私の図書館

主に読んだ本の感想。日常のできごと。

三浦しをんの風が強く吹いている

2009年11月28日 08時39分52秒 | ミステリー/文芸
三浦しをんが書いたマラソンの話程度にしか考えていなかった私は、どちらにもあまり興味がなかったので手にとろうとも思わなかった。
今回、図書館でみかけて手にとってみたのは、カバーが新進の日本画家山口晃のものだと知ったからだ。カバーだけではなく挿絵も描いているとのことなので、本を開いてみることにした。この本を読むきっかけをくれた山口晃の絵に感謝したい。
図書館で借りてしまったので、絶対に本を買おうと思う。文庫本で860円。こんな傑作だと知っていたら単行本で1800円で出た時点で間違いなく買っていた。

あらすじをいうと、これはマラソンの話ではなく10人しかいないチームがしかもそのうちの8人が素人のチームが箱根駅伝に挑戦する話。
寛成大学4年の清瀬灰二によって秘密理に集められた9人の学生。みながおんぼろアパート青竹荘の住人なのだが、ハイジの思惑にきずくことなく学生生活を送っている。司法試験を合格しているユキ、クイズおたくのキング、まんがオタクの王子、二子のジョージとジョータ、理工学部の国費留学生のムサ、すごい田舎からきている神童、大学5年目の3年生ニコチャン、そして高校のとき陸上のスーパースターだった走。ハイジと走は箱根駅伝でも通用するランナーだが、残りのみんな素人。ハイジの箱根を目指すの発言に、無理に決まっているとブーイング。それでも、脅され、褒められ、踊らされ、みんなハイジの野望に乗ることになる。だが、だんだん走ることに夢中になり、苦しみながらタスキをつなげようと懸命になる。箱根にいたるまでも、夏の合宿、記録会、予選会など着実に苦労しながらハードルを超えていく。本の半分は箱根駅伝にたどり着くまで、残りの半分は箱根駅伝の当日1月2日3日の話となっている。

私の中では今年読んだ本(あと1月ほど残っているが)のベスト1であるのは間違いない。面白かったという形容だけでは物足りない。この本が大好きになった。映画化にもなったらしいが、トレーラーを見た限り、清瀬灰二のかっこよさ長距離ランナーの美しさを一体どれだけ掘り下げられているのか疑問にかんじる。題名にもある強さが本当に表現してあるのか、と不安すら感じる。映画は別物と考えるべきだろう。是非、是非、是非、原作を読んでほしい。スポーツものにある鬱陶しい押し付けがましさがなく、だがスポーツに求められる爽快感、達成感は十二分にある。


プロではとうていファンには与えることができない感動を学生スポーツは与えてくれる。高校3年間のみにしかチャンスがない甲子園しかり、大学の4年間にしか目指すことができない箱根駅伝しかり。見ている側も学生が全力以上のものを出し切ってその瞬間にかけているのが分かるので、勝ち負け以前に彼らの真摯な情熱に涙するのだろう。酸いも甘い噛み分けてプロになってしまったらこうはいかない。

私は箱根駅伝のファンではないが毎年お正月にはなんとなく見てしまう。今でも、1区か2区でいきなり足を引きずり出して走れなくなった選手のことを覚えてる。走れなくなったけれど歩いて、足を引きずって前に進んでいた、監督の棄権を促す説得にも首を縦ふらず。さすがに、監督をみていられなくなり、車から降りて選手の体を支えようと近寄るのだが、選手は体にさわらせようとしない。監督が走行中の選手にさわった時点で棄権とされ、残りの選手はタスキなしで箱根駅伝を走らなければいけなくなる。もちろん記録もなし。この時私は夢中になってテレビを見ていた、今でもちゃんと覚えている。この本フィクションなのにも関わらず、その時のような胸の詰まるような想いをちゃんと感じさせてくれる。その上、若い学生特有のおちゃめさも含まれている。

大学4年生の清瀬灰二にとっては最後の箱根のチャンス。 それゆえに、この最後の1年が愛しいほど切ないものとなっている。箱根に行くのを見届けたいが、そうしたら最後の1年が終わってしまう。終わらせたくない私は、途中で何ども引き返してもう一度最初から読み直してしまった。読み始めたら止められないという面白い本は今年に入って何冊か読んだが、終わらせたくない本を読んだのは今年初めてだ。

最後になったが、カバーの絵を描いている山口晃の作品集を本屋でみかけたら手にとって見て下さい。私は地デジの広告か何かで初めてこの人の作品をみて以来ファンになって、山口晃作品集を買った。新しい浮世絵というか画期的な大和絵というか、とりあえず見ていて飽きない、楽しいものになっている。今回、この本のカバーにもなっているがぴったりだと思った。

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