一泊二日の室蘭,輪西に投宿.若い同僚を伴い近くのやきとり屋の暖簾を潜る。実は,この店は7月末に同じビズホに投宿した折,“室蘭 やきとり”の検索にヒットしたサイトで当りをつけてお邪魔した店だ(店の外観はその時の画像).
前回客は終始私一人,親父さん・女将さんとの差し.
父上が帯広で修行して戻り,屋台から興して店を構えた昭和12年に親父さんが生まれたこと(だから,豚肉の‘やきとり’は帯広が元祖なのだそうだ)・終戦間際の艦砲射撃のこと・父上が亡くなり,母上の女手と子供の手伝いで切抜けた食糧難時代のこと・洞爺丸台風の高潮のこと… 輪西の隆盛を見守り続ける親父さんの話に興は尽きず,ビール(スーパードライ大瓶)1本・焼酎(甲)お湯割り2杯の大変濃密な時間を過ごさせて頂いた.ただ,話に興が乗り過ぎて肝心のやきとりを味わうのが疎かになりがちだったのは大変に申し訳無くまた心残りだった.
ということで今回は満を持し,緩衝材として同僚(許せ!)を巻き込んでの再訪となったわけだ.
コの字のカウンター,20席くらい.奥に小上りもあるようだが引戸が閉てられている.今回も前客は無く,同僚と二人.カウンターの親父さんは“いらっしゃい”と言い様炭火の炉に被せた鉄蓋を開けにかかる.炉の真向かいに陣取ると空かさず女将さん,“お飲み物は?”.そこはそれ,取りあえず.
奥に掲げた品書き,“やきとり”類の他は冷奴に漬物と潔い.勿論,1本から焼いてくれる.
通しのキャベツ新漬(カウンターに箸は出しておらず爪楊枝でつつく),豚精(玉葱間)・レバ・モツ(シロ)をたれ(甘めだがしつこくは無く飽きない)と芥子で頂きながらビール2本をやっつける頃にはうまい具合に世話話もまわる.小雨もよいの夜,次はしっとりと燗酒でも…
お願いして,親父さんの取り出した徳利に目を奪われた.若い頃先輩に連れられ通った薄野外れの焼鳥屋で見覚えた,地面に降りた小鳥を思わすその形.
“親父ッさん,それ直燗(じきかん)じゃない?!”
“ウチらは‘はと燗’って言うんだけどね.昔は酒も質が良くなかったから,焼酎でもこれで燗付けると好い具合にクセが抜けて旨くなるって言ったモンだョ”
徳利を受け取り女将さん“お燗どうする? 熱燗? それとも…”
言われりゃ,ココは一番“だら燗”しか無ェでしょう!
“酒は問屋に任せてるから…”と言いながら炉の熾きに埋めて付けてくれた桃川のだら燗はほんのり甘くふくよかで,親父さん・女将さんの気風と共に,じんわり沁みる味わいであった.
次回,10月に室蘭を訪れる予定がある.中島町辺りに数あるビズホをリザーブした方が作業地には至便なのだが,是非ともまた輪西に投宿して,今度は熱燗の3本でも引掛けに寄ろうと既に心は決まっている.
2009/10/30 追記:
10月予定の室蘭出張.目論見どおり輪西に投宿,“鳥よし”さんの門口を訪れたが灯りは点っていなかった.定休は日曜と記憶するが,何か御都合があったのだろう.“はと燗”の熱燗,頂きたかったなァ…