これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

女か虎か?

2010年08月26日 20時33分47秒 | エッセイ
 私が通っているエッセイ教室では、年に2回食事会がある。食事会のたびに、文章に関連した催し物を企画してくれるメンバーがいるので、とても楽しい。
「本日の趣向はこれです」
 知美さんが、テーブルに資料を配り始めた。
「リドルストーリー ~結末なき物語~ その1:F・R・ストックトン『女か虎か?』」
 リドルストーリーとは、物語の結末をわざと伏せて読者の想像にまかせる小説のことをいう。ストックトンのこの話は、100年以上前にアメリカで発表されたものだが、史上、最も有名なリドルストーリーとされている。

 昔々、ある国に野蛮な王様がいた。王様は壮大な円型闘技場を作った。命令に違反した容疑者はそこへ引き出される。闘技場の一方の端には、二つのドアがあり、容疑者はそのどちらかの扉を開けなければならない。
 一方の扉の奥には、その国でもっとも狂暴なトラが潜んでおり、もう一方の扉の奥にはその国で最も美しい娘が隠れている。虎の扉を開けた容疑者は、たちまちズタズタに引き裂かれ骨になってしまう。 美女の扉を開けたものは、その瞬間に許されて彼女を花嫁に迎えることになる。
 それが王様のユニークな裁判のやり方だった。
 王様には目に入れても痛くないほど溺愛している一人娘がいた。 彼女は身分の卑しい若者と恋に落ち、二人は王様の目を盗んで密会を重ねていたが、とうとうバレてしまい、若者は闘技場に引き出されることになった。
 そして、裁判の当日、闘技場は超満員となった。
 観客はもちろん誰一人として、どちらの扉の奥に虎が潜んでいるのか知らされていない。
 しかし、王女はそれを知っていた。彼女は半狂乱になって、その秘密を手に入れたのである。王女は恐ろしい虎と美しい娘の両方を前もって見ることが出来た。あの残忍そうな飢えた虎が、愛する若者を頭から噛み砕く光景を想像すると王女は失神しそうになる。
 しかし一方、あの自分よりはるかに美しい娘が若者と一緒になることを想像すると嫉妬で気が狂いそうになる。血の激しさを父親から受け継いだ王女は、手に入れた秘密を若者に教えてやるべきかどうか、迷いに迷った。そして、ついに決断した。
 闘技場に引きずり出された若者が、燃えるような目を自分に向けたとき、王女は密かな手の動きでその秘密を若者に伝えたのだった。
 王女が若者に教えたのははたして美しい娘の隠れている扉だったのだろうか。
 それとも、凶暴な虎の潜んでいる扉だったのだろうか。

「うーん……」
 エッセイ教室の熟女たちは、誰もが悩みはじめた。これは、究極の選択だ。
 私はストックトンに注文をつけたい。虎は凶暴なだけでなく、3日間の絶食で空腹にさせておくべきだと。
「やっぱり、虎じゃないの? 他の女に取られるくらいなら、殺してしまえと思うわよね」
「私だったら女だけど、王女だったら虎かしら」
 このような意見が多かった気がする。何しろ、気性の激しい王女なのだから。
 私の意見はこうだ。
「とりあえず、美女がいるほうの扉を教えて、あとから美女を殺しに行くんですよ」
「……まあ、そういう手もあるわね」

 ネットを見ると、「読者の『女か虎か?』考」というサイトがあり、自分では決して思いつかない、多様な結末が投稿されている。こちらから、ご覧になってはいかがだろうか。
 私が一番気に入ったのは、この結末である。
 
 王女は虎の扉を指差した。「他の娘に取られるくらいなら、私の手で殺してやるわ」と思ったからだ。
 しかし、若者に王女の気持ちは伝わらなかった。彼は、「王女は私を助けようとしてくれるに違いない。きっと、女がいる扉を指差しているのだ。でも、女と結婚して王女を忘れないといけないくらいなら、虎に食われて死んでしまおう」と考えた。
 若者が、反対側の扉を開けたところ、そこにいたのは美女だった……。
 チャンチャン。
 ドロドロした題材を、喜劇に変えて終わらせるところがいい。

「皆さん、これが模範解答といわれている結末でーす!」
 知美さんが、別の資料を配り始めた。アメリカの作家、ジャック・モフェットが考えた「好解答」がこれである。

 王女の目配せによって若者がドアを開けるや、虎が牙をむいて襲いかかってくるが、次の瞬間、若者はもう一つのドアも開け、その二つの扉と扉の狭い空間に体を隠して、女を虎の餌食にしてしまう。

「えーっ、ずるい!!」
「反則じゃない!?」
「裁判やり直しよね」
 熟女たちには甚だ不評であったが、そういう選択肢もあるのだ。
 もし、名解答・珍解答が思いついた方は、ぜひこちらに投稿を!
 頭の体操によさそうだ。




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※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (12)
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