雲跳【うんちょう】

あの雲を跳び越えたなら

暗色コメディ/連城 三紀彦

2008-10-28 | 小説
≪もう一人の自分を目撃してしまった主婦。自分を轢き殺したはずのトラックが消滅した画家。妻に、あんたは一週間前に死んだと告げられた葬儀屋。知らぬ間に妻が別人にすり替わっていた外科医。四つの狂気が織りなす幻想のタペストリーから、やがて浮かび上がる真犯人の狡知。本格ミステリの最高傑作。≫

 これは凄い。なにが凄い?それは本書がおよそ三十年前(1979年)に書かれたということ。三十年前の推理小説といえば、たしか横溝正史とか松本清張などの時代ではなかったか?そんな中でこれほど斬新なミステリ小説を(しかも処女長編)書き上げてしまうとは。
 なにが斬新かって?それは本書を読み進めるうちに、「ほんとにこれは推理小説なのか?」とだんだん不安になってきて、「ぐわんぐわん」と目眩のような感覚をともなってくる、にもかかわらず最後には完璧な論理的解決が導き出される、というところ。

 いや、でも、中には「ちょっとそれは無茶しすぎだろ」という推理もあるにはあるのだが、この時代にこれだけの異端推理小説を発表し、尚且つ今日に至っても全く色褪せることなく、いやむしろ未だに斬新さを保ち続けているというのが、もの凄い。

 連城三紀彦氏といえば恋愛小説でその名を馳せているが、実はデビューはミステリ作家という、お人。近年でも『白光』や『人間動物園』といったミステリも精力的に書いておられる。
 その人間心理を精緻に描写する筆力は『恋愛』にも『ミステリ』にも不可欠な要素であることは確か。そしてそれは、『恋愛』=『ミステリ』ということにも繋がっているのではないか?

 ともあれ、連城ミステリ作品『変調二人羽織』『六花の印』『私という名の変奏曲』等々、まだまだ多くの名作が残っているいうことが、私の胸を弾ませてくれている。


 
コメント
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