エッセイ教室の先輩、芳子さんと知美さんから「ブリヂストン美術館に行かない?」と誘われた。
美術は好きだが詳しくない。芳子さんは水彩絵の具を使って、花の絵などを描くという。知美さんは、地元の美術館でボランティアをした経験があり、専門知識が豊富だ。
ひとまず、パソコンを使って場所の検索をした。最寄駅は京橋か日本橋という一等地である。
「お母さん、これどこの地図?」
「それはね、ブリヂストンびずちゅかん……じゃなかった、美術館の地図よ」
一方、私は美術だか、びずちゅだか、わからないレベルである。でも、世間で認められた人たちの、渾身の作品に詰まった想いはわかる。見ていると、心が豊かになってきて好きだ。難しいことはわからなくても、自分が満足すればそれでいいのだ。
11時に美術館で待ち合わせをした。
看板が見えると、おのぼりさんの私でもひと安心だ。
ちょうど、ヘンリー・ムアというアーティストのテーマ展示をしているようだった。
「ここはね、作家の辻仁成くんが、『都心で一番好きな美術館』って言ってるのよ」
言いだしっぺの知美さんが、美術館の解説をする。「辻くん」呼ばわりするところが素敵だ。
だが、すぐに「辻くん」の気持ちが理解できた。とても静かで品があり、落ち着いた場所なのだから。
このところ、娘に付き合って、ガキがうようよしている恐竜展や哺乳類展に行ってきた私にとって、心のクリーニングができるような気がした。
「ここは、熟年夫婦向きなんじゃないでしょうか」
仲睦まじくエレベーターに乗り込む夫婦を見て、私が言うと、知美さんが一拍置いて返した。
「そうね……。熟年夫婦に、熟年のわけありカップルとか」
まずは、ロダンの「考える人」がお出迎えする。この複製は、世界でも20数箇所の美術館にしかないそうだ。もうちょっと大きければいいのに、と思った。
著名な作家・彫刻家の作品が多いせいか、何人もの警備員を見かけた。平日の昼間とあって、客は両手に余る程度しかいない。もしかして、警備員のほうが多かったかもしれない。
制服を着て、いかつい顔をした警備員が立っていると、どうにも居心地が悪い。しかし、警備員が常駐している部屋と、巡回している部屋とがあることに気づいた。高額の美術品がある部屋には常駐して、そうじゃない部屋は巡回程度なのではないか。
私が気に入った作品は、アンリ・ルソーの「イブリー河岸」である。明るく夢のある景色が好きで、ポストカードを購入した。
ゴッホの「モンマルトルの風車」もいい。こちらは、紅茶になっていたのでお土産にした。
それから、白髪(しらが)一雄の「観音普陀落浄土」だ。この画家は、見たことも聞いたこともなかったのだが、抽象的に見えて緻密な計算の元に描かれた作品に、鬼気迫るものを感じた。手元に置いて、何度も鑑賞したくなる。
こちらもポストカードを買った。
それからそれから。この美術館最大の目玉なのだろうか。ルノワールの「すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢」の缶を買った。中には飴が入っている。
飴がなくなったら、何か他のものを入れて使いたい。でも、何を入れればいいか、思いつかない。
1時間ほどで優雅な鑑賞は終わった。
他のエッセイ仲間と合流し、食事をしたあとは家路につく。
お土産をバッグから出したら、娘が近寄ってきた。
「何買ってきたの?」
「紅茶と飴とポストカードよ」
「えっ、これ、飴が入ってるの? 蚊取り線香かと思った」
「…………」
あら、蚊取り線香ですか。
親子して、びずちゅかんなのだと苦笑する。
使えないことはないかもしれないが、女性を美しく描くことに長けたルノワールがショックを受け、化けて出るかもしれないな……。
*追記*
空っぽになった飴の缶は、今では輪ゴム入れと化しています。
ルノワール殿、ごめんなさいまし……。
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※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
