ポニョ:前回はヴィシュヴァミートラという聖者が出て来たけれど、この聖者はガヤトリマントラを考案されたんやろ。
ヨシオ:マントラって誰でも作れるもんじゃないんや。ラーマの時代は数ある聖者の中でも、このヴィシュヴァミートラとヴァシシュタの二人に聖者が一番優れていると言われたんや。このヴィシュヴァミートラは元々は王様で、聖者ヴァシシュタが持っていた何でも願いを叶える牛が欲しくて、それを奪おうと戦って負けた事があるんや。そしてそのヴァシシュタの霊力の凄さに驚き自ら苦行をして神の恩寵を得て、聖者のレベルにまで這い上って来た人でその霊力は神々でさえ舌を巻くほどのものだったんや。ある王様が私を生きたまま天上界に連れて行って欲しいとヴィシュヴァミートラに頼んだので、そのような無理な願いを叶えようとヴィシュヴァミートラは、その王様を天上界にまで天空を飛ばしたんやけれど、天上界にいる神々が猛反対したので仕方なしに、南十字星の方向に別の天上界を自らの霊力で作れるぐらいの凄い聖者やったんや。
ポニョ:その伝説の聖者、ヴィシュヴァミートラが作ったガヤトリマントラって神御自身であるババがみんなに勧めるくらい凄いって事なんやな。今度からもっと真面目に唱えようっと。でも、おいらが驚いたのは若干十四歳で結婚さすってメチャませがきやぜよ。おいらなんて結婚するまでキスもした事がなかったんやぜよ。ずるいな。
ヨシオ:しかも道を外れないように早く結婚さすってババは言われたけれど、その当時のガキが道を外すってどんなんや?
ポニョ:パチンコ屋や競馬、ピンサロなんて無いやろうし、風俗関係に出入りするって考えられないよな。と言う事は分かった。田んぼにタニシやカエルを取りに行ったりして寄り道をするから、道を外すと言われたんやろ。
ヨシオ:違うやろ。オクラの天ぷらの食べ過ぎやからや。
ポニョ:あのね。まだ言ってるの?ほんまにええ加減にしないと怒るよ。と言うわけで、今日はいよいよラーマたちが悪鬼と戦うお話です。
◇使命のはじまり
二日目、聖者ヴィシュヴァーミトラはラーマとラクシュマナとともにシッダーシュラマ Siddhashrama〔行者の草庵〕にたどり着きました。そこは、主〈シュリー〉ヴァーマナ〔矮人〈こ びと〉。ヴィシュヌ神の第五の化身。世界を三歩でまたいだとされる〕によって聖なる地とされ たところです。シュリー・ヴァーマナこそは、遠いはるかな昔、カシャヤパKashyapa〔七大聖人 のひとり〕の家系に生まれたナーラーヤナ〔最高神ヴィシュヌ〕その人でした。
アーシュラマAshrama〔草庵〕に着いてから、聖者ヴィシュヴァーミトラはラーマに言いまし た。
「ラーマよ。このシッダーシュラマは、タータキーThatakiという魔物の女にすっかり荒らされ てしまっている。タータキーには象百頭にも等しい力がある。お前はその女を殺さねばならぬ」
ラーマは言いました。 「先生(グルジ)、女の人を殺したくはありません。聖典で禁じられています」 「悪いしわざをなす者は、たとえ女でも殺さねばならぬ。この世に災いをもたらす女を殺すこと は罪ではないぞ」
そこでラーマは聖典の言葉を引きました。 「『恐怖にかられている者、眠っている者、酔っている者、助けを求めている者、そして女。そ のいずれかにあたる者を殺すのは正しくない』といいます」 「確かに聖典では、女を殺すことを禁じている。だが、人間に罪をもたらす女を殺すのは、罪に はならぬ」
ラーマはまだ受け入れがたく、こう問いかけました。 「これまで誰か、女を殺した人がいるでしょうか」 「インドラの神〔いくさの神。仏教では帝釈天〈たいしゃくてん〉〕は、〔魔物の〕ヴァイローチ ャナVirochanaの娘、マンダラーMandharaを殺した。この女があまりに人々を苦しめていたから だ。マンダラーは死に値するのだから、自分は正しいことをしたのだとインドラの神は宣〈の〉 べている。また聖者バラドヴァージャBharadwaja〔多くの賛歌の作者とされる聖人〕の妻があま りにひどく暴力をふるっていたので、ヴィシュヌの神はこの女を殺した」
