墨汁日記

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妖精の兄妹(2)

2007-07-08 19:11:43 | 駄目
(mixi から)

 ネットの世界は基本的に闇である。

 ネットの世界では自分から光を放たない限り、輝く事はない。

 我々の住む現実の昼間のような、太陽の光による、反射光に溢れた彩り鮮やかな光景はネットではあり得ない。

 自ら発光しなければ闇と同化し、誰からも見てもらう事もない。
 だが、自分の光は弱くても、強い光を放つモノの側にいれば、その強い光で自分の存在も人目にふれさす事はできる。だから、誰かが強い光を発するなら、光に群がるムシのようなモノにまとわりつかれるのはネットでは当然なことで、闇の中で闇に同化しきるのには強い精神と肉体的なゆとりを必要とする。

 彷徨う妖精の兄妹には、もう肉体的なゆとりがなかった。
 妹は存在が崩壊しかかっている。

 いつのまにか、mixi の支配する地に入っていた。

 膨大な数の mixi が軒を連ねる。
 エスキモーの氷の家のようなドーム型の外見。
 こじんまりとしていて、オレンジとホワイトで塗り分けられて、プラスチックの光沢を放つ。
 情報は地下のパイプラインからでも行き来させているのだろう。普通のサイトのような上部の解放口は無い。

 兄は思った。まずいところにきたと。
 でも、どこかにとりあえずでも潜り込めれれば。

 無限に mixi は延々と続く。
 なんか普通じゃないな。
 とんでもない所に来てしまったと兄は後悔する。

『右にいけ開いてる扉がある』

 兄の脳に『声』が直接送信された。
 ネットの闇に潜むゴーストからの送信だ。

 闇に同化し、省電力に徹する事で生きながらえているモノからのアドバイス。
 普通なら、彼らは声どころか、存在すら示さない。ただ闇に同化し、ただ生きながらえ、ただあるだけ。
 兄はソレを瞬時に信じた。
 そして、感謝した。
 すぐに、感謝の気持ちを『声』で返そうとして、思いとどまった。
 相手は、省電力で生きながらえるという戦略をとっている身。
 受信にだってエネルギーがかかる。
 兄は、もしかしたらどこかで見ているかもしれない闇の中の相手に対して、かるく感謝の気持ちをこめて手をふった。

 妹を背負いながら、兄は右に曲がる。

 そして見た。

 開けっ放しの扉を!

 信じられない事に、開けっ放しで誰もいない mixi のサイトを兄は発見した。
 エスキモーの氷の家のようなドーム型の外見。
 そして半開きの扉。

 妹を背負いながら兄は中に入る。


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