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向精神薬被害=和田明美

2012年09月23日 | スクラップ


 

 

 

■実態把握し安全治療の実現を


 「日本うつ病学会」が今年7月、治療の際に、睡眠薬や抗うつ薬など、人間の中枢神経に作用する「向精神薬」を何種類も処方する多剤処方を戒め、単剤処方を治療の基本とするガイドラインを作成した。日本には、うつ病などの気分障害といわれる症状の患者だけでも104万人(08年厚生労働省調査)いるとされ、治療の必要性が高まる一方、多剤処方の影響で、中毒死や過量服薬による自殺未遂が増えている。今回のガイドライン作成を安全な精神医療の第一歩とするよう関係者に強く要望したい。

 

 


■多剤処方で依存 自殺の「手助け」


 本来は、病気を治すのが医師の仕事のはずだが、精神医療の現場では、多剤処方の結果、自殺や中毒死の「手助け」をしてしまっている事例が後を絶たない。私は3年前、30代女性の死の経緯を取材して、この問題に直面した。


 女性は05年1月の朝、自宅のベッドの上で呼吸が止まっていた。夫が抱き上げ、119番通報したが、既に死亡していた。解剖の結果、女性の胃と血液から処方されていたバルビツール酸系睡眠薬の成分などが検出され、薬物中毒死と鑑定された。

 
 カルテによると、女性は97年から不眠でクリニックに通い、最初は「大量に飲んでも死なない薬」といわれるベンゾジアゼピン(BZ)系の抗不安薬や睡眠薬を2、3種類処方された。しかし、次第に薬の種類や量が増え、04年には1日に11種類33錠の向精神薬を処方されるようになった。その中には、抗うつ薬や、遺体から検出されたバルビツール酸系睡眠薬も複数含まれていた。


 バルビツール酸系睡眠薬は、呼吸抑制作用が強く、死に至りやすい特徴がある。米女優マリリン・モンローが、1962年の死亡時に服用していたと報じられたのも、この種類の睡眠薬だった。依存性が高く、飲み始めるとやめるのは難しいといわれる。


 命の危険がある重症患者を受け入れる3次救急の北里大学病院救命救急センター(相模原市)では昨年、自殺を試みた252件の救急患者を受け入れた。そのうち向精神薬の飲み過ぎによる患者は全体の46%にあたる117件に上った。この件数は09年のおよそ1.5倍という急増ぶりだ。

 

 多くの患者は処置を受けて一命を取り留めるが、間に合わず死亡する場合もある。命は助かったとしても薬の作用で、ふらふらしてガラスに頭を突っ込み鼻に大けがをしたケースがあるなど、向精神薬の過量服用につながる多剤処方の危険性は極めて高い。薬はBZ系の抗不安薬・睡眠薬、抗うつ薬、バルビツール酸系睡眠薬が目立ち、1カ月分として処方された向精神薬を1回で飲んでしまった例が多い。その量は1人1回平均110錠。中には40〜50錠を飲めば死に至る薬もあり、致死量を一度の処方で渡されている例も少なくないという。

 




■指針強制力なくプロの良心頼み

 

 なぜ、そんな処方が行われるのか。同センターの救急医で、精神科医でもある上條吉人教授(中毒・心身総合救急医学)は「ベンゾジアゼピン系の睡眠薬や抗不安薬は、『たくさん飲んでも死なない安全な薬』と製薬会社が宣伝するので、安易に処方されている。だが実際は、依存性があってやめられなくなるし、使っているうちに耐性ができて量を増やしたり、より強い薬にしないと効かなくなってくる」と説明する。上條教授は向精神薬の危険な副作用を指摘し、「向精神薬の本来の効果とは逆に、薬の作用でいらいらしたり、興奮したり、衝動性が高まることもある。患者さんに話を聞くと『いやなことがあって、忘れようと思って薬を多めに飲んだら、死にたいという気持ちが湧いてきて、衝動的に、まとめて薬を飲んじゃいました』という人もいる」と話す。


 こうした状況にも配慮して「日本うつ病学会」は、今回の単剤処方を原則とするガイドライン策定に踏み切った。さらにBZ系やバルビツール酸系薬物の問題点にも言及している。作成に関わった北里大学の宮岡等教授(精神医学)は「多剤処方の原因の一つに医師の不勉強がある。患者さんは治療に問題があると思ったら、医師にガイドラインを見せてよく話し合ってほしい」と話している。

 

 しかし、今回のガイドラインには医師に対する強制力はない。一方、うつ病などの治療に対する社会の要請は、今後、さらに増え、それに伴う多剤処方の影響による死亡などの被害実態は深刻になっていくだろう。医療関係者は、そうした事態をきちんと受け止め、プロの良心で被害をなくしていく責務を負っていることを忘れないでほしい。(大阪編集制作センター)

 

 

 

 毎日新聞 2012年09月21日 00時08分(最終更新 09月21日 02時18分)




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