昭和32年(1957年)、東芝はmT管トランスレスラジオ かなりやシリーズに、当時の新技術であったプリント基板を採用した かなりやKを発売。さらに、かなりやX、かなりやY、かなりやZの3機種を相次いで世に送り出した。
大正14年、我が国でラジオ放送が始まり、鉱石ラジオからスタートしたラジオ受信機は、周波数変換しないいわゆるストレート方式と呼ばれる極めて性能・効率の低い真空管ラジオを経て、昭和21年頃から現代のラジオの基本形である受信周波数を一度変換するスーパーヘテロダイン方式の真空管ラジオへと発展した。
一方、1955年頃から低電圧・低消費電力・迅速な立ち上がりを特長とするトランジスタ・ラジオが発売され始めた。しかしながら、開発当初のトランジスタは価格が高い上、雑音は多く、高周波特性も極めて悪く、多くの技術者は使用できるのか懐疑的でさえあり、真空管ラジオからトランジスタ・ラジオへ完全に切り替わるまでさらに約10年間の歳月を要した。
登場以来40年、真空管ラジオの回路を構成する実装は、シャーシと呼ばれるアルミ製やスチール製のボックス形状の躯体に、真空管をはじめとする主要パーツを配置し、コンデンサー、抵抗等はラグ板を介して空中配線する方法が基本とされていた。
ところがトランジスタの開発・実用化と同時期、配線作業効率が高く、品質も安定する「プリント基板」の量産技術が実用化され、従来のシャーシを使った実装方式に代えて、プリント基板を採用した真空管ラジオが各社から登場し、東芝の「かなりやY」もその1台である。
当時のパンフレットには、「完全印刷配線で全製品が高度に均一化されています」
と謳われているが、プリント基板製造技術も未熟だったため、部品交換時にプリントパターンの剥離が生じやすく、後に発売された東芝かなりやシリーズをはじめ各社の真空管ラジオはシャーシタイプの実装方式へと戻っている。
メーカー:東京芝浦電気(TOSHIBA)『かなりやY 5LP-160』
サイズ : 高さ(約17.6cm)×幅(約30.6cm)×奥行き(約11.5cm)
受信周波数 : 中波 530KC~1605KC
使用真空管 :12BE6(周波数変換)、12BA6(中間周波数増幅)、12AV6(検波&低周波増幅)、30A5(電力増幅)、35W4(整流)
宅配便で届いた かなりやYのプラスチック製キャビネットは、50年の間に付着した汚れ、黄ばみ、軽い擦り傷があるものの、パーツの欠品も無く、外観はかなり程度の良い部類である。
裏蓋を取外すと、清掃された形跡がないにもかかわらず、埃の堆積は少なく、使用環境がよかったのか、大切に保管されていたものと推察される。真空管は、すべてマツダ・ブランドの東芝純正品が使われており、目視点検する限りではブロックコンデンサほかプリント基板、パーツ類の劣化は見受けられない。
オークションの出品者の方も、「動作確認済み。電源、スイッチを入れしばらくすると動きます」とコメントされていたので、意を決して電源を入れてみた。パイロットランプが点灯しない・・・嫌な記憶が、一瞬、頭をかすめる。
しばらくするとスピーカーから受信ノイズが聞こえはじめた。パイロットランプは、球が断線していただけのようだ。
簡単な動作確認後、詳しい状態確認と清掃のため、キャビネットからプリント基板とスピーカー、イヤホンジャックを取外したのだが、かなりやYは、キャビネット内上部に裏蓋と同じ素材の断熱板(8cm×30cm)が取り付けられている。断熱効果は高く、真空管の熱からプラスチックキャビネットを守ってくれる設計仕様だ。
後のかなりやシリーズなど、多くのmT管トランスレスラジオに見られる、厚紙に銀紙を貼った断熱片(板?)では効果が低く、キャビネット上面が真空管の熱により変形しているラジオをよく見かける。
キャビネットからプリント基板とスピーカー、イヤホンジャックを取外し点検したところ、修理した痕跡もなく、真空管に長年の埃が付着している程度で、各種電圧も正常であった。
