金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

格差社会の地平線

2007年02月20日 | 社会・経済

少し前に国会で民主党の小沢代表が「日本は世界で一番格差が大きい国だ」という主旨の発言をしたことがあり、私はこのブログでその発言根拠の曖昧さを指摘したことがある。もっとも余りに馬鹿げた発言だったせいかマスコミはそれ程騒がなかったが。実際のところは所得格差等の点で米国が先進国の中で一番の格差社会だということは多くに人に共通する認識だろう。

例えば文芸春秋3月号で東京大学経済学部の岩井教授は「2000年に米国では0.1%の高所得者層が全体の所得の8%を得ている。これに対し日本やフランスではこの比率は2%である」と述べている。

にも係らず日本で格差論議が盛んになっているにはそれなりの理由がある。その最大の理由はトレンドであろう。つまり日本は何年か何十年かの時間差で米国社会を追いかけている。そうすると日本でも格差が拡大することは間違いなかろうと考えられるが、それに対するアレルギー反応が起きているということだ。

ところで私は今米国で起きている住宅不況が結果として米国社会の格差拡大に拍車を駆けるのではないか?と見ている。それはこういうことだ。

アメリカン・ドリームというのは自宅を所有することであり、共和党政権であれ民主党政権であれこの夢をサポートしないと政権は取れない。大統領選挙の前に長期金利の上昇を上昇を抑制する様な政策が取られるのは、住宅ローンの金利が上昇すると選挙で勝てないからだ。

この10年間で米国の自宅保有率は65%から69%に上昇した。しかしこの増加分の半分はサブプライムな借り手への住宅ローンで増加している。つまり景気と住宅価格が堅調だった時期に銀行や投資家がサブプライムな住宅ローンを増やした。サブプライムローンの比率は2001年の8.5%から2006年には12.75%まで上昇している。

ところがこのサブプライムローンのデフォルト率が上昇し、住宅ローンのオリジネーターの倒産や大手銀行の引当増という影響を起こし始めている。また住宅ローン債務を払えないために競売(Foreclosure)の申請も昨年は一昨年に比べて42%増の120万件になっている。因みに日本でどの程度競売があるか調べてみたが、無料で簡単に分かる方法がなくあるサイトで見た8万件という数字を引用しておくが、私自身がこのデータに確信を持てるものではない。なお日本の自己破産の件数は2004年度で21万1千件ある。こちらはしっかりした根拠がある数字だ。

やや細かい話になったが、米国では景気拡大期に住宅ローンの融資基準をユルユルにしていわば低所得者層にまで自宅保有が広がったが、彼等が今その自宅を債務不履行により失いつつあるということだ。この間金融機関特に住宅ローンを証券化して販売する投資銀行は極めて大きな利益を上げた。特に日本でも有名なのはゴールドマンザックスであり、その社員の平均年収は日本円にして7千万円にもなるという話を新聞で読んだことがある。

これが格差社会というものである。私は単に格差が良いとか悪いとかという議論には組しない。格差は時として社会と経済の発展の原動力である。しかしまた行き過ぎた格差社会が貧困層を生み、個人の尊厳を危うくするリスクがあることも事実だ。

私は今回の住宅不況が二つに点で格差を拡大すると見ている。一つは住宅を競売で失うリスクともう一つは住宅ローンのみならずあらゆる個人信用が引き締められる可能性が高いからだ。その後アメリカ社会がどう反応するかは興味のあるところだ。

ところでひょっとすると日本で住宅ローンの延滞問題が大きくなった時はアメリカより悲惨かもしれない。というのはアメリカでは今回の住宅価格の下落はあるものの、基本的には建物価値が高く住宅価格は緩やかに上昇する傾向がある。一方日本では建物価値の下落が大きいので競売で住宅ローンがカバーされないことが多いと考えられるからだ。

格差社会を議論するにはアメリカという格差社会の地平線を見る必要があると思う次第だ。

コメント
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