聖者ヴィシュヴァーミトラの話を聞いて、ラーマは魔物の女タータキーを倒そうと心に決めま した。正しく気高い女性に手を触れてはならないが、あまりにひどい罪を犯している女は殺さざるを得ないことが明らかになったからです。
そう話しているさなか、魔物の女タータキーの、耳 をつんざくような声が聞こえてきました。タータキーはヴィシュヴァーミトラたちに雨のように 石を降らせます。ラクシュマナは弓で次々と矢を放ち、石の雨をとどめました。すると今度は血 と炎が嵐のように降ってきます。ラーマは勇〈いさま〉しくこれを迎え撃ち、タータキーの攻撃 をはねつけました。するとタータキーは醜い姿をあらわし、耳が壊れそうな恐ろしいどなり声を 発します。ラーマは、「音を射当てるもの(シャブダベーディShabdhahedi)」 という技を使いました。この技を使うと、音のする方に向かって矢が飛んでいき、攻撃をする
のです。魔物の女はたちまち地面にどうと倒れました。すると間もなく、タータキーの息子、マ ーリーチャMarichaとスバーフSubahuが攻め込んできました。タータキーと同じように、このふ たりもシッダーシュラマに、炎や血や石を雨あられと降らせます。そこでラーマは、 「心の矢(マーナサ・アストラManasa Astra)」を放ちました。「心の矢」はマーリーチャを、何百キロもの彼方に吹き飛ばしました。次にス バーフに向かって、「炎の矢(アグネーヤアストラAgneyastra)」を放つと、スバーフはたちまち地面に倒れ伏しました。さらにスバーフの手下に追い打ちをか けるため、「風の矢(ヴァーユ・アストラVayu Astra)」を放つと、手下どもはみな、たちまち溶けて影も形もなくなってしまいました。
こうして、シッダーシュラマは、かつてと同じような静けさと安らぎを取り戻しました。そこ に住んでいた聖者や学生、女や子供たちも、言葉にできないほど喜んでいました。何人もの聖者 がラーマの前に集まって誉めたたえます。 「ラーマ、あなたこそまさしく主〈シュリー〉ナーラーヤナの化身です。すべてを知り、どんな ことでもでき、あらゆるところにいらっしゃるお方です。まだそんなにお若いのに、これまで誰 もできなかったことを成し遂げたのですから」と感謝しました。
それから聖者ヴィシュヴァーミトラは、五日間にわたる儀式(ヤジニャ)をはじめました。聖 者との約束どおり、ラーマとラクシュマナは儀式(ヤジニャ)を絶えず見守りながら、食事も睡 眠も断ったまま、儀式のおこなわれている祭壇のまわりを回りました。儀式(ヤジニャ)のしめ くくりに、聖者ヴィシュヴァーミトラはラーマとラクシュマナに休むように言いました。ふたり は五日間も眠っていなかったからです。
ちょうどそのとき、ミティラー〔北ビハールのヴィデーハ国の首都〕のジャナカ王から知らせ が届きました。集会が催〈もよお〉され、バーラタ〔インド〕のすぐれた勇者が招かれるという のです。それは、シヴァ神〔創造と破壊の神。仏教では大自在天〈だいじざいてん〉〕の弓を折 ることができる者がいるか見定めようとする集会でした。これに優勝した者には、ジャナカ王の 娘、シーターを娶〈めと〉ることができるというのです。聖者ヴィシュヴァーミトラはラーマと ラクシュマナに、ミティラーの都に行ってシヴァの弓を折ってみるように言いました。はじめラ ーマは、父の許しを得ていないため、ミティラーに行こうという気はなかったのですが、ヴィシ ュヴァーミトラがふたりを説き伏せました。 「ラーマ、おまえの父はおまえに、わしの命ずるところに従うように、わしの思うとおりにふる まうように言ったはずだ。わしがミティラーまで一緒に行くように言うのだから、おまえはこの 言葉に従わねばならない」
