雲跳【うんちょう】

あの雲を跳び越えたなら

ほんたにちゃん/本谷 有希子

2008-10-14 | 小説
≪90年代。東京。クリエイターになりたくて上京し、写真専門学校に入学したほんたにちゃんは、生まれた時点ですでに手遅れ、自分の感性をうまく周囲にアピールすることができず、痛い勘違いを繰り返しながら、ジタバタと脳内で悶絶する毎日を送っていた。そんなある日、飲み会で出会ったカリスマ・アーティストに、作品のモデルになってほしいと頼まれたが―――それが死闘の幕開けだった≫

 これは、イタイ。いや、イタ過ぎ。何がイタイって?それはほんたにちゃんの過剰すぎる自意識が、そっくりそのまま自分に当てはまっちゃうから・・・。

 これほどまでに自分を曝け出せるって、スゴイです。いや、これが本当に自伝だったらの話ですけど。全部が全部本当ではないとして、話半分だとしても、その内面に渦巻く、もはや自分ひとりではどうしようもない葛藤には、したくないのにシンクロしてしまう・・・。

 謎めいた女を演出するために『綾波』にこだわったり、脳内親友(もうひとりの自分)に『アスカ』と名付けたり・・・ダメだ、この人、オモシロすぎる。

 何かを目指している人って、大なり小なり、その自意識に乗っかっちゃうか押し潰されちゃうかだけど、この人は『べちょ』っていうか『ぐちょ』っていうか自意識まとわりついちゃってる。でもそのどうしようもなくまとわりついてる自意識をも作品に乗っけて、というか、それこそ本谷作品の礎としてしまっている。いうなれば痛すぎる自意識を完全に作品として昇華させてしまっている。素晴らしい。

 この作品を読んで、ようやく気付いたことですが、この過剰な自意識を曝け出す姿は「太宰治と一緒ぢゃねーか」と。あぁ、だからオレ、この人にこんなにも惹かれるんだなぁ・・・って。

 この作品は特に文学賞とか狙ってるわけではなく、本谷女史当時19歳のときにHPで発表したものを改稿したものらしいので、ラストの展開はまさに抱腹絶倒必至です。えぇ、下ネタです。

 それにしても、弱冠19歳でこれほどまでに自分の内面を掘り下げ、発表できる人は、そうそういないと思われます。もの凄い才能と自意識の持ち主です。
 
 上っ面だけ読み取ると、バカですけど・・・。突っ込んで読むと、その才気溢れる人間味に、惚れてまうこと間違いないなしです。

 
コメント (2)
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