TPP参加問題が急浮上している。菅首相は「平成の開国」を掲げ、TPP交渉への参加意欲を示した。だが与野党内に慎重な対応を求める声や反対の声が多い。一昨日東京で3千人近い農家が反対デモを行っている。
私はTPP参加賛成なのだが、菅首相の「思いつき的」対応には毎度のことながらうんざりする。この人は消費税が話題になると消費税に飛びつき、TPPが話題になるとTPPに飛びついているのではないか?基本的なpolicyというものはないのか?と疑問を感じざるを得ない。菅首相は農業のあり方を含めて、国の全体像を見据えながらTPP参加に意欲を示しているのではなく、単に普天間から尖閣にいたる民主党外交の失点挽回を狙って焦っている・・・と多くの人は感じているのではないだろうか?
【高過ぎる日本の農産物価格】
最近の共同ニュースの世論調査によると、46.6%の人がTPP(環太平洋戦略的連携協定)参加に賛成。38.6%が反対ということだ。もしTPPに参加して農産物価格の高い関税が廃止されると多くの消費者はメリットを受けるから、経済合理性から判断すると反対の比率は高過ぎると考えられる。無論TPPにより打撃を受ける農家への配慮、食糧自給率低下への懸念、食の安全性など価格だけで判断できない問題は多い。
日本の食品が国際価格に較べてどれ位高いか?ということを再確認しよう。データは先月27日に農水省がTPPの影響を試算した時の附属資料による。http://www.meti.go.jp/topic/downloadfiles/101027strategy03_00_00.pdf
たとえば米。コシヒカリなど品質的に輸入米と競合しないと判断される米のKg当りの価格は288円で輸入米と競合する米の価格は247円だ。輸入米の価格はその4分の1の57円だ。輸入米には777.7%という高率の関税がかけられている。
農水省は関税が廃止されると「品質的に競合しない米760万トンは輸入米に置き換わり、その金額=生産減少額は約2兆円」と試算している。
では何故日本の米の生産価格が高いかを農水省の資料http://www.maff.go.jp/j/press/tokei/keikou/pdf/101022-01.pdfから考えてみよう。
60kgあたりの作付規模別のコストを見ると0.5ha以下では15,468円で、15ha以上では6,479円。平均は9,809円である。つまり作付規模が大きくなると生産コストは低下するという当たり前の経済原則が働いている。
一番規模の小さい0.5haあたりの生産価格は1kgあたり258円で、作付規模が15ha以上の生産価格1kgあたり108円だ。108円でも輸入米の価格の倍近い価格であるが、内外価格差は半分になる。
【生産規模の拡大が第一の課題】
日本の一人当たりの穀物耕作面積は欧州23.8ha、オーストラリア220.2ha、米国110.7haに較べて1.28haと圧倒的に小さい。生産規模が拡大することで、生産コストが低下することは既に見たとおりで、日本の農業の第一の課題はまず生産規模の拡大を促進することである。
日本の260万人の農業従事者の平均年齢は65歳。TPPに参加しないとしても、なんらかの対策を打たずに新規就農者が増えないと10年程度で日本の農業は崩壊する可能性がある。
TPP参加問題は農業問題を見直す絶好に機会である。ただし肝心なことは今の既存の農家の利益を守ることではなく、日本の農業そのものを守ることを第一義に考えることだ。