美術は好きだが詳しくない。芳子さんは水彩絵の具を使って、花の絵などを描くという。知美さんは、地元の美術館でボランティアをした経験があり、専門知識が豊富だ。
ひとまず、パソコンを使って場所の検索をした。最寄駅は京橋か日本橋という一等地である。
「お母さん、これどこの地図?」
「それはね、ブリヂストンびずちゅかん……じゃなかった、美術館の地図よ」
一方、私は美術だか、びずちゅだか、わからないレベルである。でも、世間で認められた人たちの、渾身の作品に詰まった想いはわかる。見ていると、心が豊かになってきて好きだ。難しいことはわからなくても、自分が満足すればそれでいいのだ。
11時に美術館で待ち合わせをした。
看板が見えると、おのぼりさんの私でもひと安心だ。
ちょうど、ヘンリー・ムアというアーティストのテーマ展示をしているようだった。
「ここはね、作家の辻仁成くんが、『都心で一番好きな美術館』って言ってるのよ」
言いだしっぺの知美さんが、美術館の解説をする。「辻くん」呼ばわりするところが素敵だ。
だが、すぐに「辻くん」の気持ちが理解できた。とても静かで品があり、落ち着いた場所なのだから。
このところ、娘に付き合って、ガキがうようよしている恐竜展や哺乳類展に行ってきた私にとって、心のクリーニングができるような気がした。
「ここは、熟年夫婦向きなんじゃないでしょうか」
仲睦まじくエレベーターに乗り込む夫婦を見て、私が言うと、知美さんが一拍置いて返した。
「そうね……。熟年夫婦に、熟年のわけありカップルとか」
まずは、ロダンの「考える人」がお出迎えする。この複製は、世界でも20数箇所の美術館にしかないそうだ。もうちょっと大きければいいのに、と思った。
著名な作家・彫刻家の作品が多いせいか、何人もの警備員を見かけた。平日の昼間とあって、客は両手に余る程度しかいない。もしかして、警備員のほうが多かったかもしれない。
制服を着て、いかつい顔をした警備員が立っていると、どうにも居心地が悪い。しかし、警備員が常駐している部屋と、巡回している部屋とがあることに気づいた。高額の美術品がある部屋には常駐して、そうじゃない部屋は巡回程度なのではないか。
私が気に入った作品は、アンリ・ルソーの「イブリー河岸」である。明るく夢のある景色が好きで、ポストカードを購入した。
ゴッホの「モンマルトルの風車」もいい。こちらは、紅茶になっていたのでお土産にした。
それから、白髪(しらが)一雄の「観音普陀落浄土」だ。この画家は、見たことも聞いたこともなかったのだが、抽象的に見えて緻密な計算の元に描かれた作品に、鬼気迫るものを感じた。手元に置いて、何度も鑑賞したくなる。
こちらもポストカードを買った。
それからそれから。この美術館最大の目玉なのだろうか。ルノワールの「すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢」の缶を買った。中には飴が入っている。
飴がなくなったら、何か他のものを入れて使いたい。でも、何を入れればいいか、思いつかない。
1時間ほどで優雅な鑑賞は終わった。
他のエッセイ仲間と合流し、食事をしたあとは家路につく。
お土産をバッグから出したら、娘が近寄ってきた。
「何買ってきたの?」
「紅茶と飴とポストカードよ」
「えっ、これ、飴が入ってるの? 蚊取り線香かと思った」
「…………」
あら、蚊取り線香ですか。
親子して、びずちゅかんなのだと苦笑する。
使えないことはないかもしれないが、女性を美しく描くことに長けたルノワールがショックを受け、化けて出るかもしれないな……。
*追記*
空っぽになった飴の缶は、今では輪ゴム入れと化しています。
ルノワール殿、ごめんなさいまし……。
楽しんでいただけましたか? クリックしてくださるとウレシイです♪
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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)