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5.吉田神社

2005年06月12日 | 【作成中】小説・メリー!地蔵盆



一、出会い

5.吉田神社






 東一条で市電をおりる。京都大学の時計台を右手に見る。
吉田神社の中を通る。雄二たちのアパートは吉田山の南にある。

「ここ、ぼくが通った幼稚園、吉田幼稚園や」
「神社の中にあるのですね」
 山の中の神社といってもいいだろう。自然が豊かに息をしている。一つだけ社があるような小さな神社ではない。山の多くの部分を神社が占めている。そのなかに、吉田幼稚園もある。

 街の中にある小学校には緑が少ない。そのとき、花壇や教室の花などが心をいやしてくれる。吉田幼稚園とは、それ以上にすばらしい。木々がたくさんあり、池や水の流れもある。自然の中にあるという感じなのだ。

 緑のない教会からの帰り、それに比べて神社は何と生命に満ちていることだろう。
 雄二は小学三年であり、そこまで考えてはいなかったが、神社でほっと一息ついていたといっていいだろう。

 そして、幼稚園に通っていた楽しかったことを思い出す。
「うん、毎日、お祈りしていたよ。誰でも入ってええんや」
 神父さんの、善男善女を思い出した。

 雄二はジョンさんに吉田神社を案内してあげようと思った。それは自慢したいという気分もあった。
 あの聖書に書かれてあるイエスのように、自然のなかで祈ることができるのである。

 歩いていても違うのだ。すがすがしい空気があり、見た目にも、吸う息にも、すがすがしさを感じることができるのだ。
 この時代に森林浴などという言葉はきかなかったが、神社にはそんなことも知らず知らず楽しんでいたのである。

 歌舞伎『菅原伝授手習鑑』三段目の舞台になっている本宮の鳥居と玉垣の境内に入る。
「白い砂がきれいです」
 客を迎えいれるために、掃き清められた料亭の前にも似ている。
 雄二は、その光景をみるだけでも、心がすがすがしくなる。
「そうや、毎日、掃いてはるねんで」
「そうですか、それは大変ですね」
 吉田神社は広大な神社である管理することも大変なことだろう。

 ジョンさんは、吉田神社の本宮のある北側を見ていた。
 吉田神社には、それだけでなく楽しみがあった。
「鹿に餌をやろうよ」
 吉田幼稚園の桃組があった建物の前に鹿の檻があり、何頭かの鹿がいた。

「この鹿、奈良の春日大社の神さまの鹿だよ」
「奈良の鹿、有名ね」
「うん、そこの鹿や」

 吉田神社は貞観元年(八五九)、藤原山蔭が、奈良の春日大社を勧請(かんじょう)したのがはじまりである。ある人は奈良にある藤原一門の氏神である春日神社が、京都に都がうつれたとき、奈良まで行くのでは不便なので、京都に藤原一門の氏神をまつる神社をつくつた、それが吉田神社であるという。

 歴史小説家である永井路子は、飛鳥は曽我氏の都であり、平城京と平安京は藤原氏の都であったと書いている。平家は自らの都をつくろうとして福原京をつくろうとしたという。
 吉田神社は平安時代の栄華を極めた藤原氏の神社であったという。伝統と格式がある神社であるが、庶民的でもある。

「えさ、お金かかるのですね」
 ジョンさんは鍵のついた木の箱にコインを入れて、さつま芋と人参が入ったアルミの皿をとった。

「この鹿、この餌を買う人がいないと飢えますか」
 ジョンさんは鹿の心配までしているようだ。しかし、鹿の世話をしている人たちを知っていた。
「そんなことあらへん。売れぐあいをみて、神社の人が餌の量かえているよ」

 雄二もコインを入れ、アルミの皿をとる。鹿は檻にはいているが、餌をやろうとすると、近づいてきて、金網のあいだから舌を出して、餌をせがんでいる。
 ジョンさんも鹿を見て、笑顔になっている。鹿の目はどうして、あんなに黒くて、丸くて、かわいいんだろうと雄二は思う。

 ジョンさんは、輪切りのさつも芋を右手でもって、鹿の口元へ運んだ。
「おっ」
 ジョンさんは鹿に指をかまれそうになった。あわてて後ろに跳んで逃げた。

「あはは……。餌をやるのにも、コツがいるんや。ずっと、指で持っていたら、そら指かまれるで。鹿が口をつけた瞬間に手をはなすんや」
 雄二は模範を見せた。ジョンさんはまねをした。

「おお、食べました。よかったです。鹿の目は大きくってきれいです」
「そうやろ、幼稚園のころ、毎日、鹿と会えて楽しかったでえー」

「そうですか。でも鹿には、この檻は狭すぎます」
 ジョンさんは、鹿のことを気の毒に思っていた。それだけでなく、多くの大人たちも同様のことを話していた。



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