これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

さよなら、ベンケイちゃん

2010年08月12日 21時00分17秒 | エッセイ
 昨年7月に拉致、いや、採集してきたクロベンケイガニを、本羽田干潟に返すことにした。



「由里子ちゃん主演の『美丘』見てたらさ、自由にしてあげないと可哀想だってわかった」
 絶対返さないと主張していた娘も、テレビドラマの影響で、放す気になったらしい。このチャンスを逃す手はないだろう。
 実に、13カ月もの間、クロベンケイガニは我が家にいたわけだが、興味深い生態がわかって面白かった。脱皮すること、ハサミでエサをつまんで食べること、ハサミは再生されること、穴を掘ることなどだ。元気なうちに、生まれ育った場所に戻してやらねば。
 電車で1時間ちょっと、京浜急行線の大鳥居駅から徒歩10分ほどの場所に、ベンケイちゃんのいた干潟がある。その日、東京の干潮は、12:29であった。干潮時刻の前後2時間以内であれば、干潟に立ち入ることができる。私と娘はベンケイちゃんを連れて、正午過ぎに干潟に着いた。
 思ったとおり、見渡す限りの干潟である。素晴らしい!



 しかし、ゴミの多さには閉口するばかりだ。まったく、なげかわしい。



 風が強くて日傘は差せない。日差しは強いが、干潟は涼しい場所であった。
 ベンケイちゃんをつかまえたところに行き、ケースから出してやったが、長旅で疲れたせいか、はたまた警戒しているためか、固まったまま動かない。



「干潟の他のカニを見に行こう」
「うん、そうしよう」
 ベンケイちゃんは置いておいて、私と娘は干潟の中ほどまで歩いていった。ここにはおびただしい数のカニがいて、楽しそうに生活している。人の足音に反応し、すばやく巣穴に潜っても、しばらくすればひょっこり足元に出てくる。



 とりわけ、私が好きなのは、カニのダンスだ。ヤマトオサガニなどが、ハサミを合わせて拍手するように動かす仕草が可愛い。あっちでもこっちでも、こぞってダンスを競っているように見える。



「面白かったね。ベンケイちゃんの様子を見てみようか」
 私は娘に声をかけ、ベンケイちゃんを放した場所に戻った。
「あっ!」
 そこには、クロベンケイガニが10匹近く集まっていて、どれがウチのベンケイちゃんなのかわからない。大中小と、さまざまな大きさのクロベンケイガニが姿を見せていた。だが、人の気配を察し、一斉にガササササッと藪の中に逃げこんでしまった。
「ベンケイちゃん、馴染めたみたいだね」
 娘が安心したようにつぶやく。
「そうだね」
 さっきまで、固まっていた様子が嘘のようだ。広い場所で思い切り駆け回っているに違いない。

 さよなら、ベンケイちゃん!
 元気でね。



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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)

コメント (12)
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