金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

年金問題を「積み立て方式」で考えてみた

2010年11月22日 | 社会・経済

ブログの読者のnoutoriさんから「年金問題は『積み立て方式』で考えたら分かると思います」というご示唆を頂いたので、非常に単純化したモデルで考えてみた。

【前提条件】大学を22歳で卒業し38年間勤めて60歳で退職。標準報酬月額(平均給与)を30万円として、保険料と厚生年金(報酬比例部分)の年金額を比較検討する。なお厚生年金保険料率は持続的に引き上げられ、平成22年9月から16.085%になっているが、ここでは期間平均保険料率便宜上11%とした(昭和48年は7.6%)。

【計算結果】

この人の生涯支払保険料は¥7,524,000①である(30万円×38年×12×11%×1/2)。厚生年金保険料は労使折半であるから、労使の拠出総額は①の2倍の¥15,048,000である。

この人が貰うことのできる年金額は¥960,100円②である(これは年金額を計算するホームページで算出した)

この人が85歳前生きるとすれば、年金の総受取額は¥24,002,500③となる(物価スライドや遺族年金は考えない)。掛金と給付の関係(給付倍率)は③÷①で3.2倍となる。

厚生省は2004年に給付と負担の割合の見通しを発表している。それによると1955年生まれの人(当時55歳)の給付倍率が3.2倍なので、このモデルは非常に大雑把な前提ながらある程度のリアリティはあるのではないか?と思われる。

【運用利回りを考えてみる】

以上の計算は掛金の運用利回りを考えない単純計算の話。

次に上記モデルで労使掛金つまり厚生年金保険料による積立複利終価(この人の38年間の掛金の元利合計)を計算してみた。

38年間の運用利回りを1%とすると、元利合計は¥18,297,307。2%とすると¥22,511,093となる。

また年金の支給総額③についても支払期間中の運用益を考慮した年金原価ベースで見ると運用利回り1%で、¥21,144,432。2%で¥18,744,471となる。

つまりこの非常に単純なモデルから見ると、運用利回り1%では年金原資1,830万円に対し、給付に必要な年金原価は2,114万円なので積み立て不足。2%とすると原資が2,251万円で、必要な年金原価が1,874万円なので年金は無事支払われることになる。ブレークイーブンとなる運用利回りは1.45%である。

今の10年国債の利回りが1%強で、20年国債の利回りが1.9%なので、年金資産を2%程度で運用することは非現実的な話ではない。

【大きな問題は高齢者の高い年金給付】

では我々の年金は収支バランスしているのか?というとそうは簡単にはいかない。なぜかというと、既に年金給付を受けている人については、掛金に較べて給付額が非常に大きいので、高い資産運用を行わないと年金原資が枯渇するのである。

例えば1935年生まれの人は、670万円の掛金で5,500万円の年金が貰え、1945年生まれの人は1,100万円の掛金で5,100万円の年金が貰える。給付倍率は各々8.3倍、4.6倍である。

そこで先程のモデルを使って高い給付倍率を維持するには、どれ位の運用利回りが必要か試算してみた。給付倍率を8倍としてその部分の給付をバランスさせるのに必要な利回りを計算すると、4.2%となる

厚生労働省は年金資産の運用利回り目標を4%に設定しているが、その数理的根拠はこの当たりにあるのではないだろうか?

一国の年金基金のような巨大ファンドとなると、市場平均並の運用利回りを確保するのが精一杯なところだ。つまりこの低金利の中2%程度の運用が妥当なところだろう。

2%で運用するとなれば、給付倍率を3.8倍に下げる必要がある。もし給付倍率を維持するとすれば、どこかから給付原資を持ってくる必要があるが、厚生労働省はそれを4%で運用するというフィクションで誤魔化しているのである。

【死差というもう一つのリスク】

最後に数理計算上の予想寿命と実際の寿命の差「死差」の影響を考えてみよう。

仮に一番最初のモデルで、死差が2年出た(計算よりも2年長生きした)とすると、年金債務は原価ベースで約130万円不足する。仮に1千万人の人に130万円の不足がでると合計13兆円の不足となる。消費税5%引き上げが吹き飛ぶ数字だ。

年金制度が持つ一つのリスクだろう。

確かに単純モデルで年金問題を見ると見えてくるものがありますね。

コメント (2)
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ジャパンシンドローム打破私論(1)

2010年11月22日 | 社会・経済

ここでいうジャパンシンドロームは今週のエコノミスト誌が指摘している高齢化と人口減少が日本の経済と社会の活力を奪うという現象を指す。

エコノミスト誌は生産人口の減少対策として、「出産後の女性の職場復帰の促進」「定年退職者の就業インセンティブの向上」「外国人労働者や移民の受入拡大」などを上げていた。

この内「外国人労働者」の受入問題について、ちょっと考えてみよう。たまたま今日(11月22日)の日経新聞朝刊に「専門職外国人 日本を素通り」という記事が出ていた。記事によると「専門性が高い『技術』などの分野で日本で働くための在留資格を得た人数は、07年は2万2792人と02年の2倍強まで膨らんだ後、08年から減少に転じ、09年は1万人を割り込み、今年も同じ傾向」ということだ。

高等教育を終了した人口に占める外国人の比率は、英国では16%、米国では13%だが、日本では0.7%と著しく見劣りする。

英米の学生の専門性のレベルが低く、日本の学生のレベルが高いとは思われない。ではその差は何から来るのだろうか?

一番考えられることは「自国の人材だけなく外国の優秀な人材を集めることで、より高度な知的財産を構築することができる」という理念を英米等外国人の受入に積極的な国が持っていることではないだろうか?

少し前人気が高かったエコノミスト誌の記事にWhy is America so rich?という記事があった。リーマンショック以降停滞感の目立つ米国だが、少し長い目で見ると経済規模が大きな先進国の中では豊かさが目立つ国であることは間違いない。

その記事が米国の優位性の原因としてあげていたのが「コモンローの社会であること」「積極的に移民を受け入れてきたこと」「第二次大戦時や冷戦時にユダヤ人等優秀な頭脳の海外亡命の受け皿になったこと」の3点である。

自国に優秀な人材がいても、海外から優秀な人材を受け入れる必要があるのか?

それは農業で使われる種子の例で考えると分かりやすいかもしれない。種まきの時、一般に農家は前年の収穫物から自家採取した種を使うのではなく、品種改良(育種)された種を使う。この時収穫量が多く環境変化に強い作物を作る種が「一代雑種」と呼ばれるものだ。

これは「雑種強勢」(植物は一般に遺伝的に遠い品種を掛け合わせる方がよりよい品種が発言するという性質を持つ)と呼ばれる植物の特性を利用したものだ。

「雑種強勢」の理論を研究開発やビジネスの世界にそのまま持ち込んでよいかどうかは分からない(私は科学的論拠を知らない)。だが直感的にいうと、多様な価値観や人生経験を持つ仲間とのコラボレーションが新たな価値を創造するという意見は説得性があるように見える。

外国人労働者の受入については技術的な議論の前に「社会と経済を活性化するには、外国人の多様な価値観を受け入れて知的財産の積み上げを図ろう」というコンセンサスの形成が必要だと思われる。

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