磯野鱧男Blog [平和・読書日記・創作・etc.]

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2.十字架のイエズス

2005年06月08日 | 【作成中】小説・メリー!地蔵盆



一、出会い

2.十字架のイエズス



 幸江は二人が座っている長椅子の前に立っていて、
「このおじさん、引っ越して来はったんや。ここのアパートの人や」
 と楽しそうに教えてくれた。

 ジョンさんは喜んで、「そうです。私もここの住人です」と胸をはっていた。
 ジョンさんは昨日越してきたらしい。外国人がアパートに越してくるなんて、はじめてのことで、とても珍しいことなので、噂になっていたそうだ。

 雄二は扁桃腺炎で寝込んでいたので 何も知らなかった。犬と同じ名前だなんて、失礼だからどうしょうかと管理人さんは困っていたらしいそれを聞いた、ジョンさんはそんなことは気にしないと宣言した。

 
おかげでどうやら、犬のジョンは名前を変えられずにすんだ。

「ジョンさんは、京都大学の大学院の留学生なんよ。日本の文化を研究してはんのんよ」
 幸江は、うしろで手を組んで、腰をトントンと叩きながらうれしそうだ。

「京大
の大学院って、ジョンさん、頭ええんやな」雄二はジョンさんを見直してしまった。ジョンさんは、プロレスラーみたいに体がすごいだけじゃないんだなあーと思った。
 ジョンさんは照れながら、「頭よくない、変な外国人」金髪の頭をかいていた。雄二は熊丸出しだと思った。
それだけ、迫力があった。そして、ジョンさんという人はとても謙虚な人であった。

「私の国、アメリカ。大きな国。でも、私、日本好き。京都好き、京都の古い歴史好き」
 ジョンさんはまるで夢を見ているようだ。

「せせこましい、京都なんか好きなんか」
 雄二はあきれた。二、三年前に終わったテレビ番組の『ローハイド』のファンだったのでそう思った。
そのドラマは、広大なアメリカを舞台にしていた。

 ジョンさんはがっかりした様子で、「そう、私、変な外国人……」ぼそぼそと話しており、最後は聞き取り辛かった。手はあつあつの焼き芋を半分にしているような動作だった。

 雄二はこんなポロ・アパートに住むなんて、
何を考えているのだろう? 物好きだなと思った。

 幸江はそんなジョンさんを見て質問する。
「ジョンさん、聖護院(しょうごいん)の所に留学生の寮があるやろ、きれいな五階建てのが」

「私もそこにいました。けれど、日本人の中で生活したい。人の中に神様見いだすものだから。文化も同じですし……」

 雄二は変なことを言うなぁと思
った。人の中に神様なんておるわけないやろに、神様ちゅうもんは、神社におるもんやろになあー。それで、「人の中に神様を見いだす……。外国人には神様おらんのか」と質問した。

 ジョンさんは笑顔で自信ありげに、「います。私、カトリック教徒。今度教会へつれてってあげます」と胸を張っている。

 珍しい物好きの雄二は興味津々だった。
 京都には外国人が多い。観光目的で来る人や、また京都には大学がたくさんあって留学生がいる。しかし、雄二が話した外国人はジョンさんがはじめてだった。

 その中で印象に残った言葉は『人の中に神様見いだす』、そんなことを言う人も雄二にとっては、はじめてだった。

 雄二はジョンさんに招かれて、ジョンさんの部屋に行
った。みかん箱が一つあり、その上に電球のスタンドがあったが、家具は一つもない。しかし、寂しい感じはしなかった。なぜなら、ジョンさんの部屋には絵が貼ってあったのだ。

「これが、私の神様です」
 ジョンさんは宝物を見せるように話した。ジョンさんと同様にその男も髭をはやしている。

「この人の名前、イエズス・キリストと言います。私の一番尊敬している人です。愛の人です。神は愛です。だから、日本好きなら日本人の中に住みます。人の中に神様見いだすのです。これ、見てください」

 ジョンさんは後ろの絵を振りかえって指さした。木材に張り付けられた男の人が苦しそうだ。

 雄二は立ち上がり、
なめるように絵をみて、「これ、張り付けにされているのとちゃうんか」ジョンさんにくってかかった。

「そうです」
 ジョンさんは微笑んでいた。

 雄二は眉間に皺をつくって
つぶやいた
「こんなむごい絵、よく飾って、ご飯たべられるな」
 目を細めてジョンさんを見た。雄二の目は、いわゆる疑惑の目というやつであった。

「むごいです。でも、愛を持って生きることは苦しいことです。だから、私に勇気をくださいます」そう言い終わると、また、うっとりしている。

「こんな絵を見て、勇気をだすのか」雄二はあきれている。

 幸江がジュースを持ってきた。「これ、ジョンさんにもらったの」幸江は雄二に絵葉書を見せた。

「そうです。この人は聖母マリアという人です」
「ジョンさん、聖書、雄二にも教えてあげてよ」
「そうです
ね……」ジョンさんは思案顔であった。
「そうしないと、この張り付け獄門にされたおじさんのこと、わからへんしね」
 幸江はさも知っているように話した。

「はい、今度、聖書をもらってきます。雄二にもあげます」
 ジョンさんは約束してくれた。



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