昭和三丁目の真空管ラジオ カフェ

昭和30年代の真空管ラジオを紹介。
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東京芝浦電気(TOSHIBA)  かなりやLS 5YC-501

2007-03-07 | 東芝 かなりやシリーズ
 昭和29年(1954年)から30種類以上製造された「かなりやシリーズ」の機種名は、原則的にAから始まるアルファベット1文字または2文字で命名されたが、既に発売されている機種名に重複した名前を付け販売されたケースがある。今回は、かなりやLS 5YC-501をご紹介し、その謎に迫る。
 昭和32年(1957年)頃発売された かなりやLS 5AD-128と同じ機種名の かなりやLS 5YC-501は、昭和36年(1961年)頃に製造された比較的小ぶりでファニーなデザインの中波/短波2バンド対応真空管ラジオだ。

          

 初代かなりやLS 5AD-128を担当したデザイン設計者が、時流にマッチした新たな かなりやLSを開発したと仮定するならば、初代かなりやLSのモデルチェンジ版として2代目かなりやLS 5YC-501に同じ機種名を使った可能性も高いが、その真実は謎である。
 同じ機種名を重複して名づけられた“謎のかなりや”は、調べた限りでは次の4機種ある。

        かなりやLS(5AD-128) かなりやLS(5YC-501)
        かなりやOS(5LR-287) かなりやOS(5YC-557)
        かなりやUS(5AD-175) かなりやUS(5UL-579)
        かなりやK (5LP-108) かなりやK (5YC-763) 

          
      【初代かなりやLS 5AD-128 黒/白ツートーンカラー(左)パールホワイト(右)】
 初代かなりやLS 5AD-128は、黒/白2色とパールホワイト単色の2種類のキャビネットを選ぶことができた。同様に、2代目かなりやLS 5YC-501もまた、黒またはライトブルーを基調とする2種類のキャビネットが発売されていた。

          

 横長6角形の造形をしたキャビネットのフロントグリルを上下に分割し、上半分に透明パネルと白いバックパネル、下半分は横スリットを入れた形成加工に白いツマミ3つを配置して、視覚的にも小型フォルムを強調したデザインを採用している。
業界こそ違うがメーカーで長年デザイン関連の仕事に携わってきたボクの視点から考察すると、キャビネット全体のフォルムや下半分の横スリットの形状は、初代かなりやLSの流れを汲んでおり、初代と同一の担当者が、新かなりやLSの意匠設計にも関わったものと思われる。つまり前述の仮説どおり、初代かなりやLSのモデルチェンジの意味を込めて同じ機種名『かなりやLS』の名前を冠した可能性が高いと言える。

          

 メーカー:東京芝浦電気(TOSHIBA) かなりやLS 5YC-501

 サイズ : 高さ(約13cm)×幅(約31cm)×奥行き(約11.5cm)

 受信周波数 : 中波 530KC~1605KC/短波 3.9MC~12MC

 使用真空管 :12BE6(周波数変換)、12BA6(中間周波数増幅)、12AV6(検波&低周波増幅)、30A5(電力増幅)、35W4(整流)

 汚い外観が幸い?したのか、オークションの入札価格はさほど上がらず、居酒屋1回分弱の金額で簡単に落札できた。
宅急便で届いた かなりやLSは、キャビネットの損傷、ツマミやエンブレム等の欠損や酷いダメージは見られない。ただ何十年も放置されていたのだろう・・・フロントの透明パネルとキャビネットの間にはたくさんの埃が堆積し、汚れも酷い。同調ダイヤルの糸掛けも外れているようで、チューニングつまみは、「途切れた愛」のように虚しく空回りする。

          

 裏蓋を取外すと、清掃された様子はなく、キャビネット底部やシャーシ上の真空管やIFT、バリコンには埃が大量に堆積しており、この40年間放置されていた かなりやLSのやつれた姿に「切ない男と女の物語」の情景が浮かび、つい感情移入してしまう。もう取り戻せない、二人の愛の日々を手繰り寄せるように、このラジオを修復することを決意した。

          

 いつものようにツマミを抜き、イヤホン端子の止めネジ、シャーシ、スピーカーを順次取り外し、シャーシ内の点検を行なう準備に取りかかった。シャーシーと内部の埃をOAクリーナーで吹き飛ばし、真空管を抜いて平筆を使って丹念に清掃しながら、目視点検を行なったが、同調ダイヤルの糸掛は見事に外れ、それが男と女の微妙な関係のように絡み合っている。糸掛の修復作業は、手先の不器用なボクにとっては苦行でもあるが、何とか元通りに復元できた。

          

 このところ2回ほど電源回りから煙の出るアクシデントが続き怖い思いをしたため、電源投入前に35W4がらみのコンデンサーをまず交換した。「煙が出ればコンセントを抜けばいいや!」と腹をくくって電源をON!パイロットランプは点灯し、各真空管のヒータも灯っている。煙も出てこない・・・・が、しかし、スピーカーから音も出てこない・・・。

          

 スピーカーとO.P.Tの断線、真空管やバンド切替スイッチの接触不良なども点検してみたが問題なく、原因がイマイチ掴めない。こうした推定原因の把握と確定原因の追求、恒久処置の対応ができなければ、「真空管ラジオの修復、レストアをやっています!」と胸を張ることはできない。多少なりとも「腕を上げました♪」と言いたいところだが、両腕を上げて、「これがホントのお手上げで~す」とふざけるしかない。

          

 そこで気分転換も兼ねて、キャビネットの清掃と洗浄を開始。この かなりやLSもフロントの透明パネルが熱溶着されているため、取り外しができない。溶着部分をペンチで切り、パネル内を清掃する力技もあるようだが、デリケートで優しい“穏健派”店長に、そんな荒業は不可能です。いつものようにマジックリンを泡状にして流し込み、素早くすすぎ洗いを行なった後、コンパウンドで磨くと輝きをとり戻した。

          

 途方にくれながら、とりあえずコンデンサーを全品交換と真空管ソケットの増締めを行ない、O.P.Tに目をやると、スピーカーへのハンダが浮いている状態を発見。しっかり再ハンダ付けすると、空電ノイズとともに地元の民放ラジオとNHK中継局が受信できた。
O.P.Tのハンダ不良が原因とは思えないが、とりあえず「歌を忘れたかなりや」が鳴いてくれ、限界点にまで達していたストレスは一気に氷解した。
中波はやや感度不足を感じるが、短波はそこそこの受信性能だ。本来なら先輩&友人の音響の匠氏に各種測定器を使った感度調整等をお願いするところだが、恋愛に例えるなら、途切れた愛が再び重なった二人に余計な手出しは禁物である。これ以上手を加えることは、あえてしないことにしよう。

          

 電源コード、アンテナ線、バリコン絶縁用スペーサーは新品に交換した。アルコールを使ってバリコン、IFT、コイル等の各種パーツをキレイに洗浄清掃した後、シャーシを丁寧に磨き込んだキャビネットに組み込むと、朝日を浴びて美しく輝く。