「選択」10月号の巻頭インタビューで、東洋文化研究家のアレックス・カー氏が「日本の観光産業は時代遅れ」という持論を展開していた。カー氏は研究・執筆の傍ら、京都の町屋を修復し、宿泊客に提供する会社を運営している。
カー氏が「時代遅れ」という論拠は幾つかある。一つは「観光に対する発想が一昔前の大型バス観光の発想にとどまっている」点。次に「旅館が食事の時間や風呂の時間まで細かく決め客がそれに合わせるスタイル」という点。そして「悪趣味な観光ブームで歴史的な景観を粗末にし、景観や歴史資産を醜くした」点だ。
私の意見を付け加えると「食べ切れない程の食事を出す」ことも大きな時代遅れだと思う。
大体国内旅行を楽しむ人達の大きな部分を占めるのは私達中高年層だ。この層は「食べ過ぎ・飲み過ぎ・運動不足」による生活習慣病リスクが気になる年代だ。
私事になるが、先週伊豆に小旅行をしただけで食べ過ぎで体が重くなり、昨日は午前中サイクリング、午後ジムでランニングと体を絞るのに苦労した。健康促進のために旅行に出て太るというのは本末転倒である。
旅館が食べ切れない程の食事を用意する理由は何だろうか?
その理由は簡単で「食べ切れない程の食事を出さないと高い料金が取れない」からである。多くの旅館はバブル期の増改築で負債を抱えそれが未だに重荷になっていると聞く。設備投資負担を解消するためには高い料金設定が必要で、高い料金を正当化するには「食べ切れない程の食事」が必要という悪循環に陥っている。
日本の観光産業は健康志向という点でも時代遅れになっているのだ。
「健康志向」「エクササイズサポート」「参加型レクリエーション」などを掲げる旅館がもっと増えて欲しいものである。