはできない、むしろ7つの対立軸が世界を分けているのだとコメントしている。
最初の対立軸は貿易および経常収支の黒字国対赤字国だ。赤字国はG20で世界の経済不均衡について論じることを求める。だが彼等は行動を起こすことに懐疑的な黒字枢軸国に直面する。赤字国の代表はアメリカで黒字国の代表は中国。しかし大きな輸出超過国であるドイツはアメリカの経済政策を中国よりも強く批判し、経常赤字の数値的目標設定に反対している(米国は経常赤字・黒字ともGDPの4%以下に抑える目標を設定するべきだと主張)。日本とサウジアラビアも黒字枢軸国の主要メンバーだ。
次の対立軸は操作国対被操作国だ。アメリカは中国を人為的に人民元を低くしていると避難するが、中国はアメリカはドル札を印刷してドル価値を下げていると反論する。インドはややアメリカ寄りで人民元に懸念し、ドイツはむしろアメリカの連銀の動きに懸念している。
次の対立軸は財政引締国対財政緩和国だ。2年前のG20ではアメリカ・イギリスが財政超過支出を主張しドイツが反対した。しかし今では英国は引締側に回り、アメリカの政治も将来の超過支出を抑制しているので、財政緩和を主張するのはIMFだけとなるだろう。
次の対立軸は民主主義国家対専制主義国家だ。G20の中で専制国家は中国とサウジアラビアだけだ。だが中国にとって幸いなことにG20の議題は圧倒的に経済問題だ。
次の対立軸は西側諸国対残りの国だ。古いG7は西側諸国プラス日本だが、新しいG20はかって西側諸国に植民地化されたり、敗北した中国、インド、南アフリカ、ブラジルという新興勢力を含んでいる。このことはG20が政治経済問題だけでなく感情、独自性や人種により分かれることを意味する。
次の対立軸は条約による拘束派対ボランタリー派だ。前者は法的拘束力のある国際的取り決めを求めるが、後者はボランタリーベースで拘束力のない取決めを求める。アメリカや中国は後者の傾向が強い。欧州連合諸国は前者の傾向が強い。
最後の対立軸は大対小だ。これはG20のメンバーとそれ以外の残り約170カ国の対立軸だ。
最後の問題は除くとして仮に6つの対立軸に2つの区分があるとすれば、2の6乗=64パターンがあるということになる。20カ国の内総ての対立軸について同じ意見を持つ国というのは極めて少ないだろうから、合意点を見いだすことが難しいことは想像に難くない。
FTは「韓国はできればG20を世界の運営委員会にしたいと述べているが、余りにも多くの国がハンドルを握っているので、重大な事故なしに生き延びることができれば幸いだ」の述べていた。