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足利事件 DNAの功罪見極めて

2009年06月21日 | スクラップ




 科学捜査の最先端を行くDNA鑑定によって投獄され、同じDNA鑑定でえん罪が晴らされる、という数奇で皮肉な経過をたどることになりそうだ。19年前、栃木県足利市で4歳の女児を殺害したとして、無期懲役刑が確定して服役していた菅家利和さんのことだ。

 東京高検は再審裁判を待たずに刑の執行を停止し、異例の釈放に踏み切った。犯人とは別人とするDNA鑑定が出た以上、妥当な判断だが、有罪が確定する前にも救済の機会があっただけに、拘置、服役が17年にも及んだことが悔やまれる。捜査当局はもちろん、裁判所の関係者も猛省しなければならない。再審裁判を急ぐべきは言うまでもない。

 この事件は導入後間もないDNA鑑定が逮捕の決め手になったことで注目され、最高裁が初めて証拠価値を認めるケースともなった。だが、初歩的な捜査ミスも目立った。供述した殺害方法と被害者の解剖所見が食い違ったほか、菅家さんは別の2件の女児殺害についても犯行を供述し、検察で不起訴となっていた。自白の誘導を疑うべきなのに、警察も検察も、裁判所も見逃した。

 見込み捜査で容疑者を割り出し、自白を迫る。自白すれば、「真犯人でなければ認めるはずがない」と決めつけて捜査が自縄自縛に陥る……。えん罪事件の“お定まり”のパターンだが、本件でも捜査機関と司法府の自白偏重主義が災いした。しかも、当時のDNA鑑定は精度が低いことを承知していながら、重視し、自白を引き出す材料にもされた。

 DNAは万能ではない。不一致が無罪の証明となっても、一致が有罪の証拠とは限らない、と考えねばならない。技術が向上し、精度が格段に高まった今も、過信は禁物だ。米国では多くの死刑囚を死刑台から生還させたが、一方で微量での鑑定が可能になったため、別人のものが紛れて新たなえん罪を生む危険が指摘されている。足利の事件当時と同じ鑑定方法で多数の有罪判決が下され、死刑を執行された元被告もいるという由々しき問題もある。鑑定の検証や証拠の見直しを急ぐ必要がある。

 上告審の段階から弁護側が菅家さんの毛髪を鑑定してDNAの食い違いを主張していたことも、忘れてはならない。裁判所が疑問を抱き、再鑑定を行っていれば、釈放時期は早まったはずだ。この間、殺人罪の時効が成立し、真犯人検挙の機会が失われたことも見逃せない事実だ。

 裁判員制度がスタートした折、誤判の恐ろしさをまざまざと見せつけられたことを、私たちはせめてもの教訓とすべきだろう。人が人を裁くことの難しさをかみしめ、公正な判断力を培うことを心掛けたい。



 

 
毎日新聞 2009年6月5日 0時03分

 

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