龍の声

龍の声は、天の声

「壮士一たび去りて復た還らず」

2016-05-10 07:58:50 | 日本

司馬遷の『史記』より 荊軻「壮士一たび去りて復た還らず」のついて学ぶ。


<白文>

燕国有勇士秦舞陽。年十三殺人、人不敢忤視。乃令秦舞陽為副。
荊軻有所待、欲与倶。其人居遠未来。而為治行。頃之、未発。
太子遅之、疑其改悔。乃復請曰、
「日已尽矣。荊卿豈有意哉。丹請、得先遣秦舞陽。」
荊軻怒、叱太子曰、
「何太子之遣。往而不返者、豎子也。且提一匕首、入不測之強秦。僕所以留者、待吾客与倶。今太子遅之。請、辞決矣。」
遂発。
太子及賓客知其事者、皆白衣冠以送之。至易水上、既祖、取道。高漸離擊筑、荊軻和而歌、為變徵之聲、士皆垂涙涕泣。又前而為歌曰、
「風蕭蕭兮易水寒、壮士一去兮不復還。」
復為慷慨羽聲、士皆瞋目、髮盡上指冠。於是荊軻遂就車而去、終已不顧。


<書き下し>

燕国に勇士秦舞陽なるもの有り。年十三にして人を殺し、人敢へて忤視せず。乃ち秦舞陽をして副と為らさしむ。荊軻待つ所有り、与に倶にせんと欲す。其の人遠きに居りて未だ来ず。而るに行を治むるを得ず。之を頃くするも、未だ発せず。
太子之を遅しとし、其の改悔せしを疑ふ。乃ち復た請ひて曰はく、
「日已に尽く。荊卿豈に意有りや。丹請ふ、先づ秦舞陽を遣はすを得ん。」
と。荊軻怒り、太子を叱して曰はく、
「何ぞ太子の遣はすや。往きて返らざる者は、豎子なり。且つ一匕首を提げて不測の強秦に入る。僕の留まる所以の者は、吾が客を待ちて、与に倶にせんとすればなり。今太子之を遅しとす。請ふ、辞決せん。」
と。遂に発す。
太子及び賓客その事を知る者は、皆白衣冠を以つて之を送る。易水の上に至り、既に祖して、道を取る。高漸離筑を撃ち、荊軻、和して歌ひ、變徴の聲を為す。士皆涙を垂れて涕泣す。又前みて歌を為くりて曰く、
「風蕭蕭として易水寒く、壮士一たび去りて復た還らず。」
と。復た羽聲を為して慷慨す。士皆目を瞋らし、髮盡く上りて冠を指す。是に於いて荊軻車に就きて去る。終に已に顧みず。


<現代語訳>

燕の国に秦舞陽という乱暴者が居た。十三才で人を殺しまともに眼を合わせる者も居なかった。
丹はこの男を副使にしようとしていた。
ところが荊軻は他に頼りにする人物が居た。
その男は遠くからやって来るはずだったが出発の準備が整っても到着せず、
丹は荊軻が心変わりせぬかと心配になった。
丹「日はだいぶ経っています。何か考えがあるのでしょうか。私は秦舞陽を遣わしたいと思う」
荊軻は怒って「なぜ太子はあんな若造を遣わしたいのか。匕首一つ(一本の短刀)で強国秦に行くのです。
私が待つのは頼りになる友を待っている為。太子が遅いというのなら、仕方ありません直ちにたちましょう」
遂に荊軻は出立することになった。太子はじめ、事情を知るものみな白装束で易水のほとりまで見送った。
道祖神に祈って秦へと向かった。友の高漸離の奏でる築の音に合わせて悲壮な変徴の声調で歌った。
聞く者全て涙にあふれ泣いた。

風蕭蕭兮易水寒     (風蕭蕭(しょうしょう)と吹きて 易水冷たく)
壮士一去兮不復還  (壮士ひとたび行かば ふたたび還らず)

と歌い更に激烈に羽の声を出して歌った。
人々目は怒り髪は逆立ち冠を突き上げた。
そして荊軻は車に乗り振りかえることはなかった。









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