真空管の汚れをウェットティッシュで拭き、OA用エアクリーナーを吹きかけてプリント基板、スピーカーに付着している埃を取り除いた。
50年の間にキャビネットへ付着した汚れ・黄ばみを取り除くために、いったん水洗い洗浄後、泡状のマジックリンでさらに洗浄すると、茶色味おびた黄色い汚れが流れ出る。さらによく水ですすぎ洗いし、乾燥後、いつものようにコンパウンドとプラスチッククリーナーで研磨すると、新品の輝きをとり戻す。
本来なら安全のためにコンデンサー類は交換するところだが、この かなりやYは大変状態がいいため、パイロットランプの交換を済ませ、オリジナルのまま使用することにしたが、市内にある民放中継局(1kW)からのイメージ混信が若干発生している。オーディオ機器チューニング歴数十年の友人に測定・調整をお願いしたところ、30A5(電力増幅)と35W4(整流) のエミ減が発覚。この真空管2本とコンデンサー4個を交換後、測定器を用いた調整を行なってもらい、新品のラジオのように高感度で安定した受信ができる状態へ見事に復活を遂げた。ボクのような素人ではIFTをはじめとする中間周波や高周波回路の調整は恐くて手を出せないのだが、プロの腕と技にかかるとここまで性能を再現できることに驚きを隠せない。
まだまだ修行が足りないボクの未熟さを実感した次第でもある。
一通りのレストアを完了し、見事に甦ったカナリアYを眺めながら、煙草に火を点けた。
かなりやYというだけあって、デザインも Y をモチーフにしてるのか、一見シンプルでありながら、フロント右側にレイアウトされた大型選局ダイヤルと相まって醸し出される非シンメトリックな造形美から、デザイナーの力量が感じとれる。選局ダイヤル後ろに配置されたパイロットランプの灯りが、暗闇の中ではフロントパネルのクロムメッキのモールに反射し、幻想的な世界を演出してくれる。
時計の針は、深夜の1時半を指している。ラジオから流れるジャズピアノの音色に、ボクの孤独を重ね合わせる。 揺れる煙の向こうに、暖かくも懐かしい昭和の息づかいが聞こえてくるようだ。
(-。-)y-゜゜゜
大正14年、我が国でラジオ放送が始まり、鉱石ラジオからスタートしたラジオ受信機は、周波数変換しないいわゆるストレート方式と呼ばれる極めて性能・効率の低い真空管ラジオを経て、昭和21年頃から現代のラジオの基本形である受信周波数を一度変換するスーパーヘテロダイン方式の真空管ラジオへと発展した。
一方、1955年頃から低電圧・低消費電力・迅速な立ち上がりを特長とするトランジスタ・ラジオが発売され始めた。しかしながら、開発当初のトランジスタは価格が高い上、雑音は多く、高周波特性も極めて悪く、多くの技術者は使用できるのか懐疑的でさえあり、真空管ラジオからトランジスタ・ラジオへ完全に切り替わるまでさらに約10年間の歳月を要した。
登場以来40年、真空管ラジオの回路を構成する実装は、シャーシと呼ばれるアルミ製やスチール製のボックス形状の躯体に、真空管をはじめとする主要パーツを配置し、コンデンサー、抵抗等はラグ板を介して空中配線する方法が基本とされていた。
ところがトランジスタの開発・実用化と同時期、配線作業効率が高く、品質も安定する「プリント基板」の量産技術が実用化され、従来のシャーシを使った実装方式に代えて、プリント基板を採用した真空管ラジオが各社から登場し、東芝の「かなりやY」もその1台である。
当時のパンフレットには、「完全印刷配線で全製品が高度に均一化されています」
と謳われているが、プリント基板製造技術も未熟だったため、部品交換時にプリントパターンの剥離が生じやすく、後に発売された東芝かなりやシリーズをはじめ各社の真空管ラジオはシャーシタイプの実装方式へと戻っている。
メーカー:東京芝浦電気(TOSHIBA)『かなりやY 5LP-160』
サイズ : 高さ(約17.6cm)×幅(約30.6cm)×奥行き(約11.5cm)
受信周波数 : 中波 530KC~1605KC
