佐藤直曉の「リーダーの人間行動学」 blog

リーダー育成のための人間行動と人間心理の解説、組織行動に関するトピック

「逆境に負けない思考法」は敗れる――かもしれない

2010-01-30 10:09:28 | リーダーの人間行動学
今日のテーマは、今朝の日経新聞朝刊土曜版 日経プラスワンのなかの「常識点検NIKKEI PLUS 1」から選びました。

そこに「逆境に負けない思考法」という特集記事が出ています。内容はプラス思考とか、ポジティブシンキングの薦めです。

まずいことでも、そのなかに良かったことを見付ける。たとえば、財布を落としたら、「ついてない」と思わずに「新しい財布を買うチャンスができた」とか、

お客さんに怒られたら「あんな言い方をしてはいけないと教えられた」という具合に、プラス思考で考えよ、ということです。

この場合のこつとしては、夜考えると時間がいくらでもあってとめどなく考え込んでしまうから夜は考えないことだそうです。

朝冷静になっているところで、出社までという限られた時間で考えるようにするとよい、とあります。

また、解決策を考えるには、WHY(なぜ上司に怒られたのか),HOW(どうしたらこの状態を抜け出せるか),WHAT(そのためには具体的に何をすべきか)というふうに整理して考えるようにするとよいそうです。

以上が要旨ですが、お手元に日経新聞があれば、あとでご覧ください。

特に目新しいことはありませんが、文句をつけるところもありません。

しいてあげるならば、プラス思考というのは非常に重要なことで、皆さんがお考えになっている以上に、あるいはこの記事で書かれている以上に、とても大事なことだと私は思っています。

そこで、プラス思考について、私の考えを少し述べてみましょう。

まず、この記事のタイトル「逆境に負けない思考法」というのは、あまりよくないように思います。常識としてはもちろん悪くはないのです。しかし、よくよく考えるとあまりよくない。

何がいけないかというと「逆境に負けない」というところです。この段階で、すでに逆境というのを引きずっています。逆境を意識している、といったらわかりやすいでしょうか。

こういう言葉の使い方は、潜在意識的な観点からするとあまりよくありません。それは、すでに心に逆境を想定してしまうからであり、アクセルとブレーキを同時に踏んでいるようなことになっているからです。

心配、不安、苦痛といった感情は、喜びなどに比べてとても強いものです。そこで、逆境問題に真正面からぶつかるなどと意識すると、それだけで不安とか心配といった感情が強くうまれてしまいます。新聞記事のタイトルとしてはこうするしかないのかもしれませんが、みなさんが普段プラス思考を用いるときは、こういうことのためには使わない方がよいでしょう。あまり成功しません。

タイトルはさておき、内容ですが、基本的には問題ありません。ただ、実践上にはいくつか考えるべきところがあります。

我々凡人にとって最大の問題は、調子の良いときならプラス思考でやれるが、問題が発生したとたんにプラス思考どころではなくなる、ということでしょう。

どんなときでもプラス思考がいつでもできる人というのは、私から見るとよほど心を鍛錬してきた人だとしか思えません。

そこで、プラス思考というものを、体操のようなものと考えて、日頃から訓練することがよいのではないかなと私は思っています。

ふだんから、プラス思考の訓練をしておくのです。電車に乗り遅れたら、「まあ、いいか。この電車に乗っていたら、隣に酒臭い人が座ったかもしれない」などとですね。この程度の問題なら、そんなに苦労しませんでしょう。

それを、上司に怒鳴られたところからプラス思考を始めようとするから難しくなるのだと思います。しかし、プラス思考を検討しようかと思う人は、だいたいそういう状況に追い込まれている人でしょう。だから、難しくなる。

ですので、プラス思考はいざというときのためにふだんから訓練せよ、というのが私の主張です。心に癖をつけようということですね。

新聞記事には「30日続けると変わる」とありますが、きっとそうでしょう。それを今からやってください。平常心の状態のときから始めてください。逆境に追い込まれてからでなく。

もうひとつ気をつけなければいけないことは、問題解決の対策をとったら、できるだけその問題から離れることです。考えないことです。

「やるだけのことはやったんだから、あとはもう仕方ない」と思い切ることです。それには、ほかのことでプラス思考の訓練をすればよい。

これは私の『伝動戦略』とも関連していることなのです。つまり当面の問題について、あまりにも固執しないことが大事なのです。

囲碁の例を良く出すのですが、囲碁はだいたい四隅で攻防が始まりますが、その一つで大失敗したとします。

そういうときどうしたらよいか。そこはあきらめて、転戦するのです。別のところで戦闘を始めて、もしそこで大きな利得が得られれば、最初の失敗は相対的に小さなものになります。

へんな例ですが、独裁者が国内の不満を抑えるために外国に出兵するようなことがよく見られますね。これなども、上の囲碁と同じことでしょう。

人間の心も同じことで、ひとつの失敗が心全体のなかであまり意味がもたない程度にまで比重を下げてしまえばいいのだと、私は考えるようにしています。

いろいろな意見があるでしょうから、私の考えを押しつけるつもりはありません。ひとつの参考意見としてお考えいただき、ご自分にとっていちばんよい方法を見付けてください。

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