となれば、ラーマはヴィシュヴァーミトラの言うとおりにする他はありません。
ミティラーに行くまでに、聖者ヴィシュヴァーミトラはラーマにさまざまな強力な矢をさずけ ました。
「天人(ガンダルヴァ)の矢(ガーンダカGandaka)」 「ダルマの神の矢(ダルマジャDharmaja)」
同じく「ダルマの神の矢(ダルマカDharmaka)」 「ヴィシュヌの矢(ヴィシュヌクラVishnukula)」 「創造神ブラフマーの矢(ブラマカBhramaka)
などです。ヴィシュヴァーミトラは弓の名手だったからです。
出家僧をはじめアシュラムで暮らす人々は、ミティラーの都までヴィシュヴァーミトラのお供 〈とも〉をすることになりました。この聖者が二度とシッダーシュラマに戻ることはないと、わ かっていたからです。ヴィシュヴァーミトラがミティラーに向かう日になると、近くに住む動物 たちまではらはらと涙を流していました。聖者は動物たちを深く思いやり、限りない愛情を向け ていたのです。鳥や獣たちも、ラーマとラクシュマナから離れようとしませんでした。アヨーデ ィヤーのふたりの王子さまに大きな魅力を感じていたからです。
旅の間、聖者ヴィシュヴァーミトラは道の途中にあるいろいろな寺(アシュラム)の歴史を話 してくれました。やがてガウタマGautamaという聖者の庵〈いおり〉にやってきました。そこで はガウタマの妻アハリヤーAhalyaが、夫の呪いを受け、石のように固くなったままずっと同じ場 所に横になっていました。最高神ナーラーヤナの化身ラーマには、おこったことのすべてがわか っていたのですが、あたかも何も知らないかのようにふるまっていました。ところがラーマがア ハリヤーに近づいていくと、その御足〈みあし〉から発せられるエネルギーの振動が、石のよう になったアハリヤーに新たないのちを与えたのでした。アハリヤーはラーマの御足に触れ、許し を乞うとともに、どうか恵みをお与えくださいと祈りました。
まさにそのときその場所に、聖者ガウタマが姿をあらわし、アハリヤーのけがれがはらわれた ことを認めたのでした。ガウタマには、主〈シュリー〉ラーマがやってきて自分の庵(アシュラ ム)を聖なるものに変えてくれることがわかっていました。アハリヤーを救ったあと、ラーマと ラクシュマナは、ヴィシュヴァーミトラ、聖者ガウタマ、それから他の多くの聖者とともにミテ ィラーへの道を進むのでした。
ラーマとラクシュマナがあらわれると、まるでライオンの子どもたちがミティラーの都まで行 進してきたかのような大きな評判となりました。人々はふたりを誉めたたえ、この麗〈うるわ〉 しい王子のことを噂するようになりました。ジャナカ王は、このふたりにふさわしい礼儀をつく して、暖かい歓迎の気持ちをあらわしました。ジャナカ王は、ラーマたちのために広い立派な屋 敷を用意して、もてなしをしました。ところがラーマは、ひどく疲れて横になっているかのよう なそぶりをしていました。十字に組んだ足をもみほぐしています。聖者ナーラダ〔ヴェーダの詩 人のひとり。時代を超えてさまざまな神の化身の物語にあらわれる〕が人の姿をした最高神ナー ラーヤナにまみえるために、そこにやってきました。神さまが自分の足をもんでいるのを見て、 ナーラダは話しかけました。 「世界の主〈ぬし〉よ。長い道のりを歩いてこられて、お疲れですかな」
ラーマは答えました。 「ナーラダ、わたしが疲れることがあると思うか。そんなことは決してない。わたしのこの身体 はお前たちのためにある。わたしのためではない。この人間の身体を使って、人類を病〈やまい〉 から救わねばならないのだ」