使用真空管 :12BE6(周波数変換)、12BA6(中間周波数増幅)、12AV6(検波&低周波増幅)、30A5(電力増幅)、35W4(整流)
宅配便で届いた かなりやYのプラスチック製キャビネットは、50年の間に付着した汚れ、黄ばみ、軽い擦り傷があるものの、パーツの欠品も無く、外観はかなり程度の良い部類である。
裏蓋を取外すと、清掃された形跡がないにもかかわらず、埃の堆積は少なく、使用環境がよかったのか、大切に保管されていたものと推察される。真空管は、すべてマツダ・ブランドの東芝純正品が使われており、目視点検する限りではブロックコンデンサほかプリント基板、パーツ類の劣化は見受けられない。
オークションの出品者の方も、「動作確認済み。電源、スイッチを入れしばらくすると動きます」とコメントされていたので、意を決して電源を入れてみた。パイロットランプが点灯しない・・・嫌な記憶が、一瞬、頭をかすめる。
しばらくするとスピーカーから受信ノイズが聞こえはじめた。パイロットランプは、球が断線していただけのようだ。
簡単な動作確認後、詳しい状態確認と清掃のため、キャビネットからプリント基板とスピーカー、イヤホンジャックを取外したのだが、かなりやYは、キャビネット内上部に裏蓋と同じ素材の断熱板(8cm×30cm)が取り付けられている。断熱効果は高く、真空管の熱からプラスチックキャビネットを守ってくれる設計仕様だ。
後のかなりやシリーズなど、多くのmT管トランスレスラジオに見られる、厚紙に銀紙を貼った断熱片(板?)では効果が低く、キャビネット上面が真空管の熱により変形しているラジオをよく見かける。
キャビネットからプリント基板とスピーカー、イヤホンジャックを取外し点検したところ、修理した痕跡もなく、真空管に長年の埃が付着している程度で、各種電圧も正常であった。
真空管の汚れをウェットティッシュで拭き、OA用エアクリーナーを吹きかけてプリント基板、スピーカーに付着している埃を取り除いた。
50年の間にキャビネットへ付着した汚れ・黄ばみを取り除くために、いったん水洗い洗浄後、泡状のマジックリンでさらに洗浄すると、茶色味おびた黄色い汚れが流れ出る。さらによく水ですすぎ洗いし、乾燥後、いつものようにコンパウンドとプラスチッククリーナーで研磨すると、新品の輝きをとり戻す。
本来なら安全のためにコンデンサー類は交換するところだが、この かなりやYは大変状態がいいため、パイロットランプの交換を済ませ、オリジナルのまま使用することにしたが、市内にある民放中継局(1kW)からのイメージ混信が若干発生している。オーディオ機器チューニング歴数十年の友人に測定・調整をお願いしたところ、30A5(電力増幅)と35W4(整流) のエミ減が発覚。この真空管2本とコンデンサー4個を交換後、測定器を用いた調整を行なってもらい、新品のラジオのように高感度で安定した受信ができる状態へ見事に復活を遂げた。ボクのような素人ではIFTをはじめとする中間周波や高周波回路の調整は恐くて手を出せないのだが、プロの腕と技にかかるとここまで性能を再現できることに驚きを隠せない。
まだまだ修行が足りないボクの未熟さを実感した次第でもある。
一通りのレストアを完了し、見事に甦ったカナリアYを眺めながら、煙草に火を点けた。
かなりやYというだけあって、デザインも Y をモチーフにしてるのか、一見シンプルでありながら、フロント右側にレイアウトされた大型選局ダイヤルと相まって醸し出される非シンメトリックな造形美から、デザイナーの力量が感じとれる。選局ダイヤル後ろに配置されたパイロットランプの灯りが、暗闇の中ではフロントパネルのクロムメッキのモールに反射し、幻想的な世界を演出してくれる。
時計の針は、深夜の1時半を指している。ラジオから流れるジャズピアノの音色に、ボクの孤独を重ね合わせる。 揺れる煙の向こうに、暖かくも懐かしい昭和の息づかいが聞こえてくるようだ。
(-。-)y-゜゜゜